コラム

2022年5月13日  

雲を見る目を使って、効果的に逃げる!『レーダで洪水を予測する』

雲を見る目を使って、効果的に逃げる!『レーダで洪水を予測する』
この間桜が咲いたと思ったら、あっという間に5月の連休も終わってしまいました。雨の季節もすぐそこです。作物を育てる恵みの雨も、度が過ぎれば沿岸域に被害を及ぼす洪水になります。歴史上何度も被害を受けてきた地域も多く、そうした場所で暮らす方々は、洪水に備える知恵を受け継いできたことでしょう。
洪水の被害を防ぐため、日本では上流ではダムの建設、中流では遊水地による水量の調節や堤防の建設など、様々な対策を続けてきています。被害軽減のためには、構造物によらない洪水対策も併せて用いられてきました。それは洪水を避け、逃げることです。
避難のためには、いつどこで洪水が起こるかを予測することが必要です。また、この予測は避難のためだけではなく、構造物の効果的な活用や保守のためにも欠かせません。
さらに「効果的に逃げる」ためには、これらの予測情報を的確に活用しなければなりません。今回ご紹介する『レーダで洪水を予測する』では、河川洪水について、現在どのように河川の観測と洪水予測が行われ、どのような形でデータが提供されているかを解説します。情報活用によって、個々人が災害時により的確な判断を行えるようになるでしょう。
暴れ川の側で暮らしてきた人々の間に受け継がれてきた知恵が、現在は形を変えてレーダ観測データとして広く提供されるようになっているのです。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『レーダで洪水を予測する 気象ブックス043』はこんな方におすすめ!

  • 水害の多い場所に住む人
  • 避難指示に関わる仕事に従事する人
  • 洪水予測に関わる仕事を目指す人

『レーダで洪水を予測する 気象ブックス043』から抜粋して5つご紹介

『レーダで洪水を予測する』からいくつか抜粋してご紹介します。最初に、レーダ情報を活用して命を守る方法、次に現在の洪水予測に不可欠なレーダ雨量計について解説します。続いて、最新の洪水予測システムや、ハザードマップについて紹介しました。個々人がこれらの情報を活用して災害時により効果的に避難できるようになることを目指しています。

XRAINでレーダに慣れる

XRAIN(エックスレイン)は国土交通省の「川の防災情報」から見ることができます。XRAINは雨がどこでどの程度の強さで降っているのかを1分毎に更新し、最新の情報を提供します。
画面が赤い場所は非常に強く雨が降っている場所を示しています。動画表示にすれば、過去の降雨状況がアニメーションで示されますので、雨雲の移動と発達がわかります。スマートフォン版では現在位置が表示されるので、雲がおおよそどのくらいの速さで移動しているかも推測することができます。

履歴を見て雨雲(雨域)がほとんど移動していなかったり、雨域の裏なりの方向と移動方向が一致したりしていたら、同じ場所にずっと雨が降り続くことが予想されるので要注意です。
XRAINを活用すれば、今雨がどこで降っていて、雨雲がどちらに移動しているかを確認し、洗濯物を外に干すかどうか、置き傘を持って帰るべきか等、日常生活にも便利です。こうした情報を活用することに慣れ、災害時にも適切な対応ができるように備えておきましょう。

XRAINにカバーされていない地域では、従来からあるCバンドレーダの情報を見ます。解像度はXRAINより粗く、提供の10分ですが、防災目的には十分です。
データを洪水予測に活用方法するときに注意すべきことは、その地点に流れ込む水の量です。ある時間の間にどれだけの雨が降り、どこから水が集まってきているか、ということが河川の流量を決めます。今ここで降っている雨ではなく、上流でどれだけの雨がどのように降ったか(降るか)ということが洪水予測においては重要です。

レーダ画面を見ていると、雲の移動の予測がなかなか難しいことがわかります。「所によりくもり時々雨」などの天気予報を見ると、降るの?振らないの?と困ってしまいますが、レーダ画面を見ていると、雲が絶え間なく変化していることが視覚的に理解でき、そのような予報になるのも仕方ないな、と思えてしまいます。

レーダ雨量計の原理

レーダ雨量計は、アンテナからセンチメートル波という波長が1〜10cmの電波を発射して、空中の雨滴からはね返ってくる電波を受信し、解析して雨滴の存在と量を推定するものです。雨滴を捉えるためには周波数が約5.3ギガヘルツ(波長約57cm、Cバンド)の電波か、約9.7ギガヘルツ(波長約3.1cm、Xバンド)の電波を用います。

電波はパルスの形で発射され、 従来型のレーダでは電波が2.5マイクロ秒発射されるのを1パルスとして、1秒間に260パルス発射されます。発射された電波は、近くの雨雲の中の雨滴によって反射された電波パルス、遠くの雨雲から反射された電波パルスの順で戻ってきます。発射されてどのくらいの時間で戻ってくるかということから距離がわかるのです。

Cバンドの方が減衰しにくいので、レーダ雨量計から約300kmの範囲を観測することができます。Xバンドの電波は減衰の程度が大きいので、観測範囲は90km程度ですが、波長が短いとピンポイントの観測をすることができます。

電磁波は波長によって雨滴との関わり方が違います。雲は半径が100ミクロン以下の氷の粒で構成されていますが、レーダ電波は雲粒にはほとんど反応せず、直径が0.1ミリ以上である雨滴には反射されるので、降雨観測に適しているのです。空が曇っていても雲の中に雨滴がなければ雨は降らず、雨滴がないとレーダ画面には何も映りません。

レーダ技術の向上と計算機の進歩によって、Xバンドのマルチパラメータレーダでは250mという細かいメッシュサイズについて多数の観測結果が得られるようになりました。データ量も大きくなったため、通信技術の発達があってはじめて実用化されたのです。

レーダ雨量計は空中にどれだけの雨滴が存在しているかを見るものなので、あまりに高い場所で測ると地上雨量計との誤差が大きくなってしまいます。そのため、できるだけ低い仰角で電波を発射しています。また、雨滴群から戻ってくる電波の強さもパルスごとに変動するので、何度も回転させて観測しています。ここが高さも含めた三次元の気象現象を観測する気象レーダとの違いです。

洪水予測の基準点

洪水予測は避難だけでなく、ダムの操作や水防作業を効率的に行うためにも必要です。洪水予測はソフトな洪水対策の基礎となる作業なのです。洪水予測は流域内にくまなく配置されたレーダや雨量計、水位計、河川監視カメラの情報に基づいて行われ、情報のほとんどは無償で公開されています。

洪水予測は、一つあるいは複数の地点を指定して行われています。その地点で最高水位はどのくらいになるか、いつ最高水位になるかを予測し、水位の上昇から最高水位となって低下するまでの全体を予測します。

水位や流量を予測する地点を、洪水予測の基準点といいます。河川に洪水が起きたときに、そこでの水位・流量がある河川区間を代表するものとして予測が行われる目標地点です。
洪水予報の基準点では危険度によってレベル1~5までの「基準水位」が定められます。その中でも危険水位は、その基準点で代表される区間のうち最も危険な箇所が危険になるときに基準点ではどのような水位になっているか、水理計算を行って定められます。

基準点は、古くから橋梁が架けられている場所が多くなっています。橋の上から流速と流量を計測していたからです。
洪水予測を行うとき、一般には基準点から上流の集水域の降雨を知る必要があります。河川が十分大きいときには上流地点の水位がわかれば下流の水位が予測できることが多いのですが、河川の規模が小さい場合は、降った雨から下流の水位を予測したり、れから降る雨を予測したりしなければなりません。

橋の付近をよく見ると、基準点の水位標が設置されていることがあります。橋げたの下橋は計画高水位の上に余裕をもたせた高さに設置することになっていますが、堤防は橋の付近で部分的に高くなります。そこに水位標が設置してあると、他の地点が危ないのに基準点でみるとまだ余裕があるように見えることがあります。危険予測のためには、堤防高を見るよりも基準水位で判断する方がよいかもしれません。

レーダ雨量計データを用いた分布型洪水予測システム

河川情報センターでは、国土交通省が管理している河川についてレーダ雨量計データを用いた分布型洪水予測システムが開発され、2001年に発表されています。
分布型流出モデルは、集水域をメッシュ単位に細分し、そのメッシュごとに地盤や降雨の浸透特性などの水文要因を個別にとらえる流出解析手法です。
分布型流出モデルは、レーダ雨量計と組み合わせることによっていっそうその特徴を発揮することが期待できます。計算能力の増大に加え、レーダ雨量計が開発されたことによって、この分布型流出モデルは実用的になったといえるでしょう。

分布型流出モデルの有利な点は以下のようにまとめられます。

1.面的な降雨分布を流出に反映することが可能。レーダ雨量計による高分解能の降雨情報をそのまま活用することができる

2.雨域の広がり、移動による影響を流出に反映することが可能なため、洪水予測に適している

分布型流出モデルは、表層モデル、中間層モデル、地下水モデル、河道モデルという4つの現象を扱うサブモデルから構成されています。
この方法を用いて、渡良瀬川流域を対象としてシステムが構築されました。

足利地点の集水域を約1キロメートルのメッシュに分割し、収集した諸情報に基づいて、各メッシュにパラメータを設定します。各種の情報を用いて確定したパラメータで流出計算した結果を実績と比較評価したところ、多様な降雨規模、波形の洪水に対して高い精度で安定した結果が得られています。

しかし、実際に発生する洪水をリアルタイムに予測するときには、計算結果と観測値の間に相違が生じるので、実績観測値に合わせてパラメータを修正するフィードバックが必要です。実際の洪水を経験するごとに、モデルのパラメータは調整されます。

渡良瀬川を対象に始まったこのシステムは、その後も改良を加えられて日本全国の多数の河川流域について構築され、運用されています。常時稼働しているので、計算結果はウェブ画面で関係者が随時チェックできます。

精度の高い予測のためには、これまでの測定値と予測値の絶え間ない比較が必要です。これまでの当該地域の災害に関する文献が参照されることもあります。調べ、記録するということは、未来予測のためにも欠かすことはできません。そう考えると、図書館や博物館、大学といった地域の様々な記録を保存する機関の重要性がわかります。

洪水ハザードマップ

洪水ハザードマップは、洪水予測の結果を地図に示したものです。通常の洪水予測は、目の前で起こりつつあるリアルタイムの洪水に対する予測であるのに対し、洪水ハザードマップは、将来のいつか洪水が起きたらどうなるかという予測を表示するものです。

ハザードマップは、いくつかの仮定を設けて作成します。

1.氾濫のモード
通常は大河川の堤防が決壊した場合を想定して作成します。

2.洪水の規模
ある一定基準の規模の洪水が発生し、計画高水位で堤防が決壊したと想定して浸水状況を計算します。

3.堤防の決壊の有無
堤防が決壊するかどうかの予測は困難です。そのため、計画高水位あるいは危険水域を超えたら堤防は決壊するものとしています。

4.氾濫計算
氾濫流の進行方向や流れの広がり、洪水区域などは地形で決まりますが、実際の洪水の被害はハザードマップで示されたよりやや広い傾向があります。

5.流れ型か湛水型か
流れ型の洪水は高いところから流れてきた氾濫水が低いところに流れていく中で水に浸かったもので、流れの力は強いものの継続時間は短い傾向です。一方湛水型の洪水は氾濫水が高い地形に囲まれた場所に溜まって浸かるもので、水深は深く浸水が継続します。

6.表示される水深
その地点で予想される浸水深の最大値を表示しています。

7.ハザードマップに流速が表示されない理由
氾濫計算で計算される流速は、メッシュ全体の平均値です。水以外のものが流れてきたり建築物の影響で流れが強まったり等の状況が考えられるので、敢えて流速は表示していません。

私(担当M)の住む地域にも川や暗渠があるので、大雨が降ったときは防災情報で地図を見ます。リアルタイムで危険表示が出ている場所が一見川から離れた場所であるなど不思議に思うこともあるのですが、日頃から洪水ハザードマップを確認していれば、こうした現象も予測でき、いざというときの的確な避難行動に繋げられるのでしょう。

『レーダで洪水を予測する 気象ブックス043』内容紹介まとめ

洪水から効果的に避難するためには、洪水予測を活用することが必要です。そこで、現在どのように河川の洪水予測を行い、どんな形でデータを提供しているのか、最新のシステムを解説しました。

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