『どうして海のしごとは大事なの?』目指せ「海のしごと」!海洋国日本を支えるプロフェッショナルたち 【第2章:動かすしごと】

前回から始まりました『どうして海のしごとは大事なの?』解説の2回目は、「動かすしごと」を解説します。前回は海と切っても切れない「船」を造るしごとをご紹介しました。今回は、こうしてできた船を動かす人々に迫ります。

一人だけの力では、大きな船を動かすことはできません。船を安全に出航させ、安全に目的地まで航行して、無事港に着かなければ、乗客や荷物を目的地に運ぶことはできないのです。すべての責任を持つ船長の下で、いろいろな人がそれぞれの仕事を行っているのです。

【動かすしごと#01 船長】

すべての船に、船の総責任者でキャプテンと呼ばれる船長がいます。天気や海の状況を確認し航海の計画を立て、航路を決め、乗組員に指示を出して乗客乗員や貨物の安全を守りながら船を航行させていきます。

外国航路の商船で船長を務めた方のしごとをご紹介しますね。

《どんな仕事をしているの?》

外航線は、一度にたくさんのものを運べるように大きな船体をしています。この大きな船を「操船(船を操縦すること)」するためには、衝突や座礁事故を起こさないよう、また船内で火災や怪我・病気が起こらないよう注意し、全員で協力して仕事をしています。

船長は船の全責任を負っていますが、一人で仕事を行うことはできません。それぞれ専門の仕事をする乗組員たちに指示を出しています。その他の船長の仕事として、船のお金の管理や、乗組員の仕事の時間管理、船内でルールが守られているかの監視等などがあります。

《仕事のやりがいを感じるのはどんなとき?》

海の上には、たくさんの船が行き交っている、気候が変化しやすいなどの理由で航行するのに緊張する場所がいくつもあります。そういった場所を、他の航海士や乗組員と協力して無事に通過することができたときは、ほっとします。

一致団結した行動と皆のプロ意識が航海を通じて発揮されて、貨物を安全に届けられたとき、「達成感」「やりがい」の気持ちが最高潮に達します。全員で協力して安全な航海を終えることが、船長の使命なのです。

【動かすしごと#02 航海士】

船長を助け、航海の計画、船の操縦や荷物の積み込み積み出し等、船が安全に運航するため、船内全般の仕事を行うのが航海士です。

《どんな仕事をしているの?》

乗り物には「操縦する人」がいますよね。船を「操縦する人」が航海士です。航海士の仕事は、お客さんや貨物を無事に目的地まで届けることです。他の乗り物と違うのは、船は長い時間航行することです。そこで、4時間を1名が担当する交代制で合計3名が「船橋(船を操縦するところ)」に立って、切れ目のない航海を続けています。

また、航海士は船を操縦しますが、自分自身はハンドル(舵輪)を握りません。これを専門に担当する別の乗組員がいます。航海士は、他の船と衝突しないかなど、周囲の状況を判断し、操縦する人に指示を出すことに徹しています。

航海士は、職場である船の上で長期間生活します。船の上では水道・消防・救急などのサービスが陸と同じようには使えないので、航海士がそれらの業務も担当します。多くの仕事を担当する航海士には、厳しい指示系統と各人の責任がはっきりと決められていて、それに沿った行動が求められます。

《なぜ航海士が必要なの?》

日本は島国です。海を越えて人やものの移動をするためには、船や飛行機で運ぶしかありません。船は飛行機に比べて多くのものを運べます。いかに船が世界の物流に貢献しているか、よくわかりますね。日本の貿易・物流には欠かせない船を安全に航海させるのが、航海士の仕事なのです。

【動かすしごと#03 機関長(機関士)】

「機関」は船を動かすための動力となる「エンジン」のほか、発電機や清浄機、その他の電気機器などを指します。これらを扱う部署を「機関部」といいます。機関がなければ、どんな船も動きません。

この「機関部」の責任者が機関長で、その指示を受けて機関を動かすのが機関士です。

《どんな仕事をしているの?》

船舶機関士とは、機関部門の管理者のことをいいます。その他に機関部員がいて、船の機関に関わる仕事をしています。最高責任者が機関長で、エンジンや発電機、ボイラなどの運航機器の正しい運用と、運転状況の監視、故障があった場合は保守修理を行います。

機関長のもとで仕事をする船舶機関士は一等~三等に分かれています。一等機関士は機関部を管理し、二等機関士は発電機や補機、燃料油、労務管理を行い、三等機関士は電気、冷凍機等を担当するなど、それぞれ分担して仕事をしています。

航海中は、交代で24時間機関室を監視しますが、現在の大型船はM0(エムゼロ)船といって、機関室が無人の船が大半を占めています。

《船舶機関士はなぜ必要なの?》

船は車や飛行機と違って、同時に使える機器の台数が限られており、気象や海象等の影響が強いので、故障や予測できないトラブルなどに対処する人員が必要です。また、船のエンジンに使われている燃料油は、油清浄機を使って不純物を取り除いたり、添加剤を加えたりする必要があります。この燃料の管理も機関士の重要な仕事です。

《乗船中の「ヒヤリハット」エピソードは?》

船の中で一番怖いのが、浸水と火事です。

以前、一等機関士として乗船しているとき、潤滑油を海水で冷却する装置のバルブが腐っているのに気づかず、航海中にこれが破損して大量の海水が流れ出たことがありました。幸い船が沈没するようなことにはなりませんでしたが、日頃の点検見回りに油断があったことが原因です。

《メンテナンス作業の一例》

船のディーゼル主機関の燃焼室は、10,000~12,000時間の運転間隔で部品を外して整備するピストン抜きの作業が必要です。大型船ではピストンの外形は80cm、エンジンの全体幅は約7m、高さは約14m、ピストン完備品は約3.5トン、シリンダーライナー完備品は約6.5トンです。機関全体の長さは10m以上になる場合もあります。この巨大な何万トンにもなる大きな船を動かしているのです。それを整備し。動かすのが機関士の仕事です。

【動かすしごと#04 水先人】

世界中にはさまざまな環境の海、港があります。そのさまざまな海・港に入出港する際に、船を安全に動かし案内をする重要な役割をもつのが、「水先人」=「パイロット」です。

《どんな仕事をしているの?》

陸の交通ルールは知っていても、船の通航ルールを知っている人は少ないと思います。海は広く、一見船はどこを通ってもいいように思われがちですが、実は海にも陸上と同じく、航行安全のための様々なルールが定められているのです。

日本周辺の海はさまざまな船舶が常に行き交い、海上では波、風、潮の流れ等の自然条件が刻々と変化しています。船長がどれほど優秀でも、すべての水域の条件を把握することは難しく、そこで、その水域を知り尽くした水先人が船を案内するのです。

巨大な船を込み合った水域で安全に運航するには、困難が伴います。水先人はこうした難しい条件の中、専門知識と技能をもって船舶を安全かつ迅速に導いているのです。

《水先人の一日》

日本全国の35か所で、650名あまりの水先人が働いています。東京湾の横浜事務所の一日を紹介します。

  • 出発:水先艇に乗船し、パイロットステーションから水先を担当する船に乗る
  • 船長との情報交換:船橋で前任の水先人から業務を引き継ぎ、船長との情報交換を行う
  • 航行業務開始:現場の状況を判断し、船長にアドバイス
  • 入港、接岸作業:港の入口の近くまでくると、タグボートが支援に加わる。タグボートを使用して船舶の動きを制御し、安全に着岸させる
  • 業務終了・下船:船を岸壁に係船したら、水先証明書に船長のサインをもらって業務終了。1日の業務をすべて終えたら、事務所に戻って記録作成等の事務作業

今回は、船を動かすしごとについてご紹介しました。この紹介文を書いている私も、船と飛行機とでは「パイロット」の指す仕事が異なることを、入社して初めて知りました。船の総責任者である船長も、難しい特徴のある水域では、その水域に精通した水先人の助けを必要としているのですね。

最近は通信網が整備されつつあるとはいえ、海の上にあって船は孤立しています。変わりやすい環境の中を、道路のように誰の目にもはっきりと見えるわけではない航路を安全に運航して、乗客や貨物を目的地まで送り届けるのは、想像以上に大変な仕事です。しかしそれゆえに、やりがいや充実感も極めて大きいのではないでしょうか。

次回は、船を使って貨物など様々なものを運ぶ仕事をご紹介します。最初にお話しした通り、日本の国外との貿易はほとんど船に依存しています。日々行き交う大量の貨物を、間違わず安全に届けるために、どんな仕事や、どんな船が必要なのでしょうか。