『海洋白書2021』危機を乗り越え、美しく豊かな海を子孫へ! 【第2部:日本の動き 世界の動き ―日本編―】

『海洋白書2021』解説も、後半戦となりました。今回からの2回で、2020年の海洋分野における日本・世界の動きを分野別に時系列で紹介する第2部の解説を行っていきます。ここでは各分野の主な動きについて、かいつまんでご紹介していきます。今回は《日本編》とし、新型コロナ禍に見舞われた2000年の、日本政府・海洋関係産業・各研究機関の動きをご紹介します。

【1 総合海洋政策】

1:海洋政策

  1. 総合政策

コロナ禍により様々なイベントが中止・オンライン開催となりました。

7.8 改正漁業法の施行に必要な政省令と、改正漁業法の施行日を定める政令を公布

12.4 違法な水産物の流通を排除する水産流通適正化法が可決、成立

12.25 2050年目標の温室効果ガス排出実質0に向けた「グリーン成長戦略」実行計画を公表

  1. 各省庁の動き

『水産白書』では平成の30年間で漁業生産量が約3分の1まで低下したことを認め、『観光白書』ではコロナウイルス対応について触れるなど、大転換期への政府の認識が示されました。

12.3 日本海溝の最南部及び伊豆・小笠原海溝周辺の海域を含む4か所が、初の沖合海底自然環境保全区域に指定

2:領土・領海・排他的経済水域(EEZ)・大陸棚

  1. 尖閣諸島

中国の強硬な姿勢に対する抗議が続きました。2020年の中国公船による尖閣諸島接近は、海上保安庁発表によると88隻となります。

5.9 外務省が中国海警局による領海侵入について抗議

  1. 竹島

6.5 アジア大洋州局長が、韓国軍による竹島に関する軍事訓練に対して抗議

  1. 北方領土

ロシアとの関係は、コロナ禍において停滞を見せています。

6.17 ロシアのオホーツク海における地質調査の通告について、外務省が抗議

  1. 領海・排他的経済水域(EEZ)・大陸棚

中国・北朝鮮・韓国との緊張関係が続いています。

8.15 日本のEEZにおける測量調査について、韓国より中止要求

  1. 西之島の拡大

西之島は連続的な噴火活動が確認されていましたが、8月19日の観測以来噴火は確認されていないとして、12月には航行警報の警戒範囲が縮小されました。

3:沿岸域管理・防災

地震・津波・台風・火山災害への対策が協議され、公表されました。2つの火山島が噴火しています。

2.3 口永良部島 新岳噴火

12.28 諏訪瀬之瀬島噴火

【2 海洋環境】

1:生物多様性

6.24 第10回「国連生物多様性の10年日本委員会」開催

2:気候変動

川崎汽船、日本郵船、ユーグレナ等の民間企業が、水素利用の促進やバイオディーゼル燃料の開発で貢献しました。

2.20 気象庁、2019年の海洋の著熱量が過去最大になったと発表

12.21 政府、大阪・関西万博に向け、2050年までに温室効果ガス排出ゼロにすることを目指し、会場を「未来社会の実験場」と位置づける基本方針を決定

3:海ごみ

海洋プラスチックごみ対策として、レジ袋の有料化や廃止、生分解性の新素材使用などの動きが目立ちました。

3.26 環境庁、海岸の漂着ごみに関する2018年度調査結果を発表。北海道~鹿児島の10地点すべてで人工物に占めるプラごみの割合が60%を超えた

10.1 スズキ、世界初の船外機取り付け可能なマイクロプラスチック回収装置開発

4:水質

富栄養化が水産資源の減少を引き起こす問題や、福島第一原発の処理水について協議が行われました。

11.4 エジプト、原発事故後から続けていた福島県等7つの県からの水産物輸入制限解除

【3 生物・水産資源】

1:資源管理

1月にサンマの水揚げ量が過去最低となった一方で、2019年4月~2020年4月のニホンウナギの稚魚の漁獲量は前シーズンのおよそ4.5倍を記録し、6年ぶりの水準となりました。

2:政策・法制

水産庁は、養殖業の成長産業推進化を促進するため、「養殖業事業性評価ガイドライン」「養殖業成長産業化総合戦略」を策定しました。

2.19 農林水産省、「農林水産省地球温暖化対策推進チーム」設置

9.30 水産庁、「漁業法の一部を改正する等の法律」施行に伴うロードマップ公表

3:クジラ

日本がIWC(国際捕鯨委員会)を脱退して1年が経過しましたが、鯨類の調査は共同で行い、データの共有を行っています。

4:マグロ

北太平洋マグロ類国際科学小委員会により、資源枯渇が懸念されている太平洋クロマグロの2018の資源量は、2016年の調査と比較して回復傾向にあるとの評価が示されました。

5:水産研究・技術開発

ギンザケの促成養殖技術、AIを用いたサンマ漁場予測、ウナギ、ニジマス等の研究で成果が表れています。

【4 資源・エネルギー】

1:海洋エネルギー

洋上風力発電の推進に向けた様々な動きの他、新型波力発電装置の実験も行われました。

3.3 国土交通省、浮体式洋上風力発電施設の安全を確保する浮体式洋上風力発電施設技術基準を改正

7.21 資源エネルギー庁、国土交通省港湾局が秋田県能代市等3か所を、再エネ海域利用法に基づく促進地域に指定

2:海底資源

JOGMEC(石油天然ガス・金億鉱物資源機構)は、鹿児島県奄美大島沖に新たな海底熱水鉱床を発見し、7月には南鳥島南方でコバルトリッチクラストの掘削に成功しました。

【5 交通・運輸】

1:海事・船員・物流

新型コロナ対策について、船員法関係事務の取り扱いの公表や、感染予防ガイドラインの策定等が行われました。6月には日中韓の物流大臣間でオンライン会議が行われ、円滑な物流のための連携強化を確認しました。

3.27 国土交通省、内航船省エネルギー格付制度の運用開始

5.15 国土交通省、乗組員や乗客が新型コロナに感染した場合の対応策などまとめたガイドラインを業界団体へ通知

7.7 「水先法施行令の一部を改正する政令」閣議決定

2:造船

船舶用水素燃料電池発電システム、アンモニア燃料船等の開発が発表されるなど、造船業界はゼロエミッション船の実現に向けて動き出しています。

3.30 国土交通省、国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップ策定。2028年までに温室効果ガスを排出しないゼロエミッション船の商業運航を目指す

3:航行安全・海難

AIによる制御や、無人運航船の開発が加速しています。衛星を利用した探索・救助システムが運用開始となり、より迅速な行動が期待できるようになりました。船へのサイバー攻撃を想定したテストが行われる等、新しい時代の船において懸念される危機への対応も模索されています。

8.4 日本を含む8か国、自動運航船の実用化をテーマに会合を開催、自動運航船の実用に向けた国際連携枠組み「MASSPorts」立ち上げ

4:港湾

2019年の台風被害や熊本地震の被害を踏まえた港湾防災・減災対策や、高波・防風対策、新型コロナウイルス感染拡大時の円滑な港湾運送が審議され、対策が公表されています。

5:モーリシャス

「WAKASHIO」の座礁事故以来、政府、外務省、商船三井がそれぞれのレベルで環境回復に向けた調査・支援を継続しています。

【6 国際協力】

1:協議等

政府や業界団体は、インド、アジア開発銀行、台湾国際協力開発基金、ベトナム、フィリピン、アメリカ、オーストラリア等と会合を持ち、連携を強めています。

2:資金協力

国際協力機構(JICA)は、2020年も様々な契約に調印しています。相手国はフィジー、タイ、ケニア、ミャンマー等です。

10.19 国土交通省、ベトナム交通運輸省との間で「ベトナムの港湾施設の国家技術基準策定における協力に係る覚書」に署名

3:人材育成

海上保安庁は、マレーシアのASEAN地域訓練センターへの新たな研修システムの導入や、同国海上法令執行庁に潜水士育成システムを伝授するなどの貢献を行いました。

【7 セキュリティ】

1:合同訓練等

海上自衛隊は、海上保安庁、米、タイ、スリランカ、オーストラリア、シンガポール、インド等の海軍と共同訓練・親善訓練を行いました。一方で新型コロナウイルスの感染拡大を受け、国内複数の駐屯地・基地から部隊が集まって行う訓練は見合わせています。

2:テロ・海賊

中東地域・東南アジア周辺海域・ソマリア沖等における警戒態勢が続いています。

11.20 政府、ソマリア沖での自衛隊の海賊対策について、活動の1年延長を発表

【8 教育・文化・社会】

1:教育・人材育成

「海洋教育情報プラットフォーム」ウェブサイト公開、大学教員、大学院生による児童生徒への海洋に関する探究学習へのオンライン支援プロジェクトの開始等、学童に対するオンライン教育システムの充実化の動きが目立ちました。

2:ツーリズム・レジャー・レクリエーション

新型コロナウイルス感染症によるクルーズ船の運航休止、海水浴場の閉鎖が相次ぎましたが、2020年末にはクルーズ船運航再開の動きが見え始めました。

【9 海洋調査・観測】

1:海底調査・観測

1.16 東大と海上保安庁、東海から四国の海底で「スロースリップ」現象を初めて観測

9.30 JAMSTEC、GNSSを無人海上観測機によって実施するシステムを会圧、観測データの自動取得に成功

2:科学研究・技術開発

2.13 インド洋の海面水温の異常が2019年~2020年1月にかけて過去最強クラスであったことがJAMSTECの分析により判明

7.1 国立環境研究所等の共同研究チーム、水中に含まれる生物由来のDNAの分析に基づいて対象生物の個体数を測定する新手法を開発

3:極域

新型コロナ禍は極地研究にも影響を及ぼしましたが、植物プランクトンの優占グループの変化が南極海のインド洋区における夏期のCO2吸収量に影響を及ぼすことや、海水の増減が南極におけるアデリーペンギンの繁殖に影響するメカニズムの解明などの成果が発表されています。

今回は、2020年の日本の動きを大まかに見てきました。次回は世界の動きを同じように解説していきます。国家間の事情の違いにより、持続可能な海洋環境実現への足並みも揃いにくい中、各国はどのように連携し、安全な海を未来に残そうと努力したのでしょうか。前半では世界全体の動きを分野・団体別に、後半では各地域別の動きをご紹介します。