『海洋白書2021』危機を乗り越え、美しく豊かな海を子孫へ! 【第2章:コロナ禍の2020年】

  • 2021.04.22 

前回から、『海洋白書2021』の内容解説を行っています。前回は、『国連海洋科学の10年』始まりの年である2021年時点で、世界と日本が何を目標にどのような取り組みを進めているかをお話してきました。

第2回の今回は、2020年に全世界を襲い、未だ猛威を振るっている新型コロナウイルス禍が、海洋分野にどのような影響を与えてきたかを明らかにしていきます。日本でこのウイルスの恐ろしさが広く人々の知るところとなったきっかけは、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」船内での感染拡大ではないでしょうか。『海洋白書2021』第2章の冒頭でも、この事例について書かれています。書籍本文中のコラムでも触れていますので、是非合わせてご覧ください。

【第1節:コロナ禍のクルーズ船】

1:2019年のわが国のクルーズ人口と寄港回数

国土交通省発表によると、2019年のクルーズ人口は35.7万人(前年比11.3%)で過去最多を更新し、寄港回数は2018年より微減したものの、今後のさらなる成長が期待できる状況でした。主な要因は、比較的安価に利用できる外国籍クルーズ船による日本発着クルーズの増加です。各外国船社も日本人向けセールスの充実を図ってきました。

寄港回数の減少は中国発着クルーズの日本寄港回数減少によるものですが、クルーズ各社は新造船の投入や配船数の増加などの対策に取り組み、反転攻勢の体制で臨んでいました。

2:新型コロナウイルス感染症の発生と拡大

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は2019年12月31日に中国湖北省武漢市より、病因不明の肺炎症例クラスターとしてWHOに報告されました。その後日本を含む19か国でヒト-ヒト感染が確認されたことを受け、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると宣言されます。1月末時点の日本では、流行は認められていない状況でした。

2月3日に横浜港に到着したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」乗船者のうち、2月6日に検査結果が判明した171名中の41名より陽性が確認されました。この報道と、それに続く陽性確認者の増加によって、多くの人びとがパニックに陥ります。

その後、3月11日にWHOは新型コロナをパンデミック(世界的な大流行)とみなせると表明しました。日本籍クルーズ船3船はすべての運航中止を発表し、集団感染の収束とクルーズ再開の機をうかがうこととなります。

「ダイヤモンド・プリンセス号」が検疫や消毒を終え、横浜港を離岸した後の4月、長崎港に停泊していた「コスタ・アトランチカ号」でも集団感染が発生し、全乗組員623人のうち148人の感染が確認されました。

両船ともに知名度の高いクルーズ船であったため、「クルーズ船は不安」との印象が社会に広がり、乗船だけではなく寄港受入を敬遠する地域も現れました。

3:外航クルーズ船の感染症水際対策

外航クルーズ船は国際保健規則(IHR2005)により船内の衛生状態を良好に保つことを定められています。具体的な対応として、国内に常在しない感染症の病原体が国内に侵入することを防ぐ水際対策のひとつ「検疫」が設けられています。

しかし「ダイヤモンド・プリンセス号」は、2月1日に那覇港に入港する時点では感染症患者の発生が認められていなかったので、感染症発生に関する記述のない明告書を提出しました。那覇港入港後横浜港までの航海中に、香港で下船した乗客の感染が確認されたため、2月3日に横浜港で検疫再検査を受けたのです。

4:クルーズ船の衛生管理

世界のクルーズ船は、WHOが1967年に定めた『船舶衛生ガイド』に従って船内の衛生管理を行っています。2000年以降ノロウイルスによる集団胃腸疾患の発生例が増加したため、2011年改訂の『船舶衛生ガイド 第3版』はノロウイルス抑制に焦点が当たった内容となっています。

日本のクルーズ船は船員安全衛生規則の船内衛生基準に従い、船長をリーダーとして船内の衛生管理を実施しています。米国ではアメリカ公衆衛生局(USPH)米国疾病予防管理センター(CDC)が制定した船舶衛生プログラム(VSP)の基準をクリアする衛生管理状態を保つよう求められています。訓練セミナーや抜き打ち検査を行う等、厳しい検査体制を敷いて船内衛生管理に尽力しています。

5:ウィズコロナ時代のクルーズ船感染症対策

こうした努力があったものの、わが国の新型コロナパンデミックによる集団感染が発生したクルーズ船は20隻以上に及ぶとCDCは伝えました。世界では40隻以上で発生したと推測されています。

新型コロナは飛沫感染・接触感染が一般的なので、感染防止対策としては「三密」を避けることが重要です。しかし船内環境はこの状態が発生しやすい環境です。しかし裏返せば、乗船している特定の人たちの間でしか接触は行われません。そこで、各クルーズ船社は、さらにレベルの高い衛生管理を構築・提供することでウィズコロナ時代の新しいクルーズ様式を生み出そうとしています。

各クルーズ船社は①感染症を船内に持ち込まない、②船内での感染リスクを抑える、③船内で感染者が発生した時の対応、を柱に構成した新たな健康プロトコルを定め、第三者機関(船級協会)による新型コロナウイルス感染予防対策に関する認証を受けています。

6:日本船による国内クルーズの再開

わが国では、2020年9月18日に日本船の国内クルーズを対象としたガイドラインとして、(一社)日本外航客船協会が『外航クルーズ船事業者の新型コロナウイルス感染防止対策ガイドライン 初版』(船舶ガイドライン)を、(公社)日本港湾協会が『クルーズ船が寄港する旅客ターミナル等における感染拡大予防ガイドライン 初版』(港湾ガイドライン)を同時に公表しました。

日本のクルーズ船運航会社3社は船舶ガイドラインをベースに感染防止対策を作成、認証を取得し、寄港先の港湾地域とも協議を重ねた上でクルーズを再開しました。しかし2020年年末時点では、国際クルーズについては再開の見通しは立っていません。

7:ポストコロナ時代のクルーズ船動向

コロナ禍の前は大規模な拡大が見込まれていた世界のクルーズマーケットは、カリブ海をベースとした比較的カジュアルなツアーを行う超大型クルーズ船によりもたらされました。現在、感染症防止の観点からすると大人数が乗船する超大型クルーズ船の受入は避けたいところですが、超大型船による手軽なクルーズが今後もクルーズビジネスの主力となることは間違いありません。感染防止と経済活動の両立が求められるでしょう。

一方、小型で豪華なクルーズ船の建造も増加しています。限られた人だけに特別なクルーズを提供するこうしたサービスは、感染症対策もしやすく、リピーターの期待も大きなものです。こうしたクルーズ船マーケットの多様化についても、注目していく必要があるでしょう。

【第2節:外航海運業への影響とウィズコロナ時代の対応】

1:グローバル物流を守るために―2つの課題

外航海運は重量ベースで世界貿易量の99%を輸送し、グローバル経済の基幹産業となっています。日本経済が発展できたのも。外航海運産業の国際競争力が強かったためです。しかし、わが国の外交船員数の95%は外国人船員です。

したがって、グローバル物流を守るために、新型コロナに対応して外航海運業が直面する課題は、以下の2つに大分できます。①外航海運業が強靭なビジネスモデルを備える、②船員の感染予防対策の実施と船員交代システムの構築

以下で、この2つの課題について述べていきます。

2:経済発展を担う外航海運業の危機への備えは万全か

2009年のリーマンショックを上回る経済の沈滞が予想されるコロナ禍の下では、外航海運業の経営も無傷では済まないでしょう。しかし危機的な状況下でも、危機対応力には改善がみられます。

バルクキャリア業やタンカー業では、かつては大量の投機的発注による一時的公共と長期の不況を繰り返していましたが、コロナ禍に見舞われた結果、船主と荷主の間の長期的契約輸送が増加し、経営の安定性が増加しました。

一方、年毎の契約締結を原則とするコンテナ船業は、2016-17年の業界再編によって、無駄を省いた体質に生まれ変わり、迅速な意思決定が可能になっていました。コロナ禍の2020年も、サプライチェーンの分断と荷動きの減少に対応したスケジュール変更と減便を即座に実施することができ、その結果主要3航路の運賃は揃って上昇しました。

このように産業構造を改善強化してきた結果、コロナ危機は外航海運業の業績面に影響を与えたものの、経営の存続まで脅かすことはないと考えられています。

3:船員の感染予防対策ガイダンスの国内動向

2つめの課題である船員交代システムの構築については、2020年5月11日に国土交通省海事局安全政策課が『感染防止対策及び船上で乗組員や乗客に新型コロナウイルスに罹患した疑いがある場合の対応等について』という文書を業界団体向けに通知しました。これを受け、(一社)日本船主協会は新型コロナに関するガイダンスを公表しています。

各海運事業者において、ガイダンスに記載のない取組みも含め、業界内外の事例を取り入れつつ現場で創意工夫を行い、感染リスクの実態に即した対策を実践していくことが重要であると強調されています。

4:船員の交代を巡る国際的混迷と展望

船員交代に関わる国際的動向では、国際海事機関(IMO)が、2020年3月27日付の文書において、加盟国政府に対して勧告を行っています。

ポイントは、①国籍に関係なく、管轄内にある船員を、必須のサービスを提供する「キーワーカー」として指定したうえで、②船員の交代を目的として、公式船員の身分証明書、退院書、STCW証明書、船員雇用契約、及び海事雇用主からの任命状が提出されれば、③船員の交代と本国送還のため、下船させて領土を通過することを許可する等、④船員の変更および本国送還の目的で下船しようとする船員に対して、適切な承認を実施することです。

EUもこれを受けて加盟国に対して乗組員の変更を迅速に追跡するための港湾を指定するよう求めるガイドラインを発行しました。さらにIMOは船員交代手順を詳細に説明し、政府が緊急の行動をとることを強く奨励しましたが、事態は改善しませんでした。

注目されるのは、船員交代にも関わる入港制限の項目です。多くの締約国が新型コロナの発生後に国家レベルあるいは地域限定の制限を導入したため、船員の交代に死傷が生じたのです。このことによって、世界で数十万人の船員がどこにも上陸できないまま海上に数か月にわたり取り残される事態が起こりました。

IMOは7月7日付の文書において、船員の地位を守るための法的可能性を検討する共同声明を発表しました。

5:今後の課題と展望

最も大きな課題は、船員交代を迅速に図ることです。4月以降、シンガポールやドバイにおいて船員交代が増加していることが確認されています。

アジアと中東に船員交代基地と呼べるものが設けられましたが、これらを寄港地に組み込まなければ船員交代は円滑には進みません。各国も自国での船員交代システムの確立に取り組んでいますが、必ずしも他国が利用しやすいものではありません。コロナ後を見据えた荷主の持続可能なサプライチェーンの再構築のため、国際機関と各国政府のより一層の努力が求められます。

【第3節:水産業への影響】

1:水産業の動向

2020年、新型コロナの第一波に対して、外出を避け、対人接触機会を減らす様々な措置が取られました。学校の休校、外食産業の休業、観光施設の休業等により、水産業にも大きな影響が及びました。一方、高級食材の値崩れを反映し、高級魚が手頃な価格で販売されたり、家庭における魚料理への関心が高まったりする風潮もみられています。

水産研究者・実務者の有志が4月に結成した「新型コロナウイルスと水産業影響調査グループ」は、現状把握のためのオンラインアンケートを行いました。2020年5月29日~7月8日の調査によって得られた結果について、以下に解説します。

2:オンラインアンケート調査の結果から

回答総数は350人。33の都道府県から回答が得られています。31%が漁業・養殖業事業者、69%が流通・加工・飲食・小売等の水産関連事業者です。

新型コロナについては、漁業者85%、関連事業者の75%から業績が悪化したと思うという回答を得ました。販売金額は平均しておよそ30%の減少です。

販売金額の減少の大きな要因は何だと思うかを尋ねる質問への回答を分析すると、漁獲量や水揚げ量といった水産物の物量ではなく、販売機会や販売量、価格の変動が水産業への大きな影響であったと考えられます。

販路について特に分析した結果、コロナ以前から消費者の直接販売の販路を有していた事業者は、「コロナによって漁業・水産業が悪くなった」と答えた割合が少なくなっています。

つまり、販売機会および数量に関連する項目の影響が強く感じられていること、コロナ後にインターネットを通じた直接販売のみが増加の傾向にあること等を合わせて踏まえれば、水産業における新型コロナの大きな影響は、サプライチェーンの目詰まりによるものであったと評価できます。

「日本の漁業・水産業はどう変わるべきか」という自由記述形式の設問では、生産段階や流通段階等の個別事象ではなく、サプライチェーン全体の在り方に課題を認識する傾向が目立ちました。水産関連事業者の内部にも、新型コロナを契機として現状の改革を目指す意識があると考えられます。

3:追加インタビュー調査の結果から

2021年1月から、回答者のうち了承を得られた人に対して追加調査が行われました。ここから判明した主な結果は以下の通りです。

・大衆魚は平年より安いものの、安定した販売量があった

・一方高級魚は、通常の稼ぎ時である年末年始の飲食店需要が減少したため、厳しい状況となった

・持続化給付金等は有効であったが、スタート時に漁期が終わっていたり、取り扱い魚種が対象外であったりと、水産業全般を広くカバーする制度設計の難しさが示唆された

・コロナ禍をきっかけに、消費者向け直接販売を開始ないし補充したという漁業者があった

・すべての回答者が、先行きへの懸念があると回答している

4:コロナ禍以降の水産への期待

新型コロナは、日本の水産サプライチェーンの課題を明らかにしたとも考えられます。今回のパンデミックに対しては、多様な販路の組み合わせが影響緩和に働いた可能性があります。販売商品に関しても、大衆魚と高級魚をバランスよく扱った業者がリスク分散に成功しています。

ステイホームの経験から、家庭での魚料理に取り組む消費者も増えています。このコロナ禍は、バランスの取れた持続可能な水産フードシステムの構築に向けたひとつのきっかけであるともいえるでしょう。

【第4節:コロナ禍が海洋安全保障に及ぼした影響】

コロナ禍は海洋安全保障にも大きな影響を及ぼしています。コロナ禍が各国軍隊、特に海軍に与えた影響に着目し、①主要国の軍隊及びわが国への影響、②「セオドア・ルーズベルト」集団感染事案とその意味、③インド太平洋地域におけるコロナ禍での米中対立の状況などについて概説します。

1:主要国の軍隊及びわが国への影響

米国ではノースカロライナ州で海兵隊員が陽性反応を示したのを皮切りに、感染が世界各地の駐留米軍に拡大しました。RIMPACは8月、洋上訓練のみの形で実施されることになりました。フランス、ロシア、オランダ等でも空母や潜水艦の乗員感染事例が起きています。

艦艇部隊は「三密」の特殊な環境にあるため、影響は深刻です。一般的な感染症対策措置に加え、寄港地での上陸禁止や一定の隔離期間を設けるといった対策を各国は取らざるを得ません。一定期間の隔離措置は海上自衛隊においても同様ですが、2020年8月には、出航予定であった護衛艦が、乗員感染により出航が延期になるといった事態が起こっています。

なお、このような状況下でも、各国海軍とも感染症対策支援などのために必要な場合は躊躇なく艦艇部隊を使用しています。

2:「セオドア・ルーズベルト:集団感染事案とその合意

「セオドア・ルーズベルト」の集団感染事案は、稼働中の空母が乗員の感染症のために行動不能となったという事実から、特に大きな注目を集めました。

2020年3月下旬、行動中の同艦において乗員の新型コロナへの感染が確認されました。同艦は3月27日、補給のためグアムに入港しましたが、感染拡大を懸念した館長は3月30日に乗員の一時隔離などの措置を上申するとともに関係各所に通知しました。しかしこの内容が漏洩したため、艦長は解任、海軍長官代行がその後の行動の不適切さを指摘され辞任する結果となりました。最終的には同艦で千人以上が陽性反応を示し、6月4日にグアムを出航するまで行動不能の状態が続いたのです。

この事態によって、米海軍の指揮系統が細分化され非常に複雑になっていることが中国人民解放軍に認識されることになりました。米軍の一連の対応が、中国側に米海軍の「弱点」を知らしめたのです。米中の緊張関係が、これをきっかけにより悪化することになったとの見方もあります。

3:インド太平洋地域におけるコロナ禍での米中の軍事的対立の状況

「セオドア・ルーズベルト」の事案はインド太平洋地域における中国の挑発的行動を誘発した一方、のちには米海軍のプレゼンス強化の動きに繋がり、結果的に米中間の緊張関係をより激化させる一因となったとの考え方もあります。

2021年1月に発足したバイデン新政権のもと、新たな国際協力の枠組み構築が模索されているともいわれていますが、米中関係に関しては貿易問題に加え台湾や香港の問題など様々な要素が複雑に絡み合っており、海洋安全保障における対立も容易には解消されそうにはありません。従って、コロナ禍が海洋安全保障に及ぼした影響について考える上では、ここまでの一連の流れも引き続き念頭に置く必要があります。

【第5節:離島への影響】

新型コロナの感染が全国的に拡大した2020年、離島もその影響から逃れることはできませんでした。第一波ではクラスター発生には至りませんでしたが、7月~9月の第二波ではクラスター発生や死亡例も確認されています。

以下では伊豆諸島・小笠原諸島を対象とし、離島医療の観点からこれらの問題を取り上げます。

1:離島医療の現状と課題

  1. 医療従事者確保の現状と課題

東京都の島しょ地域では、約2.5万人が暮らしています。

医療機関は病院1施設と一般診療所21施設があり、全有人島に医療機関が設置されており、無医施設はありません。しかし島しょ地域では医療従事者1人当たりの負担が大きくなっており、交代要員の確保が難しくなっています。

このような状況下で医療従事者に感染者が発生した場合、診療業務を一時中止せざるを得なくなる可能性があります。そのため、離島では感染者の発生予防が一層重要となっています。

  1. 感染症に対する保険医療体制

島内医療機関で対応できない救急患者が発生した場合、東京都ではドクターヘリや海上自衛隊機等で本土の高度医療機関へ搬送する体制が整えられています。感染症の場合、八丈島には感染症病床が2床ありますが、それ以外の島は本土高度医療機関へ搬送することになっています。感染症対策の中心となる機関は島しょ保健所で、本土の東京都庁のほか、出張所、澁が設置されています。

2:伊豆諸島・小笠原諸島での感染者の発生状況

2020年に新型コロナの陽性者が発生した町村は、御蔵島村、大島町、八丈町等の5町村でした。以下、御蔵島村での状況を解説します。

  1. 第一波の状況
    • 感染者発生前の備え

2019年度末には、御蔵島村は患者発生時の対応フロー図、検査実施の流れ、搬送の基準を島しょ保健所三宅出張所と共有していた。

  • 感染症発生に伴う対応

5月7日昼に、70代男性が呼吸困難と発熱のため診療所を受信、診断の結果同日夕方にヘリで本土の都立病院へ搬送、PCR検査。9日に陽性が判明、同日夕方には村民に周知。島民の問い合わせには、三宅出張所、村役場での保健所職員による相談窓口、診療所で対応した。

5月22日には医療従事者の2週間の健康観察期間が終了。

  • 緊急事態宣言後の段階的な自粛解除

5月25日に国の緊急事態宣言が解除されたのを受け、東京都の緊急事態宣言も26日に解除された。村では、5月29日にホームページにて出島の自粛要請の解除や、6月1日からの小中学校再開が示された。

  • 医療保険福祉サービスへの影響

医療面では、5月22日以降は感染対策を継続した上で通常診療に戻っている。保健面では、御蔵島村村役場職員には保健師がいないため、島外からの非常勤保健師に頼っているが、自粛期間中は来島できなかった。福祉面では御蔵島社会福祉協議会が行っているデイサービス等の事業が、4月には一時中止となった。6月からはデイサービスでの食事提供を覗いて再開している。

  1. 第二波以降の状況

8月がピークとなった第二波では、大島町、小笠原村で感染者が報告されていますが、クラスターは発生していません。11月頃からの第三波では、三宅村、大島町、小笠原村で感染者が発生していますが、いずれもクラスターは発生しませんでした。

  1. 来島者数の減少状況

離島では党内の医療機関が限られていること、新型コロナを確定できる検査体制がないこと等の懸念により、4月下旬頃から不要不急の来島や状況の自粛が呼びかけられました。その結果各町村の来島者数は大幅に減少しました。緊急事態宣言解除等を受け、7月1日からは適切な感染予防策を講じた上での全面緩和となりました。

離島では、新型コロナの感染という直接的な影響とともに、交通や観光需要などへの影響も大きなものです。ワクチンの接種も始まる中、早期の収束が望まれます。

今回は、海洋分野における新型コロナウイルスの影響をみてきました。世界各地で猛威を振るい、世界中のあらゆる人びと・社会・セクターに打撃を与えた新型コロナウイルスの影響から、どのように立ち直っていけばいいのでしょうか。後退した景気への対策が模索される中、「グリーン・リカバリー」という考え方が注目を浴びました。これは、パンデミックで打撃を受けた経済の回復にあたって、気候変動への対応や生物多様性の保全などの地球規模の問題に重点的に資金を投じ、景気回復と同時に、持続可能な社会への転換を行おうというものです。

海の世界でも、このグリーン・リカバリーの海洋版として、「ブルー・リカバリー」が提唱されています。次回はこのブルー・リカバリーについて、主に海洋環境保全に着目して解説します。