『乳酸菌の疑問50』【世界の食卓から人間の体を支える乳酸菌!】

『乳酸菌の疑問50』内容解説の5回目、今回で最終回です。前回の4回目は、乳酸菌の様々な健康効果についてみてきました。腸内環境を改善し、色々な面から私たちの健康に役立ってくれる乳酸菌。しかし十分に働いてもらうためには、上手に体に取り入れる必要があります。

最終回の今回は、乳酸菌をどのように摂取するか、目的によってどんな食品や製品を選べばよいのか、「生きて腸内に届ける」ために製造過程でどんな工夫がなされているか、を解説したセクション5について解説を行います。

ここで触れていないQ&Aや詳細データもたくさんありますので、書籍『乳酸菌の疑問50』を是非読んでみてください。皆様が本書の知識を活かし、よりよい腸内環境を手に入れるお手伝いができたら幸いです。

【Section5:乳酸菌を摂取する】

【たくさん摂っても大丈夫なの?】

乳酸菌がいくら体によいといっても、限度があるのでは?と思われる方も多いでしょう。しかし、国際酪農連盟がまとめた「食品として安全に食べられてきた経験のある微生物リスト」には、私たちが食品とともに摂取してきたほとんどの乳酸菌が掲載されています。食べる菌数に制限は設けられておらず、たくさん食べても安全だとされています。動物実験により腸内細菌を乳酸菌のみにした場合でも、明らかな健康障害は観察されていません。

【乳酸菌の選び方:自分の体・菌の状態】

さて、乳酸菌を摂取するぞ!と思ったとき、どんな食品・製品を選べばいいのか迷いますよね。選び方のポイントをいくつか挙げますので、参考にしてみてください。

  • 期待する保健効果を1つに絞り込む
  • 効果実績の確認
  • 1か月程度継続して効果を確認
  • 興味やコストが継続に影響しないか確認

また、菌の状態がどうであるかもまた重要なポイントです。「単菌・複合菌どっちがいいの?」「死んでいても効果があるの?」それぞれQ&Aをご紹介しましょう。

Q:乳酸菌は単菌・複合菌どっちがいいの?

A:自然発酵状態では、単一の乳酸菌で発酵が完成することは多くはありません。ブルガリア菌とサーモフィラス菌は共生関係にあり、お互いに有利な物質を生成して増殖します。また、複数の菌を用いることで食品に複雑な風味が生まれるという利点もあります。

一方、健康効果に着目して「プロバイオティクス」の機能を最大限に活かすような場合は、単一菌使用製品の方が有利です。確実に効果の確認された菌株だけを体に取り入れることができるからです。

Q:乳酸菌は死んでいても効果があるか?

A:乳糖を分解して吸収しやすくする、乳酸を産生して腐敗菌の増殖を防ぐ等の機能は、生菌でなければ発揮できません。しかし、近年プロバイオティクスの定義に変化が見られ、死菌も含めてもよいという見解も出ています。乳酸菌の酵素や菌体成分、生成物等もヒトに有用な働きをする例が報告されているからです。

近年、乳酸菌の過熱死菌体の機能性が注目され、多くの研究が行われています。

【食文化と乳酸菌:多くとっている国は?気候風土との関係は?】

チーズ、ヨーグルト、健康食品……。乳酸菌を摂取するのには、様々なルートがあります。結論からいうと、それらすべてを総合すれば、現在世界で一番乳酸菌を摂取している国はアメリカです。アメリカは国民皆保険制度がなく、病気になって医者にかかると多額のお金が必要です。そのため、病気にならないために健康食品を積極的にとる傾向があるのです。

チーズに関しては、長い間フランスが第一位でしたが、直近のデータではデンマークが一位になりました。続く二位、三位も北欧の国々です。デンマークでは、一人当たりの年間チーズ消費量は28.1kgです。

伝統的乳酸菌使用食品の分布については。気候風土が大いに関係しています。ヨーロッパは、アルプスを境に北と南で気候風土が明確に違います。乳酸菌も、アルプスの南であるスイス・イタリアには高温菌、北側のドイツと北欧には中温菌が生息しています。ライン川の西にあるフランスでも、中温菌の作る様々な伝統的チーズが発展しました。高温で練り上げるモツァレラチーズは、高温菌の働きによって作られています。イタリアの有名チーズ、パルミジャーノレジャーノも数種類の高温菌を使っていることまではわかっていますが、何が使われているかは門外不出の秘伝です。

【生きて届けるための工夫】

乳酸菌は私たちのお腹の中に住んでいます。しかし、お腹の中なら安定して生活できるかといえば必ずしもそうではありません。乳酸菌を生きてお腹の中に届けるために、加工食品やサプリメントの製造過程では様々な工夫がなされています。

・対胃酸・胆汁→酸に強く、腸管に対する定着性の強い乳酸菌を選ぶ

・対酸素→酸素を通さない素材で梱包、菌体をコーティング

・菌体そのものに効果を期待→菌体や生成物の効果を利用

製品を選ぶ場合は、是非食品・製品の表示を確認し、ヒトでの効果が実証されているものを選ぶようにすれば、私たちは乳酸菌の機能を安全に期待することができます。

5回に渡って『乳酸菌の疑問50』解説を行ってきました。この記事を書いている私自身は食品売り場で成分表示を熟読するタイプではないのですが、「ビフィズス菌は乳酸菌の仲間ではない」ということなど、初めて知って驚いたことが沢山ありました。元々健康に留意している方は、この本をお読みいただければより知識が深まることと思います(書籍本体には、コンパクトなQ&Aの中にも図表やデータが満載です!)。

古来食卓から人間を支えてきた乳酸菌たちが作ったおいしく健康によい食品を、今日の食卓に加えてみませんか?