『雷の疑問56』【神の怒り?五穀豊穣の印?ダイナミックな自然現象のヒミツ】 【section3:各地のさまざまな「雷」】

『雷の疑問56』解説の第3回です。前回は、音や光の仕組み、雷雲の発生状況、雷と放射線や大気汚染物質の関係といった雷の特徴について解説しました。今回は少し?力を抜いた雑学編、世界の雷事情についてお話します。

世界で雷が最も落ちやすい場所はどこでしょう?また、雷が落ちない場所はどこ?日本では年間どのくらいの雷が落ちているの?雷は地球以外の惑星でも発生する?知っていれば、雷雨の間もちょっと気がまぎれるかもしれません。

【世界の雷分布:落ちる場所、落ちない場所】

雷は全地球で1秒間に約50回発生しています。その9割が陸上で発生し、赤道付近ではより多くの雷が発生します。陸は水に比べて太陽光によって温まりやすく、雷雲の発生に必要な大気の不安定な状態を生み出しやすいからです。

衛星で観測すると、ホットスポットと呼ばれる局所的に雷活動が活発な場所があることがわかります。世界で最も雷活動が活発なのは、南米のベネズエラ北西部のマラカイボとその周辺、アフリカ・コンゴ民主共和国の東側です。1㎢あたり年に100回以上の雷が発生するこれらの地域では、山岳の存在が雷発生に大きく関与しています。

雷活動は気候変動とも大きな関係があります。エルニーニョ現象が発生した年は冬季のメキシコ湾内の雷が2倍になると言われています。

最近、極端に大きなエネルギーを持つ「スーパーボルト」が科学者たちの興味を集めています。大西洋の北東部や地中海といった海上で広く発生しており、案です・南アフリカ、日本近海などでも観測されています。

さて、ここで頭に浮かぶのは「世界で一番雷が多く落ちる場所はどこ?」といった疑問ですよね。Q&Aをご紹介します。

Q:世界一雷が発生するのはどこ?

A:世界で一番雷が多く落ちる場所としてギネスブックに登録されているのは、ベネズエラのマラカイボ湖です。マラカイボ湖はほぼ赤道直下に位置し、もっとも活発な場所では1㎢あたり年間250回もの雷が発生しています。雷は同湖の限られた範囲に集中しており、年間の落雷回数は300回にもなります。雷のほとんどは夕方に発生していますが、同湖では深夜に集中して発生しています。

同湖は東・南・西の3方を山に囲まれ、北が開けてカリブ海に面しています。この地形が雷雲を発達させ、多くの雷をもたらすのです。

次に気になるのは、「世界で一番雷の少ない場所は?」ですよね。実はまったく雷の落ちない場所があるんです。続けてQ&Aをどうぞ。

Q:南極では雷が発生しないって本当?

A:南極大陸で落雷が発生したという明確な報告はありません。雷の発生に必要な積乱雲が生成できる環境にないからと考えられます。雷を作るためには核となる粒子と水蒸気が、積乱雲の発生には水蒸気の他に地面から上空の間に大きな気温差が必要です。いずれも南極大陸では条件が見合わないのです。

代わりに、南極上空での放電・現象として、オーロラが発生します。オーロラは真空放電であり、雷との共通性は低くなっています。一方、地表付近は大変乾燥しているので、雪の粒が衝突して帯電し、溜まると放電します。冬のドアノブやセーターで起こるような静電気が、地表で働く南極観測隊員を悩ませているのです。

【日本の雷・夏と冬】

日本で雷が多いのは、沖縄などの南方と、本州の陸域、その太平洋沖合です。」逆に北方の海域では少なくなっています。世界的な傾向では海の雷は少ないのですが、日本では南方の海域でも多く発生します。

季節でみると、夏の雷は関東北部で、冬季の雷は日本海側で活発です。日本の落雷で特徴的なのは、北関東の夏の落雷と北陸の冬の落雷です。北関東の夏の落雷は太陽による大地の加熱が、北陸の冬の落雷には暖流によって運ばれてくる海水の温度に起因しています。

北陸の冬の雷は、『雪おこし』『鰤おこし』と呼ばれていますが、実は世界的にも珍しい現象です。他にみられる地域はノルウェーの西海岸、北米の五大湖付近、地中海の東岸くらいしかありません。

夏の雷と冬の雷の特徴はそれぞれどんなものでしょう?Q&Aをご紹介します。

Q:夏の雷と冬の雷、違いはあるの?

A:夏の雷と冬の雷の大きな違いは、夏季の落雷は90%以上が雷雲内のマイナスの電荷を大地に下ろす負極性落雷であるのに対し、冬季の落雷はその大半が雲内のプラスの電荷を地上に下ろす正極性落雷であることです。

その他冬季の雷の特徴としては、雷雲から大地に下ろされる電荷量が夏の雷の10倍~100倍に及ぶほど大きい場合がよくあること、上向き雷放電が多くみられること、稲光と雷鳴がそれぞれ一度だけの「一発雷」が多いことなどが挙げられます。

冬は上昇気流が弱く、夏の入道雲のような縦方向に大きく発達した雷雲ができにくい代わりに、海からの水分を多く含んだ風によって沿岸地域に断続的な上昇気流ができ、局地的な小さな雲が筋状に並びます。そのことで霰や雪片などの電荷を帯びた粒子が低高度に広く分布し、雷が起こりやすくなるのです。

【時代と雷:増えてる?減ってる?】

気候変動と雷の活動は関係があるのでしょうか?1990年代の研究では、熱帯地域の気温変動と雷活動に相関があることが示唆されていました。気象庁の調査では、日本海側の冬季の雷日数は増加傾向にあることがわかりました。冬は日本海の上空で雷雲が発生するので、温暖化によって海面水温が上がれば水蒸気も増え、その一方で高層の気温は低下傾向にあるので、上空が冷えて海が温かければ対流が強くなります。そのため、雷活動がより活発になると考えられています。

他にも古文書の記録を調べたり、地球温暖化に伴って変化する雷活動の予測を目指した研究を行ったりした結果、結論としては、雷は最近昔に比べて少し多くなっている地域があり、今後も増えていきそうだと考えられます。

【地震・雷・火山・火の玉?】

雷は通常雷雲内の現象ですが、火山の噴火に伴って発生する雷があります。火山雷と呼ばれています。火山雷は噴煙内の正や負の電荷領域を中和する現象です。火山噴火時には噴石の分裂や衝突の過程で電荷が分かれる電荷分離が発生します。小さい噴石はマイナスに、大きい噴石はプラスに帯電するので、重量差によって噴煙内に電荷領域が形成され、火山雷が発生するのです。

噴火から遅れて、噴火口から離れた場所で発生する火山雷もあります。こちらは霰と氷晶の衝突によるものです。

それでは、地震はどうでしょう?様々な研究が行われていますが、落雷が地震を誘発する、または地震が起こると雷が増える、と言い切れるだけの結果は得られていません。しかし、地震発生時に閃光現象や火の玉が見られたという報告は少なくなく、近年では映像での記録もしやすいことから、研究対象として注目されています。

「火の玉」は実在するのでしょうか?古今東西の目撃例を研究者がまとめたところ、雷活動が活発な時期に火の玉が目撃された事例が多く、その一部は落雷の発生に伴って出現したとされていることがわかりました。そのため、火の玉の一部は電気的な現象であろうと考えられています。これらの現象は球電と名付けられていますが、勘違いも多く、発生する仕組みも完全には解明されていません。

【宇宙の雷】

電気が流れる領域は、地表だけでなく上空にもあります。高度約80km以上に存在する電離圏では、ごく薄い大気がプラズマ化して電気が流れやすくなっています。それならば、雷雲の下だけでなく上でも放電が発生するのではないでしょうか?1989年に雷雲の上部から発生する「スプライト」が確認されて以降、雷雲上空の放電現象が次々と発見されました。リング状の発光現象「エルブス」、雷雲から下部電離圏まで放電が繋がる巨大ジェット等です。これらの発光現象は、高高度放電発光現象(TLEs)と呼ばれています。

また、地球以外の惑星にも雷はあります。大気があり、対流が生じ、大気中の粒子に摩擦などによって正と負の電荷の偏りが生じれば、地球と同じように雷が発生する可能性があります。現在雷の発生が確実視されているのは、木星と土星です。天王星でも雷が発生している可能性は高いとみられています。金星については、雷起源と思われる音波や電波の報告はありますが、確証は得られていません。火星では砂嵐が頻繁に発生することから、砂粒の帯電による雷が発生するのではないかという指摘がなされているものの、未だ決着はついていません。

さて今回は、世界各地から宇宙までの様々な雷をみてきました。最初の章で、雷は下向きの放電だけど、上に向かって伸びたプラズマの中和されなかった分はどうなるの?と思っていた方、謎が解けましたね。飛行機のパイロットや船乗りたちが見た謎の発光現象は、さぞ神秘的なものだったでしょう。また、日本海側にお住まいの方は、冬の雷が世界でも珍しいことに驚かれたかもしれません。

次回はぐっと実践的に、雷の被害の防ぎ方についてみていきます。雷がどんな場所に落ちやすいかはみんな何となく理解していますが、「なぜ」を知っていればより安全です。会社でもPC作業中に外が暗くなってゴロゴロいいだすと、上書き保存の回数が増えますね。「神の怒り」をいかにやり過ごして被害を少なくしてきたか、人間のたゆまぬ工夫と努力が現在の私たちのライフラインを守っています。