魚の疑問50 みんなが知りたいシリーズ15


978-4-425-98381-0
著者名:高橋正征 編
ISBN:978-4-425-98381-0
発行年月日:2020/11/28
サイズ/頁数:四六判 216頁
在庫状況:予約
価格(本体価格)

1800円(税別)

数量
「魚が食べられなくなる日はいつ来るの? どうすれば避けられるの?どうして中国・韓国は魚を根こそぎ獲って行ってしまうの」?など、水産資源をめぐる現状、国際関係、対策などを水産資源の専門家がわかりやすく解説。

【はじめに】 近い将来,魚が食べられなくなるかもしれない? といったら,皆さんの多くは“まさか! そんなことないでしょう!”と驚かれるかもしれません。たしかに,今,直ぐに食卓から魚が消えてしまうことはありません。とは言っても,魚が手に入りにくくなるのは,そんなに遠い先ではないかもしれないのです。病気でもそうですが,手遅れになる前に,手を打っておく必要があります。
私は2015年4月「Ocean Newsletter(オーシャン・ニュースレター)」(海洋政策研究所 発行)に“私たちはいつまで魚が食べられるか?”という記事を書きました。知人の多くは深刻には受け止めませんでした。しかし,5年を経た現在,事情はかなり違ってきました。
例えば,高知県室戸市の大型定置網に関係している知人は,このところ定置網で獲れる魚がめっきり少なくなり,しかもブリはサイズが小さくなって,私の指摘が気になってきたと言います。
その昔,私たちの祖先は,身の回りの自然のものをとって食べて生活していました。狩猟採取生活です。そのため,人目につきやすい大型の動物は,狩りの対象となって急速に数を減らし,中には絶滅してしまった動物もいます。加えて,狩りだけでなく,人間の生活や生産の場所を得るため,森林を伐採して農地や牧場や工場や宅地にして野生生物の生活の場を奪い,さらに森の中に道を造って野生動物の生活場所を分断しました。
こうした活発な人間活動と人口の増加は野生生物の衰退を加速したのです。
しかし,海は陸とはかなり違います。今でも野生の魚を獲る漁業が健在です。これには,一つは私たちが水中で生活できないために海への人間活動の影響が少ないことと,もう一つは多くの魚の成長の早いことが考えられます。しかし,その海でも,人類が開発した様々な道具や,人間活動の影響によって,今では,漁獲の対象となる魚にかなりの影響が見られるようになってきました。
海での野生魚の利用もそろそろ限界が見えてきた感じです。へたをすると私たちが,海の魚の利用の終焉を見届ける証人になるかもしれません。でも,一方で私たちは性懲りもなく漁獲量を増やそうと躍起になっています。
こうした状況を改善し,これからも安心して魚を利用し続けるには,私たちは二つの大きな決断をする必要があると私は考えます。第一の決断は,野生魚を対象とした漁獲を大幅に減らすことです。しかし,漁獲を完全に止めてしまうことではありません。海の生産に見合ったレベルにまで漁獲を大幅に下げて利用を持続的にするのです。そうしないでこのまま漁獲を続けると多くの魚が絶滅に近づいてしまいます。魚種によっては禁漁の必要が出てくるでしょう。
漁獲を減らすと,魚が手に入りにくくなりますが,そうならないように第二の決断は“ 養殖への真剣な依存” です。つまり,漁獲を減らした分,養殖を増やして魚の需要をまかなうのです。年々,世界的に魚の需要が伸びているので,そのためにも人の手で生産調整のできる養殖は重要です。実際,世界的には養殖が漁獲を上回っています。そんな状況なのに,ここで改めて第二の決断をするのは,私たち一人一人が養殖の重要性をしっかりと認識し,これまでの養殖とは違ったより持続性のある養殖のあり方を追求して,積極的に養殖方法を改善していくためです。
世界の巨大な魚の需要と着実な増加傾向を考えると,縄文時代のような野生魚の採取,つまり漁獲での対応は限界で,農業や牧畜のような人の手で大量生産する,つまり養殖への依存を大きくしていく必要があります。こうした現状を一人でも多くの人に知ってもらうために本書を書きました。
「Section 1」では,野生の魚の漁獲をとりあげ,その現状を整理します。特に,漁獲量が自然の生産の限界に近づいている様子を浮き彫りにします。「Section 2」では,私たちが利用している野生の魚をざっと眺めてみます。そして自然の生産の限界を理解するために,「Section 3」で海の生態系の仕組みと海での実際の生産力を考えてみます。「Section 4」では,人の力で海の生産性を高めて漁獲量を増やす方法をとりあげてみました。これは最近になって取り組まれるようになり,今後の展開が期待されています。「Section 5」では,養殖生産の現状を紹介します。養殖は天然魚と違って人の力で生産がコントロールできますから,世界的に増え続ける魚の需要を満たすには,今後は養殖生産を増やすことがポイントです。その場合,野生の魚の稚仔を育てるのではなく,養殖に適した人工品種を工夫し,その種苗を人の手で作り出して養殖する必要があります。人工品種は「家かぎょ魚」と名づけてみました。
以上は世界の魚の生産と利用の趨勢ですが,日本での状況は必ずしも世界と同じとは言えません。
「Section 6」では,これからの漁獲と養殖の依存の割合を中心にして,魚の利用の可能性について考えてみます。それには,自然の生産を越えて獲りすぎが明らかな漁獲は大幅に少なくし,人の手で生産調整ができる養殖生産を計画的に増やすことになります。
将来,漁獲と養殖の双方で魚の需要に応えていく道が固まれば,“今後も,漁獲によって地球上の多様な魚の健全な生産活動が維持でき,同時に養殖によって肥大した人類社会で引き継いだ魚の利用”が可能です。
本書が,漁獲と養殖のバランスの取れた魚の利用を進めていくための新たなきっかけになれば幸いです。

2020年10月
公益社団法人日本水産資源保護協会
会長 高橋正征


【目次】
Section 1 「漁獲」の意味を理解しよう!
 Question1 「漁業資源」ってなんですか?
 Question2 世界の漁獲量はどのくらいですか? 増えていますか,減っていますか?
 Question3 将来,魚が食べられなくなるって本当ですか?
 Question4 世界で魚がよくとれる著名な場所はどこですか?
 Question5 日本の漁獲量は今でも世界一ですか?
 Question6 漁法はどのように進化してきましたか?
 Question7 漁師さんが自主的に禁漁にするのはどんな時ですか?効果はどのくらいありますか?
 Question8 漁業権っていったい何ですか?
 Question9 漁獲量を規制する条約や法律はどうなっていますか?
 Question10 水産エコラベルとは何ですか?
 Question11 明太子が大好きですが,たくさん食べてもスケトウダラがいなくなることはありませんか?
  column1
Section 2 天然魚について知ろう!  Question12 漁獲ではどんな魚がとれていますか?
 Question13 一番多く漁獲されている魚は何ですか?
 Question14 イワシが減ってサバが増えているって本当ですか?
 Question15 ウナギはどのくらい減っていますか? なぜ減りましたか? 増やす方法はありませんか?
 Question16 天然魚が好まれる理由は何ですか?
 Question17 天然魚の問題は何ですか?
 Question18 イズミダイとはどんな魚ですか?
  column2
Section 3 海の魚の生産量を決める仕組み  Question19 海の生産量は高いですか,それとも低いですか?
 Question20 どうして海の緑は少ないのですか?
 Question21 海の中では「食物連鎖」はどうなっていますか?
 Question22 海の魚の生産量を決めている仕組みは何ですか?
 Question23 湧昇域って何ですか? なぜ魚が多いのですか?
 Question24 地球温暖化は漁業資源に影響を与えますか?
 Question25 海の砂漠化って何ですか?
 Question26 藻場やアマモ場って何ですか?

Section 4 海の魚を増やす方法  Question27 海の栄養物質は陸から運ばれるって本当ですか?
 Question28 人の力で海の魚を増やせませんか?
 Question29 人工漁礁は魚を増やすのですか?
 Question30 どうすれば,藻場やアマモ場は増えますか?
 Question31 サケなどの放流は水産資源の増大に有望ですか?他国に横取りされませんか?
 Question32 潮干狩りのために他の場所で獲ったアサリを撒くことは問題にはなりませんか?
  column3
Section 5 人々の期待を背負った魚の養殖  Question33 魚の養殖は漁礁資源対策に有望ですか?
 Question34 養殖のメリットは何ですか?
 Question35 完全養殖が理想というのはなぜですか?
 Question36 養殖魚は安全と言われていますが,本当ですか?
 Question37 ウナギの完全養殖がなかなか実現しないのはなぜですか?
 Question38 養殖の種苗はどうやって手に入れるのですか?
 Question39 養殖にはどんな餌が使われますか?
 Question40 内湾での養殖の問題は何ですか?
 Question41 どんな魚が養殖に向いていますか?
 Question42 世界の養殖事情はどうなっていますか?
 Question43 山の中でも海の魚の養殖ができるって本当ですか?
 Question44 魚の養殖に海洋深層水を使うメリットは何ですか?
  column4
Section 6 これからの魚の利用の方向  Question45 世界の魚の消費量は増えていますか,減っていますか?
 Question46 養殖だけで需要に見合う量を確保するのは可能でしょうか?
 Question47 今後,有望な未利用魚はいますか?
 Question48 日本における魚の輸入・輸出はどうなっていますか?
 Question49 SDGs って何ですか? 漁業ではどのように関わっていますか?
 Question50 どうすれば,また,どんな社会になれば将来も魚を食べられますか?


【執筆者略歴】 髙橋 正征(たかはし まさゆき)
(公社)日本水産資源保護協会会長,(公財)日本科学協会会長,東京大学・高知大学名誉教授。専門は,生物海洋学,生態学,地球環境科学,海洋深層水利用学。大学・大学院では植物学を専攻し,博士論文では豊富な現場観察実験データを駆使して湖沼での光合成硫黄細菌の出現機構を数理解析した。学位取得直後に渡加し,海洋を含めた水域での生態系動態研究チームに属して研究を進めた。以来,植物プランクトンを中心に,生態系を視野に入れた研究活動を実施。1992 年に第1回生態学琵琶湖賞と日本海洋学会賞を受賞。長年の研究を踏まえて,海洋深層水の資源性を見出し,その社会周知のために1991 年に「海にねむる資源が地球を救う~海洋深層水」を出版(後に,新書版化され,英語と韓国語にも翻訳された)。同じ頃,漁業に関する論考の発表を開始し,1998 年創刊の月刊誌「アクアネット」に「22 世紀の水産業」の連載を始め現在に至っている。

<略歴>
1970年 東京教育大学理学研究科博士課程修了。理学博士。
1970年 カナダ国政府招聘特別研究員。
1972年 カナダ,ブリティッシュ・コロンビア大学海洋研究所主任研究員。
1977年 筑波大学生物科学系助教授。
1985年 東京大学理学部助教授。
1995年 東京大学大学院総合文化研究科教授。
2004年 高知大学大学院黒潮圏海洋科学研究科教授。
2008年 高知大学定年退職。
2009~11年 台湾国立台東大学特約講座教授。
2011~12年 台湾国立中山大学海洋科学研究中心客員教授。
本を出版したい方へ

成山堂書店のBLOG