『海の科学がわかる本』海から地球を理解する!過去から今、北から南へ! 【第1章:地球史と地球システム科学入門】

今回から、海洋科学をやさしく解説した『海の科学がわかる本』の紹介を始めます。対象となるのは、これから海について学ぼうとしている初学者です。具体的には、大学で海洋科学を専攻しようと考えている高校生、入学まもない大学生、海に興味があり、これから専門的な本を読んでいこうと考えている人等です。

この本は、JAMSTEC(海洋研究開発機構)が一般向けに行った講義を基にまとめたもので、海についての物理学、化学、生物学といった幅広い分野から地球全体を見渡しています。本書を読めば、海や陸そして大気に関する研究内容が理解でき、現在の地球に起こっていることの概要を掴むことができます。それによって、専門分野の糸口がよりはっきりと見えてくることと思います。

私たちは陸地で暮らしていますが、地球上の約70%は海に覆われています。地球環境を知るための入り口は、まず海を知ることなのです。

今回ご紹介する第1章は、地球史46億年を駆け足でみていきます。この章を読んだあとは、興味のある章から読むのもいいかもしれません。まずここで理解していただきたいことは、地球がひとつの一つの大きなシステムを構成しているということです。このシステムを理解するためには、本書の図を参照しながら読んでいただけるとよりよいと思います。

1.はじめに

「なぜ海洋の研究が重要なのか?」というテーマを理解するために必要と思われる事項は3つあります。①地球史の概略、②地球とそれを取り巻く周辺構造の理解、③地球の表層約71%を占める海洋への理解、です。以下に、それぞれについて簡単に述べていきます。

 

2.地球の歴史

《地球史を駆け足で見る》

宇宙の誕生:約137億年前、ビッグバンによる。

地球、太陽系の誕生:約46億年前、超新星爆発の結果、第三世代の星として誕生。原書地球は火星程度の大きさだったが、周辺の多くの星間物質が原始地球の引力に引き寄せられて衝突、熱エネルギーによって「マグマオーシャン」が形成される。その際重たい物質が地球内部へ、軽い物質は表層部へ移動した。地球の階層構造はこのようにしてできたと考えられている。

月の誕生:45億年前、彗星の衝突によって形成された。

海洋の誕生:約40億年前。マグマオーシャンの形成で揮発性の成分は蒸発したが、残っていた物質は地球の温度が下がると雨となって数千年以上も地表に降り注ぎ、海が生まれた。

最初の生命:約38億年前、星間物質や隕石の中にも存在するアミノ酸が複雑に絡み合い、DNAの形成が起こった。

酸素発生型光合成の開始:約27億年前、シアノバクテリアが発生、海水中に酸素を放出。その酸素が鉄と結びつき、鉄鉱として海底に定着。

真核生物の出現:約22億年前

超大陸の誕生:約19億年前、小さな島弧が衝突してできたと考えられている。海洋の誕生によって堆積岩が形成され、プレートテクトニクスが形成されていたことが、花崗岩の存在によって判明している。地球史の中で最も若い超大陸は、約3億年前に形成されたパンゲア。このパンゲアの分裂が、地球上に多くの事件を引き起こした。

多細胞生物の出現:約12億年前

カンブリアの大爆発:約6億年前

生物の陸上進出:約4億6千年前、まず植物が地上に進出し、続いて動物が陸へ上がる。植物は巨大化し、石炭のもととなった。

恐竜の絶滅:6千5百万年前、彗星の衝突によって恐竜は絶滅した。

人類の誕生:約700万年前

 

3.地球システム−現在の地球とその周辺の環境−

地球は大気、水、岩石というように異なった媒質から構成されており、それらが一つの圏(スフェアー)を作っています。これらの異なった媒質の間では相互作用や交換作用が生じます。地球は一つのシステムとして考えることができるのです。

地球システムには、より小さなサブシステムが存在します。磁気圏、気圏、地殻、マントル、コアからなる固体圏、生物の棲息する生物圏、大気や海洋からなる流体圏、人間の形成する人間圏などがあります。

それぞれの構成要素の内部や、他の構成要素との間にはエネルギーや物質のやり取りが行われ、その結果として地球全体としての挙動が変化していきます。

 

4.地球システム科学

このような地球システムを研究する学問が地球システム科学です、様々な研究方法があり、サブシステムを一つの仮想的な箱と考えるモデル等があります。箱の中に出入りするエネルギーや物質を定量的に示すことで、サブシステムの機能を調べることができます。

 

5.階層構造の科学

階層構造とは、ある規則によって上下関係が定められた様子を表す用語です。複雑な入れ子をなしている構造と理解されています。自然の階層構造は、宇宙から素粒子まで存在します。地球システムも層構造を備えているので、階層構造の科学として扱われる必要があります。

 

6.なぜ海洋が重要であるのか

地球そのものも、海洋も、閉じたシステムではなく、開放系です。宇宙空間から地球の内部までを考えたとき、それぞれのサブシステムによって形成されていることがわかるでしょう。海洋には大気が直接接触し、生物圏や人間圏も同じサブシステムに入り込んでいます。外側には対流圏や磁気圏があり、宇宙空間へと繋がっています。

海洋は、その底に固体地球である地殻、その下にはマントル、さらに核が存在します。海洋は、地球内部と宇宙空間のちょうど中間に位置しているのです。このことから、海洋が地球内部と宇宙空間を繋ぐインターフェイスであることが理解できるでしょう。

 

7.海洋科学にはどのような分野があるのか

海洋科学には、以下のような分野が存在します。

・海洋の物理を研究する分野

・海洋の化学を研究する分野

・海洋の地球物理を研究する分野

・海洋の物質を研究する分野

・海洋の生物を研究する分野

・海洋の水産学を研究する分野

・海洋工学を研究する分野

 

8.まとめ

地球を取り巻く環境は、一つのシステムを形成しています。これを地球システム、それを研究する学問を地球システム科学と呼びます。地球システムは地球の誕生から現在まで、46億年かかって姿を変えてきました。地球研究において海洋が重要なのは、このシステムにおいて海洋が地球内部と宇宙空間のインターフェイスにあたるからです。

今回は基本編として、地球の歴史を追ってきました。地球は大きな一つのシステムであり、その中には階層やサブシステムが存在します。それらの間でエネルギーと物質のやりとりが行われることで、地球は機能しています。この相互作用が地球環境となって現れるのです。

次回の第2章では、今回解説した地球システムのうち、流体圏に属する海洋の物理について解説します。海の流れ・変動の物理の基礎から入り、それを利用して気候に大きく影響するエルニーニョ現象を例として大きく取り上げ、解説していきます。海の流れが気候変動をもたらし、陸地に影響を与える仕組みがご理解いただけると思います。