『どうして海のしごとは大事なの?』目指せ「海のしごと」!海洋国日本を支えるプロフェッショナルたち 【第5章:調べる・採るしごと】

『どうして海のしごとは大事なの?』解説の5回目は、「調べる・採るしごと」です。海洋調査の模様をテレビで見たり、科学博物館などで調査船や使用される機械を見たりして、わくわくした記憶のある方も多いと思います。さて、そういった仕事の人々は、どんなことをしているのでしょう?使われている船はどんなもの?

地球表面の多くを覆っている海は、生命の源でありますが、まだ知られていないことでいっぱいです。また、船が安全に航行するためには、海底の地形を調べて「海図」を作る必要があります。日本は資源が乏しいといわれる国ですが、外国の海上で、日本企業も石油や天然ガスの掘削を行っています。海を調べ、そこから色々なものを採取する仕事を解説する今回は、海洋調査、海底地形調査、海洋掘削・資源採取の仕事を解説します。

【調べる・採るしごと#01 海洋調査】

私たちの生命を守る地球環境をつくり、維持する大切な役割を担っている海洋。その役割を明らかにするために、観測船やさまざまな機材を用いて調査を行います。ここでは、その最先端をいく海洋地球研究船「みらい」の仕事を紹介します。

《「みらい」はどんな船?》

「みらい」の前身は、1969年に進水した原子力船「むつ」です。地球温暖化に代表される地球の環境変動の解明・予測の調査のために「むつ」を使うことが決まり、1997年に原子炉が撤去され、「むつ」は「みらい」に生まれ変わりました。

「みらい」は氷を割りながら進むことはできませんが、氷や高波に耐える構造を備えた大型船です。そのため、これまでは困難だった極域や荒天域での調査も可能になりました。その他にも色々特別な装置を備えています。

《どんな仕事をするの?》

「みらい」には、船長と乗組員、研究員、観測技術員が乗り込んでいて、この三者がひとつになってミッションをこなしていきます。主な作業を挙げてみます。

  1. 採水作業:地球温暖化の原因である二酸化炭素などの大気と海洋間の交換量や、海洋の物質循環等を調べます。採水ボトルを取り付けた採水システムを10000メートル長のワイヤーケーブルの先に接続し、深海に投入します。
  2. 採泥作業:地震などの地球活動の歴史や海洋プレートの運動など、「海洋底ダイナミクス」を解明するための重要な作業です。狙った場所から的確に採取を行うためには、高い技術力が必要です。
  3. 係留系展開作業:エルニーニョ現象の解明・予測のため、大型の海洋調査ブイを太平洋、インド洋の赤道付近に展開(設置・回収)しています。

【調べる・採るしごと#2 海底地形調査】

四方を海に囲まれる日本では、「海」を活用するためにさまざまな調査を行い、その情報を把握・理解することが大切です。海上保安庁は、「見えない海底」の状況を明らかにするため、海底地形調査を行っています。

《どんな仕事をしているの?》

海の水面の下には、地面(海底)が存在していますが、海底を直接目で見ることはできません。そこで海の深さ(水深)を探ることで、海底の起伏など海底の状況を明らかにするのが「海底地形調査」です。

《船による調査》

測量船に搭載した「マルチビーム測深機」という調査機器を使って、船底にある送受波器から海底に音波を発信し、その音波が海底に反射して返ってきた往復の時間を距離に換算し、推進を測ります。その他にAUV(自立型潜水調査機器)、航空機による調査(航空レーザー調査)等があり、それぞれの得意を活かして海底地形調査を行っています。

《なぜ、海底地形調査の仕事は必要なの?》

海上保安庁では、海図(海の地図)を作成しています。海図には、海岸線・水深・等深線・障害物・航路標識といった船を安全に航行させるうえで欠かせないさまざまな情報が記されています。その中でも特に重要な水深・等深線・海底障害物などは海底地形調査により得られます。

また、津波防災のための津波シミュレーションにも海底地形データは不可欠です。 海に囲まれた日本にとって、海底地形調査は非常に重要な仕事なのです。

【調べる・採るしごと#03 海洋掘削・資源採取】

日本は資源の少ない国と言われてきましたが、日本周辺の「海」には、希少な金属を含む鉱物資源や「メタンハイドレート」がたくさんあることがわかってきました。こうした新しい資源の調査や開発を行い、採取する希望のある仕事です。

《どんな仕事をしているの?》

石油・天然ガスや金属類のほぼすべてを、日本は海外からの輸入に頼っています。しかし、海外で生産した原料を日本へ運んでいる現在も、日本企業がこれらの掘削や生産に多く関わっています。海洋で石油や天然ガスを採取するためにはさまざまな技術が必要ですが、石油も天然ガスも生産技術はほぼ同じです。そこで、海洋石油開発について解説します。

海洋石油開発は、次の3つの手順によって行われます。

  • 探査:石油のある場所を見つけ出します。海上からの地震探査技術等を使って海底下の構造を精度よく推定できるようになりました。
  • 試掘:石油の確認や生産可能かどうかを判断します。
  • 生産:海底下の地層から、「ライザー管」を通して石油を海上の処理施設に送ります。吸い上げるのではなく、海底の圧力が高いことを利用して噴出させます。

石油を見つけ出してから生産が終わるまでの期間は数十年ですが、その間機械を止めることはできません。また、現在は日本国内では海洋石油・ガス開発がほとんどないので、実際の勤務現場は海外になります。

《海洋再生可能エネルギー事業(風力・波力・潮汐)》

海の風や波、流れの持つエネルギーを「海洋再生可能エネルギー」といい、これらを利用して発電することができます。

海上の風は陸上の風より強くなる傾向があります。これを利用し、風車を使って発電するのが「洋上風力発電」です。また、波を使って発電するのが波力発電、潮の満ち引きを利用して水車を回転させて発電するのが潮流発電です。潮の満ち引きの差が10mほどもあるような場所では、ダムを作って満潮時に溜めた海水を排水するときの流れによって発電する潮汐発電も、世界で複数の施設が商用利用されています。

海洋再生可能エネルギーを用いた発電のためには、発電技術の向上とともに海上施工技術の向上も必要です。発電会社、造船・重工業メーカー、建設会社等、複数の業界の協力が欠かせません。

今回は、「調べる・採るしごと」についてご紹介しました。海を調べることで、私たちは地球のこれまでを知り、これからを予測することができます。海の地図を作り、海から訪れる災害の被害を減らすためにも、海を調べる必要があります。また、今まで使ってきた化石燃料が海の底にはまだまだ眠っており、風や波、潮の満ち引きや新しいエネルギー資源なども海から得られることがわかっています。

人類がこの先も生き延びていくためには、海をより知る必要があるのです。

さて、最終回となる次回は、この海の環境を守るための仕事をご紹介します。この仕事はこれまで紹介してきたものとは少し異なり、生涯の仕事として行っている大人たちもいますが、まだ学校に通っている若い人々でもすぐに参加することができます。生命の源である海を守るために、私たちになにができるのでしょうか。

加えて、今までの解説で「海のしごと」に興味をもち、将来の進路にしたいと思い始めた人のために、これらの仕事への近道となる各種学校も併せてご紹介します。