『海洋白書2021』

前回は、コロナ禍からの立ち直りをきっかけに持続可能な地球環境・社会を目指す試みについて触れてきました。海洋分野では、海洋・沿岸域において脱炭素や気候変動などを考慮したインフラ整備を行ったり、関連産業の立て直しにおいて、持続可能性を重視した事業転換を行ったりしていく「ブルー・リカバリー」の考え方が提唱されています。

今回ご紹介する第4章では、その実例を中心として、産業別に現状と将来の見通しをご紹介していきます。また最終節では、都市単位で海洋分野における脱炭素化や温暖化対策を行っている横浜市の事例を取り上げます。

【第1節:「洋上風力産業ビジョン」2040年の導入目標】

1:世界の洋上風力発電

地球温暖化防止の要請から、世界訂に再生可能エネルギーの導入が拡大しています。中でも大規模化が容易で経済的な風力発電は、2020年末時点で世界の年間電力需要の8%を供給するまでに普及が進んでいます。現在は欧州が先行していますが、今後はアジアの洋上風力発電が急成長して、2030年には世界シェアの41%がアジアになると予測されています。

洋上風力発電では、風車を大型化して台数を減らすとコストダウンができるため、風車の大型化が進んでおり、発電所の規模もどんどん大型化しています。既に複数の1GWを超える洋上風力発電所の建設が進んでおり、欧州では洋上風力発電のコストが大幅に低下しています。

2:日本の洋上風力発電

日本政府は、2020年に洋上風力発電の育成に向けて大きく舵を切りました。経済産業省が作成した「グリーン成長戦略」の中で、洋上風力発電は重要分野と位置付けられています。国土交通省・経済産業省と国内関連企業が出席する「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」では、『洋上風力産業ビジョン』が発表され、2030年までに累計で10GW、2040男までに累計で30~45GWという導入目標が示されました。

国内の洋上海上開発では、2020年3月から秋田港・能代港で建設工事が始まっています。国内で環境アセスメント手続き中の洋上風力開発案件の合計は2021年1月時点で14GW以上あり、2030年の導入目標を上回っています。

【第2節:改正漁業法の施行と今後の見通し】

コロナ禍により食糧安全保障の重要性が再認識され、水産サプライチェーンの強靭化や国内水産生産基盤の早急な強化が求められています。しかし2020年も日本周辺海域における他国船籍による違法漁業と、サンマ、イカ、サケなどの国内で多く消費される魚種の歴史的な不漁などが話題となりました。

日本の水産業は、漁獲量の大幅低下、漁業従事者の減少等によって、多額の補助金なしには産業が成り立たない衰退産業となっています。「グリーン・リカバリー」政策が各国で進む中、日本漁業の復活を図る上でも、気候変動などの環境要因に対応し、水産資源を含む生態系を回復させ、水産資源を計画的・戦略的に活用する仕組みづくりが急がれます。

1:改正漁業法の目的とロードマップ

新たな資源管理の推進に向けたロードマップ

新たな水産資源管理の鍵を握るのが改正漁業法です。2020年12月に施行された改正漁業法は、水産資源の持続的な利用の確保を目的としています。

主な内容は、①資源調査や評価の充実および制度工場、②資源管理目標の国際標準であるMSY(最大持続生産量)をベースとする資源評価に基づくTAC(漁獲可能量)管理の推進、③許可漁業へのIQ(個別割当)管理の導入、④非TAC対象種の資源管理協定への移行などです。

これらの施行にあたり、水産省は『新たな資源管理の推進に向けたロードマップ』で、この10年間にわが国の漁獲量を10年前と同程度にまで回復させることを中間目標として示しました。

2:欧州の環境配慮型食料戦略:Farm to Fork Strategy

1.フードシステムの持続可能性を追求するビジョンと枠組み

グリーン・リカバリーに基づく政策を進める欧州委員会は2020年5月20日、持続可能性の追求を軸とするEUの今後の食品行政の方向性を示す「Farm to Fork Strategy(以下F2F)」を発表しました。生産者・企業・消費者が協働し、より公平・健康・持続的なフードシステムを構築するビジョンを描き、枠組みを定めています。

2.水産分野から見るFarm to Fork Strategy

F2Fは水産分野にも適用されます。持続可能な漁業や養殖業から得られる食料は、肉や乳製品と比べて環境への負荷が少ないのです。特に養殖業は適切な配慮をすることにより、多くの生物の生息環境や生態系の保護に貢献できます。以下でF2Fの主なポイントを紹介します。

  • 漁業

引き続き既存のEU共通漁業政策が基軸となり、取り組みの遅れてきたエリアへの対応・支援や、違法漁業の撲滅に向けた規制等が行われる

  • 養殖業

養殖業の持続可能性と競争力を向上させる戦略的指針の策定と大規模投資支援がF2Fの基で計画されている。特に海藻類の養殖に注目が集まっている

  • 消費者への情報アクセスの強化

F2Fの対象は加工流通業者や消費者にも及ぶ。消費者が健康的で持続的な食品を選べるよう、食品表示の統一・改善を計画中

  • 国際協力

EUは食用水産物の3分の2を輸入に頼っている。貿易や国際協力を通じた国際連携を強化し、持続可能なフードシステムへの移行をグローバルな動きとして促進させる

3:地球規模で見る水産業のポテンシャル

海洋からの食料の未来

世界人口は、FAOによると2050年までに約100億人に達する見込みです。その人口を維持するには、約5億トンの動物性タンパク質が必要になります。将来の食料安全保障や飢餓などの問題の解決案として、現在は人類の必要動物性タンパク質の約20%しか供給していない食用海産物の生産増加の可能性に大きな関心が寄せられています。

2020年8月に科学雑誌『ネイチャー』で発表された論文「The Future of Foods From the Sea」では、今の世界の海産物生産量の増加を一手に担う養殖だけでなく、生産量が約30年もの間同水準で停滞している海面漁業においても、持続可能性の追求によって増産が可能であると述べられています。増産を可能とするために必要な行動として、以下の2つが挙げられています。

  • 海面漁業

漁業対象資源をMSYレベルに保つことで増産が可能。そのためには、資源管理の実施・導入・先進技術の活用等が必要

  • 養殖

持続性を担保する養殖体制を整えることで、30年後に現在の2倍水準の増産が可能。その体制を整えるには、政策・先進技術の活用、イノベーションの促進、代替飼料の開発等が必要

 

4:わが国における水産改革、今後の課題と展望

1.持続可能な海洋経済のための変革:保護・生産・繁栄に関するビジョン

コロナ禍において、世界の消費スタイルは大きく変化しました。先進国の水産業界は外国人季節労働者が大きく不足し、国際的なサプライチェーンが途絶えるなど、大きな被害を受けました。この先、既存のシステム下で生じた歪みを解消し、持続可能性を重視した経済・社会システムへ移行することが、先進社会における新たな基準となるでしょう。多くの課題を抱える日本の水産業においても、改正漁業法を軸として骨太な戦略がとられ始めています。

 

2.改正漁業法を軸にグリーン・リカバリーを達成するために

豊かな生態系を育む海を自国の排他的経済水域内に持つ日本の水産業界は、改正漁業法を軸にしたグリーン・リカバリーにより、ひときわ大きな恩恵を受けることができます。改正漁業法を形骸化させず確実に実施する上で、鍵となるのは以下のような点です。

  • プロセスの透明性の追求と幅広いステークホルダーの参画
  • システムのデジタル化
  • 漁業従事者と科学者との信頼構築
  • 持続可能な養殖産業の発展
  • 国際連携

5:複雑化するIUU漁業問題

1.公海を舞台に暗躍するダークフリート

水産研究・教育機構は、北海道東方の北西太平洋公海に数百席の外国漁船が集結し、資源を乱獲している実態を明らかにしました。これら外国漁船は、旗国の操業許可を持つ正規漁船の他、操業許可も登録もない船籍不明の「三無船」を多数含んでいます。違法行為に加えて国際的資源管理の枠外で操業を行う、いわゆる「ダークフリート」です。日本近海では、正確な漁業報告も期待できず、正規漁船、三無船が入り乱れたIUU漁業の実態があると思われます。

2.日本海で展開された大規模なIUU漁業

近年、IUU漁船は北朝鮮水域から日本海の大和堆周辺にも姿を見せています。日本海には、自由に操業できる公海は原則存在しません。各国が主張するEEZも重複する水域があるため、境界が確定せず漁業管理が徹底できないのです。さらに、北朝鮮の問題があります。北朝鮮は国連の制裁決議に違反し、外国漁船が北朝鮮EEZにおいて操業許可を購入し操業している実態が明らかになっています。

大和堆は日本のEEZに位置するスルメイカの好漁場ですが、水産省はこの水域での中国漁船によるスルメイカ漁獲量を15万トンと推定しました。一方、日本の漁獲量はその10分の1程度の1.5万トンです。多くの漁業関係者が、この水域での外国漁船のトラブルと、資源管理に強い不安を覚えています。

本来は関係国によって組織されたRFMOがリーダーシップをとって資源管理を行う必要がありますが、政治的に複雑な事情を抱えることから、この地域ではRFMOを設立することが困難なのです。このような地政学的状況が、日本海における漁業資源管理を困難にしています。

 

3.地球規模によるIUU漁業の連鎖

IUU漁船は、冷凍運搬船と協働し、漁業を効率的かつ組織的に行います。現在、これらの漁船の多くが北太平洋に移動しアカイカを対象とする操業を増大させているとみられています。アカイカの漁獲量は大きく減少していますが、同水域では外国漁船の一層活発な操業が確認され、低迷する資源への深刻なダメージが懸念されています。

この海域は北太平洋漁業委員会(NPFC)の条約水域に含まれますが、2020年現在、アカイカ資源の管理措置は何ら合意されていません。今後議論が行われたとしても、措置が行われるまでのタイムラグをダークフリートは狙っています。

ダークフリートの活動区域は、日本周辺に限らず、インド洋や南半球にまで及んでいます。これらの漁場の多くが紛争を抱えるなど難しい問題を抱えており、有効な資源管理の実施に至っていない海域にあります。WWFは2020年、近年アラビア半島沖合での操業が活発化している実態を明らかにしました。このように、IUU漁業の操業連鎖が、海域やRFMOの管轄水域を越えて広がっていっていることを前提に対策を講じる必要があります。

4.新型コロナの渦中におけるIUUとの戦い方

新型コロナウイルス感染症は、IUU対策にも深刻な影響を与えました。対面による会議が行えなくなり、監視・取締活動においてもオブザーバー乗船などの活動が不可能になりました。こうした混乱は、世界中のIUU漁船の暗躍を野放しにしかねず、世界の漁業資源への大きなダメージが危惧されます。

一方、人工衛星からの画像やレーダー、AIS等、最新の科学技術を利用した情報収集の分野では大きな進展がありました。特に、リアルタイムでの人工衛星情報等を活用したGFWとFRAによる漁船の操業状況解析は、日本海から始まりグローバルな状況把握に広がりを見せています。リアルタイムの情報が共有されれば、IUU漁獲物を加工原料から排除する取り組みも実現できる可能性があります。

こうした取り組みを水産業界全体に広げていけば、コロナ後の規制導入も円滑になることが期待できます。IUU撲滅に向け、各国政府と水産業界による問題意識の共有と具体的行動が問われています。

【第3節:造船業界の次世代に向けた取組み】

造船業界では、国際競争が激化する中で省コスト、高付加価値のサービスが一層求められるようになっています。自動化、デジタル化による安全性と生産性の向上、エコシップによる環境対応が特に重要な役割を果たしています。

1:世界および日本での造船業の現状と取り組み

2019年の新造船建造量のシェアは中国、韓国、日本の順になっています。リーマンショックを境に世界全体の建造需要は激減し、2011年をピークに大きく落ち込んでいます。その後は供給能力が過剰な状態が続いており、特に2020年は新型コロナウイルス感染症による移動制限等により、新造船の発注が見込めない状況となっています。

供給能力過剰な状態にもかかわらず、中韓では公的支援により経営難に陥った企業が救済されているため、市場の整理が停滞しています。日本は措置の是正を求めていますが、事態の改善には至っていません。日本の造船業はこの中韓の公的支援による市場圧迫と不況により、日本国内の海運会社からの受注割合が減っています。

造船不況と激化する競争への対策として、造船業界全体で再編の流れがあります。2019年には韓国と中国で大規模な買収と統合合意が行われました。日本でも2018年に三井E&S造船と常石造船が業務提携し、2020年に今治造船とジャパン マリンユナイテッドが資本業務提携、合弁会社の設立の契約に至っています。

他に、他国の船に対して機能面での差別化を図るアプローチもあります。たとえば、デジタルトランスフォーメーション(DX)によりIoTなどで収集し実現象の情報をバーチャル空間で再現するデジタルツイン技術を活用した船の状況監視や将来予測などの高機能化が考えられています。自動運航船の実現による労働力不足の解決や、ヒューマンエラーの減少も期待されています。

2:自動運航船への取り組み

技術革新を背景に、船舶の自動運航技術の実用化への期待が高まっています。現状のシステムでは高度なスキルが必要なため、増加する海上輸送量に対して人員の不足が問題となっています。また海難事故の8割がヒューマンエラーにより発生しており、こうした海上安全の一層の向上、労働環境改善、産業競争力と生産性の向上の観点からも、自動運航技術への注目が集まっています。

自動運航船は、現在では調査目的の小型船舶や軍用の船舶については実用化されています。自動運航船は段階的に発展しており、初期には船員等の判断支援機能が取り込まれ、機械による自律的判断の領域はその後次第に増えていくものと予想されます。

船は複数の人間が作業を分担し、24時間稼働する、小回りが効かない、移動制約が少ない、長時間海上で孤立する等の特徴があります。自動運航船の開発があまり進んでいなかったのは、これらの特徴による船陸間の通信環境の問題、障害物を瞬時に避けるのが難しいといった技術的な問題と、資金面の問題によるものです。

日本では、2018年6月に交通政策審議会海事分科会海事イノベーション部会において、自動運航船の開発・実用化に向けたロードマップが策定され、提言が行われました。国土交通省海事局では、自動運航船の実現に必要となる安全要件の策定などの環境整備を進めるため、実証事業を本格的に開始しています。

3:エコシップの動向

現在掲げられているCO2排出量削減目標は、技術開発なくしては達成できない野心的なものとなっています。環境にやさしい船を実現するためには、省エネ性能、運航効率の向上に加え、水素、アンモニア、カーボンリサイクルメタンなどの次世代燃料への転換が必要です。

日本の輸送量のほとんどは海上輸送であり、エコシップが環境に与える影響は非常に大きいものです。日本は船舶の新たなCO2削減策として、船舶の燃費性能を事前に検査・認証するEEXI規制と1年間の燃費実績を事後的にチェックする燃費実績の格付けを共同提案しており、最短で2023年に発効の見込みです。

国土交通省は、GHG削減目標を達成するための燃料転換シナリオとして、LNG→カーボンリサイクルメタン以降シナリオと、水素・アンモニア拡大シナリオを策定しています。また、「国際海運GHGゼロエミッションプロジェクト」では、2050年目標を達成するためのロードマップを策定しています。ここでは、トンマイルあたりの排出量が80%以上改善された船を2030年までに投入している必要があるため、2028年までに第一世代のゼロエミッション船を投入していなければなりません。そのため、現存船に一定の燃料性能を達成することを義務づけ、新造船への切り替えインセンティブを確保する国際制度を2023年までに構築することとなっています。

いずれのシナリオにおいても、初期:LNGへの燃料転換による削減→水素などを活用したゼロエミッション船の導入が考えられています。また、アンモニアを燃料とする船の開発や、カーボンリサイクルの検討も行われています。

新たな機器の導入や燃料の交換をせずとも、ソフトウェアを用いた技術で燃料消費を減らすこともできます。センサーから得たデータを機械学習により利用し、最適な航路や速度を提案することや、船体の汚れや損傷を監視することで燃料消費を抑えるのです。

4:コロナ禍におけるデジタル化の拡大

新型コロナの流行に伴い、海洋においても経済への打撃や人びとの行動ヘの制限といった影響が出ています。特に船内は密閉空間であるため、感染症に対して脆弱です。また、海上の監視が弱まったことで違法漁船の増加も問題となっています。しかし一方で、それを契機にデジタル化の重要性が強く認識され、海洋におけるDXの流れが広がっています。

新型コロナの拡大を受け、遠隔検船の利用が進んでいます。調査員が船に立ち会う必要がなく、乗組員やドローンによって提供されるドキュメント。画像、映像をもとに検査を提供するのです。

船員に対する遠隔医療の提供も進んでいます。モバイルデバイスを通して、乗客や乗組員に非接触で検診を行うことができ、船内での検診では不足な場合は陸上の専門家に直接相談することができます。

これらのリモートサービスの実施に必要不可欠な海上通信の速度も大幅に向上しており、従来の通信システムを置き換える高速通信の投入が行われています。

造船不況と激化する国際競争の中、造船業界全体で再編の流れが進んでいます。わが国ではDXや環境対策技術など起点として自動運航船やエコシップへの積極的な取り組みも展開されています。他国に先んじて核となる技術開発を実現し、特許やライセンスの獲得を進めることは、造船業を労働集約型から知的集約型産業へと転換する契機となります。こうした取り組みが次世代の造船業界の発展に繋がることが期待されます。

【第4節:横浜市が目指すブルーリソース】

1:横浜市の温暖化対策

横浜市は、2018年に「横浜市地球温暖化対策実行計画」を改訂し、2050年までの脱炭素化「Zero Carbon Yokohama」を、地球温暖化対策のゴールとしています。 2011年12月には「環境未来都市」として選定され、環境問題や超高齢化といった人類共通の課題に対応する先導的プロジェクトに取り組んできました。そのひとつとして、海洋資源を活用した温暖化対策である「横浜ブルーカーボン事業」を検討・試行しています。

2:横浜ブルーカーボンの成り立ちと取組み

ブルーカーボンとは、2009年に発表された国連環境計画(UNEP)の報告書「Blue Carbon」において命名された、海洋で生息・生育する生物によって吸収・固定される炭素のことです。

約140kmの海岸線を持つ横浜は、開港以来港を中心として発展してきました。海とのつながりを生かしたまちの発展・活性化に向け、「海岸都市横浜」の実現を目指しています。

2011年より、八景島シーパラダイスのセントラルベイ(現うみファーム)での、海草・海藻の温室効果ガス吸収・固定化と海域環境への影響に関する実証実験が実施されました。この結果を受け、2014年から「横浜ブルーカーボン・オフセット制度」という独自のカーボン・オフセット制度を運営しています。カーボン・オフセットとは、CO2の排出量削減や吸収・固定の効果をクレジット認証して、社会全体のCO2削減を推進する仕組みです。CO2を排出する企業や団体はクレジットを購入して排出量を相殺(オフセット)し、クレジットを創出した団体は売却で得た資金で自らのCO2削減の取組みを活性化できます。

「横浜ブルーカーボン」ではブルーリソース(海洋および臨海部におけるエネルギー・資源の有効活用)による温室効果ガスの削減にも着目しています。アマモ場やワカメ、コンブなどブルーカーボンを使ったクレジットに加え、LNG燃料タグボートやハイブリッドタグボートの導入等によるCO2削減効果等のブルーリソースを使ったクレジットを創出しています。カーボン・オフセットの代金は、横浜市による海の温暖化対策や環境活動の推進に活用されます。

3:横浜市が目指すブルーリソース

横浜市では現在、以下4種類のブルーリソースによるクレジットを印象しています。

①わかめの地産地消によるCO2削減事業、②海水ヒートポンプによるCO2削減事業、③LNGタグボートへの更新によるCO2削減事業、④ハイブリッドタグボートへの更新によるCO2削減事業

横浜ブルーカーボン・オフセット制度では、これらの認証によりクレジット創出に参加する企業・団体が増え、クレジット取引量を拡大させることができました。今後もクレジット認証が拡大され、臨海部における環境活動が活性化されることが期待されます。

4:横浜ブルーカーボンの実績と今後

横浜ブルーカーボン・オフセット制度は2014年度から運用が開始され、2019年度では14者が120.3t-CO2を活用しました。クレジットは主にイベントの開催と企業活動に伴って排出されるCO2のオフセットに活用されました。

横浜ブルーカーボン事業の知名度はまだ低く、横浜市は継続的に普及啓発にも力を入れ、参加する市民や事業者を増やしていく考えです。また、新規プロジェクトによるブルーカーボン、ブルーリソースのクレジット創出も検討していくとしています。

国土交通省では、「地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会」が開催されています。横浜ブルーカーボン事業では、国の動向も踏まえつつ先導的に取り組みを開始した自治体として、他の自治体への展開や連携も視野に入れて取り組みを進めていく予定です。

今回は、海洋関連産業の現状と見通しについて、産業別に参照してきました。コロナ禍の打撃からの回復をきっかけに、より持続可能な方向への転換を試みようとする海洋関連産業は、未来の海をどのような姿に変えていくのでしょうか。都市単位で海からの地球温暖化防止に取り組む横浜市の事例は、海に面した都市の多い日本の、海と共生するまちの先進的な姿を示す好例といえるでしょう。

次回となる第5章では、海の安全保障を取り上げます。複雑化する国際関係は、海上での各国の姿勢にどのような影響を与えているのでしょうか。米中対立による東アジア周辺海域への影響、モーリシャス沿岸における油濁事故、今も残る東日本大震災の影響など、海上安全の今について解説します。