『雷の疑問56』:【神の怒り?五穀豊穣の印?ダイナミックな自然現象のヒミツ】 【section1:「雷」の正体】

今回から、『みんなが知りたいシリーズ』の最新刊『雷の疑問』の解説を行います。空が突如明るく光り、ゴロゴロという大きな音が聞こえてくる雷。この恐ろしくも美しく不思議な自然現象は、古くから世界中の人々を恐れさせ、魅了してきました。現代でも、電子機器を多く使われている方、高所や広い場所で作業をする方、ペットを飼われている方など、日頃から用心している方も少なくないでしょう。

こうした雷について、皆さんはどれだけ知っていますか?発生の仕組みや雷雲の中身、なぜジグザグになるのか、あるいは絶対に上から下に「落ちる」のか……?

本書『みんなが知りたい雷の疑問56』は、雷の基礎知識、雷の被害とその対策といった科学知識だけではなく、世界各国の文化伝承まで、雷についての様々な疑問をQ&A方式で解説しています。1冊読み通せば、ちょっとした雷博士になれてしまうかも!ちなみに今回の数が「56」なのは、もちろん雷の音にかけています。お気づきいただけるとうれしいです。

さて、『雷の疑問56』解説第1回の今回は、雷の基礎知識編です。雷は電気ですが、それがどこでどんな仕組みで発生し、何を伝って地上に届くのでしょうか?雷には種類があるって本当?そんなベーシックな疑問にお答えしていきます。

【雷って何?空で発生する放電のしくみ】

雷は、雷雲中で発生した電気の放電現象です。まず電気と放電の仕組みを解説します。物質は原子の集まりで、原子は原子核と電子で成り立っています。原子核内部には陽子と中性子が存在します。この陽子と電子には電荷と呼ばれる電気の性質があり、それぞれプラス(正)電荷、マイナス(負)電荷を持っています。プラスとマイナスの電荷はお互いに引き合い、同じもの同士では反発する力(斥力)が働きます。電荷量が大きいほど、引力や斥力は大きくなります。

多くのものはプラスとマイナスの電荷が等量で、電気的には中性です。しかし何かのきっかけでプラスやマイナスの電気を帯びることを、帯電といいます(セーターを下敷きで擦るところを想像してみましょう)。プラスとマイナスに帯電した物質が十分に近づいたときに、空気中を電子がプラスの電荷に飛び移り、プラスとマイナスが結合(中和)してなくなることがあります。このときに火花が飛ぶことを、放電と呼びます。

雷は雷雲内部または雷雲と地面の間で発生する、非常にスケールの大きい放電現象です。雷の放電は数㎞以上にわたりますが、放電路の幅はほんの数㎝です。落雷は雷雲から下向きに進み、地面に達する放電ですが、地上の尖った部分から上向きに進む放電もあります。

雷はどんな雲でも発生するわけではなく、強い上昇気流のある雷雲で、以下のような流れで発生します。

①雷雲内で霰と氷晶がぶつかって電気が発生→②雷雲内に十分に電気がたまると絶縁破壊が起き、空気が電気を通す状態(プラズマ)になる→③上下方向にプラズマが伸びる。このうち地面に向かう方(ステップトリーダ)がジグザグに伸びていく→④地面付近に達すると地面から上向きにプラズマ(お迎えリーダ)が発生し、結合したところに大電流が流れる

【雷を生む雲――雷雲って何?】

雷雲の発生には、上昇気流が不可欠です。雷雲中には強い上昇気流があり、自動車程度の速度を持ちます。上昇気流が弱まると、雷雲は消えてしまいます。発生から消滅までの時間は、30分~1時間程度です。

雷雲は地面付近から上昇気流が発生することによって始まります。上昇気流が上に上がるにつれ、気圧が下がるので気温も下がります。上昇気流内では、水蒸気が凝結した「雲水」が雲を形成します。高度が上がり気温が0℃以下になると、小さな氷(氷晶)ができ始めます。氷晶はほかの氷晶等と衝突して大きくなり、重くなると落ち始めます。このときに周囲の空気も巻き込まれ、下降気流ができます。下降気流と強い上昇気流が混在するような段階で、霰と氷晶が衝突して電気が生まれます。

雷は帯電の放電なので、放電の源となる電荷が雷雲の中に存在します。雷雲の中の氷の粒がプラスとマイナスに帯電することにより、雷雲の内部が帯電しているのです。

どのようにして大量の電荷が積乱雲の中に発生するかということについては、すべてが解明されたわけではありません。しかし共通認識として、着氷電荷分離機構が大きな役割と果たすのではないかとみられています。

一定条件下で霰と氷晶が衝突すると、その瞬間、両者の温度差による熱拡散により、霰から氷晶に向かって微弱電流が流れ、結果として霰がマイナス、氷晶がプラスに帯電します。霰は重いので雷雲の下に集まり、氷晶は軽いので上に集まります。そのため、雷雲の上の方はプラスの電気を帯びた領域ができ、下の方にはマイナスの電荷領域ができるのです。この状態になると、正と負の電荷領域間で雲放電が始まります。

加えて、落雷が発生する雷雲では、マイナスの電荷領域の下に小さな正電荷領域がある場合が多いことが確認されています。これをポケット正電荷領域と呼びます。このポケット正電荷領域の発生の仕組みに関しては複数の説があり、未だ議論中です。

【雷のきっかけ】

霰と氷晶の衝突により雷雲内にプラスとマイナスの電荷が十分たまると、雷が発生します。雷が発生するのは、正と負の電荷領域の間です。一般的に、電荷が存在するとその周囲の他の電荷に力を与えることができる領域(電界)が発生します。雷雲の正負電荷間は非常に電界が強い状態となります。この強い電界内に電子が入ってくると、正電荷領域の方向に加速します。非常に速くなった電子が空気分子にぶつかり分子から電子を弾き飛ばして、分子をイオン化し、電子の量を増やしていきます。電子が爆発的に増えるこの現象を電子雪崩と呼びます。このとき空気はプラズマと呼ばれる電気が通る状態になります。このプラズマの状態がどんどん伸びていき、最終的に雷になるのです。

【雷の種類】

雷は、全部で5種類あります。Q&Aをご紹介しましょう。

Q:雷にはどんな種類があるの?

A:雷には、落雷4種類と雲の中だけで起こる雲放電があります。全部で5種類です。

落雷:雷雲と地面の間の放電。雷雲内の電荷領域と地面の間が放電路で繋がり、雷雲内電荷が中和される。

①負極性落雷:雷雲内のマイナス電荷を中和

②正極性落雷:雷雲内のプラス電荷を中和

上向き雷放電:地上の尖った場所でリーダが発生し、雷雲に向かって上向きに伸びて雷雲内の電荷を中和

①上向き負極性雷放電

②上向き正極性雷放電

雲放電:雷雲内で完結する放電。1つの雷雲内で完結するものと、複数の雷雲に渡って起こるものがある

【雷の「光」のひみつ】

雷は、大気がプラズマ化することで発光します。物質は固体・液体・気体のいずれかとして存在しますが、この状態は物質が持つエネルギーで決まります。分子ないし原子がばらばらになった状態が気体ですが、ここにさらにエネルギーを加えると原子核と電子までばらばらになります。この陽イオンと電子が分離した状態をプラズマと呼びます。プラズマ状態では、粒子が電気を帯びているので電気を通します。また、電子や陽イオンがプラズマ化の際に受け取ったエネルギーを放出してもとの気体分子や原子に戻る際、一部のエネルギーが光として放出されることがあります。このため、プラズマは光って見えます。

自然状態で観察できる代表的なプラズマとしては、雷の他にオーロラがあります。

【雷は電気の路:どうやって地上にたどりつく?なぜジグザグ?】

雷雲内で発生したプラズマは、さらに上下に伸びていきます。伸びていくプラズマをリーダと呼び、正電荷が多い方を正リーダ、負電荷が多い方を負リーダと呼びます。正リーダは負電荷領域へ向かい、負電荷を中和します。負リーダは正電荷領域へ伸び、負電荷を中和します。両者は逆方向へ進んでいきます。負リーダは進んで止まるを繰り返して進むことが知られており、ステップトリーダと呼ばれています。

雷雲内で中和が終了すれば雲放電ですが、負リーダが正電荷領域を中和したのち雷雲の外に出て、地面まで到達すれば、その地点が落雷地点となります。ステップトリーダが地面に近づくと、地上先端部から上向きにプラズマ(お迎えリーダ)が複数発生し、ステップトリーダに向かって伸びていきます。最初にステップトリーダに到達したお迎えリーダと繋がれば、そのお迎えリーダが発生した地点が落雷地点となります。

ステップトリーダがジグザグに進む理由は完全には解明されていませんが、考えられる理由の一つは、以下のようなものです。

ステップトリーダの先端はマイナスに帯電しています。このマイナスの電荷に伴う強い電界により、数m離れた場所にスペースリーダと呼ばれるプラズマ状態がいくつも同時に発生します。数μ秒の間にスペースリーダは上下に伸び、そのうちのひとつがステップトリーダにたどり着きます。次の瞬間この繋がったスペースリーダの方へステップトリーダは進みます。どのスペースリーダと繋がるかはランダムなため、結果としてジグザグに進むように見えるのです。

【電気が「中和」されるしくみ】

プラズマ化された放電路に大電流が流れ、雷雲の電荷を中和する現象をリターンストロークと呼びます。どのように電気が中和されるかについてははっきりしたことはわかっていませんが、研究者内ではおおむね次のように理解されています。

負電荷落雷の場合、ステップトリーダはプラズマ状態かつ電子がたくさん蓄えられている状態です。ステップトリーダがお迎えリーダを介して地面と繋がると、ステップトリーダ内の電子は地面に近い方から下向きの力を受けて地面に流れていきます。

電流の向きの定義はプラスの電荷が進む方向ですので、電子の進む方向と逆の方向が電流の向きとなります。

【下から上に「昇る」雷――上向き雷放電】

雷の種類の項で説明した「上向き雷放電」についてのQ&Aを紹介します。

Q:地面から雷雲に向かって進む雷があるって本当?

A:数は少ないですが、地上から雲に向かって登っていく雷が存在します。これを「上向き雷放電」といいます。写真で判別することが可能で、枝分かれがYの字になっていれば上向き雷放電です。

上向き雷放電は、地上の電界が非常に強くなると、鉄塔などの尖った場所から発生します。雷雲の電荷領域と地上のとがった場所が近くなれば、地上の電界が強まるので、上向き雷放電が発生します。

発生のきっかけは2種類あります。

①近くの他の雷に誘発される:上空からの放電と繋がらないまま雷雲電荷領域まで伸びたお迎えリーダ

②近くの雷と関係なく発生する:冬や産地など、雷雲と地上が非常に近い状態

今回はセクション1『「雷」の正体』を解説しました。電気の基礎知識を思い出しながら、上昇気流でできた雷雲の中で氷がぶつかり電気が発生し、電気がたまるとプラズマが発生して上下に伸びていくことで電気の通り道ができ、それが繋がって雷が落ちる、のような一連の流れがうっすらとでもお分かりいただけたら幸いです。

次回はもう少し踏み込んで、「雷の特徴」について解説します。雷の種類を決める仕組み、音が鳴る仕組み、また雷と大気汚染物質、放射性物質の関係などに踏み込みます。雷の大電流によって空で起こる化学反応が、酸性雨の原因物質を発生させる原因の一つだったのです。