『乳酸菌の疑問50』【世界の食卓から人間の体を支える乳酸菌!】

『乳酸菌の疑問50』内容解説の3回目です。2回目は、乳酸菌を使った食品について解説しました。乳酸菌を使った食品といってすぐに思い浮かべるヨーグルトやチーズから、製造において乳酸菌が意外な使われ方をする酒類などについて、興味を惹かれる話題があったでしょうか。食品ごとに製造過程での乳酸菌の働きや、使われる乳酸菌の種類等に違いがあることがご理解いただけたと思います。

今回は前回よりもう少し踏み込んで、食品中の乳酸菌の種類や働き、由来について解説したセクション3について、かいつまんでご紹介していきます。

【Section3:食品に含まれる乳酸菌】

【能力特化の精鋭たち:チーズの乳酸菌、ヨーグルトの乳酸菌】

チーズの製造には、乳を発酵させるためのスターターとして乳酸菌を用います。スターターとなる菌には、至適温度が大変重要で、中温菌と高温菌が用いられます。

チーズの製造に一番広く用いられるのは、中温菌の①ラクトコッカス・ラクチス、②ラクトコッカス・クレモリス、③ラクトコッカス・ジアセチラクチス、④ロイコノストック・クレモリスの4種類です。この4種類を混合したものは4種混合菌と呼ばれ、主にゴーダ等のセミハードチーズに使用されています。

ヨーグルトに使われる乳酸菌は、ブルガリア菌やサーモフィラス菌などのヨーグルト製造に使用される乳酸菌(スターター菌)と、ビフィズス菌やガセリ菌などのプロバイオティクス(宿主にプラスの効果を及ぼす生きた微生物)として加えられる菌があります。

スターター菌であるブルガリア菌とサーモフィラス菌は、ヨーグルトらしい爽やかな風味を生むだけではなく、2つの菌が乳中で互いに有利な物質を生産して協力し合う共生関係にあります。

上記2つの菌以外のヨーグルト製造用乳酸菌を用いたヨーグルトは、日本人にはあまり馴染みがないかもしれません。チーズに近い風味のものもありますので、試してみてはいかがでしょうか。

【何に多く含まれているの?健康のためにどれだけ必要?】

乳酸菌は、さまざまな食品の製造に利用されています。食品製造に利用される乳酸菌の特徴には、①糖を分解して乳酸を作り、pHを下げ風味をよくする、②pHを下げることで雑菌の繁殖を防ぎ保存性を上げる、③整腸作用等の健康効果、等があります。

朝鮮半島のマッコリというお酒や、サワーブレッドと呼ばれるパン、漬物や味噌にも乳酸菌は含まれます。醤油を作る過程でも乳酸菌は働きますが、最後に火入れを行うため、生きた乳酸菌は残っていません。

私たちの体の中には、およそ1~100億個程度の乳酸菌が住んでいると考えられます。健康に役立つ乳酸菌をできるだけ多く食品から摂取しようとするとき、何をどれだけ食べればいいのでしょう?

ヨーグルトだと100mL(100g)程度食べれば、約100億個の乳酸菌が摂取できます。乳酸菌飲料は薄められていますので、その分摂取量は少なくなります。サプリメントで摂取する場合は、商品の説明書で確認ができます。

生きた菌は、体の中で増える可能性があります。死菌体でも十分な効果が期待できるものがありますので、健康機能を期待するにはどのような菌の状態がいいのかをしっかり確認する必要があります。

最後に、海外の特徴的な乳酸発酵食品についてのQ&Aをご紹介します。ヨーグルトやチーズ以外にも、こんな食品で乳酸菌が働いています。

Q:海外の特徴的な乳酸菌発酵食品とは?

A:海外の発酵食品にも、乳酸菌が関係しているものがたくさんあります。いくつかご紹介します。酢漬けと思われがちなピクルスも、乳酸菌発酵を行う方法がありますよ。

・ザワークラウト(ドイツ):ソーセージと合わせて食べられる、キャベツを使ったドイツの漬物です。キャベツに元々住み着いている乳酸菌を用いて発酵させるのが特徴です。

・キムチ(韓国):塩漬けした白菜を水洗いし、魚介類のエキスや香辛料を塗り込んで発酵させます。

【どこからきてどうなる?食品の乳酸菌】

日本の発酵食品の代表選手である漬物の乳酸菌について考えてみましょう。漬物の乳酸菌は野菜由来であると考えられています。しかし、野菜に生息する微生物の中で、乳酸菌は主要なものではありません。漬物にすると、なぜ乳酸菌が増えるのでしょう?

漬物に欠かせないのは、野菜と塩です。塩の浸透圧によって野菜の細胞膜が破壊され、細胞内の成分が外に出ます。塩の浸透圧は野菜だけでなく、野菜に生息する微生物にも影響します。多くの微生物が高い浸透圧によって死滅してしまいますが、乳酸菌は生き残るのです。

この生き残った乳酸菌は、野菜の細胞から染み出した栄養分を餌にして増殖を始めます。この乳酸菌の働きを発酵と呼び、乳酸発酵によって漬物には独特の風味が加わります。

発酵漬物は年々少なくなっていましたが、近年の発酵食品ブームによって乳酸発酵漬物への注目が再び高まっています。

こうしたブームの背景には、乳酸菌の健康効果があります。漬物だけでなくチョコレート等のさまざまな食品に乳酸菌が添加されるようになりました。しかし、一般的に加工食品を製造する際には、加熱処理が行われます。乳酸菌は生きているのでしょうか?もし生きていないとしても、体にいい効果をもたらすのでしょうか?Q&Aをご紹介します。

Q:加工食品に含まれる乳酸菌は生きているの?

A:加工食品の製造過程における加熱処理により、通常はほとんどの乳酸菌が死滅します。しかし、熱に強い乳酸菌を用いる、加工温度を比較的低くする、乳酸菌をコーティングする等の方法で、乳酸菌の生菌数を高めることができます。

食品から摂取された乳酸菌は、胃や十二指腸で強い酸に晒されます。乳酸菌は菌種ごとにこれらの酸への耐性が異なるので、これらの条件で死滅することがないような菌が選択されます。一方、生きていなくても効果が期待できるような乳酸菌も開発されています。

乳酸菌が私たちの体内でどのような状態でも、健康効果を発揮しなければ意味がありません。それを確かめる一番の方法は、その加工食品が機能性表示食品や特定保健用食品かどうかを確認することです。

【昔からキッチンの強い味方:乳酸菌の食品保存性】

食品を長期保存する際には、有害な微生物の発生を抑えることが必要です。通常は加熱処理を行ったり保存料を加えたりしますが、生物由来の保存物質(バイオプリザバティブ)を用いる食品保存法(バイオプリザベーション)が提唱されています。乳酸菌は有力な保存物質として期待されています。

乳酸菌が産出する乳酸などの有機酸は、食品のpHを下げることで雑菌の増殖を抑えるとともに、有機酸自体も細菌の細胞内へと進入し抗菌活性を示します。また、多くの乳酸菌はバクテリオシンと呼ばれる抗菌物質を生産することが知られています。乳酸菌バクテリオシンは、食品の種類や加工段階に合わせ、それぞれの用途に応じた使い分けがなされています。

これらは他の抗菌物質や、他の殺菌法との併用によって、相乗効果が広く検討されています。

今回は、食品に含まれる乳酸菌の種類や性質、由来やその働について解説してきました。次回はいよいよ、乳酸菌の健康効果について踏み込んでいきます。私たちの体の中で、乳酸菌たちはどんな仕事をしているのでしょうか?乳酸菌は「どんな仕組みで」「何に効く」のでしょう?