『雷の疑問56』【神の怒り?五穀豊穣の印?ダイナミックな自然現象のヒミツ】 【section5:「雷」に関するいろいろな技術】

『雷の疑問56』解説も、第5回となりました。前回は、雷から身を守ったり、モノを守ったりする方法について解説しました。電子化が進んだ現在、電子機器を多用したインフラそのものの脆弱性は上がっていて、様々な対策が必要です。もちろん、その分対策も進歩してきました。しかし生身の人間が身を守るためには、正しい知識を身につけていくことが必要です。

今回は、古くから雷を恐れてきた人間が、雷に立ち向かった結果をご紹介します。観測や予測を行ったり、人工的に発生させることができないか試行錯誤したり、エネルギーが利用できないか考えたり。自然の驚異と人間の知恵比べの結果をご覧ください。

【雷を観測する】

雷を予測するためには、どこで発生したかを知らなくてはなりません。雷の発生場所を知る観測技術は、雷研究と防災の両面から欠くことのできない重要な技術です。

落雷地点特定のために現在使われている技術は、落雷から発生する電波を測定する方法です。雷観測に使用される電波は雲を通り抜けるので、光のように雲で遮られることがなく、取り逃がしが少ないのです。

落雷に伴って、非常に強い電波が発生します。この電波の速度は光の進む速度と同じで、かなり遠くまで伝わります。これをアンテナで受け、アンテナに到達した時刻をもとに落雷場所を特定します。代表的な方法として、複数のアンテナを用いて到達時間の差から落雷場所を推定する「到達時間差法」があります。

雷は、宇宙からも見ることができます。現在では、宇宙船や宇宙ステーションから見た画像が公開されていることがあります。人工衛星による観測は、極めて広範囲の観測が可能で、大変有効です。宇宙からの観測も、地上での観測と同じく光か電波のいずれかを測定対象とします。

①光学雷観測装置:雷の発光を観測。雷が発する光を、望遠鏡に搭載したCCDカメラで撮影。昼間や雲内の雷の撮影も可能

②電波観測:落雷時に放射される電波を衛星で観測。電波の特徴や雷雲から直接衛星に届く電波と地上での反射波の遅れを利用して発生場所・高度を推定、雷の電波を利用した電離層の状態監視、落雷の予兆的に発生する超短波帯の電波測定等

【雷を予測する】

落雷は自然災害を起こす現象ですので。防災・減災のためには発生場所・時間を予測したいものです。雷の予測は可能なのでしょうか?Q&Aを紹介します。

Q:雷の発生予測はできるの?

A:生活の中で、「雷鳴が遠くで聞こえたら雷が来るとわかる」といった日常的な予測方法を、私たちは自然に身に着けています。しかし落雷のすべてが避難しやすい状況で訪れるとは限りません。

気象庁は各種の警報・注意報を出していますが、これと組み合わせて自分の近くに落雷の危険がないか判断できる方法があります。雲放電の直接検知とレーダーによる積乱雲の観測です。さらに狭い範囲に限った予測方法では、大気中の静電界を測るものがあります。雷雲は電気を持つので、雷雲の周囲では非常に強い静電気が観測されるのです。

逆に、雷から気象災害の予測はできるのでしょうか?雷には大雨が伴うことが多く、場合によっては雹や霰が降ることもあります。霰の落下に伴って発生する下降気流が地面まで達する強烈なものになった場合、ダウンバーストやマイクロバーストという突風が発生します。

果たして、これらの激しい気象現象と雷、どちらが先に発生しているのでしょう?雷と激しい気象現象の関係は1960年代から研究が進められています。近年になって、雷が急激に多く発生した直後に降雹、突風が発生するというLightning Jumpという考え方が認識され、これに基づく竜巻予測が始まっています。

【雷を手懐ける:狙った場所へ落とせる?人工的に作れる?】

雷を狙った場所に落とすことはできるのでしょうか?落雷を人工的にコントロールする技術として、ロケット誘雷とレーザー誘雷をご紹介します。

・ロケット誘雷:雷雲が上空に来たとき、一端を接地した細い導電性ワイヤを小型ロケットで急速に引き上げ、落雷を誘発する。ワイヤは溶けるが、放電路の最下部はワイヤの経路に従うので、意図した場所に落雷させられる

・レーザー誘雷:強いレーサービームを照射することでその経路をプラズマ化し、大気中に堂電路を形成する。ロケット誘雷のワイヤの役目をレーザーで行うもの。価格等の課題により、実用化には至っていない

雷は人工的に作れるのでしょうか?雷に代表されるような激しい光や音を伴い急激に発生する放電を、火花放電と呼びます。これを人工的に発生させるためには、空気中に高い電圧をかける必要があります。人工の雷を作ろうとしたら、超高電圧(300万V)を一旦別のところに蓄え、それを一気に(μ秒単位)電極間に加える必要があります。現状、「大きな雷」を発生させることには成功していません。

しかし、「小さな雷」であれば、近いものが使われています。各種耐雷試験などで用いられるインパルス電圧発生装置は、充電した複数のコンデンサを直列接続してその合計を出力電圧とする「多段式インパルス電圧発生器」が用いられます。多段のコンデンサを一気に直列に繋ぎ変えるスイッチとしても、火花放電が用いられています。この火花放電を「小さな雷」と呼ぶこともできます。現状ではこの装置が人工雷発生装置に最も近いということができるでしょう。

また、冬場のドアノブでよく起こる「バチッ」も小さな雷とみなせそうですし、ガソリンエンジンやガスコンロの火花点火には、これらの「小さな雷」が使われています。

「雷の電気を何かに使えないの?と考える方は多いと思います。落ちた雷を溜めて使う技術は成り立つのでしょうか?ぴったりのQ&Aがありますので、ご紹介します。

Q:雷のエネルギーをためて使えるの?

A:落雷の電力をコンデンサに溜める「雷発電装置」は実現可能でしょうか?高い鉄塔と充電施設からなり、高い鉄塔で落雷を受けてその電気を充電する装置です。しかし、大電流の雷電流をそのまま充電するのは難しそうです。

1回の落雷の全エネルギーは300kWh~3000kWhくらいと試算されていますが。真ん中あたりの1800kWhで計算してみます。一般家庭の1ヶ月分の消費電力はおよそ300kWhですので、落雷1回で一般家庭半年分の電力ということになります。

この試算は落雷のエネルギーをすべて使えれば、という前提で行っていますが、実際の雷のエネルギーは光、音、熱として放出されてしまうので、実際の効率はさらに落ちます。加えて設備の価格もありますので、「雷発電」は、残念ながら経済的に成り立たないのです。

今回は、雷を観測・予測し、利用しようとする技術について解説しました。長い歩みの中で、人間はこの不思議で恐ろしい現象を「神の怒り」から「大気中の放電現象」と捉え直しました。しかし、地上や宇宙から観測し、前兆を掴み、狙った場所に誘導するほどの技術を手にしても、大規模な雷を人工的に発生させたり、電力を利用することまではできていません。

次回は、現代の科学技術でも人の手には掴み切れない「神の怒り」を、人々がどう考えて文化に落とし込んできたかをみていきます。昔はどのように観測を行っていたのでしょうか。「地震・雷・火事・親父」以外に、雷の諺をいくつご存じですか?