コラム

2021年11月24日  

食卓から深海まで!エビ・カニの仲間を知る:『エビ・カニの疑問50』

食卓から深海まで!エビ・カニの仲間を知る:『エビ・カニの疑問50』
冬になると鍋の主役として登場するカニ、エビフライや刺身でおいしいエビ。甲殻類は、私たちの食卓に身近な存在です。実はエビ・カニを含む仲間である甲殻類は、海の生物の約20%を占めていて、海の中でも目立つ生き物たちなんです。
エビやカニについて、「どうしてカニは横に歩くの?」「泡を吹くのはなんのため?」等、不思議に思ったことはないでしょうか?水族館などで「こんな生き物が甲殻類なの?」と驚いたことはありませんか?
『エビ・カニの疑問50』は、甲殻類に関する色々な角度からの50の疑問に、23人の専門家が答えた本です。意外な生態、変わった姿の仲間、おいしい食べ方まで、あなたの興味を引く項目はどれでしょうか?

この記事の著者

高橋:会社員として働きながら「専門書専門ライター」として活動中。商業出版だけではなく同人誌までカバーするなど守備範囲は広い。趣味の写真撮影がこうじて書籍・ムックなどへの寄稿も。

『エビ・カニの疑問50』はこんな方におすすめ!

  • エビ・カニについて広く知りたい方
  • 水生生物に興味のある方
  • 族館や海によく出かける方

『エビ・カニの疑問50』から抜粋して5つご紹介

『エビ・カニの疑問50』の中から、疑問をいくつか抜粋してご紹介したいと思います。生態や料理についての疑問はもちろん、この本を読んで初めて知った「こんな生き方をする仲間がいたなんて!」と驚いたものもご紹介しますね。こういった知識に出会うことが、科学の本の楽しさだと思います。

エビやカニの仲間は昆虫やクモとどう違っているの?

ひと言でいえば、ヒゲ(触角)が2対あり、脚が2叉に分かれることです。
エビ・カニやヤドカリは、分類学上は十脚目というグループです。これらは胸部にある足が5対、つまり10本あります。十脚目はフジツボやミジンコ、ダンゴムシなどとともに甲殻綱というグループに、甲殻綱は昆虫、クモ、ダニ、ムカデ、カブトガニなどとともに、節足動物門という大きなグループにまとめられます。
節足動物は、「どの体節にどんな付属肢があるのか」ということを基本にして分類されます。これに注目すると、以下のように他の仲間と区別ができます。

口の部分に大顎がある→昆虫、ムカデ、甲殻類(クモやダニにはない!)
頭の部分の触角の数→昆虫、ムカデ:1対、甲殻類:2対
付属肢の様子→甲殻類:内肢と外肢の2叉(他の仲間は分かれない!)

脚が分かれているのと触角が甲殻類の特徴だったんですね。また、甲殻類のなかまはミジンコからタカアシガニまで、大きさに非常に幅があるのも面白いところです。主な生息域が水中であることがサイズのバリエーションを生んだのでしょうか。

カニは横にしか歩かないの?

多くのカニは横に歩きます。これは歩行用の脚が側方向に関節しているためです。これらは横方向にしか歩けないというわけではなく、斜め方向に歩くこともできます。一方、エビ類は前後方向に歩きます。
実は前後方向に歩くのを基本としているカニもいます。こうした縦歩きのカニの脚の付き方や甲羅の形状は、横歩きのものと違った特徴があります。甲羅は前後に長く、前方に向かって細くなっています。この甲羅の形状に沿って脚が斜めに並んでついているので、脚が前後移動の邪魔になりません。
また木に登るカニや、泳いで移動するカニもいます。

横歩きだけかと思ったら、前後に移動するカニもいたんですね。縦歩きのカニの仲間を水族館で見かけたら、裏側を覗き込んでみると脚の付き方の特徴がよくわかるのではないでしょうか。また、中華料理でお目にかかるガザミの脚をよく見ると、泳ぐことに適しているのが納得できますよ。泳ぐ方向は横だそうです。

ハチやアリのような社会性のエビ・カニの仲間はいますか?

ハチやアリのような暮らし方をする生物を「真社会性」をもつ生物と呼びます。女王、働きアリ、兵隊アリのように繁殖と労働の役目が分かれているものです。複数個体が共同で子育てをし、不妊の個体が繁殖個体を助け、複数世代が共存するのが特徴です。

実は近年、甲殻類の仲間にも真社会性、あるいはそれに近い生態をもつものが発見されています。ブロメリアガニは子育てをし、しかも最初に生まれた雌の1~2匹は親のもとに留まり、子育てを手伝います。
また、カイメン類の中に住むツノテッポウエビの一種は、卵を産む大きな女王と、その世話をする働きエビからなる群れで暮らしています。働きアリは成熟せず、卵を産むことはできません。

これはこの本で初めて知ったことです。カニやエビは卵をお腹や脚につけて世話をしますが、幼生が孵ったあとも面倒を見る種類がいたんですね。さらに、ハチやアリのような暮らしをするエビがいたなんて本当に驚きました。働きエビはアリのように、カイメンの中に複雑な巣穴を掘るそうです。社会性には、棲家の様子も関係しているのかもしれません。

カニはどうして泡をふくの?

答えは「呼吸のための水分が減ってきたから」です。
カニは鰓で呼吸をしています。呼吸のために必要な水は甲羅の腹側と脚の付け根の間にある隙間から入ってきて、口から外に出ていきます。水中にいるときは、口から水を出してもその分新しい水が入ってきて呼吸ができます。しかし、水中から出てしまうと新しい水の供給が途絶えます。窒息してしまわないために、カニの呼吸には工夫があります。

カニが水中から出たときには、口から出た水の一部は甲羅を伝って脚の付け根の隙間まで移動し、再び鰓に入っていきます。甲羅を伝っているときに大気中の酸素を取り込むわけです。しかし何度も水を循環させていると粘性が高まっていき、泡を形成してしまいます。これがカニの泡吹きです。

見るからに苦しそうなカニの泡吹きですが、やはり必死に呼吸していたんですね。陸上で長い時間を過ごす仲間では、より呼吸水の利用を効率的に行うため、体の構造も変わっています。鰓室が肺のように変化しているのです。

なぜシャコは水中ですごいパンチを繰り出せるの?

寿司でおいしいシャコですが、実は貝殻をも叩き割る凄まじいパンチの使い手です。最もシャコパンチを得意とする仲間は打撃型と呼ばれ、主に東南アジアの海の浅瀬に暮らしています。
シャコは全部で5対ある口脚のうち、2対目がパンチ専用に特化しています。この脚が全体で弓のように働き、力を溜めて一瞬で解放することであのパワーを生み出しているのです。
このすごいパンチを繰り出した本シャコにもダメージはあるようで、数か月に一度の脱皮のときに修復を行っています。また、パンチの速度は神経系によって制御されていることがわかっており、相手によっては力を抜くこともあるのかもしれません。

シャコの生態を紹介するときに絶対外せない「シャコパンチ」。あの威力は、「溜めて放つ」方式で発揮されていたのですね。ハサミの大きなカニのハサミ部分がおいしいように、シャコのパンチ専用腕もおいしいのでしょうか。

『エビ・カニの疑問50』紹介まとめ

他にも「エビ・カニのこんな行動の秘密」「こんな生態の仲間がいた!」「ここで見かけたこれも甲殻類の仲間?」「甲殻類なんでもランキング」等、興味深いトピックがたくさんあります。また最後の50問目は、この本を読んでエビ・カニについてもっと深く知りたくなった人のために、「もっと勉強したい人のためのガイド」になっていますよ!
陸で繁栄した昆虫類に対して、海をはじめとした水中で様々な形態で暮らしている甲殻類たち。食卓で出会うエビ・カニを入り口に、水中の豊かな生態系の一角をなす不思議な生き物の世界に触れてみるのはいかがでしょうか。

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