コラム

2021年12月24日  

いつ止める?どうやって守る?災害国日本の鉄道『気象・地震と鉄道防災』

いつ止める?どうやって守る?災害国日本の鉄道『気象・地震と鉄道防災』
春は風、夏は大雨、秋は台風、冬は雪で電車が止まります。また頻繁に起こる地震も、揺れが大きければ電車を止めて安全確認を行います。「またか」とうんざりさせられることは、この国で暮らしていれば珍しいことではありません。
日本の鉄道技術は、自然条件の大きく異なる欧米から、明治の初めに輸入されたものです。南北に細長く山地の多い地形により、様々な自然災害が頻繁に発生する日本の国土に適応するため、日本の鉄道は様々な努力を続けてきました。
私たちが時々遭遇するダイヤ乱れや運休は、こうした努力の結果設けられた安全基準に従ったために起こるものです。
今回ご紹介する『気象・地震と鉄道防災』は、日本の鉄道が現在の基準を設けるに至った経緯と、現在の運転規制の基準、地震、雨、風、雪等への対策について、第一線で活躍してきた著者が解説します。
「止める理由」がわかったら、少しはイライラがおさまるかもしれません。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『気象・地震と鉄道防災』はこんな方におすすめ!

  • 鉄道と災害対策について知りたい方
  • 鉄道史における災害に興味のある方
  • なぜ雨、風、雪、地震で電車が止まるのか知りたい方

『気象・地震と鉄道防災』から抜粋して7つご紹介

『気象・地震と鉄道防災』の中から、内容を何ヶ所か抜粋してご紹介したいと思います。本書は歴史的な出来事に沿って運行規制が変化してきた軌跡をたどる形の章が多く、ここでご紹介した出来事を受けて設けられたり改訂されたりした規制が、現在は更に変更されている場合があります。本書中にはその流れも記してありますので、是非通してお読みください。

災害および防災の定義

鉄道業務においては慣例として、列車の脱線や設備の破壊などの重大な被害を引き起こすものの他に、予定通りの列車運行が妨げられるようなものも「災害」に含めています。「災害」を未然に防ぎ、列車運行への影響を軽減することを目的とした業務を防災と呼びます。

鉄道における防災業務の大きな特徴として、対象が広域的な路線全体にわたることと、列車運行の制御と直結していることが挙げられます。鉄道防災では、地震や竜巻といった個別の自然現象だけでなく、路線の各地点で起こるかもしれない数も種類も多岐にわたる災害現象に注意を払う必要があるのです。鉄道防災において重要なのは、列車を動かすか止めるかといった判断です。

また、鉄道防災においては、運転士が気象現象のすべてについての知識を要求されることは滅多にありません。その代わり、ルート選定にあたっては最高の知見と技術が用いられます。列車運行と設備の備え両面において、自然災害に関する最新の科学的知見を踏まえて決定された合理的な対応がマニュアルとされ、日々の業務はそのルールに則って遂行されるのです。

鉄道の防災業務と特に関連性が高いのは、線路構造物の維持管理です。防災業務と維持管理業務は担当組織や人員が重なるため、災害リスク評価、防災への設備投資、災害時の運転規制基準の策定等の重要な意思決定は、列車運行を担当する部門ではなく、線路構造物を管理する部門が握っています。

列車の防災はレールを敷く前から始まっています。災害に備えるためには、少しでも安全なルートを選んでレールを敷き、設備を日々維持管理し必要なら補強・改良し、モニタリングを行います。「こうなったら止める」というルールを決め、その数値になったら運転規制を行います。維持管理部門の権限が強いというのも納得ですね。

なぜ災害が多いか

明治新政府にとっては、欧米列強と比べて貧弱な陸上交通インフラの改善は急務でした。欧米諸国から技術導入を図りつつ鉄道建設を推し進めた結果、鉄道網の骨格は第二次世界大戦前にはほぼ完成していました。現在まで営業を続けている鉄道各線のかなりの部分が、ルートも構造物も戦前までにできた基本構造によって支えられているのです。
このときに重要視されたのは、以下の点でした。

・なるべく多くの重要拠点を結ぶ
・運転所要時間を短くする
・建設費用と期間を最小、最短にする
・維持管理費用をなるべく少なくする
・災害による事故や不通をなるべく減らす

しかし、日本は自然災害を引き起こす自然現象が活発であり、地形も複雑で傾斜地が多く、そこへ敷設された線路構造は貧弱なものでした。防災上の観点から見ると、日本の鉄道は気象・地勢・構造の三重苦を背負っているといえるでしょう。
当時の技術水準や資金力、列車の仕様上の成約条件の中で建設された当時の鉄道設備が、開業後今日に至るまでそれぞれの線路の防災や維持管理上の弱点となっていることも少なくありません。

蒸気機関車の時代には長いトンネルを作るわけにはいかなかった、というような技術上の理由はともかく、「安く早く」が結果的に未来の人々に悪い結果をもたらすということは、歴史上よくあることです。日本の鉄道は、こうした困難な条件下で構築された線路構造や鉄道設備を絶え間なく維持管理しときには見直しながら、組織や業務を合理化して進化してきたのです。

運転規制ルールの基礎概念

災害時の列車運転規則は、異常時の運転取扱の一種です。本質的に不測の事態への対応を含むため、マニュアル化が困難な側面や臨機応変の対応を含みます。しかし同時に、安全に直結する重要な判断を含む業務なので、多くの鉄道業者がその手続きの大筋と役割分担を社内規程等で定めています。

運転規制の実施には、支社長および指令員や駅長が責任を負い、運転士や車掌などの乗務員は自ら判断を行わず、地上側の指示どおりに運転操作を行うとされるのが一般的です。降雨、河川増水、軌道冠水、浸水、土砂崩壊、風、積雪、濃霧、地震、津波といったハザードごとに具体的な取り扱いが定められています。内容は、ルールを定めたマニュアル等の位置づけ、気象等の観測方法、規制発令、緩和および解除の判断基準、係員の取扱い等です。

災害の種類によって判断基準の裏付けは様々で、関連性のないものもありますが、個々の基準を構成する共通要素を一般化すれば以下のようなことが規制の基準には関わってきます。

運転規制区間:対象となる線路の空間領域
運転規制区分:通常運転、速度規制、運転中止
観測仕様:観測機器の種類や規格、設置場所、観測対象領域、データ等に関する規定
危険指標:災害が列車運行に与える危険度の大きさ
決定関数:運転規制の選択肢を決める論理規則
判別しきい値:運転規制の決定境界を決める危険指標の値

自然災害には不測の事態も含みますが、運転士や車掌といった「その列車」に乗っている乗務員がその場で判断をしてしまうことは、複雑な路線と乗り入れ、ダイヤのもとで動いている鉄道においては不向きです。そこでより広い視点とデータを持った管理側に判断と責任が委ねられるのです。

雨による災害、運転支障のいろいろ

降雨を主な誘因として発生したと考えられる線路故障としては、件数の多い順に、倒木、切取崩壊、土砂流入、盛土崩壊、路盤変状、線路冠水、道床流出等々が報告されています。ひとくちに降雨災害といっても、その発生メカニズムや形態は非常に多様なものを含んでいるのです。

風や地震の場合は、その作用を荷重として表現することも可能で、荷重条件を満たすような構造物や車両を設計することができます。また、力の作用する時間も短く、かつ、それ以前の作用履歴や、他の場所での作用をみる必要も基本的にはありません。

これに対して降雨の作用は、風化、流下、侵食、堆積、浸透、冠水、化学反応といった荷重に還元できない様々な形態をとります。その上降雨の作用とそれがもたらす災害との間には、多くの場合タイムラグが存在します。しかも災害発生に影響を与える個々の場所の地盤内容に関する詳細な情報を得るのは困難です。降雨災害に対する設備の合理的な設計基準を構築するのは難しいのです。
現在では、降雨災害の発生危険度を適切に表現できる雨量指標として、「実効雨量」の考え方が採用されています。

雨による災害は多岐にわたり、そのときその場所で降っている雨がすぐにその場所の災害につながるというわけでもありません。少し前に降っていた雨のために地滑りが起こることもあります。本書には、降雨に関する運転規制の様々な試行錯誤が、実際の事故事例とともに記されています。

新幹線の地震時脱線および逸脱防止

2004年10月23日、新潟県中越地震が発生しました。この地震で震央に近い浦佐・長岡駅間を走っていた上越新幹線とき325号は、7号車と6号車を除く計8両が脱線しましたが、早期地震検知警報システムにより非常ブレーキが作動し、脱線地点から約1.6kmの地点で停車しました。新幹線初の脱線事故となりましたが、1人も死傷者を出しませんでした。

最も大きな要因は、阪神淡路大震災を踏まえた高架橋の耐震補強工事が完了していたことです。ここで使われた鋼板巻き工法には多額の経費と長い工期が必要ですが、国の基準に加えて近辺の活断層等の条件を考慮したJR東日本が優先的に耐震補強を行っていたのです。

先頭車両の形状や線路の形状、軌道の状態も幸運に働きました。この脱線の影響を受け、巨大地震発生時に減災に努めることの重要性が認識され、構造物耐震補強、脱線対策、逸脱対策が提言されました。それに基づいた施工が現在も進められています。

新幹線ファンかつ日本海側育ちの私(担当M)にとって、上越新幹線は地元と東京をつなぐ身近な路線でした。その路線を襲った大地震を耐え死者をひとりも出さなかった「とき325号」の姿を新聞で見て涙したものです。この事例は、まさに鉄道の地震対策が功を奏したものであるといえるでしょう。

余部事故の発生

1986年12月28日、余部橋梁上において、風速30m/sを超える強風により、運転中の列車が脱線して橋梁下の水産加工場と民家の上に転落し、列車の車掌と工場従業員が死亡、工場従業員と列車乗務員に負傷者が出ました。この事故の調査結果を経て、JR東日本は強風時の運転取扱いおよび関係設備の整備について、次のように決定しました。

・平均風速から瞬間風速への移行:運転規制を平均風速かではなく瞬間風速に基づいて決定する
・運転規制解除に関する「30分間ルール」の導入:風速が規定値を下回ってもすぐには規制を解除せず、30分待ってから解除する
・「早目運転規制区間」の導入:高架上などの風速が急激に増大する恐れのある場所では、より低い風速で運転規制を行う

しかしこの条件にも問題点が多く、不必要な運転規制を行ってしまうケースが増えたため、輸送障害が頻発しました。そこで現在では時系列解析を用いた新しい運転規制ルールが導入され、状況は改善されています。

大きな川を渡る長い橋を渡る路線では、風が強くなってくると「橋を渡れなくなるかも」と心配になってきます。高架上では平地よりも厳しい基準が設けられているからなのでしょう。

東海道新幹線における雪氷害と対策

計画・建設当時においては、東海道新幹線は強力なモーターを備えた車両が高速で走行することで、線路に積もった雪を跳ね飛ばすことができると考えられていました。そのため、在来線と同等以上の特別な雪害対策は必要ないとされたのです。開業前に試験走行が行われていた鴨宮試験線は温暖な場所であったため、降雪時の検証実験は行われませんでした。このことが、開業後に大きな問題を引き起こしました。

開業直後の1965年1月6日、積もった雪が車両の機器に侵入して電気絶縁を破壊し、年始の輸送に大きな混乱が起きました。また、舞い上げられた雪が車両の床下に付着して凍りつき、その塊が落ちてバラストを跳ね上げたことによる車両機器や窓、沿線の家屋の損傷も起こりました。当時は対策として減速運転が行われましたが、ダイヤは大きく乱れ、輸送に多大な支障が出ました。
その後スプリンクラー散水、バラスト飛散防止マットの設置、融雪や雪落とし、高解像度カメラによる着雪量の把握等により、列車の遅れを最小限に留める方策が取られています。

冬の東海道新幹線に乗るとき、関ヶ原あたりが最も心配な場所です。今もこの区間では、雪との戦いが続いています。東海道新幹線での経験をもとに、東北新幹線や上越新幹線では軌道・車両ともに降雪を前提とし、降雪下でも定時運行を目指したシステムが構築されました。

『気象・地震と鉄道防災』内容紹介まとめ

激しい気象条件と傾斜の多い日本に導入された鉄道は、多くの災害に晒されながら発展を続けてきました。現在荒天や地震にあたって「列車を止める」運行規制は、数々の事故と試行錯誤の末に出来上がったものなのです。

運行規制を決める考え方と、地震、各種気象災害別の運行規制・災害対策形成の経緯を解説しました。ここではご紹介していませんが、最後の章では日本において古くから設けられて効果を発揮している鉄道施設「鉄道林」についても解説しています。

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