コラム

2021年12月17日  

極端気象の大元を解剖!:『積乱雲』

極端気象の大元を解剖!:『積乱雲』
夏空に映える巨大な積乱雲。積乱雲は、激しい雷雨や雹を降らせる、特殊な雲です。積乱雲が引き起こす夏の風物詩「夕立」は、現在の都市部では「ゲリラ豪雨」と、呼び名も勢いも強烈なものになりました、実は、山沿いの空と都市部の空とでは、積乱雲の振る舞いは異なるのです。都市にゲリラ豪雨をもたらす積乱雲は、どうして「狂暴化」してしまうのでしょう?
積乱雲はゲリラ豪雨だけではなく、先日アメリカを襲った巨大な竜巻や、強烈な下降気流「ダウンバースト」、一か所に激しい雨を長時間降らせる線状降水帯の原因でもあります。こうした激しい気象に関する解説書を、当社では小林文明先生による『極端気象シリーズ』として発行してきました。今回はこれらの極端気象の原因、積乱雲についての書籍、『積乱雲』を解説します。

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スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『積乱雲』はこんな方におすすめ!

  • 積乱雲が引き起こす気象現象に興味のある方
  • 気象ファン、雲観察・天候観察が好きな方
  • 最近の気象が激しくなっているのでは?と気になっている方
  • 『新訂 竜巻』『雷』『ダウンバースト』等、『極端気象シリーズ』を読んだ方

『積乱雲』から抜粋して7つご紹介

『積乱雲』の中から、内容を何ヶ所か抜粋してご紹介したいと思います。『極端気象シリーズ』を読まれた方が本書をお読みになった場合、一部既にご存じのことが書かれているかもしれません。今回のコラムでは、極端気象の大元積乱雲本体と、都市部の豪雨についての解説を中心にご紹介します。

積乱雲とは

夏空で目立つ積乱雲。積乱雲は、夏の晴れた日に見られる綿菓子のような雲「積雲」が発達したものです。積雲は高度500~2000m付近で発達しますが、大気が不安定になると鉛直方向に発達して積乱雲になります。

積乱雲は、地上付近から上空の圏界面まで鉛直方向に発達する対流雲です。対流雲というのは、対流によって発生し、鉛直方向に発達する雲のことです。一般に雲は、種類によって発生高度が決まっていますが、積乱雲だけはすべての層を突き破って圏界面に達します、積乱雲は特別な雲なのです。

積乱雲は発生する季節や、マルチセル、スーパーセル、クラウドクラスターなどの構造によってかなり形状が異なります。また、時間経過で著しく変化するのも特徴です。積雲の塊が縦に成長し始め(発生期)、強い上昇気流によって発達し(発達期)、雲内に十分な硬水粒子を蓄える(最盛期)といった段階を経て成長します。最盛期には強い降雨とともに下降流が生じるため、豪雨や降雹、ダウンバーストは最盛期の現象ともいえます。対流が弱まると、雲は衰弱期を迎えて消えていきます。

積乱雲には、部分や周辺に特徴的な雲が付随することがあります。積乱雲の雲長部が平らに広がった「かなとこ雲」、雲底下にできる袋のように丸くなめらかな「乳房雲」、ガストフロント(積乱雲からの下降流が地表に沿って水平に吹き出し、地表の温かい空気とぶつかった境目にできる小さな前線)に沿って形成される低く水平な雲「アーク」などです。

本文中には積乱雲と他の雲を並べて描いたイラストがありますが、積乱雲の「縦長さ」に驚きます。また、積乱雲の全体像もイラストで見ることができますが、高く伸び上がるモクモクの雲というイメージで捉えていた積乱雲が、思ったよりはるかに複雑な形をしていることに驚きました。

造積乱雲の発生条件

積乱雲の始まりは積雲です。積雲が湧いたり消えたりを繰り返す中で、ひとつあるいは複数のタレット(水平スケールで1km程度の雲の塊)が成長を始めます。成長したどの段階で積乱雲と呼べるようになるかというと、だいたい雲頂高度が3kmを超えたあたりです。これは、積乱雲の中に降水粒子ができて気象レーダーで捉えることができるくらいの大きさです。

積乱雲に必要な上昇流は、以下の2つに大別できます。

1.外部の強制力で生じるもの:台風や温帯低気圧等の大規模気象現象により、強制的に気塊(空気の塊)が上昇する。日射が関わらないので、発生時刻は問わない
2.熱的な不安定によって生じるもの:強い日射で地表面が加熱されることにより、浮力を得た気塊が上昇して雲になる。上空に寒気が入っても熱的な不安定は起こる。2つの条件が重なれば大気は熱的に非常に不安定になり、場所を問わず積乱雲が発生する。

大気が安定しているとか不安定であるとかは、ある空気の塊と周囲の空気の温度差で決まるそうです。その気塊の温度が周囲より高ければ上昇していき、低ければ下降します。上がっていく状態を不安定、下がっていくのを安定といいます。

積乱雲の組織化

積乱雲は発達すると水平スケールで数10kmにも広がりますが、さらに積乱雲は複数で群れを成したり、あるいは1個の巨大な積乱雲に成長したりします。このような現象を、積乱雲の組織化といいます。通常の積乱雲が1個なのに対して、組織化された積乱雲群はマルチセルと呼ばれます。また、単一巨大積乱雲はスーパーセルと呼ばれ、特別な構造をもっています。

マルチセル:いくつかの積乱雲が集まったもの。規則性の少ないランダムなものと、規則的に組織化されたものに大別される。自分で新しい積乱雲を作り続ける(自己増殖型)。既存のセルのガストフロント沿いに新しい上昇気流ができ、そこに新しいセルが発生し成長する。熱と水蒸気の供給が続けば、自己増殖も続く。これが1地点で風下に移動しながら列をなしたものが線状降水帯。

スーパーセル:積乱雲が急速に発達して巨大になったもの。竜巻や雹をもたらす。1個のセルが巨大化して長時間持続する。マルチセルとの違いは、上昇流と下降流がひとつの雲の中で共存すること。雲の中では上昇流と下降流が三次元的にねじれて1つの循環系が形成されている。上昇流の最も強い場所では降水粒子が吹き飛ばされて存在しなくなっている。この上昇流の中心近くで竜巻が発生する。スーパーセルになる条件は、大気の不安定な状態に加えて風の垂直方向の変化が起こり、上昇流と下降流が打ち消し合わず、うまく分離されること。

自分の群れの前にできたガストフロントで空気を押し上げ、次々と複製を生んでいくマルチセルと、ひとつの雲の中で大きく複雑なジェットコースターのように上昇流と下降流が絡み合って循環を続けるスーパーセル。積乱雲が群れであるか1つであるかは、対流の形と数に関係しているようです。

集中豪雨の原因

梅雨前線や台風など様々な大気現象に伴って発生した集中豪雨は、各地に様々な被害を及ぼします。集中豪雨の要因は、次の2つに大別できます。

1.低気圧、前線、台風等の大規模な大気現象によるもの:大気現象自体の持つ強い上昇気流により、特定の場所で特徴的な積乱雲が形成され、豪雨が発生。
2.大規模な大気現象に伴わないもの(気団内の現象):大気が不安定になることにより、自由対流(熱対流)のような上昇流が形成される。モンスーン(季節風)の卓越時に起こる。夏は暖かく湿った空気塊が南の海洋上から日本列島に流れ込み、地表面は日射で熱せられ不安定になる。冬は対馬暖流の流れる日本海上に寒気が流れ込み、上空の寒気が暖流上で加熱され、海からの水蒸気が雲のもととなる。いずれも積乱雲の「餌」となる熱と水蒸気が豊富なため、積乱雲が発達し豪雨が発生する。

空気の流れを理解することが積乱雲とそれがもたらす気象現象を理解する上で絶対必要ということがわかります。頭の中だけで三次元的な空気の流れの矢印を描くことは難しいですが、本書は可愛らしくわかりやすいイラストが満載で、理解を助けてくれます。

都市型豪雨の謎

地表がコンクリートやアスファルトで覆われている都市部に特徴的な水害を、都市型洪水といいます。その原因となる降雨が都市型豪雨です。狭義では、ヒートアイランドなどを要因として都市上空で発生する都市固有の局地性豪雨を指します。この雨をもたらす積乱雲を、「都市型積乱雲」と呼ぶことにします。

ヒートアイランドによる都市の環境変化は、都市気候と呼ばれます。都市気候は極めて局所的ですが影響は直接的で大きなものです。都市の上空は、ドームのように、周囲と異なる空気塊に覆われているのです。

日射により地上付近の空気が暖められて上昇すると、そこは局地的な低気圧になります。これをヒートロウと呼びます。ヒートアイランドによって形成されたヒートロウに向かって周囲の空気が流れ込み、ヒートロウの中心には膨大な熱が供給され、水蒸気が輸送されます。それが積乱雲の大きく発達させます。

ここに海からの風が弱いために低圧部に風の収束が起こること、停滞した海風前線上で積乱雲が継続的に発達して停滞したこと等の条件が重なって、都市型積乱雲による局地的豪雨がもたらされるのです。

ヒートアイランド現象の原因は、コンクリートやアスファルトの熱吸収率の高さと人間の活動による排熱量の多さだといわれています。ゲリラ豪雨に襲われている場所の境目が見てわかることがありますが、ゲリラ豪雨がまさに「局地的」な現象であるとはっきりわかりますね。

都市型洪水から身を守る

局地的な集中豪雨などの極端気象に対して、私たちはどのように対応すればよいのでしょうか。

1.お天気アブリなどの、より制度の高いリアルタイム情報の活用:局地的な気象の変化に対応するには、ナウキャスト(10分単位の未来予測)が必要。より高精度なレーダー観測をスマホなどで確認しながら、個人が行動を判断できるような技術環境が整いつつある
2.リアルタイム降雨情報に基づいた行動の訓練:土石流の危険のある傾斜地や、水の流れ込む危険のある低地や地下施設から、どのくらいあれば安全な場所に避難できるのかを確認しておく。ハザードマップ等を用いた危険度の把握、複合災害を想定した訓練も有効

また、都市型豪雨はこれまでの豪雨災害とは勢いも被害の形も違います。災害慣れしていたお年寄りの多い地域でも、従来型の災害対策では対応しきれない被害が多く出ました。近々の都市型災害の事例を検証し、新たな対策を練ることが必要です。

最近の豪雨災害事例を見ていると、これまでの常識が完全に通用しなくなっているという印象を持ちます。都市に暮らす私たちは、新しく心強い予測技術を頼りに、変わりつつある環境に合わせた災害対策を構築していかなければなりません。

積乱雲の卵を探す

積乱雲の発生を正確に予測することは、現代科学をもってしても難しい問題ですが、積乱雲の発生をいち早く察知して豪雨や突風のナウキャストを行うためには、積乱雲の卵を様々な「眼」で見つけ出す必要があります。

肉眼で見ることができるのは積乱雲の外観であり、激しい対流が生じて様々な降水粒子が生成される内部に入って見るのは困難です。そのため、電磁波を用いて内部を観測します。ある程度発達した積乱雲なら通常のレーダーで捉えることが可能ですが、ここでは積乱雲の卵である「ファーストエコー」を捉えることが目的です。

ファーストエコーとは、対流雲(積乱雲)が発生してから気象レーダー(マイクロ波)で最初に捉えられたエコーのことです。
日本では練馬豪雨をきっかけに、Xバンドレーダーを用いた南関東におけるファーストエコーの発生特性が調査されました。夏季静穏時に南関東で発生した積乱雲を10年間調べた結果、山沿いの他に都心でも積乱雲が発生していることがわかりました。さらに都心部の積乱雲のファーストエコーは地上高3km程度、平均到達高度は7kmと山沿いよりも大きくなることがわかりました。これによって、都心生まれの積乱雲は、「凶暴化」することが明らかになったのです。

私たちが働いているビルの合間に低気圧が生まれて風が吹き込み、上昇気流によって積乱雲が発達し、豪雨になる。天気というものはもっとダイナミックな規模のものだと思っていました。地球全体から見たらほんの小さなエリアでの空気の流れがあんなに激しい雨をもたらすとは、なんだか不思議な気分になります。

『積乱雲』内容紹介まとめ

ゲリラ豪雨をはじめ、雷雨、竜巻、ダウンバースト等、激しい気象現象の大元となる積乱雲。積雲が上昇気流によって高く発達し、圏界面まで到達するこの特殊な雲は、時間経過で大きく変化し、季節の違いや発生場所によっても様相を変えます。形状や構造も、単一のもの、いくつかの積乱雲が集まったものと様々です。

積乱雲内部では空気の対流が起こっていて、その様子によって伴う気象現象も異なります。また、積乱雲の一部や周辺には特徴的な雲が付随することがあります。
都市型豪雨(ゲリラ豪雨)の原因である積乱雲は、短時間で突然発生します。東京都心における発生には、ヒートアイランドによって東京北部で熱的な低圧部が発生すること、海風から水蒸気が提供されること等が関わっています。ヒートアイランド現象はスケールが小さく、観測が難しくなっています。

ゲリラ豪雨の他にも、積乱雲が原因となっている気象現象は色々あります。代表的な現象については『極端気象シリーズ』既刊をぜひご覧ください。

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「極端気象シリーズ」おすすめ3選

『新訂 竜巻』
『極端気象シリーズ』最新刊。旧版に最新データを加えて再構成し、新章も加えて大幅ページ増!アメリカ中西部で猛威を振るうような巨大竜巻を生む特別な積乱雲「スーパーセル」の解説や、竜巻に付随する気象現象、身の守り方まで解説します。

『雷』
『極端気象シリーズ』第4弾。雷発生のメカニズムと特徴、被害事例と身の守り方、雷観測技術等、人々を恐れさせ、魅了してきた気象現象について解説します。日本の雷は世界でも珍しい特徴があるって知ってましたか?

『ダウンバースト』
『極端気象シリーズ』第2弾。目には見えないけれど、構造物を破壊したり飛行機を墜落させたりするほど激しい気象現象「ダウンバースト」。竜巻や雷と同じく、積乱雲から発生するものです。1975年に発見された「新しい」気象現象を、最新技術で解明します。
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