コラム

2022年3月19日  

限界を「超えないように潜る」『スキンダイビング・セーフティ』

限界を「超えないように潜る」『スキンダイビング・セーフティ』
あっという間に春になりました。気温が上がってくると、ダイビングをはじめとした海中のレジャーにも本格的なシーズンがやってきます。冬の海は澄んでいて上級者にはおすすめですが、通常の準備に加えて寒さ対策が求められるため、他の季節とは違う心構えで臨まなくてはなりません。これから潜ってみようという方が海に出るには、暖かい季節の方が向いています。
ダイビングの中でもボンベを使わない素潜り≒スキンダイビングについて、スクーバダイビングより気軽な印象を持つ方もいるかもしれません。しかし重装備がないということは、生身で自然を相手にするということです。安全には十分に注意し、事故を防ぐ必要があります。
今回ご紹介する『スキンダイビング・セーフティ』は、競技者、幅広い年代向けのレクリエーション、学校教育や研究活動といった活動分野から多角的にスキンダイビングの概論や活用方法、効果的な練習方法、安全に行う方法を解説しています。また事故防止については、生理学的な観点から解説を行ったのち、事故事例を挙げています。
後半では、おすすめの機材の紹介、より長く深く潜るフリーダイビングの解説や、立場の違う著者による対談・座談会が掲載されています。スキンダイビングの魅力や安全な潜り方のコツなどがたっぷり紹介されていますよ。
水中レジャーを始めようと思っている方、始めたばかりで概説書を探している方、安全についておさらいしようと思っている方、海に出る前に本書を是非ご一読ください。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『スキンダイビング・セーフティ』はこんな方におすすめ!

  • ダイビングに興味のある方
  • 安全な潜り方や練習方法を知りたい方
  • 水中活動の指導者

『スキンダイビング・セーフティ』から抜粋して5つご紹介

『スキンダイビング・セーフティ』の中からいくつか抜粋してご紹介します。本書の著者は4名ですが、現役プロダイバー、ダイビング指導者、潜水生理学の専門家、ダイビング機材の設計開発者とそれぞれ立場が違います。各々の専門的視点からスキンダイビングを解説した後、対談や座談会で意見交換を行っています。ダイバーそれぞれの技術論の違いなど、基礎を身につけた上で参考にできる知識が満載です。

スキンダイビング

スキンダイビングという言葉は、本来潜水服に身を固めて潜る重装備のダイビングに対して、身体を水に直接露出して潜る潜水すべてを指している言葉でした。

ここでは、安全性確立の見地から、「1.フィン、マスク、スノーケルを使い、息をこらえて水深10mくらいまで潜り、2.潜っている時間は1分程度を限度として、3.高校生から高齢者まで楽しめるスポーツとして、4.研究者が浅い海での調査、採集などの手段として利用できる」息こらえ潜水を、「スキンダイビング」と定義します。また、5.深さ、息を止めていられる長さを競う競技は含まない、とします。また、原則として2人1組で行い、交互に潜水を行うこととします。

5.の深さや息を止めていられる長さを競う競技のことは、フリーダイビングと呼びます。また、1.の装備にフローティングベストなどの浮力体を加え、水面で行う活動をスノーケリングと呼びます。

普通の人間が息をこらえていられるのは、訓練を行っても大体2分程度です。ずっと息を止めていると、次第に胸や腹がピクピクして(横隔膜が痙攣して)きます。ここまでを息こらえの第一相と定義します。スキンダイビングでは、この第一相の段階で浮上して、水面の空気を吸います。この限界を、ブレイクポイントと呼びます。

「素潜り」というと、映画「グラン・ブルー」や海女さんの漁といった過酷なものを想像してしまいます。競技にはルールがあり、伝統漁法には経験の積み重ねによる基準が設けられています。これらの安全基準に従うことで、事故は減らすことができますが、それでも危険は常に身近にあります。スキンダイビングは、「苦しくなったら上がる」ことで危険性を少なくしています。

装備の選択とフィッティング

1.フィン(足ひれ)
フィンは足の筋肉の力を効率よく推進力に変換する器材です。また、姿勢を安定させるためにも使います。ブーツタイプとストラップタイプがありますが、脚力に合った適度な大きさと柔らかさのものを選びましょう。

2.マスク
水中ではっきりとものを見るための器材です。2眼、1眼がありますが、顔の形に合ったフィット感のよいものを選び、曇り止め液を用いて曇りを防止します。

3.スノーケル
スノーケルを用いると、水面で顔を上げずに呼吸ができます。マウスピースが口に合う、パイプの太さが排気圧に適したものを選択しましょう。また、排水弁の扱いには注意が必要です。

4.ウエットスーツ
ウエットスーツは、水中で寒さや怪我から身体を守るものです。保温を第一に考えた上で、状況に合った動きやすいものを使用しましょう。

5.マリンブーツ
足の保護、保温のための器材です。

6.ウエイトベルト
ある程度以上の厚さのウエットスーツを着た場合、浮力が生じてうまく潜れない場合があります。そんなときにウエストに巻く錘を使用しますが、万一の場合に備え、空気を吐ききっても浮いていられる程度のものに抑えましょう。

7.グローブ
手の保温と保護に用いますが、むやみに海の生き物には触れないようにしましょう。

8.スノーケリングベスト
水面に浮いて水中観察を行う場合には、スノーケリングベスト(フローティングベスト)を使用します。

装備は、身体の保護とともに「保温」が重要なのですね。寒い季節などはむしろ水中の方が温かいこともありますが、それでも水の中では体温が奪われます。フィット感と動きやすさとともに、保温性にも十分に留意して装備を選ぶようにしてください。水温が28℃以上であれば、ラッシュガードやタイツなどの使用も可能です。

海でのスノーケリングとスキンダイビング

海でのスノーケリングやスキンダイビングの際には、安全原則を守り、健康チェックを怠らず、海特有の危険性を理解した上で天候や海況を判断してから活動しましょう。

1.ダイビング前のセルフチェック
ダイビング前には、健康状態のセルフチェックシートを用いてチェックを行い、問題があれば活動を中止しましょう。

2.海特有の危険性
活動前に天気予報、潮汐、日差しや気温、水温、透明度等を調べます。ダイバーは脱水を起こしやすいので、潜る前には水分補給を行いましょう。

3.波や流れ
比較的真っ直ぐな海岸が続いている場所では、海岸沿いの流れ(沿岸流)が発生します。また、沖から岸へ向かってきた波が1ヶ所に集まり、渦となって沖へ流れ出す離岸流にも注意が必要です。巻き込まれて漂流する可能性も考え、鏡や海面を着色する薬剤などの漂流対策用品を身に着けておくと安心です。

4.水底の状態
水底は様々な影響を受け、変化に富んでいます。不意に深みにはまって慌てないようにしましょう。

5.危険生物
毒針や棘のある生物、刺胞毒を持つ生物などがいます。グローブ等を着用し、海底や岩をむやみに触らないようにしましょう。

6.波酔い
船と同じように、波にも酔うことがあります。気分が悪くなったら、バディに声をかけて水から上がりましょう。

7.水中拘束
身体や装備が海藻や網、ロープなどに絡んでしまったときのために、ダイビング用のナイフなどを持っておくことも事故防止に繋がります。

]8.他の海面利用者や船との関係
水面で活動しているスキンダイバーを船から確認することは困難です。船の活動領域では潜らないようにし、必要に応じてフラッグを掲げられるフロートを用意しましょう。

9.海に入る直前に
海に入る直前には、浮力の確保、緊急時の対処法、これからどういった活動を実施するか、コンディション、健康状態等の説明と確認を行いましょう。

海に出るまでには、プールで十分な練習を行います。しかし、閉じたプールでは安全に行えた活動も、波があり地形の変化に富んだ海ではうまくいかないかもしれません。想定外の事態をできるだけ減らすために、海ではより入念な準備が必要なのです。健康チェック用のシートは、ダイバーのための医療情報サイト掲載のものを本書では紹介しています。

耳や鼻のトラブル

息こらえ潜水中に必要な「耳抜き」において大切なことは、「早めに」「こまめに」「やさしく」の3つです。中耳鼓室に含まれている空気が水圧の上昇によって圧迫されると、鼓膜が中耳鼓室方向に引っ張られます。そこで、耳管を開いて空気を中耳鼓室に送り込み、圧縮された分を補填してやる必要があります。これが耳抜きです。

最もよく使用される耳抜きの方法は、鼻をつまんでいきむバルサルバ法です。しかし、力を入れすぎて鼓膜を傷つけてしまう等のトラブルもよく起こります。その他には唾を飲み込む嚥下法やトインビー法、鼻をつまんで舌の根本を上に持ち上げて耳管に空気を送るフレンツェル法、マウスフィル等の技術があります。フリーダイバー等の上級者向けの方法もあるので、習得したい場合は適切な指導者による教習を受けましょう。

また、風船を用いたトレーニングや体操によって、耳管を開きやすくすることもできます。

基本的にはフレンツェル法を用いて「やさしく」、ドルフィンキックのタイミングに合わせるなど「こまめに」、潜水前に水面で一度耳抜きをしておくなど「早めに」耳抜きを行うのがよいでしょう。
水深10mまでのスキンダイビングのレベルでは、耳抜きができなくなったら潜行を中止して浮上することが賢明です。

担当Mはダイビングをしたことがないので、耳抜きをするのは飛行機に乗ったときくらいですが、いつも唾を飲んで行っていました。スキンダイビングでは潜る速度が速いため、唾を飲む方法はあまり適していないそうです。今度飛行機に乗ったときはフレンツェル法を試してみようと思います。

スキンダイビングとフリーダイビングの共通リスク

スキンダイビングもフリーダイビングも、「息こらえ潜水」です。フリーダイビングにも、スキンダイビングの基本技術と安全管理が欠かせません。どんな小規模の活動やプール練習でも、安全対策を行い、一人一人が「全員で安全に活動を終え無事帰宅する」気持ちが必要です。

《鼓膜破損、めまい》
潜水中に耳の痛みがある場合や耳抜きができないときはすぐに浮上しましょう。フードを被っている場合、フードが影響して鼓膜破損に繋がることがあるので、フード内に水を入れるかフードにホールを開けておくと安心です。また、耳を温めておくと冷えからくる不調を防げます。

《酸欠症状》
スキンダイビングにおいては、フリーダイビングのような限界に近づく「息こらえ」は行わないことが原則です。しかしパニックや体調不良等で、低酸素によるブラックアウトやLMC(ブラックアウトの一歩手前の意識は若干あるが身体が痙攣したり視線が定まらなかったりする状態)が起こることもあります。苦しいと感じたらすぐ浮上しましょう。

《パニック、溺れ》
パニックや溺れは、ブラックアウトや肺水腫に繋がります。自分では正常な思考やセルフレスキューができないこともあるので、バディから見て異変を感じたらすぐに対処しましょう。水泳技術はパニックや溺れ対策として非常に重要です。

《浮上中に息を吐かない》
浮上中に息を吐くと、肺の中の酸素が減り、身体も浮きにくくなります。基本的には水面に到達するまでは息を吐かないようにしましょう。

《器材トラブル》
サイズ、技術、目的に合わない装備や、破損したものは事故のもとです。器材チェックとメンテナンスはきちんと行い、安易な貸し借りは避けましょう。

《衝突》
水中では、前方、頭上不注意によって衝突が起こります。スキンダイビングでは、しっかり前方を見た潜水フォームを保ち、浮上の際も水面確認を行いましょう。

フリーダイビングにおいても、安全の基礎は同じです。フリーダイビングには肺や脳への損傷リスクも加わりますので、サポート技術とレスキュー技術を身につけることが求められます。
後半の対談では、「深く潜るということ」についても触れられています。トレーニングに瞑想を取り入れるなど、フリーダイビングというのはスポーツでありながら哲学的な行為なのかもしれないと思わされました。

『スキンダイビング・セーフティ』内容紹介まとめ

ボンベを用いずに10m程度息を止めて潜る「スキンダイビング」。スキンダイビングを安全に楽しむために、概論、練習方法、安全な活動の原則を解説しました。また、教育や研究、生涯スポーツとしてのダイビングについても考察を行っています。スキンダイビングの発展型としてのフリーダイビングの安全対策も併せて紹介し、後半では対談や座談会で著者それぞれの意見交換を行っています。

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