『乳酸菌の疑問50』【世界の食卓から人間の体を支える乳酸菌!】

『乳酸菌の疑問50』内容解説の2回目です。前回は乳酸菌の基礎知識を解説しました。今回は、私たちにとってより身近な分野かもしれません。食料品店や食卓で出会う乳酸菌を使った食品について、本編内のQ&Aを交えながら内容を解説します。ヨーグルトやチーズ、乳酸菌飲料といった食品ができるまでと、その過程での乳酸菌の働き、また、意外なところで乳酸菌が仕事をしている食品等をご紹介します。

【Section2:乳酸菌を使った製品】

【乳酸菌飲料って何?:日本生まれって知ってました?】

乳製品は、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)」によって成分の規格が定められています。「ヤクルト」や「カルピス」が有名な乳酸菌飲料は、「乳等を乳酸菌や酵母で発酵させたものを加工し、又は主要原料とした飲料(発酵乳を除く)」と定義されています。これは無脂乳固形分などの成分の違いにより、さらに細かく分類されます。「飲むヨーグルト」は無脂乳固形分が多いため、ヨーグルトと同じ「発酵乳」に区分されるのです。

実は乳酸菌飲料は、日本で誕生し世界に広まった飲料です。1919年、カルピスが発売されたのが始まりです。

一般的な製法は、殺菌した脱脂乳に、乳酸菌を加えて発酵させます。乳を乳酸菌で発酵させる際にカード形成(乳に含まれるタンパク質の凝固)が起こります。そのカードを粉砕するとき、果汁や香料、安定剤等の原料を加えます。原料をすべて混合した後、ホモジナイザーを通して製品を微細にすり潰し、さらに均質化します。

一般的な乳酸菌飲料は製造から出荷・販売まですべて冷蔵で管理されていますが、殺菌された乳酸菌飲料は、常温で流通・保存ができます。しかし、乳酸菌の健康効果は、殺菌によって失われてしまうかというと、そんなことはないのです。

【乳酸菌食品といったらこれ!:ヨーグルトとチーズのできるまで】

《ヨーグルト》

ヨーグルトは発酵乳の代表として世界で親しまれています。国際規格では、ブルガリア菌、サーモフィラス菌を用いて、最終製品中に両菌が多量に生存しているよう定められていますが、日本では、発酵後に殺菌してもよいことになっています。

作り方は、新鮮な殺菌乳にスターター乳酸菌を添加し、37~42℃で3~12時間発酵させるというもので、衛生面への配慮が重要です。メーカー工場では、①発酵させてから充填、②充填してから発酵、のタイプがあります。現在日本で製造しているヨーグルトは、プレーンヨーグルト、ソフトヨーグルト、ハードヨーグルト、ドリンクヨーグルト、フローズンヨーグルトの5つに分類されています。

家庭で作る際は、器具の殺菌に注意し、一度沸騰寸前まで加熱した牛乳を40℃前後まで冷まし、市販のヨーグルトか種菌を入れ、ヨーグルトメーカーで40℃前後で保温するのが簡単です。くれぐれも雑菌汚染には気をつけてください。

《チーズ》

現在、世界には数千種類を超えるチーズが存在しています。それぞれ製法は異なりますが、①原料乳の標準化と殺菌、②乳凝固、③ホエイ分離、④ホエイ排出・型詰・圧縮・加塩、⑤熟成の5段階に分けられるのはおおむね共通しています。塾生を行わないフレッシュタイプのチーズは、④までです。

乳酸菌が用いられるのは、一部のフレッシュチーズを覗いては、②の乳凝固の段階です。乳酸菌を加え加温保持することにより、乳酸菌が作る乳酸によって酸凝固が起こります。酸凝固では塊(カード)の強度が低くなるため、凝乳酵素であるレンネットを合わせて用います。

⑤の熟成期間中に、発酵微生物の作用によって乳成分が分解・変換され、それぞれのチーズ特有の風味が生まれます。

乳酸菌が加工する食品といえば、やはり牛乳を想像しますよね。乳酸菌はなぜ牛乳が好きなのでしょう?Q&Aをご紹介します。

Q:乳酸菌はなぜ牛乳が好きなの?

A:「乳酸菌は牛乳が好き」というのは、結論から言うとちょっと誤解なのです。「牛乳が好きな乳酸菌がいる」と表現した方が正確です。

37属460種類以上の乳酸菌の中で、乳の中で良好に生育する乳酸菌は、ほんの数十種のみです。牛乳に合った乳酸菌とは、牛乳に含まれるラクトースと牛乳タンパク質を分解・利用できる乳酸菌です。

【お肉も発酵?発酵食肉製品とは?】

日本人にはなじみの薄い名前ですが、欧米では昔から発酵食肉製品が親しまれています。その代表格ともいえる発酵ソーセージを紹介します。

塩漬けしてひき肉にした豚肉に、脂肪・穀類・香辛料等を加えるとともに、乳酸菌等の微生物を加えてケーシングに詰め、発酵させます。発酵期間や水分含量の違いによってドライソーセージとセミドライソーセージに大別されます。日本ではサラミが有名です。

生ハムもまた、発酵食肉製品の一種です。日本でも大分ポピュラーになってきましたので、本格的な発酵食肉製品が日本人の生活により浸透する可能性は十分あると思われます。

【漬物と味噌:日本の味と乳酸菌】

米糠を自然発酵させて調整した糠床に野菜を漬け込む糠漬けは、乳酸菌を利用した日本の伝統的な発酵食品の一つです。米麹・塩・水と香辛料等を混ぜ合わせ、野菜くずなどで捨て漬けを行います。このくず野菜や米糠、混ぜた人の手から乳酸菌や酵母が入り込み、糠床を熟成させていきます。糠床中のpHは4~5程度、塩分濃度は4~5%なので、熟成した糠床の中には酸に強く塩を好む乳酸菌が数多く存在していると考えられます。

糠漬け以外の漬物でも、野菜に塩を加えることで細胞内から水分と栄養分が浸出し、それが乳酸菌と酵母の栄養分になります。乳酸菌と酵母の働きで、独特の酸味とうまみ、香りのある漬物ができるのです。

同じく日本の伝統的な調味料である味噌作りでは、乳酸菌は「名脇役」として働きます。味噌作りではまず麹菌が原料の大豆や米を分解し、味噌のうまみを作ります。その後酵母の働きで、さらに多くのうまみ成分や香り成分が作られます。乳酸菌は乳酸を生成することによって、味噌の味を引き締めたり大豆特有のにおいを和らげたりします。

【ワインと日本酒:乳酸菌はどこで働く?】

赤ワインは、ブドウの果汁、果皮等をタンクに入れ、ワイン酵母を加えて発酵させます。アルコール発酵の終わったワインは圧搾され、次に乳酸菌によるマロラクティック発酵を行います。その後樽に移して数年間熟成させてから、瓶に詰めてさらに熟成させるのです。

ここで使われる乳酸菌は、ヨーグルトで使われるものとは違います。ブドウ果汁の主要な有機酸の一つであるリンゴ酸を分解し、高酸度ワインの酸味を和らげ、香味を高めます。

一方日本酒造りでは、乳酸菌は伝統的な酒母製造の過程で使われます。江戸時代に確立された生酛造りにおいては、蒸米、米麹、水を混ぜてすり潰し、熟成して乳酸菌を増殖させます。乳酸によって雑菌の繁殖が抑えられたところで酵母を添加し、アルコール発酵を行うのです。アルコールによって乳酸菌は死滅しますので、乳酸菌は雑菌を抑えるための影の立役者のような役割を果たしたことになります。

今回はポピュラーなヨーグルトから意外な酒類まで、乳酸菌を使った食品・飲料について解説してきました。次回は、これらの食品に含まれる乳酸菌の種類や性質、由来やその生死(!)について解説していきます。ここまでご説明してきた食品の中で、「最後に加熱する」ことが許可されているものがありました。それでも私たちの健康に乳酸菌は役立ってくれるのでしょうか?