コラム

2021年12月29日  

空の玄関口、どうやって作る?動いてる?『空港のはなし』

空の玄関口、どうやって作る?動いてる?『空港のはなし』
年末年始、飛行機で移動される方も多いと思います。
皆さんにとっての「空の玄関口」となる空港は、どんな場所にありますか?市街地からモノレールや急行列車で数十分?特急列車やリムジンバスで1時間ほど?それとも地下鉄で10分?どうしてこんな場所に空港ができたんだろう?と思ったことはないですか?
また、空港に着いてずらっと並んでいる飛行機を眺めたとき、ここにはどんな設備があるんだろう?何をしているのかな?と気になったことはないでしょうか。
今回お話する『空港のはなし』は、空港の計画と運営の専門家が、「空港のできるまでとできてから」、「空港にはどんな設備があり、どんな基準で設計され、どんな役割をしているのか」について解説しています。現在では、空港は飛行機の発着施設というだけではなく、ひとつのエンタメ施設としても捉えられつつあります。そんな空港のこれまでとこれからを、本書がご案内します。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『空港のはなし』はこんな方におすすめ!

  • 航空・空港ファンの方
  • 空港の「できるまで」と「これから」に興味のある方
  • 航空・空港関係で働きたい方

『空港のはなし』から抜粋して7つご紹介

『空港のはなし』の中から、内容を何ヶ所か抜粋してご紹介したいと思います。本書の著者は空港計画(つまり、空港の「できるまで」)の専門家ですので、本書中には空港計画・運営についてのより詳しい記述があります。また、日本の空港の色々なランキング、空港施設の小ネタなども散りばめられています。興味を持たれた方は是非本書をご覧ください。

空港とは?

空港と飛行場の違いはなんでしょう。航空法が定める飛行場の定義は、「航空機の到着、出発、および地上走行のために、全域またはその一部が使用される一定の陸上または水上の区域」となっています。一方空港の定義は空港法で定められており、「空港とは公共の用に供する飛行場をいう」とされています。つまり、空港と飛行場との違いは、公共用かそうでないかです。航空輸送その他の民間航空活動を行おうという人が使用できる飛行場が「空港」なのです。

空港は、国または地方公共団体、あるいは法律で定められた空港会社によって設置管理されています。国が管理する代表的な空港は東京国際空港(羽田)や新千歳、福岡空港等、空港会社が管理する代表的空港は成田空港、中部国際空港等です。また自衛隊等が設置管理する飛行場で民間航空が共用している「共用空港」には、小松空港等があります。

そういえば、自衛隊の基地にあるのは空港ではなく「飛行場」ですね。この区別は知りませんでした。私(担当M)は子どもの頃小松空港を時々利用していましたが、自衛隊の施設と空港が隣り合っていることをあまり不思議に思っていませんでした。基地内に民間用の滑走路がある共用空港は、現在8箇所あるそうです。

空港整備の沿革

1967年に第一次空港整備五か年計画が策定されたことをきっかけに、首都圏や関西圏を中心に全国各地で熱心に空港整備が進められてきました。
五か年計画の課題は、ジェット機時代の到来を受けた滑走路の整備と、羽田に代わる国際線の拠点空港としての新東京国際空港(成田)の建設でした。しかし用地取得が難航を極め、成田空港が開港に至ったのは1978年のことでした。

1970年代にはジャンボジェットが登場、台頭したため、各地の空港は施設の大型化の必要に迫られました。このジャンボジェットの登場は、空港整備事業史において最もエポックメイキングな出来事といえるでしょう。基幹空港や主要都市空港では大型機に対応した整備、その他地方空港ではジェット化のための整備が進みましたが、東京と大阪の二極集中状態が続きました。

国内線の需要拡大に対応し、騒音問題等も解決するため、80年代後半からは再び大都市圏の空港整備が最大の課題となります。これに伴い、84年に関西国際空港の建設が始動します。
急激な需要の増加と航空技術の進化に追い立てられるような急ピッチで日本の空港整備は進みましたが、ここまでの40年間で航空・空港ネットワークの大きな枠組みが形成されました。全人口の約70%が1時間以内で最寄りの空港へアクセスできるようになったのです。

空港整備の道のりは決して平坦なものではなく、近隣住民の立場からみれば土地を奪われたり騒音に苦しめられたりといった大きな問題も起こってきました。本文中でも触れられていますが、インフラの整備は、技術と利便性の追求だけではなかなか実現しないのです。

滑走路

滑走路は、空港において最も基本的な設備です。滑走路の計画では離着陸できる航空機の大きさと滑走路長の関係、就航率に影響する風向と滑走路の方位の関係、離着陸の処理能力を左右する滑走路の本数と配置が重要な要素です。

長さ︰大型の航空機にはより長い滑走路が必要です。また、目的地が遠ければ搭載する燃料が増えるため機体重量が重くなり、これも長い滑走路が必要になります。就航する機種と路線、異常事態が起きた場合の余裕等を想定し、離陸滑走路長、着陸滑走路長を策定します。

方位︰航空機は最大の揚力を得るため、風上に向かって離着陸するのがベストです。滑走路はその場所で最も起こりやすい風向(卓越風向)に沿った方位に設定すれば、横風をできるだけ受けずに離着陸できます。離着陸が可能な横風の最大風速を最大許容横風分力といいますが、これを超えない風が発生する頻度が最大になる方位を選びます。
滑走路の本数と配置︰今日のジェット機は横風に強くなったので、滑走路が一本のみの空港が多いのですが、1空港に複数の滑走路を設置する場合は、平行に2本の滑走路を配置し、横風に対応する場合はそれぞれの方向を変えてV字形に配置することになります。

飛行機にとって横風は非常に厄介な相手です(当社刊『ダウンバースト』等をご参照ください)。これを避けるために滑走路をV字形にしている場合も色々な種類があり、空撮写真を見てみるのも楽しいものです。当社刊『世界の空港事典』なら、一度に見比べられますよ。

エプロン

エプロンは航空機が駐機するための施設です。旅客はここから搭乗・降機を行いますので、旅客にとっては空と地上との結節点であるといえます。航空機が翼を休めている間、旅客の乗降、機内清掃、貨物の積み下ろし、燃料補給、点検整備といった地上支援作業が行われます。

エプロンの種類
ローディングエプロン:旅客の乗降が行われる最も基本的な機能を持つエプロン。一般の空港ではこのエプロンのみが設置される
ナイトステイエプロン:航空機の夜間駐機専用のエプロン。夜間駐機する航空機が多い空港では、始発便以外の航空機をこのエプロンに移動させる
カーゴエプロン:貨物の積み下ろしを行う専用エプロン。貨物専用機の形状や積み下ろし用の大型リフトに合わせた形態になっている
その他、メンテナンスエプロン(整備用)、ランナップエプロン(試運転用)、コンパスセッティングエプロン(コンパス整備点検用)があります。

駐機方法
ノーズイン・プッシュアウト方式:到着時は自走でスポットインし、出発時にはトーイングトラクターで押し出される。スペース効率がよく、ほとんどの空港で採用されている
自走式:自走でスポットに出入りする。プロペラ機やリージョナルジェットで採用。トーイングトラックは不要だが、航空機が360°転回するためスペースが必要
エプロン上では様々な作業が行われるので、航空機本体のスペースや動線に加え、作業スペースや地上支援車両の走行動線や置き場等の十分な確保が必要です。発着回数の多い空港では、エプロンに給油設備や空港動力設備などを設置し、効率化を図っています。

エプロンにずらりと停まっている色とりどりの航空機を見ていると、それだけでワクワクしてきます。大きな航空機の周りを走っているトーイングトラクターやコンテナドーリー等の特殊車両も見ものです。

空港ターミナル地域

空港の中は「離着陸地域」と「空港ターミナル地域」に分けられます。「空港ターミナル地域」とは、旅客ターミナルビルや貨物ビル、道路・駐車場、格納庫、燃料給油施設、庁舎・管制塔等のサービス施設や航空機支援施設が立地する地域のことです。空港ターミナル地域の中でも、旅客が直接利用する施設の配置計画は、空港の利便性やサービスレベルを決定づけるものであり、工夫が凝らされてきました。いくつかの代表的なパターンを紹介します。

フロンタル方式:最もシンプルな配置で、航空機のスポットの前面にターミナルビルを置く方式。日本の地方空港のほとんどがこのコンセプトで計画されている
フィンガー方式:エプロンの奥行きを深くし、メインのターミナルビルから複数のコンコースを突き出し、その片側または両側にスポットを並列する
サテライト方式:エプロンの中央部にコンパクトな乗降用のビルを設け、周りに効率よくスポットを配置する。メインターミナルビルとの間は地上または地下のコンコースでつなぐ。日本では成田の第2ターミナルビルがこれにあたる
リニア方式:フロンタル方式の拡張版。左右に長く伸ばしたコンコースに沿って多数のスポットを横一列に配置する。シンプルで拡張性に優れ、近年この方式が多く採用される。関西国際空港はこの方式
ハイブリッド方式:複数のターミナルコンセプトを組み合わせたもの。大空港に多い

空港内の移動は旅客にとっては疲れるものです。空港の大型化に伴って、歩く歩道や自動運転の軌道システム等が整い、その負担も軽減されつつあります。しかし空港ターミナルの複雑さは、その空港の辿った歴史の現れでもあるわけで、過程に目を向けてみるのも楽しいかもしれません。

空港の建設技術

近年の日本の空港整備では、新空港の適地を海岸・海上部や丘陵・山岳地に求めざるを得ませんでした。このため、いかに自然地形を克服して広大で平坦な空港用地を造成するかというのが技術的課題でした。以下に日本の空港建設に使われている土木技術をご紹介します。

大水深の埋立技術:空港島の造成工事は、海底地盤の改良工事→護岸工事→埋立工事の順で行われる。地盤改良工事で沖積層の水分を強制的に抜いて地盤を安定させ、改良地盤上に場所の用途に適切な材料と傾斜で護岸を築く。次に護岸内に土砂を投入して埋立工事を行い、陸地化する

軟弱地盤の改良技術:粘土層等の軟弱地盤上に構造物を建設するためには、大規模な地盤改良工事が必要。羽田空港では、垂直に打ち込んだドレーンで水の抜け道を作り、圧力をかけて粘土層内の水を排出させるバーチカルドレーン工法が用いられた

山岳地の用地造成工事:内陸部の山岳丘陵地に空港を建設する場合、起伏の大きい現地形に対して大規模な切土・盛土工事を行い、広大な空港用地を造成する。切土工事においては硬岩の発破、盛土工事においては盛土の高さが課題となり、慎重な施工が必要

ハイブリッド構造による滑走路建設:羽田空港では、滑走路の一部が河口にかかるため、この部分を水の流れを妨げない橋梁構造とし、残る部分を埋立地としたハイブリッド構造がとられた。異なる構造が滑走路の途中で接し、その上に航空機が離着陸するため、埋め立て部分では沈下、橋梁部分では伸縮が課題となった。この問題の解決のため、電車の連結部分のように鋼板を両方から突き出して重ねる方式がとられた

狭い国土の中で広い場所を確保するため、日本の空港は様々な工夫を用いて作られてきました。羽田空港のD滑走路の「ガタン」という衝撃、高速道路でも時々似たような感覚がありますよね。

魅力ある空港づくりを目指して

航空旅客や見学者といった空港利用者の満足度を高めるポイントとなるのは、「便利さ」「わかりやすさ」「快適さ」「楽しさ」が主な要因となります。

便利さ︰航空便の便利さ、空港までのアクセス、ターミナルビルの利便性
わかりやすさ︰案内、手続きのわかりやすさ、ハンディキャップや環境で利便性に差が出ないこと、サインやインフォメーション、動線のわかりやすさ
快適さ︰空間の快適さ、サービスの快適さ
楽しさ︰利用者にも、地域の人にも楽しめる場所としての空港

一方、パイロットや管制官の視点では、遠くからでも視認しやすく、離着陸がしやすく、気象条件の悪い場合でも定期、定時の安定した運航が提供できる空港が理想的といえます。
また、航空会社にとって理想的な空港の条件は、採算性が高く、空港使用料が安く、経営戦略上の自由度が高いこと、燃料費が軽減できること、諸施設が使いやすいこと等が挙げられます。

私が好きな空港は3つあります。中で楽しめるのは新千歳空港、航空機を眺めて楽しいのは成田空港、空港までの移動が楽なのは福岡空港です。ひとくちに「魅力的な空港」といっても、旅客視点だけでもこれだけ様々な尺度があります。航空会社やパイロットの側の視点も合わせれば、空港を作って育てていくことの困難さと面白さがよくわかります。

『空港のはなし』内容紹介まとめ

空の玄関口である空港。日本の空港は、狭く傾斜の多い地形にどのように適地を見出し、増え続ける需要に対応していくかの苦労の連続でした。本書は日本の航空技術と空港のあゆみを前提としながら、空港はどんな場所を選んで造られ、どんな設備があり、それぞれにはどのような役割と基準があるのかを解説します。それに加えて、変化し続けるこれからの航空需要に対応できるような空港の未来を探ります。

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