コラム

2022年2月16日  

この成分がアレルギーの原因だった?『魚貝類とアレルギー』

この成分がアレルギーの原因だった?『魚貝類とアレルギー』
そろそろ花粉症の季節がやってきますね。日本人の3人に1人が何らかのアレルギーを持つといわれています。花粉症の他によくみられるものにはハウスダスト、犬や猫等の動物の毛などがあります。食物では、卵や牛乳、大豆、ソバ、小麦粉などが有名です。症状の酷い場合は命に関わることもあり、アレルギーのある人や周りの人は食べ物に注意しなければなりません。
当社の発行物に関わる水産分野にも、アレルギーを起こす食品があります。エビやカニなどの甲殻類が代表的ですが、魚もアレルギーの原因となります。日本は伝統的に魚を多く食べてきましたが、魚貝類によるアレルギーの研究が本格化したのは1990年代に入ってからのことでした。
今回ご紹介する『魚貝類とアレルギー』では、これまでの研究の成果を紹介し、魚貝類によるアレルギー全般を理解できるようやさしく解説します。
サバを食べたらじんましんが出た、というのは、実は厳密にいうとアレルギーではありません(仮性アレルギーと呼ばれています)。魚や貝を食べて「あたる」こととアレルギーとの違いが、本書を読んでいただければメカニズムからご理解いただけると思います。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『魚貝類とアレルギー(改訂版) ベルソーブックス013』はこんな方におすすめ!

  • 食物アレルギーに興味のある方
  • 水産学、食品化学、食品衛生学を研究する学生の方
  • 食品関係の業務についている方

『魚貝類とアレルギー(改訂版) ベルソーブックス013』から抜粋して5つご紹介

『魚貝類とアレルギー』の中から、いくつか抜粋してご紹介します。冒頭部分は食物アレルギーの仕組みからやさしく解説しています。冒頭で基礎知識の確認を行い、中盤から魚、エビ・カニ(甲殻類)、貝・イカ・タコ等(軟体動物)の種類別の解説を行っています。1冊で海産物由来の食物アレルギーについての基礎知識がひと通り身に着くようになっていますので、最初の1冊としておすすめです。

食物アレルギーの起こる仕組み

食物アレルギーと食物の引き起こす他の副作用との最も大きな違いは、「免疫系を介する」ということです。「食物の摂取後、免疫系の異常によって特定の症状が特定の人に現れるもの」が食物アレルギーと理解しておけばよいでしょう。

アレルギーの種類には①即時型(すぐに現れる)、②非即時型(ある程度の時間をおいて現れる)があります。
アレルギーを起こす免疫システムは、外部から侵入してくるもの(抗原)を非自己として識別して排除しています。健康な人では生命維持に必要な食品の成分に対して免疫系はあまり働かないような仕組みが成立していますが、アレルギー体質の人だとその仕組みがうまく働かないために、食品成分を非自己としてやっつけようとしてしまうのです。

免疫系に関わる主な細胞は白血球ですが、その他にマスト細胞や樹状細胞なども関係してきます。このうちアレルギーと密接に関連しているのはマスト細胞です。マスト細胞は皮膚や気道、消化管などの表面に数多く存在しています。じんましん、喘息、下痢といった食物アレルギーの症状は、マスト細胞の分布に対応しているのです。

抗原と結びついて排除の働きをするのは、抗体という物質です。このうちアレルギーに関係するのはIgEというクラスです。抗体はYの字に似た構造をしていますが、Y字先の部分の形が違い、特定の抗原としか結びつきません。

T細胞はアレルゲンの情報を受け取って活性化し、ヘルパーT細胞になりますが、このうちTh2細胞が優勢だとIgE抗体が多く作られ、IgE抗体に対するレセプターを表面に持つマスト細胞と結合します。このIgE抗体と結びついたマスト細胞が体内に多いと、アレルギー発症の準備が整ったことになります。
ここへアレルゲンがもう一度入ってきてマスト細胞の表面の抗体を繋ぐように結合すると、マスト細胞は内部からヒスタミン等の伝達物質を放出します。これが他の細胞に作用し、様々な炎症反応を起こさせるのです。

健康な人だと、IgE抗体が作られるまでに、消化酵素や腸管免疫系、経口免疫寛容といった防波堤があります。アレルギーの発症を防ぐためには、T細胞がIgEの産生を促さないようにする(≒Th2細胞を優勢にしない)、アレルゲンがマスト細胞表面のIgE抗体とくっつくのを防ぐ(≒結合しないような構造にする)ことが考えられます。このような考えに基づいた低アレルギー食品も開発されていますが、すべての患者に対応したものを作ることは困難です。

魚の食物アレルギー

日本ではこれまで魚のアレルギーは少ないと考えられてきたため、あまり注目されてきませんでしたが、北欧などではタラのアレルギーが非常に多く観察されてきました。タラのアレルゲンは「パルブアルブミン」であることが判明しましたが、その後の研究で各種魚類の主要アレルゲンはすべてパルブアルブミンであることがわかりました。

パルブアルブミンは水に溶けるカルシウム結合性の筋形質タンパク質で、筋繊維の弛緩に重要な役割を果たしており、魚類と両生類の筋肉中に比較的多く含まれます。しかし、魚の部位や種類によって含まれる量に違いがあり、一般的には血合筋にはあまり含まれないことがわかっています。将来的に含有量が低くIgE反応値も低い魚種が判明すれば、アレルギー患者にとって朗報となるかもしれません。

一般的に魚類アレルギー患者は、特定の魚種だけではなく多くの魚種に対して反応します。このことは、各種魚類のパルブアルブミンは抗原交差性を示すことを意味しています。抗原Aに対応した抗体に抗原Bも結合できるときに、この抗原AとBは抗原交差性があると表現します。

また、この抗原交差性はカエルのパルブアルブミンとの間でも認められるため、魚やの食物アレルギーがある人がカエルを食べるのは危険であると考えられます。

魚のアレルゲンには、パルブアルブミンの他にコラーゲンなどがあります。著者の実験では、日本の魚類アレルギー患者の3分の1がコラーゲンに反応を示すそうです。コラーゲンは魚だけではなく肉にも含まれますが、魚類と哺乳類のコラーゲンには抗原交差性はみられないので、魚コラーゲンアレルギーだからといって肉のコラーゲンにも反応するわけではないとのことです。

エビ・カニ(甲殻類)アレルギー

エビ・カニ等の甲殻類は成人の食物アレルギーにとって最も重要な原因食品です。甲殻類の主要アレルゲンはトロポミオシンです。トロポミオシンは筋原繊維タンパク質の一種で、塩濃度が高い溶液に溶ける性質があります。トロポミオシンは筋収縮に関与しています。また、加熱に対して非常に安定しており、この性質もアレルゲンになりやすい条件を備えています。

トロポミオシンは甲殻類の主要アレルゲンであるだけでなく、軟体動物の主要アレルゲンでもあります。また、同じ節足動物である昆虫類、ダニ類の主要アレルゲンでもあります。トロポミオシンは無脊椎動物に共通のアレルゲンであり、お互いに抗原交差性を示すこともわかっています。つまり、エビアレルギーの人の多くはカニにも反応するのです。それだけでなく、ハウスダストの中のダニの死骸やゴキブリの糞に反応する人は、エビ・カニアレルギーになる可能性が高いといえます。

甲殻類は、魚肉製品やしらすなどに混じってしまうことがあります。また、海苔の藻に付着している小さな甲殻類が、成形時に巻き込まれてそのまま一緒に海苔になってしまうこともあります。これらを完全に取り除くのは困難なので、食べる際には注意が必要です。食品表示においても、エビ・カニの混入が考えられる場合にはその旨を表記することが望ましいとされています。

貝類・イカ・タコ(軟体動物)の食物アレルギー

甲殻類のアレルギーと比較すると、軟体動物のアレルギーは例が多くはありません。しかし、軟体動物のアレルギーは、甲殻類のアレルギーと密接な関係があり、軽視することはできません。

軟体動物の主要アレルゲンも、トロポミオシンであることが判明しています。貝類と頭足類のトロポミオシンは抗原交差性を示すことがわかっています。さらに、頭足類、巻貝といった分類上同じ仲間の軟体動物が持つトロポミオシンの配列相同性は90%以上と非常に高くなっています。

軟体動物でアレルギーを起こす患者は甲殻類でもアレルギーを起こすことが多く、甲殻類と軟体動物のトロポミオシンの抗原交差性で説明がつきます。しかし、配列相同性は60%程度とそれほど高くないため、甲殻類のトロポミオシンの方が抗体と結びつく力が強いのではないかと推察されています。

海産物で起こるアレルギーは、魚と甲殻類・軟体動物という2つのグループに分けて考えることができそうです。しかし、水産加工食品は多くの場合色々なものが混じっているので、アレルギーのある人にとっては死活問題ですね。製造工程や表示の厳重な管理が求められます。

サバの生き腐れ―アレルギー様食中毒―

「サバにあたる」とよくいわれますが、これはアレルギー様食中毒のことを指しています。アレルギー様食中毒は、アレルギーではありません。サバがアレルギーを起こしやすいとよく言われるのは、アレルギー様食中毒とアレルギーを混同しているためと思われます。

アレルギー様食中毒の原因は、サバやサンマ等の筋肉中に蓄積されたヒスタミンを原因とする食中毒です。この中毒は免疫系を介さないため、仮性アレルギーと呼ばれ、アレルギーとは区別されます。

ヒスタミンは新鮮な赤身魚には含まれず、貯蔵中に細菌の作用を受けて生成されます。高濃度の翡翠を含む食品を摂取すると、30〜60分後くらいに顔の熱感、頭痛、腹痛、じんましん等のアレルギー様症状が現れます。

サバ本体のせいではないアレルギーとしては、サバについていたアニサキスによるものがあります。アニサキスは生きていれば胃や腸に食い込んで悪さをしますが、体に含まれるアレルゲンは18種類もあるということがこれまでに判明しています。魚アレルギーだと思われていた人が実はアニサキスだったと思われるケースもあるそうです。

『魚貝類とアレルギー(改訂版) ベルソーブックス013』内容紹介まとめ

アレルゲンが体内に取り込まれ、免疫システムが反応することによって起こるアレルギー。食品としての経口摂取による食物アレルギーの中で、魚貝類が原因となって起こるものについて、食物アレルギーの起こるメカニズムも含めてやさしく解説しました。
魚類、甲殻類、軟体動物という代表的な分類別の解説に加え、職業性アレルギー等の魚貝類が関わる特殊なアレルギー、食品分野における予防や対策についても項を設けました。

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