『雷の疑問56』【神の怒り?五穀豊穣の印?ダイナミックな自然現象のヒミツ】 【section2:「雷」の特徴】

『雷の疑問56』解説の第2回です。前回は「雷」の正体として、雷が雷雲の中で発生し、地上に到達する仕組みについて解説しました。今回は、前回の内容を踏まえ、雷の特徴について解説します。

雷の基本を学んで、プラズマが地面に到達することを知ったけど、地面に落ちた雷はどうなる?雷雲の発生に上昇気流が欠かせないことは解ったが、ではその時の気象条件は?それほど大きな電流が空で流れたら、周りでは何か他のことが起こっているんじゃないの?等の新しい疑問を抱いた方もおられると思います。

雷の特徴を知ることで、それらの疑問が解決されるかもしれません。

【雷雲の発生条件:上昇気流と寒気と水蒸気】

雷雲が発生・発達するためには、上昇気流が必要です。その速度が大きい方が雷雲はより大きく成長し、より多くの雷が発生します。つまり、大きく強い上昇気流が発生しやすい状況が、雷の発生しやすい天気です。

雷雲内の上昇気流の気温が周囲よりも高ければ、上昇気流は浮力を得ます。周囲よりも気温が高くなりやすい状況は2つあります。①上昇気流の周囲の気温が通常よりも下がる、②地表付近から発生する上昇気流に水蒸気が多く含まれる、この2つが揃うと非常に激しい雷雨が発生しやすくなります。

②の場合、なぜ上昇気流の温度が周囲より高くなるかというと、上昇した水蒸気が集まって水や氷へ変化していくときに、熱(潜熱)が生じるからです。高度が高くなるにつれて気圧と気温は下がるので、相対的に上昇気流の気温は周りより高くなり、含まれる水蒸気の量が多ければ、より多くの潜熱を受け取った上昇気流はより強い浮力を得て、より大きな雷雲に成長するわけです。

雷雲へと成長する最初の上昇気流が発生するきっかけは、日射や前線風等、いくつかあります。

【雷の違いはどうして生まれる?】

雷雲内で始まった放電が雲放電となるか落雷となるかは、雷雲内の電荷構造と雷が開始した場所である程度決まります。最初のプラズマが発生した上下の電荷量が大体同じ場合は雲放電となり、大きな不均衡があった場合は、リーダは雷雲の外へ出ます。これが地上に到達した場合は落雷となります。

雷雲の上に正電荷領域(メイン)、負電荷領域(メイン)、正電荷領域(ポケット※電荷量が小さい)の順で存在する場合、メイン正電荷領域とメイン負電荷領域の間で雷が発生した場合は、多くの場合で雲放電となります。メイン同士の電荷量は同じなので、2つの間で中和が完結するのです。

一方、メイン負電荷領域とポケット正電荷領域の間で雷が発生すれば、雷は雲の外に出て、地上に到達すれば負極性落雷となります。ポケット正電荷領域をすべて中和しても、多くの負電荷が残っているからです。

雷雲内の電荷構造が上記のような典型的なものでなかった場合どのような雷が発生するのでしょう。例を紹介します。

・スパイダーライトニング:ポケット正電荷の電荷量が大きかった場合、雷雲の底で発生する雲放電。目視可能で、枝分かれが複雑。

・晴天の霹靂:雷雲上部の正電荷領域が小さすぎて負電荷領域を中和しきれない場合、上側に伸びた負リーダが水平に伸びて雷雲の外に出て、地面に到達して落雷となる。雲の横から突然雷が出てきて落ちるので、「晴天の霹靂」。

他に、宇宙へ向かう巨大ジェット、電荷の極性が逆の正極性落雷等があります。

【雷の色と音】

雷は何色かと考えたとき、ぱっと答えられる方は少ないと思います。

関連するQ&Aをご紹介します。今度雷を見たとき、色を確かめてみてください。何色に見えましたか?

Q:稲光って何色?

A:実は、「雷は何色であるか」という疑問に対して科学的に答えるのは難しいのです。同じ稲光でも、見る場所や見る人によって色が異なって見えるからです。しかし敢えて回答するなら、稲光の色を決める大きなポイントは2つあります。

①雷がどのような色を発しているか:稲光は、リターンストロークによる電流が発する光です。放電路は電流によって瞬間的に高温になっていますが、この温度に応じた色が発せられます。

②発せられた色が見る人に届くまでどのように変化するか:発せられた光は、周囲の大気と相互作用します。雲などがあれば散乱しますし、窒素や酸素などの期待の影響も受けます。また、色によって様子が異なる屈折をしながら、光は人の目に届きます。

発光・伝搬・受光の過程を経て、稲光は二つとして同じもののない、その人にしか見えない色で見えるのです。

さて、音についてはどうでしょう?雷の「ゴロゴロ」という音も、リターンストロークから発しています。リターンストロークは瞬間的に大電流が流れます。この大電流により、放電路の温度は瞬間的に約3万℃にまで上昇します。このとき同時に周囲の空気の温度と気圧も急上昇し、周囲の空気が急激に膨張します。膨張のスピードは音速より早いので、衝撃波が発生します。この衝撃波が元となって発生し音波が、私たちの耳には「ゴロゴロ」と聞こえるのです。雷鳴は、発生地点からおよそ10km以内で聞くことができます。

音波も光と同じく屈折するので、雷からの距離によって聞こえる音は違ってきます。

【雷と大気汚染】

雷のような大電流が空中で流れるとき、空気中の化学物質に変化は起こらないのでしょうか。実は雷の発生に伴って起こる化学反応によって、大気汚染の原因物質が発生しているのです。Q&Aをご紹介しましょう。

Q:雷から大気汚染物質が発生しているって本当?

A:雷の大電流による高温により、空気中の窒素と酸素が化学反応を起こし、窒素酸化物が発生します。この窒素酸化物は、酸性雨の原因物質の一つです。さらに窒素酸化物と日射などのいくつかの条件が重なると、オゾンが発生します。南極上空の成層圏ではオゾンホールが問題になっていますが、この重要なオゾンも、対流圏や地表近くでは健康被害や農作物に被害をもたらす大気汚染物質となります。

雷からの窒素酸化物の排出量は、地球全体の排出量の10%程度と考えられています。

【雷の電気はどこへ行く?雷の行方と痕跡】

避雷針は、そこに落ちた雷の電気を、アース線を通して大地へ逃がす働きをしています。大地は鉄や銅のように電気を通しやすい性質ではなく、組成や構造によって電気の流しやすさは大きく異なります。水分やイオンが多ければ、その土壌は電気を通しやすいといえます。落雷の電気は、大地の電気の流れやすいところを通って地球に拡散していきます。

それでは、海に落ちた雷はどうなるでしょう。雷雲が接近したとき、海面には雷雲下部の電気と反対の極性の電気が集まっているので、落雷によってこれが中和されます。従って、落雷時の電流は海表面にしか流れません。

地面に雷が落ちた時、大地は金属に比べて電気を通しにくいため、特徴的な痕跡が残ることがあります。代表的なものは、ゴルフ場などにみられるリヒテンベルク図形です。

落雷のエネルギーが巨大になると、砂や粘土などに含まれる石英が溶けてガラス状になります。これらは閃雷岩または雷管石(フルグライト)と呼ばれます。日本ではあまり見られませんが、アフリカの砂漠地帯では多く発見されています。

【雷と放射線・放射性物質】

自然界には放射線が存在します。地球上で検出される自然界の放射線は、宇宙からのものや、岩石などに含まれる天然放射性元素によるものがほとんどです。

しかし1990年代後半、雷雲からガンマ線が放射されていることがわかりました。瞬間的なものではなく、分単位の長さで発生しているものでした。観測と調査の結果、季節を問わずあらゆる雷雲、落雷からガンマ線が発生していることがほぼ確信されました。

このガンマ線発生のメカニズムとして現在有力な説は、雷雲ないし落雷の放電路内の電界が空気中の電子を加速させてエネルギーを得て、その高エネルギー状態の電子がガンマ線を放出させているというものです。

放射線が発生すれば、大気はイオン化されます。大気のイオン化があれば、普通は電気を通さない空気も若干電気を通しやすくなるため、雷が発生しやすい環境ができると考えることができるかもしれません。しかし今までのところ、自然放射線によって落雷のしやすさに変化があると確信できるような観測結果は得られていません。核実験や原発事故等により放射性物質が大気中に大量に拡散された場合でも、局所的にでも雷活動が増えたという報告はありません。

今回はセクション2『「雷」の特徴』を解説しました。セクション1で解説した雷の基本がわかっていれば、すんなりと理解できたのではないでしょうか。雷と大気汚染の関係や、放射性物質との関係は、初めて知った方は驚くかもしれませんが、仕組みが解れば「なるほど!」となったと思います。

次回は、世界の雷について解説します。日本の雷の特徴は何?世界一雷が落ちる場所はどこ?南極では雷が発生しないってほんと?雑学的に「使える」知識が満載ですよ!