コラム

2021年12月10日  

南の海の「まかない付下宿」:『サンゴ 知られざる世界』

南の海の「まかない付下宿」:『サンゴ 知られざる世界』
南国の海には、サンゴ礁がつきものです。白い砂、青く澄んだ海、色とりどりのサンゴからなるサンゴ礁と、そこに戯れる様々な魚たち。実はこの美しい光景は、サンゴなしには成立しません。
海が澄んでいるということは、海水中に植物プランクトンの餌となる栄養塩が少ないということです。植物プランクトンが少なければ、もちろん動物プランクトンもそれを餌とする魚たちも暮らしていけません。でも実際は、サンゴ礁には多彩な生き物が集っていますよね。そこにサンゴの果たす大きな役割があるのです。
今回お話する『サンゴ』では、サンゴの基本、サンゴ礁を構成するサンゴの種類、サンゴと生き物たち、サンゴ礁と地球環境といった構成で、サンゴについてわかりやすく解説しています。サンゴの飼育方法といった応用編もありますよ。
「海の熱帯雨林」と呼ばれるサンゴ礁を構成するサンゴの貴重さを、ぜひ知っていただきたいと思います。地球温暖化等で減少を続ける「海のゆりかご」サンゴ礁を守ることは、生物多様性を保つ上で絶対に欠かせないのです。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『サンゴ 知られざる世界』はこんな方におすすめ!

  • サンゴ、サンゴ礁に興味のある方
  • サンゴの詳しい生態を知りたい方
  • 海洋生物に興味のある方
  • 海の環境保全、生物多様性に興味のある方

『サンゴ 知られざる世界』から抜粋して7つご紹介

『サンゴ 知られざる世界』の中から、内容を何ヶ所か抜粋してご紹介したいと思います。取り上げきれなかった部分にも「知らなかった!」という新鮮な驚きが色々隠れていますので、興味を持った方はぜひ本書をご覧ください。

どんな生物なのか?サンゴのイロハ

植物の仲間と考えられていた時代もありましたが、サンゴは動物です。イソギンチャク等を含む「刺胞動物」に含まれる動物です。木の枝のように見えるところは石灰質で、その中にイソギンチャクを単純にしたような触手をもったポリプがあります。これがサンゴの「本体」で、触手で動物プランクトンなどを捕らえて食べています。

サンゴ礁を形成するサンゴ類を総称して、「造礁サンゴ類」と呼びます。造礁サンゴは成長が速いのが特徴です。その理由は、体組織の内部に褐虫藻と呼ばれる単細胞の共生藻を住まわせ、その光合成産物(糖類)をもらっているからです。

サンゴを分類するにはいくつかの見方があります。

1.生物学的な分類
2.サンゴ礁を作るか作らないか
3.硬いか柔らかいか

です。
この分け方はそれぞれ交差するので、造礁サンゴを生物学的分類からみると、ヒドロ虫綱のヒドロサンゴ類、花虫綱六放サンゴ亜綱のイシサンゴ類(硬いサンゴ)、花虫綱八放サンゴ亜綱のアオサンゴ、クダサンゴ(硬いサンゴ)といった具合になります。

サンゴ礁を作っているサンゴは、生物学的に分類すると全部ひとつのグループにまとまるものだと思っていました。宝石となるサンゴはサンゴ礁を作らず、花虫綱の別のグループに属するそうです。本書ではこの分類を、わかりやすい図で解説しています。

サンゴの殖え方

有性生殖:サンゴは種類によって雌雄同体あるいは雌雄異体があります。大半のサンゴは雌雄同体ですので、いわゆる「産卵」シーンで生まれている「卵」は、実際は複数の卵と精子が1つの袋に入ったものです。同じ群体のものとは受精しないので、同種のサンゴは同じタイミングで一斉に繁殖する必要があります。雌雄異体のサンゴでは、サンゴ群体によって雄と雌がそれぞれ別となります。

無性生殖:無性生殖とは、遺伝的に全く同一のクローンで殖えていく方法です。群体サンゴのひとつのポリプは数ミリ程度の小さなものですが、クローンで増えていけば数メートルのテーブルサンゴを形成することができます。

無性生殖の方法には、1.分裂、2.出芽、3.破片分散、4.ポリプの抜け出し、5.ポリプの流れ出し、6.ポリプボールの形成、7.水平溶解自切、8.放射状溶解自切、等の方法があります。
また、サンゴの中に性転換するものがいることや、産卵放精ではなくポリプ内で幼生まで育てるものがいることもわかりました。

動物番組でよく見る、夏の夜の幻想的な産卵シーン。ポリプの中からポンと出てくるあれがひとつの卵だと思っていました。本書の副題は『知られざる世界』ですが、サンゴについて知っていると思っていたことの誤解が解けて、どんどん解像度が上がってきます。

代表的なサンゴの種類

造礁サンゴ(ハードコーラル)
1)六放サンゴ類:六放サンゴ(亜綱)にはハナギンチャクやイソギンチャク等も属しています。サンゴ礁を作るもののほとんどがイシサンゴ目に属しています。
2)八放サンゴ類:八放サンゴ類のうちサンゴ礁を造る主なものはアオサンゴ目のアオサンゴとウミトサカ目のクダサンゴです。アオサンゴとクダサンゴは、褐虫藻を持ちサンゴ礁域に生息し、イシサンゴ同様に硬い骨格を持っています。
3)ヒドロサンゴ類:ヒドロサンゴは「サンゴ」と名がついていて、イシサンゴ類と姿も似ていますが、実際の分類上では少し離れた生き物です。花虫綱との違いは、ヒドロサンゴにはクラゲ世代があることです。ヒドロサンゴも褐虫藻と共生していて成長が速く、造礁サンゴの一群にまとめられています。

サンゴ礁を作らないサンゴ(非造礁性サンゴ)
ソフトコーラル、非造礁性の有藻サンゴ、深海に棲むサンゴ等があります。

本章の最後で、いわゆる「宝石サンゴ」についても取り上げています。宝石サンゴのほとんどは深海に生息する八放サンゴの仲間で、褐虫藻は持っていません。サンゴが宝石になるまでのプロセスも写真でご紹介していますので、その苦労をご覧ください。貴重な理由がよくわかります。「虫食い」がすごいのです。

サンゴと共に生きる

サンゴがあると、多くの生き物たちがその恩恵を受けて暮らしていけます。種類や形状によって利用できる生物はそれぞれ異なります。枝の隙間を利用したり、サンゴを食べたり、足場にしたり、穴を開けてそこに棲んだりする生き物がいて、さらにそれを餌とする生き物がいます。

サンゴが成長して大きくなっていけば、多様な生物に様々な場所を提供し、そこに棲んだ生物が周りの環境を変化させ、維持していきます。サンゴが失われてしまうと、この活気ある世界も失われてしまいます。

サンゴは褐虫藻の作り出した光合成産物の90%を受け取り、さらにそのうち半分を粘液等の有機物として体外に分泌します。この粘液は糖、タンパク質、脂質を含む有機物であるため、他の生物の餌となります。澄んだ「貧栄養」のサンゴ礁で多様な生物が生きていけるのは、この粘液のためでもあるのです。

サンゴの出す粘液はサンゴの体を守ったり、老廃物を流したり、体表についた餌を口に運んだりするためのものですが、万能な上、他の生物にとっては食事になります。サンゴ礁は、そこに暮らす生き物にとっては「まかないつき下宿」のようなものです。粘液を食べて生きるカニの中には、サンゴを食べて殺してしまうオニヒトデに果敢に立ち向かって、トゲを切ってしまうものもいるそうです。

サンゴを殺す生き物

サンゴを食べる生き物には、有名なオニヒトデの他に、硬い歯でサンゴを骨格ごと齧りとるブダイをはじめとした魚たちや、巻貝、ウミウシの仲間などがいます。
サンゴを齧る魚の中には、サンゴ本体を食べているのではなく、傷ついたサンゴにつく藻類を食べるために「畑」を作っているものもいます。

オニニトデは成長するにつれて腕が10〜20本、体長は60cmにも達するほど巨大なヒトデです。オニヒトデがサンゴを食べるときは歯で齧るのではなく、胃袋を反転させ外に出して消化液でサンゴを溶かし、溶けたサンゴ組織液を吸収します。オニヒトデは1日あたり自分の体と同じ面積分のサンゴを食べるので、直径1mのテーブルサンゴも1週間で食べ尽くされます。

サンゴの敵といったらコイツ!なオニヒトデですが、サンゴなら何でもいいというわけではなく、味の好みがあるようです。ハマサンゴ類はあまり好きではないらしく、生き残る確率が高いとか。

サンゴ礁のでき方

サンゴ礁は島の周囲を縁取るようなものから大洋の真ん中に輪になってポツリと存在するものまで様々です。サンゴ礁は「裾礁」「堡礁」「環礁」に分けることができます。

裾礁:島の周囲に裾のように発達するもの
堡礁:島や大陸から少し離れた場所に発達し、その間に深い礁湖(ラグーン)が形成される。大陸棚の端の島や海底の高まりの上にできる
環礁:中央に島がなく、上から見ると環になっているもの。大陸から離れた海洋の真ん中に噴火して現れた火山島の周りにできた裾礁が、プレートの移動とともにゆっくり沈んだ場合にできる

サンゴ礁の分類を行ったのはダーウィンだそうです。進化論を唱えたダーウィンはサンゴ礁の専門家でもありました。「進化していく」サンゴ礁の変化が、生き物の形の変化同様学者の心を捉えたのかもしれません。

悪夢の白化現象発生

主として海水温度の上昇する夏場に起こるサンゴの白化現象は、地球温暖化の影響もあり世界中で増え続けています。エルニーニョ現象が起こると、海水の熱エネルギーが水蒸気へ移り、離れた場所の気象にも影響が現れます。

白化の始まりは、サンゴの栄養や成長に最も重要な褐虫藻がサンゴ組織から脱出することで始まります。水温が高いと褐虫藻の光合成過程で多くの活性酸素が発生し、これを嫌って褐虫藻が逃げ出してしまうのです。

褐虫藻が抜け出したり、褐虫藻の光合成色素が減少したりすると、サンゴ組織の色がそのままサンゴの色になります。しかしサンゴ組織自体には色がついていないので、炭酸カルシウムの骨格が透けて見え、白くなったように見えるのです。

褐虫藻がいなくなったあともポリプはしばらく蓄積していた脂肪を糧に生き延びますが、これが尽きると餓死してしまいます。

地球温暖化の影響はあらゆるところに現れますが、サンゴの白化もそのひとつです。運命共同体であるはずの褐虫藻は、逃げ出す際に泳げる形に姿を変えます。しかし動けないサンゴは、見捨てられてしまったあとは褐虫藻が戻るか増えるかを待つしかありません。この白化の仕組みをより詳しく知りたい方は、ぜひ姉妹編『サンゴの白化』をご参照ください。

『サンゴ 知られざる世界』内容紹介まとめ

南の海を彩るだけではなく、そこに暮らす多くの生き物の住まいとなり食べ物を提供し、生態系を作るサンゴ。小さなヒドロ虫が集まって群体となり、それらが集まってサンゴ礁を形成します。

生き物としてのサンゴの生態とその種類、サンゴと共生する褐虫藻の生態、サンゴの周りで暮らす生き物たち、サンゴを脅かす天敵や病気、環境や人間との関係等、本書は幅広くサンゴについて解説しています。冒頭にはサンゴに関する疑問Q&A、本文中には多彩なコラムも収録されています。本文収録の美しい写真の数々とともに、「知られざる」サンゴの世界を覗いてみてください。

減りゆくサンゴについて危機感を覚え、より詳しく知りたいと思われた方は、続刊『サンゴの白化』をご一読いただければと思います。

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