コラム

2022年2月25日  

生物の体を守る「潤滑油」『読んで効く タウリンのはなし』

生物の体を守る「潤滑油」『読んで効く タウリンのはなし』
お酒を飲んだ翌日ちょっと体がすっきりしないとき、仕事の疲れを持ち越してしまいそうなとき、栄養ドリンクを飲むこともあるかと思います。そのときドリンクのビンのラベルを見てみたら、「タウリン」と書かれていないでしょうか。
またネコを飼っている方は、キャットフードの成分をよくチェックしているでしょう。そこにも「タウリン」が含まれているはずです。ネコには特に欠かせない成分なので、市販のキャットフードには含有が義務付けられているのです。
どうやら体にいいらしいこの「タウリン」、一体どんな成分なのでしょう?魚介類に多く含まれているらしい、滋養強壮にいい、ということはよく聞きます。タウリンはどのような仕組みで、私たちや動物の身体によい効果をもたらしてくれるのでしょう?また、具体的には体のどこに作用しているのでしょう?
今回ご紹介する『読んで効く タウリンのはなし』は、なんとなく栄養ドリンクを飲んだり魚を食べたりしていたのがもったいなくなるくらい、「タウリンが体のどこでどう働くのか」をすみずみまで解説します。
この本の発行後の2019年、タウリンは脳神経の難病、ミトコンドリア病の一種MELASに対して効果が認められ、治療薬として承認されています。その効果と仕組みについても一節を設けて書かれていますので、興味を持たれた方はご一読ください。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『読んで効くタウリンのはなし』はこんな方におすすめ!

  • 食品の健康効果に関心のある方
  • 魚介類の栄養素に興味のある方
  • 健康を気にされている方

『読んで効くタウリンのはなし』から抜粋して5つご紹介

『読んで効く タウリンのはなし』からいくつか抜粋してご紹介します。タウリンは体の色々な場所で働き、効果も多岐にわたります。後半には上手な摂り方や多く含まれる食品の紹介などもありますので、是非ご参照ください。

タウリンってどんな物質?

タウリンは1827年にドイツの科学者ティーデマンとゲメリンによって牛の胆汁から発見されました。しかしそれ以前から中国では、牛の胆石が貴重な薬として使われてきており、後の分析でタウリンが含まれていることがわかっています。タウリンは胆汁中に含まれ、胆汁酸の代謝に深く関わっていることが知られていました。

その後の研究で、強心、肝臓の保護、筋肉の損傷抑制、てんかん抑制、網膜機能維持などの作用が明らかになりました。また、胎児の発育において大きな役割を果たすこともわかっています。

タウリンの構造はアミノ酸に類似していて、分子内に硫黄を有することから「含硫アミノ酸」と呼ばれています。純度の高いタウリンは無味無臭の粉末です。タウリンはタンパク質の原料にはならず、ほとんどタウリン単体で体内に存在します。タウリンはほぼすべての生物の体内に存在し、ヒトの体には体重の0.1%含まれています。

タウリン研究はまだ途上ですが、海で誕生した最初の生命が過酷な環境から体を守り、細胞の機能を維持するためにタウリンを使っていた可能性が高いことがわかっています。タウリンは、細胞や臓器が働きやすい環境を整え、生命活動を陰で支える存在であるといえるでしょう。

タウリンは体中で大活躍しています。驚くほど多くの病気に対する効果が報告されているのですが、これはタウリンが個別の病気それぞれに効くというより、タウリンの持つ細胞の生存や機能維持に対する基本的な作用がそれぞれの場所で現れている結果だとみなされています。
ところで、ネコは魚だけでなくネズミも好みますが、その理由もタウリンにあります。ネズミの体内には多くタウリンが含まれます。ネコは必要とするタウリンの量が多いのですが、自分の体内でタウリンを合成することができないので、食べ物から摂る必要があるのです。

アンチエイジング:老化におけるタウリン

中国最古の薬学書の中に書かれた生命を養う薬のひとつに、牛黄という薬があります。これは牛の胆石で、タウリンが多く含まれています。最近の研究では、タウリンは体の中で老化を遅らせるような働きを担っていると考えられています。

ネズミには体内でタウリンを作って利用する機能がありますが、その機能を働かなくしたマウスを使った実験を行いました。その結果、タウリン欠乏マウスは筋肉の働きとエネルギー供給に異常がみられたほか、脳機能の異常、傷の治りの遅さ、免疫力の低下、肝硬変の発症、視覚、聴覚、嗅覚の異常など様々な異常が起こったのです。さらに、寿命も短くなっていました。タウリンの欠乏が、細胞の老化を早めていたと思われます。このことから、タウリンが細胞の老化を遅らせている可能性が示されました。

また、アルツハイマー病の原因のひとつであるアミロイドβを蓄積しやすくしたマウスを使った実験では、タウリンを投与することで蓄積が抑えられたという結果が出ています。ヒトにおいても同様の効果があるのか、今後の検討が必要です。

タウリン欠乏マウスは、特に足の筋肉が衰えていたそうです。また、タウリンには筋肉だけではなく骨や軟骨の機能維持作用も報告されています。タウリンをうまく摂取すれば、自分の足で長く歩ける老後も夢ではないかもしれませんね。

お酒:アルコール代謝におけるタウリン

タウリンには、アルコールの解毒を助ける働きをはじめ、アルコールから肝臓や脳を守る働き、アルコール依存症を予防する働きなど、お酒を飲む際に有益な働きがたくさんあります。

二日酔いにはしじみ汁などとよく言いますが、貝類に多く含まれるタウリンはお酒の分解を助け、二日酔いを防ぐ働きがあります。飲酒による頭痛や吐き気などは、アルコールが分解されてできたアセトアルデヒドの毒性によって起こる中毒です。アセトアルデヒドは肝臓の酵素によって分解されますが、このときタウリンを摂取するとアセトアルデヒド分解酵素の働きが2倍ほどに高まるということがわかっています。
また、肝臓でアルコールが分解されると活性酸素が発生し、肝臓の細胞はダメージを受けてしまいます。このダメージが蓄積すると肝臓病になってしまいますが、タウリンにはこの活性酸素に作用して肝臓病リスクを抑える効果もあります。

アルコールが分解されてできる物質に酢酸があります。酢酸の一部は排泄されずエネルギーのもととなる物質に変換されて使われますが、酢酸が増えすぎると体は糖や脂肪より先に酢酸を使ってしまい、使われなかった糖や脂肪が肥満のもととなります。タウリンは、この酢酸と結合して尿からの排出を促す作用があることもわかりました。

アルコール依存症の末期には、お酢を飲むようになってしまうという話を聞いたことがあります。これは脳が糖よりも酢酸を優先して栄養分とするようになってしまった結果です。タウリンには酢酸の排出促進効果もあるとのことなので、お酒を飲みすぎたかも?というときには貝の味噌汁を是非おすすめします。タウリンは水に溶けやすいので、汁を飲むことが大切です。

心臓とタウリン

タウリンは心臓にとってなくてはならない物質です。タウリンが不足すると心臓は正常な働きができなくなります。一方で、心不全の患者にタウリンを投与すると症状が改善することがわかっています。

心不全とは、心臓が弱って全身に血液を十分に送り出せなくなることで起こる疾患です。心不全になると全身に送った血液を心臓に戻す力が弱まるため全身に水がたまってむくんだり、肺に水がたまって呼吸機能が低下したりします。タウリンのヒト心不全への効果は1980年頃から確認されてきました。タウリンによって、心臓の収縮機能が改善したのです。

タウリンが心臓に作用するメカニズムはいくつか考えられます。

1.細胞内のカルシウムイオン調整効果
心筋細胞内にカルシウムイオンが流れ込むと収縮し、カルシウムイオンがなくなると弛緩します。この動きの繰り返しで心臓は脈打っていますが、心不全の状態では、細胞へのカルシウムイオンの出し入れがうまくいかなくなっています。タウリンは細胞内のカルシウムイオンが少なければ流入を亢進し、多ければ抑制することによって、細胞内のカルシウムイオンのバランスをとり、心臓の動きを助けるのです。

2.交感神経の活動を抑える
心臓が弱っていると交感神経が働いて心拍数を増やそうとしますが、長く続くと心臓がより弱ってしまいます。タウリンは交感神経の亢進状態を抑制し、心臓を守ります。

3.アンジオテンシンⅡの悪影響を抑える
アンジオテンシンⅡは血圧を上げる生理活性物質ですが、心不全には悪影響を及ぼします。タウリンはこれを抑制します。

タウリンの作用は一方向のものではなく、高いものは下げて正常化し、低いものは上げて正常化するという二方向の作用を持っています。筋肉の収縮以外でも、血圧に対しても同じ作用がみられます。タウリンには、体の恒常性を維持しようとする作用があるのです。

脳とタウリン

脳において、タウリンは3つの大きな働きをしています。GABAのような抑制性神経伝達物質と類似した働き、浸透圧調整物質としての働き、脳のタンパク質の形、機能、場所を変える働きです。

1.からだと細胞の水分量をととのえる
浸透圧調節作用は、タウリンの最も重要な作用のひとつと考えられています。体の浸透圧が高くなり水分を要求すると、私たちは「のどが乾いた」と感じ、体に水分を保持するために尿量を減らします。浸透圧が下がれば逆のことが起こります。この反応にタウリンが関わっています。
またタウリンは、神経細胞の膨らみすぎと縮みすぎを防いでいます。自身が浸透圧調整物質として働くだけでなく、同じく浸透圧調整に関わる塩素イオンやナトリウムイオンの輸送体の機能を変化させ、二重に細胞容積の調節を行っています。

2.発達期の脳の特徴を形づくる
脳が正常に働くためには、興奮性の神経伝達物質と抑制性の神経伝達物質がバランスよく働くことが必要です。脳の2大神経伝達物質は興奮性のグルタミン酸と抑制性のGABAです。GABAが抑制効果を発揮するためには、細胞内の塩素イオンが低い状態である必要があります。
ところが発達初期の脳の神経細胞では、細胞内の塩素イオンが大人の約10倍近くもあるため、GABAが成熟後の脳とは逆のプラスの働きをします。しかし実はこの働きが、神経細胞の移動やシナプスの形成に重要であることがわかっています。タウリンはこのとき、神経細胞内の塩素イオンを高くする役目を果たしています。

3.タウリンは神経細胞の外にも漂っている
細胞外にもタウリンは漂っていて、胎児の脳では最も多い遊離型アミノ酸のひとつです。
私たちの脳は胎生期に脳室帯や線条体原基で神経幹細胞から生まれ、適切な場所に移動して形成されます。この細胞の発生や移動にタウリンが関わっていることが実験で明らかになっています。

羊水や臍帯血中のタウリン濃度はたいへん高く、胎児の発達にはタウリンが必要なことがわかります。特に脳においては他の臓器の数倍もあります。しかし胎児や新生児のタウリンを作る力は弱く、母体や母乳からの供給が必要です。赤ちゃんが生まれてからも親御さんは色々な栄養を考えなければならなくて大変ですが、現在は市販のミルクにもタウリンはきちんと添加されています。

『読んで効くタウリンのはなし』内容紹介まとめ

ヒトだけでなく、ほとんどの生物の体に含まれ、生命の維持に役立つタウリン。その効果は様々な臓器に及び、滋養強壮に役立つだけでなく、脳神経、心臓、肝臓、皮膚、筋肉といった様々な場所で働いています。胎児の脳の発達にも大きな役割を果たしていることがわかりました。生命の誕生・進化の過程において、周囲の厳しい環境に対応し体の平衡性を維持することで体を守ってきた可能性も示されています。こうしたタウリンについて、基礎知識、人間や生物の体でどういう働きをするかを解説しました。

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