コラム

2021年12月22日  

積乱雲から叩きつける!最強の下降気流:『ダウンバースト』

積乱雲から叩きつける!最強の下降気流:『ダウンバースト』
様々な激しい気象現象を巻き起こす積乱雲。積乱雲が原因となる気象現象の中でも、被害の大きさで目立つのは竜巻です。竜巻は積乱雲の上昇気流が原因となりますが、実は竜巻を引き起こす特別な積乱雲からは、同時に激しい下降流も発生しているのです。これが「ダウンバースト」です。その威力は強烈で、ときに建物を破壊したり、航空機を墜落させてしまったりするほどです。
「ダウンバースト」という名前を聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれません。実はこの現象が発見されたのは比較的最近で、1970年代のことです。『新訂 竜巻』を読んだ方なら既にご存じの、藤田哲也博士によって発見されました。きっかけとなったのは、相次ぐ航空機の事故でした。
今回は、このダウンバーストの発見と最新の知見、身の守り方を解説した、『ダウンバースト』について紹介します。同じく積乱雲が原因となる気象現象を解説した『極端気象シリーズ』と合わせて是非ご覧ください。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『ダウンバースト』はこんな方におすすめ!

  • 気象ファン、天候観察が好きな方
  • 航空気象・航空安全に興味のある方
  • 『新訂 竜巻』『雷』『積乱雲』等、『極端気象シリーズ』を読んだ方

ダウンバーストとは?本書から抜粋して7つご紹介

『ダウンバースト』の中から、内容を何ヶ所か抜粋してご紹介します。本書『ダウンバースト』は、新刊の『新訂 竜巻』と一部重複する箇所があります。同じ雲から同時に起こる気象現象を解説しているためですが、本書ではより詳しい解説を行っています。

竜巻とダウンバースト

竜巻は積乱雲の強い上昇流で形成されますが、ダウンバーストは積乱雲からの強い下降気流として発生します。上昇流と下降流が両者の根本的な違いですが、実は両者はある特別な積乱雲から同時に起こる現象なのです。

積乱雲は発達すると、群れを成したり、1個の巨大な積乱雲になったりして長続きすることがしばしばあります。通常の1個の積乱雲はシングルセルといいますが、組織化され巨大化した積乱雲は、マルチセル、あるいはスーパーセル(単一巨大セル)と呼ばれます。マルチセルは、子どもの積乱雲を生むことで自己増殖を行い、世代交代によって長続きします。スーパーセルは、自分自身が巨大化して長続きするのが特徴です。

なぜ1個の積乱雲が巨大化して長続きするのでしょうか。スーパーセルの組織化には、気温、 水蒸気に加えて、周囲の風の場が重要になります。上昇気流が生じて雲が鉛直方向に発達すると積乱雲が組織化されやすくなりますが、これだけではスーパーセルにはなりません。さらに、高さ方向に風が変化(風の鉛直シアー)すると、うまい具合に上昇流と下降流がねじれて分離され、両者が同時に住み分けることができるようになります。その結果、積乱雲は衰弱することなく成長し続け、発達が維持されるのです。

乾いた空気が積乱雲の中に入り込むと、降水域では蒸発が進み、蒸発による冷却で空気の塊は重くなり下降流速は増します。これがダウンバーストの発生原因です。
強い上昇流と強い下降流が背中合わせで存在するのが、スーパーセルの特徴です。上昇流域では竜巻が発生し、強い下降流域では、ダウンバーストや降雹・豪雨が観測されます。「竜巻」と「ダウンバースト」は双子の兄弟のような関係なのです。

竜巻とダウンバーストは、ひとつの「スーパーセル」に伴って起こる背中合わせの現象だったのですね。ひとつの巨大積乱雲の中で上昇流と下降流が打ち消し合わずに分離することで、雲の中で強い流れが循環するようなイメージでしょうか。上昇気流に伴うのが竜巻、冷やされて重くなった空気の塊が落ちてくるのがダウンバーストということです。

ダウンバーストの発見

1975年6月24日16時、ニューヨークのJFK空港で墜落事故が発生しました。滑走路に差し掛かった機体の機首が持ち上げられたため修正しようとしたところ、今度は強い下降流に襲われて機体は降下し、誘導灯に左翼が激突してしまったのです。機体は大破炎上し、100名以上が亡くなる大事故となりました。当日は15時過ぎから大規模な雷雨が発生していました。

その後も同様の事故が相次ぎましたが、事故時に確認された気象レーダーのエコーは、どれも鉾のような特徴的な形をしていました。当初の調査では操縦ミスが原因とされましたが、難を逃れたパイロットたちからは「下降気流で機体が下がった」「急な横風が吹いた」等の証言が集まりました。そこで、航空会社から調査依頼を受けたシカゴ大学の藤田哲也博士が調査に乗り出します。

フライトデータと気象記録の分析の結果、雷雲下で機体が大きく揺れたことがわかります。雷雲下の強い下降気流が地面に当たり放射状に広がった強風が原因だと博士は結論づけ、この現象を「ダウンバースト」と名付けました。

離陸時なら上昇気流を受けても回復の余地がありますが、着陸に向けて高度を下げているところへ上から巨大な空気の塊が「落ちてきた」場合は被害が大きくなります。
ダウンバーストを発見した藤田博士はシカゴ大で竜巻を専門的に研究し、竜巻やダウンバーストをランク付けする「F(フジタ)スケール」を提唱しています。

ダウンバーストの定義

ダウンバーストは「積乱雲からの強い下降気流」であり、その水平スケールと発生メカニズムにより次のように定義されています。

ダウンバースト:積乱雲からの下降流による強風域の広がりが1〜10km程度のものの総称
マクロバースト:ダウンバーストの中で、水平スケールが4km以上のもの。寿命は5〜30分程度、地上被害は直線状
マイクロバースト:水平スケールが4km未満。寿命は2〜5分程度、地上被害は放射状
ドライマイクロバースト:マイクロバーストの中で、地上雨量が、0.25mm未満、またはレーダー反射強度が35dBZ未満
ウェットマイクロバースト:マイクロバーストの中で、ドライの範囲を超えるもの

マクロバーストとマイクロバーストを分けるのは、主として被害の大きさです。またウェットマイクロバーストとドライマイクロバーストでは発生メカニズムが異なり、後者は降雨を伴いません。日本で起こるマイクロバーストは、ウェットマイクロバーストがほとんどです。

マイクロバーストが雨を伴うかどうかは、雲の底(雲底)の高さと乾燥に左右されます。日本のマイクロバーストのほとんどが雨を伴うのは、雲の底が低く湿っているからです。ドライマイクロバーストの雲底は高く、その下の空気が乾燥しているため、雨は地上に届く前に蒸発してしまいます。

ダウンバーストの発生メカニズム

積乱雲からの下降気流が、なぜ航空機を墜落させるほどの力を有しているのでしょうか。
日射により地表面の空気塊が熱せられると、浮力を得て上昇します。持ち上げられた空気に含まれる水蒸気は、凝結して水滴となり雲(積乱雲)になります。

積乱雲が発達すれば、雲の中には雨、雪、雹などの降水粒子ができ、粒子の重力が上昇流に優れば落下を始めます。このとき空気塊自体も下降気流となって地上に達し、地面にぶつかって発散します。これ自体は積乱雲で一般的に起こっていることです。

下降流がダウンバーストとなるほどの強さになる原因は、次の3つが考えられています。1.雨粒が落下中に蒸発し、蒸発による冷却で空気の塊が冷やされ密度が高まり、重くなった空気が下降して地面にぶつかる、2.雹などの大きな固体粒子が落下するとき空気を引きずる力により下降流が強められる、3.積乱雲の中層で乾いた風が雲内に入り込み、下降流と一体化する。

これまで『極端気象シリーズ』を辿りながら積乱雲について色々学んできましたが、高く発達した雲の中で上昇した水分が冷やされて氷になり、大きくなった氷の塊が冷たい空気を伴って勢いよく落ちてくる、というイメージが、一番ダウンバーストを単純化してわかりやすくしてくれたように思います。

ガストフロントの構造

ガストフロント(突風前線)は、積乱雲からの下降流が地面にぶつかり水平に発散するアウトフローの先端部分のことです。アウトフローというのは、密度の高い重い流体が、軽い流体の下を流れる2層流体で、重力流または密度流といわれます。真水の中に泥水が流れ込むような状態を想像するとわかりやすいでしょう。

ダウンバーストで重要なのは、アウトフローの先端であるガストフロントの構造です。ガストフロントではアウトフローが反転して、周囲の暖湿気との間に前線構造を形成するのです。暖気の下に潜り込もうとする冷気が巻き上がったような状態になって循環構造ができ、先端部分の厚みが約2倍にも達します。持ち上げられた暖かく湿った空気は急激に上昇し、上空には「アーク」と呼ばれる特殊な積雲が形成されることがあります。

このアークはガストフロントに沿ってアーチ状に低い位置で形成されます。強力なダウンバーストには付随するケースが多いため、身を守る指標にもなります。

このときにできる「アーク」の様々な写真が本書に収録されていますが、「ものすごく低い位置にある雲だな」ということしかわかりませんでした。「あっ、あれは!」と見てわかるようになれば、突風の接近も予測できるようになるでしょう。

航空機への脅威

マイクロバーストの地上発散(アウトフロー)に伴う風の急変は、低高度のウィンドシアー(低層ウィンドシアー、LAWS)と呼ばれています。航空機の離着陸に大きな影響を与えるため、アメリカや日本ではダウンバースト監視のために「空港気象ドップラーレーダー」を展開しています。アメリカでの事故同様、日本でもこのウィンドシアーが原因で起きた事故がいくつもあります。日本の空港においても、ダウンバーストが発生しているのです。

またダウンバースト以外のウィンドシアー発生の原因としては、山脈を越えたおろし風によるものもあります。日本の空港は地形が複雑な場所にあることが多いため、地形性の風にも十分注意が必要です。ドップラーソーダを用いて観測したところ、地表面と高度100m付近でも風速や風向が相当異なることがわかりました。事故を防ぐためには、滑走路上空の風を正確に測定する必要があるのです。
ダウンバーストが発見される前も航空機が積乱雲の中に入ることはタブーでしたが、積乱雲の雲底下に航空機の離着陸に重大な影響を与える下降流が存在していることは知られていませんでした。現在では対ダウンバーストの訓練も行われるようになり、パイロットは遭遇時の対処方法を熟知しています。

空港は人口密集地を避けて海上や山間部に設けられることが多く、空港上空には複雑な風の流れがあります。航空機が気象から受ける様々な影響について興味のある方は、当社刊『図解 パイロットに必要な航空気象』をご参照ください。

ダウンバーストから身を守る

ダウンバーストは、竜巻に比べてより高頻度で、日常的な現象といえます。積乱雲からの下降気流も夕立も、普通に暮らしていれば遭遇したことがあるはずです。ダウンバーストと通常の下降気流を区別するのは難しいので、夕立から身を守る方法を実行すればよいでしょう。

ガストフロント通過時には、突風、風向きの急変、気温の急降下、気圧の急上昇が伴います。これらの変化を察知すれば、いち早く行動に移すことができます。
いつもと違う積乱雲や雷に注意し、急に空が暗くなった、急に寒くなった、雹が降ってきた等の兆候があれば、頑丈な建物に避難するようにしましょう。

竜巻、雷、ゲリラ豪雨、そしてダウンバースト。これらの現象はすべて積乱雲が原因ですので、一般的な予測や避難方法はよく似たものになります。このとき、目や肌や鼻から感じる変化は、決して捨てたものでもありません。
風が急に冷たくなる、土の匂いがしてくる、そういった私たちが昔から五感で感じ取ってきた天候急変の予兆が、現代になってデータで裏付けられたものも多いのです。

『ダウンバースト』内容紹介まとめ

ダウンバーストは、竜巻を発生させる特別な積乱雲から、同時に発生する強烈な下降流です。強いものでは50m/sを越え、構造物を破壊するほどになることもあります。藤田哲也博士が目には見えないダウンバーストを発見したきっかけは、相次ぐ航空機事故でした。

竜巻は目に見える上被害が強烈なため、古くから注目されてきました。しかし下降流自体はダウンバーストほど強くないものも積乱雲から常に発生していて、それだけを区別して避けるのは難しく、長い間認識されてこなかったのです。ダウンバースト自体は目に見えないものの、積乱雲に伴って発生することから、日頃から夕立や雷に気をつけていれば回避することは可能です。

ダウンバーストを、著者である小林文明先生は「竜巻の双子の兄弟」と呼んでいます。竜巻にも興味を持たれた方は、是非『極端気象シリーズ』の『新訂 竜巻』も読んでみてください。積乱雲から発生する様々な気象現象のことを一つ一つ理解していけば、この不思議な雲の恐ろしさと魅力に、はまってしまうかもしれません。

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「極端気象シリーズ」おすすめ3選

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『極端気象シリーズ』第4弾。雷発生のメカニズムと特徴、被害事例と身の守り方、雷観測技術等、人々を恐れさせ、魅了してきた気象現象について解説します。日本の雷は世界でも珍しい特徴があるって知ってましたか?

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