『どうして海のしごとは大事なの?』目指せ「海のしごと」!海洋国日本を支えるプロフェッショナルたち 【第1章:造るしごと】

皆さんは、「海に関わる仕事」といったら何を想像しますか?船長や航海士、海上保安庁や海上自衛隊、あるいは海洋調査を行う研究者?海に出る乗り物=船のことを考えれば、操縦する人以外に船を作ったり整備したりする人、船で荷物を運ぶ人も当てはまりそうです。こうした海に関わる仕事は、海洋国である日本に欠かせないものです。

皆さんご本人や、周囲の小学生~高校生の方で、こういった海に関わる仕事に興味のある方はいるでしょうか。もし少しでも興味があったら、是非この本を読んでみてください。

今回からご紹介する『どうして海のしごとは大事なの?』では、海の仕事を5つに分類し、その中で代表的な仕事をご紹介します。答えてくれるのは、いずれも現役のプロフェッショナルたち。今まで知らなかった仕事やぼんやりとイメージしていた仕事が、将来の目標のひとつとして、若い方々に意識していただければ嬉しいです。

【はじめに:日本と「海のしごと」】

《かけがいのない海》

私たちの地球は、表面の約70%を海洋が占める水の惑星です。海は環境を調整し、水産資源を生物の食料として提供することで、さまざまな産業や私たちの日常生活の基盤を支えています。

また、海は海運業にとっては交通路としての機能、漁業にとっては漁場としての機能等、人間の様々な社会経済活動を担っています。

海洋は人間をはじめとした多くの生物が生きていくために、必要不可欠な存在です。海洋環境を保全し、海洋資源を継続的に利用できるようにすることは、人間の重要な使命です。「海のしごと」は、この海を守りながら有効活用していくというとても重要な仕事です。

《日本と海の関わり》

日本の国土面積は約38万㎢ですが、日本の管轄水域の広さは国土面積の約12倍です。海岸線の長さは世界第6位の3.56万kmです。このように広大な海域や海岸を有する日本は、一方で資源に乏しい国で、エネルギーや鉱物資源の輸入依存率はほぼ100%、食料の輸入依存率は約60%です。これらの輸入の99%以上が船による輸送に依存しています。

一方、新しいエネルギー資源として期待されているメタンハイドレート等が日本の排他的経済水域に眠っていると考えられていますが、こちらの採掘・輸送もまた船に頼らなければなりません。海洋に囲まれた日本は、同時に海洋なくして成り立たない国なのです。

《日本にとって「海のしごと」とは》

日本は海洋と密接な関わりを持ち、海のしごとは日本にとって大変重要です。しかし多くの方は、海のしごとについてあまりよく知らないのではないでしょうか。海のしごとは、科学の発展や海洋エネルギー資源の開発に伴い、現在急激に変化・進歩しています。この本に載っていない新しい仕事が続々と登場し、この本で海のしごとに興味を持った方がそういった近未来の海に関わる仕事に従事する可能性もあります。この本で紹介されている仕事は、未来のキャリアへの足掛かりともなるのです。是非親子で参考にしてみてください。

【造るしごと#01 造船所】

海に囲まれた日本では、海外との物資輸送の大部分が船によって行われます。こうした輸送船以外にも、護衛艦や観光船など様々な船が活躍しています。これらの「船」をつくる仕事が「造船のしごと」です。

《どんな仕事なの?》

「船」をつくる仕事が「造船業」です。日本の造船業は1956年には世界一になりました。現在では多少後退し、中国や韓国に続く位置にあります。巨大タンカーや貨物船、クルーズ船などをつくります。

《しごとのやりがいは?》

自分が造った船が活躍しているのを見ることです。家族や友達を自分の造った船に乗せたり、テレビなどでその船が活躍している姿を見たりしたときにやりがいを感じます。しかし、造船の仕事は経験を積まないとわからないことも多く、若いころは壁にぶつかったこともありました。学生時代にもっと勉強しておけばよかったと思ったこともありました。

《はじめてのしごと》

最初に携わった船は、海上保安庁の巡視船でした。自分の描いた図面の船が実際の「形」になったのを見たときの記憶ははっきりと残っています。技術者にとって一番の喜びだと思います。

《心に残る仕事》

完成後の試運転のときがいつも印象的です。計画したとおりに動くのか、不安と喜びが混在します。船は車や飛行機のように劇的に進化する乗り物ではなく、昔から少しずつ進歩してきたものだと思っています。「軽く」「強く」「早く」が造船の基本ですが、これからの将来画期的な技術が出てくるとしたら、そのときに立ち会いたいなと思います。

【造るしごと#02 舶用工業】

船を動かすエンジンやプロペラ、操縦するための操舵装置、海を安全に航海するためのレーダーなど、船を安全に動かし、運ぶためのさまざまな機会をつくるのが舶用工業の仕事です。造船と並んで世界の半分以上の船に、日本の舶用機器が使われているんですよ。

《どんな仕事をしているの?》

船も車や電車、飛行機と同じで、安全に動かすためにはさまざまな機械が必要です。エンジンやプロペラ、クレーンなどです。そういった船の運航のために必要な機械をつくる仕事が舶用工業です。

《舶用機器の種類》

船を安全に動かすためにはたくさんの機械が必要です。200以上の種類がありますが、代表的なものを紹介します。

  • エンジン:一般的な船ではディーゼルエンジンが使われます。
  • プロペラ(推進装置):エンジンで生み出した力を、船を進めるための推進力に変える役割をするのがプロペラです。
  • 荷役装置(クレーンなど):貨物を船に積み下ろしする際には、クレーンなどの機械が必要です。
  • 操舵装置・レーダーなど:船を操縦することを「操舵」といいます。自動車のハンドルにあたるのが「操舵機」、カーナビにあたるのがレーダーです。

この他にもさまざまな種類があり、それぞれ重要な役割を果たしています。舶用工業の仕事を目指すためには、機械工学や電気・電子工学などの高度な知識を身につける必要があります。

今回は、海のしごとに不可欠な「船」や、船を動かす機械をつくるしごとを覗いてみました。もしもっと知りたいと思ったら、実物の船に乗ったり見学したりしたときに、この船がどのように造られたのか、この装置はどんな役割をしているのか考えてみたり、働いている人に質問してみたりするといいかもしれません。

大きなタンカーや客船を造るのも、最初は人間の考えた設計図から始まるのです。自分の造った船がお客さんや荷物を乗せて航行しているのを見たら、大人だってわくわくしてしまうんですね。

次回は、できた船を動かすしごとに迫ります。これぞ海のしごと!という船長や航海士はなんとなく想像がつきますが、「機関士」「水先人」は何をする人なんでしょう?大きな船になるほど、いろいろなメンバーが仕事を分担し、それぞれの場面で活躍しているのです。