サンゴの白化ー失われるサンゴ礁の海とそのメカニズム-


978-4-425-83111-1
著者名:中村 崇・山城秀之 編著
ISBN:978-4-425-83111-1
発行年月日:2020/2/28
サイズ/頁数:A5判 178頁
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価格¥2,530円(税込)
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「サンゴの白化現象」を中心に据え、サンゴの生態,白化する原因・プロセスを説明。沖縄周辺や世界各地で頻繁に起きる大規模白化現象を時系列に挙げ、サンゴ礁と人間の関わりから,環境問題への対応を提言する。

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【まえがき】より 初めて本書を手に取るかたへ。
現在サンゴの研究者となっている私が、「サンゴ」という生物について興味を持つことになった最初のきっかけは、大学3年の時に手にした一冊の本でした。
その頃の私は将来何をしようか決めきれないまま、なんとなく毎日を過ごしていました。子供のころから海に近い場所で育っていたので、海の生物に対する興味は多少もってはいましたが、当時「サンゴ」という言葉から想像できたのは、ピンク色や紅色のいわゆる宝石サンゴくらいでした。
なんとなく手に取ったその本には、小さいながらもクローンを増やすことで大きな「群体」になり、様々な生物に利用されながら生き、死んだ後もその骨が数百から数千年にわたって堆積してサンゴ礁という大きな地形となること、さらにサンゴ礁域では人々の生活にかけがえのない存在として残ること、そして最後にはサンゴ礁生態系という多様な生物と環境が創り出すシステムについて紹介されていました。
当時、「サンゴ」と「サンゴ礁」の区別もつかなかった一学生であった私にとって、その本の内容は一気に世界を広げてくれるのと同時に、将来の方向性を絞り込むための重要な役割を果たしたと思っています。
本書では「白化」というトピックを中心としつつも、サンゴの生物学的基礎から始まり、世界的に頻発化しつつある大規模なサンゴ白化現象についての報告やその生理学的メカニズムについての理解、さらにサンゴ礁保全にかかる課題などを、各分野の専門家である著者らがわかりやく解説しています。
本書が、皆様の中で何か新しい知を求める欲求をたぎらせ、何らかの行動につながるきっかけの一つになれば幸いです。

2019年11月
琉球大学理学部海洋自然科学科生物系 准教授
中村 崇

【目次】
1章 サンゴの基礎知識
 1-1 サンゴという生き物
  (1)サンゴとサンゴ礁を造る生き物
  (2)造礁サンゴの仲間
  (3)サンゴの構造
  (4)サンゴ礁の地形
 1-2 サンゴの増え方
  (1)サンゴの生活史
  (2)有性生殖
   1 放卵放精型の産卵
   2 幼生保育型の産卵
  (3)無性生殖
 1-3 サンゴの成長と競争
  (1)群体の形状
  (2)生き残り競争
   1 隔膜糸による攻撃
   2 スィーパー触手による攻撃
   3 太陽光の争奪戦
 1-4 サンゴに必要な褐虫藻
  (1)サンゴと褐虫藻の関係
  (2)イシサンゴと褐虫藻
  (3)褐虫藻と共生関係にある動物の棲息地
 1-5サンゴ礁ができる海の条件
   1 成育環境
   2 水温
   3 清澄度
 1-6 世界の海に棲息するサンゴ
  (1)多様に分化したサンゴの仲間
  (2)造礁サンゴの分布図
  (3)非造礁サンゴの分布域
  (4)深海サンゴ・冷水サンゴ

2章 造礁サンゴの種類と生態  2-1 代表的な造礁サンゴの分類群
  (1)ミドリイシ科 family Acroporidae
   〇ミドリイシ属 genus Acropora
   〇コモンサンゴ属 genus Montipora
  (2)ハナヤサイサンゴ科 family Pocilloporidae
   〇ハナヤサイサンゴ属genus Pocillopora
   〇ショウガサンゴ属genus Stylophora
   〇トゲサンゴ属genus Seriatopora
  (2)ハマサンゴ科 family Poritidae
   〇ハマサンゴ属genus Porites
  (3)サザナミサンゴ科family Merulinidae
   〇キクメイシ属genus Dipsastraea
   〇カメノコキクメイシ属 genus Favites
  (5)クサビライシ科 family Fungiidae
 2-2 珍しい種・貴重な種
  (1)ハナサンゴモドキ Euphyllia paraglabrescens
  (2)オキナワハマサンゴ Porites okinawensis
  (3)ヒメサンゴ Stylaraea punctata
  (4)コモチハナガササンゴ Goniopora stokesi
  (5)コハナガタサンゴ Bernardpora stutchburyi
  (6)ムツカドマンジュウイシ Sinuorata hexagonalis
  (7)スツボサンゴ Hetropsammia cochlea
 2-3 日本の造礁サンゴの種類
  (1)日本のサンゴ
  (2)温帯域のサンゴ
   1 温帯域のミドリイシ属
   2 温帯域のその他のサンゴ
  (3)サンゴの交配と雑種

3章 なぜサンゴは白化するのか  3-1 白化とはなにか
  (1)サンゴが褐虫藻を失う
  (2)海水温の上昇とサンゴの白化
 3-2 白化につながるサンゴのストレス
  (1)高温ストレスで起きる白化
  (2)物理的な環境ストレス
  (3)光による環境ストレス
  (4)塩分の変動によるストレス
  (5)懸濁物質(細かな浮遊物)によるストレス
  (6)干潮時の干出ストレス
  (7)除草剤・病原菌によるストレス
  (8)種によって異なる白化の起こりやすさ
 3-3 白化したサンゴのたどる道
  (1)白化しはじめたサンゴの状態とは?
  (2)白化しても蛍光色に光って見えるサンゴ
  (3)サンゴポリプの行動の謎
   1 サンゴから褐虫藻がでていく
   2 サンゴの白化から復活まで
 3-4 死滅するサンゴとその後
  (1)白化で衰える生命活動
  (2)サンゴの死後
 3-5 大規模白化で「石西礁湖」に何が起きたのか
  (1)2016年の白化現象
  (2)石西礁湖の白化
  (3)大規模白化前後の変化
  (4)容易には復活できないサンゴ群集

4章 サンゴと地球温暖化  4-1 激減するサンゴ礁
  (1)サンゴに悪影響を及ぼすもの
  (2)海水温の上昇とサンゴの関係
 4-2 海水温が上昇してきたのはいつからか
  (1)地球にサンゴが出現した時代
  (2)とてつもなく急激な水温上昇がおきている!
 4-3 世界に広がる海水温の上昇
  (1)今後の水温上昇のシナリオとサンゴの運命
  (2)サンゴ礁生態系を守るための国際的な取組み

5章 サンゴは貴重な生物  5-1 なぜ貴重なのか
  (1)天然の防波堤
  (2)経済的価値
   1 サンゴの価値
   2 水産資
  (3)遺伝子資源
 5-2 サンゴはどのように利用されている?
   1 石灰岩としての利用
   2 伝統的な民俗文化
   3 観賞用
   4 環境教育と保全活動
   5 学術研究のテーマ
 5-3 海中で他の生物に与える影響
  (1)棲み家を提供するサンゴ
  (2)食料を提供するサンゴ
  (3)サンゴは海をきれいにする

6章 サンゴ礁と人間社会のかかわり方  6-1 サンゴにダメージを与える高水温と人間の活動
  (1)陸上の経済活動が海に及ぼす影響
  (2)海洋中の栄養塩による影響
 6-2 サンゴ群集の回復と被害の長期化
  (1)白化は病気にかかりやすくなる
  (2)サンゴの衰退と台風の影響
 6-3 白化ストレス低減に向けて
  (1)サンゴ礁の水の動き
  (2)サンゴの生存率と水流
  (3)人間の活動による複合的ダメージ
 6-4 白化現象による生物や産業への影響
  (1)サンゴ礁生態系への影響
  (2)観光事業の影響
   1 観光事業を脅かす大規模白化
   2 観光客によるサンゴへの負荷と対策


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カテゴリー:水産 
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