『どうして海のしごとは大事なの?』目指せ「海のしごと」!海洋国日本を支えるプロフェッショナルたち 【第3章:運ぶしごと】

『どうして海のしごとは大事なの?』解説の3回目は、「運ぶしごと」を解説します。船を造るしごと、動かすしごとについて、前2回で解説してきました。では、その船で運ぶものはなんでしょう?船は荷物や人を運んで世界を繋ぎます。またそのほか、事故を起こした船を助け、橋などの巨大構造物も運んでいます。

周囲を海で囲まれ、物資輸送の99%近くを船に頼る日本で、「運ぶ」人たちはどんなしごとをしているのでしょうか。

【運ぶしごと#01 外航船/内航船/フェリー】

「海のしごと」を代表するのが、さまざまな貨物や人を運ぶ「海運」です。外国から荷物を運んでくるのはもちろんですが、届いた荷物を国内各地に届けるのも、多くは船に頼っています。

《1:外航海運》

周囲を海に囲まれた日本は、世界中の国々と「海」でつながっています。資源の乏しい日本は、生活に必要な「衣食住」のもととなる原材料の多くを外国からの輸入に頼っています。そして、その原料を加工した製品を世界へ輸出しているのです。

世界中の人たちへ生活に必要なものを運ぶ、とても重要な役割を果たしているのが「海運業」です。外国からモノを運んできたり、外国へモノを運んだりする「外航海運」の仕事は、世界経済に欠かせない仕事です。ここで使われる船を「外航船」といいます。

天候の悪化や船の衝突、座礁や海賊といった危険も伴う仕事ですので、船を動かしている「船会社」にとっては船と船員の安全は絶対です。船会社は航行の安全のために、さまざまな取り組みを行っています。

外航海運の船たち

  • コンテナ船:国際規格で決められた海上輸送専用の箱「コンテナ」を専門に運びます。コンテナの形は決まっているので、様々な中身を運べますし、陸上でもトラックや鉄道にすぐ積み替えられて便利です。
  • ばら積み船:船倉という貨物を積むための区画があり、穀物や石炭、鉄鉱石などを積んで運びます。
  • タンカー:原油や液化天然ガス、化学薬品などを運びます。原油を運ぶための50万トンを超える超大型タンカーもあります。
  • 自動車運搬船:自動車を専門に運ぶ船で、内部は立体駐車場のようになっています。
  • 外航客船:クルーズ船ともいい、観光やレジャーのための客船です。「動くホテル」と呼ばれるような豪華なサービスが行われます。

《2:内航海運》

内航海運は、船で国内の港から国内の港へ貨物を運ぶ仕事です。国内すべての貨物のうち、約4割を運んでいます。石油や鉄鋼、セメントなどに限れば約8割です。石灰石や穀物飼料、雑貨、石油製品などを運びますが、鉄道車両なども運んだりします。

内航海運は、トラックでの輸送に比べて省エネルギーや環境への影響の点で優れていると期待が高まっています。

内航海運の船たち

  • 一般貨物船:ばら積み船の一種で、荷物を運ぶための最も一般的な船です。機械や家具、食料品など様々なものを運べるよう、船倉もいろいろなものを詰めるような構造になっています。
  • セメント専用船:セメントは粉末なので、ベルトコンベアや空気圧によって積み下ろしを行います。そのための設備を備えた船です。
  • RORO船:船の前後にある「ランプウェイ」と呼ばれる設備で船と岸壁を橋渡しし、自動車を自走させて貨物の積み下ろしを行います。フェリーもこの仲間です。
  • タグボート:港に出入りする大型船や大型構造物を押したり引いたりして運ぶための船です。大型船を動かすために、小さな体に強力なエンジンを積んでいます。

《3:フェリー》

「フェリー」は、人と荷物をいっしょに運ぶという特徴をもっています。「旅客船」としての役割と「貨物船」としての役割をもった「二刀流」の船といえます。離島や湾岸部などでは、通勤通学の足として使われているフェリーもあります。

フェリーでは旅客も運ぶので、船を動かすための船員のほかに、旅客へのサービスを提供する人も働いています。

【運ぶしごと#02 特殊作業船】

船の仕事というと人を運ぶ客船や、貨物や燃料を運ぶ貨物船やタンカーを想像するかもしれません。しかし中には、事故を起こした船を助けたり、橋のような大きな構造物を運んだりする特殊な役割をもった作業船たちがいるのです。

《海で起こる事故》

海はいつも穏やかというわけではありません。台風などで暴風雨や時化にさらされることもありますし、多くの船が行き交う場所で船同士が衝突したり、浅瀬に乗り上げたり、火災や爆発が起こることもあります。

このような事故が起きたとき、船の燃料油や積荷の重油や化学薬品等が流出すれば、周辺海域や沿岸に大きな損害を与えてしまいます。

《海難事故に対応する「サルベージ船」》

事故が発生したときに、遭難した船の救助を行うことを「サルベージ」といいます。船の救助作業や、海難事故に伴う環境破壊を防ぐ活動を行います。こうした作業専用の船を「サルベージ船」と呼びます。

特徴は、動けなくなった船を引っ張るための大きなエンジンやワイヤーロープ、消防設備や流出油を回収する装置、深い海底に潜水士を送り込める特殊な潜水設備等を備えていることです。

でも、こういった船は出番がないのが一番いいのです。では、そのほかのときサルベージ会社は何をしているのでしょう?

《多目的作業船》

近年は技術の進歩とともに、海洋資源などの有効活用を目的とした海底調査や海洋資源採集などの作業が積極的に行われています。こうした作業には、多目的作業船が使われます。波の影響を受けて揺れていても吊り上げが可能なクレーン、海底を掘り下げるドリル、いかりを下ろさずに同じ場所に長時間留まれるシステム等を備えています。また、強力なロボットアームを備えた船は、大水深に沈没した船舶の引き揚げ支援作業にも使うことができます。

《起重機船と重量物運搬用台船(デッキパージ)》

サルベージはもともと事故を起こした巨大船を引き揚げたり引き起こしたりすることが多いですが、その技術を活かして海や港湾等での海洋土木建築のための巨大重量物を吊り上げたり運んだりする仕事も行っています。

巨大な橋の建設、運搬には、起重機船、デッキパージという特殊な作業船を使用します。起重機船は3000トン以上の重量物を吊り上げ、デッキパージは最大で24000トンの重量物を運ぶことができます。

《輸送・曳航船》

起重機船は自力で動けますが、デッキパージは自力で動くことができません。そのため、他の船で押したり引いたりして移動させます。そのための船が輸送・曳航船です。引っ張る巨大構造物に比べたら小さな船ですが、何隻もの船が力を合わせて運びます。

今回は、船を使って人やものを運ぶ仕事についてご紹介しました。世界の海上を様々な船が行き交い、それぞれに適した荷物や人を運んで、私たちの経済活動を支えています。船を運ぶ船や、巨大構造物を運ぶ船の姿は、港や海洋土木工事の現場などで見ることができるでしょう。テレビや新聞、インターネットのニュースなどで船を見かけたとき、「これは何を運ぶ船だろう?」と気にしてみるのもよいかもしれません。

次回は、「守る仕事」です。海の上にも国境に相当する国の境界線があり、複数の国の利害がぶつかります。また、海賊や密輸等の犯罪や、海難事故も起こります。そういった海の危険から国民と国を守る海の仕事をご紹介します。また、海の上の安全のためには、まず船が安全に運航できなければなりません。そのために、船にはさまざまな検査が義務付けられています。これらの検査を行う仕事も併せてご紹介します。