『乳酸菌の疑問50』【世界の食卓から人間の体を支える乳酸菌!】

『乳酸菌の疑問50』内容解説の4回目です。前回は、代表的な乳酸菌発酵食品に使われる乳酸菌の種類や、その製造過程での働き方、乳酸菌の性質が食品の加工だけではなく保存についてどのように役立っているのか、について解説しました。

今回は、健康を気遣う方にとってはより興味深い節になると思います。乳酸菌は、私たちの健康に有効といわれていますが、どんな効果があるのでしょう?また、その効果はどのような仕組みでもたらされるのでしょう?

【Section4:乳酸菌の保健効果】

【そもそも、乳酸菌って本当に「効く」の?乳酸菌の健康効果】

乳酸菌は健康によいと言われていますが、その保健効果に関する研究には様々なレベルのものがあります。実際に選ぶ際には特定保健用食品や機能性表示食品を選べば確実とはいえますが、現在うたわれている効果を挙げて整理してみましょう。

・整腸作用:整腸作用に関しては、ヒトでの効果が認められれば特定保健用食品として効能が認められます。排便回数の増加、便性状改善、乳酸菌数の増加等が観測されます。

・免疫調節作用:免疫機能に関しては、現在特定保健用食品としての機能には認められていませんが、一部の乳酸菌においてアレルギー改善効果がヒト試験によって示されています。

・血圧降下作用:血圧が高めのヒトを対象とした試験で、効果が認められており、特定保健用食品としての機能表示が可能です。

・大腸炎抑制作用:腸管の炎症を抑制できる可能性が示されてはいますが、特定保健用食品としての機能表示は認められていません。

・脂質代謝改善作用:血中脂質の低下が実証されており、特定保健用食品としての機能表示が認められています。

【プロバイオティクスとプレバイオティクス】

「生きて腸まで届く」が乳酸菌利用食品の宣伝で使われるとき、乳酸菌に期待されているのは「プロバイオティクス」としての働きです。私たちの生体内で有用な働きをする生きた微生物のことを指して言う言葉です。特に乳酸菌やビフィズス菌は生体内で様々な有用な働きをするため、プロバイオティクスとして利用・開発されています。

一方、「プレバイオティクス」とは、生きた有用菌を摂取するのではなく、自分の体内にすでにいる有用菌を増やすためのオリゴ糖や食物繊維のことを指します。ビフィズス菌は食物繊維を分解できる酵素を持ち、酸素を避けて下部消化管に住んでいます。食物繊維は分解されずに大腸まで届くので、それを栄養素として増えることができるのです。

【乳酸菌の「何が」効く?成分による様々な機能】

さて、こうした健康効果は、乳酸菌の何がどのように働いてもたらされるものなのでしょうか。最もよく知られているのは乳酸菌がお腹の中に生きて届いて、お腹の中で活動することによって発揮できる効果です。これをプロバイオティクス効果と呼びます。

しかし、乳酸菌にはそれ以外にも様々な機能性の成分が報告されています。主な機能を整理してみましょう。

・乳酸菌が活動することによる効果:整腸作用(腸の活動を促す、有害菌の排除)

・乳酸菌そのものの効果:乳酸菌の菌体成分そのものが腸管免疫系に作用する可能性

・乳酸菌の分泌物の効果:血圧降下作用等

【乳酸菌の様々な効果:こんな風に効く!?】

それでは、乳酸菌の代表的な健康効果が、どのような仕組みで発揮されるのかみていきましょう。

《便秘改善効果》

便秘状態の改善には、よくヨーグルトが用いられます。乳酸菌がお腹で乳酸を産生すると、お腹の中のpHが少し酸性に傾き、腸が刺激されて動きが活発になり、便通が改善されます。

《免疫機能》

乳酸菌の免疫賦活作用に関しては未解明な点も多いものの。腸管免疫系に作用することで効果を発揮すると考えられています。この効果が発揮できる乳酸菌の種類は限られていることがわかってきました。インフルエンザに感染するリスクがある種の乳酸菌を接種することで低減できる可能性が報告されています。

《花粉症への効果》

花粉症の原因の一つは、免疫機能の乱れであると考えられています。腸内細菌のバランスや免疫機能の調整をする上で、乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスが効果を発揮すると期待されています。

花粉症の症状には、免疫細胞が作るIgA抗体という物質が深く関係しています。乳酸菌やビフィズス菌は、この抗体の作りすぎを抑えられる可能性が報告されています。

【悪玉菌がなぜ減るの?乳酸のパワー】

乳酸菌が病原菌(悪玉菌)を減らす仕組みとしては、乳酸菌の次のような能力が関係あると考えられます。最も悪玉菌の排除に役立っているのは、この中のどの性質なのでしょうか。

  • 消化液に耐えて小腸に到達する能力
  • 他の微生物と栄養を取り合う能力
  • 取り込んだ栄養からたくさんの乳酸を作り出す能力
  • 同族の乳酸菌の生育を阻止する能力

この中で最も雑菌排除に効果を発揮するのは、③の能力です。乳酸菌は自分が生成した乳酸の高い酸性にも耐えますが、腸内で病原性を示す多くの細菌は乳酸菌ほど耐酸性が強くありません。そのため酸性に傾いた腸内では生きていけず、結果的に悪玉菌は排除されるのです。

【まだまだあるかも?乳酸菌に期待される新たな機能】

乳酸菌の様々な保健機能は、既に多くの研究で示されていますし、特定保健用食品や機能性表示食品への使用により、その効果も実感しやすいものになっています。一方、製品としては利用されていなくても、乳酸菌の健康効果に関する様々な研究が行われています。関連するQ&Aをご紹介しますね。

Q:乳酸菌のユニークな機能研究とは?

A:最近の研究の中で、ヒトでの研究結果について例を挙げます。

《皮膚年齢の改善》

乳酸菌の継続投与によって、肌の水分含量が有意に増加、しわの深さが低下したという結果が出ています。乳酸菌の免疫作用が関係している可能性が示唆されています。

《脳機能の改善》

腸管は、免疫系機能・内分泌系機能・神経系機能に関連した役割を担っています。神経系に関しては、腸管から脳に通じる神経系が働き、脳機能に影響を与えることが示唆されています。最近、プロバイオティクス摂取によりうつ病が改善したという研究結果が示されましたが、まだ研究例が少なく、実用には至っていません。

今回の解説を読まれた方は、スーパーでヨーグルトやチーズを選ぶとき、より真剣に表示を確認してしまうのではないでしょうか。こんな小さな菌が私たちの体の中にいて、しかも健康に役立ってくれるというのは、生物の関係の不思議さを思わずにはいられません。

次回は、私たちの健康によい乳酸菌を、より効率的に摂取するにはどうすればよいかを考えます。どんな形で、どんな菌を接種すれば目的通りの効果が期待できるのか?賢く乳酸菌を取り入れることで、より健康な生活を目指しましょう!