読めば出かけたくなる!「潮干狩り」の極意を伝授! 【第4章:もっと知りたい潮干狩りの疑問】

  • 2021.04.10 

『潮干狩りの疑問77』の内容解説、今回が最終回です。出かける前の準備から獲ってきた貝をおいしく食べる方法までの解説は済んでいますが、今回お届けするのは潮干狩りに関する「小ネタ」集のようなものです。内容は多岐にわたりますので、テーマを絞って本編のQ&Aを取り上げつつお話しますね。ちょっとした雑学を知っていれば、潮干狩りがもっと楽しくなること間違いなしです!

【アサリの生きざま:実は真珠も作れます】

アサリの漁獲量は年々減っています。天敵の存在はもちろん大きな影響を及ぼしていますが、どう考えても最大の敵は人間です。アサリは生存に適した干潟があれば増えていく生物です。干潟は埋め立てが容易なこともあり、次々にコンクリートで埋め立てられてきました。しかし、人工海浜でもアサリが繁殖しはじめている例もあり、人間が環境を整えることで、生息域を確保することは不可能ではなさそうです。

アサリは砂の中で自由に動き回れずにかわいそうだ、と人間は思うかもしれませんが、アサリにも一生のうち自由に動き回れる期間があります。アサリは生まれてから着底するまでの2~3週間の間は、潮流に乗ってある程度自由に動いています。着底する際には足で砂を触って、棲みやすい場所かどうかを確認します。気に入らなければ、再度浮遊して別の場所を探すのです。人間が人工干潟を作ってアサリを増やすには、アサリに気に入ってもらえる場所にしなければなりません。

アサリの年齢は、殻の年輪状の筋を見ればわかります。ちょうど1年に1つ、輪が増えていきます。寿命はどのくらいかというと、7~8年と言われています。潮干狩りで獲れるのは、大体2~3年ものです。同じ二枚貝のハマグリの仲間では、400年以上生きたものがいるそうです。

気に入った場所を見つけて生き延び、死んだり弱ったりしたアサリはどうなるのでしょう?どんな場所にも「分解者」は存在します。干潟において目につくのは、アラムシロガイという小さな巻貝です。この海の掃除屋は、アサリだけではなく他の二枚貝やカニなども、集団で群がってきれいに食べ尽くしてしまいます。そんな存在がいるからこそ、干潟の生態系が保たれているのです。

アコヤガイと同じように、アサリでも真珠ができます。何かの拍子に外套膜内に入り込んだ遺物の周りに、貝殻と同じ炭酸カルシウムが付くのです。生きているアサリの貝殻は実に色とりどりで美しいのですが、できる真珠は貝殻の裏と同じ銀白色です。商品価値はないと判断されたのか、商品化を目的とした養殖などはされていません。

【アサリの天敵たち】

アサリの天敵としてはツメタガイが挙げられますが、その仲間のサキグロタマツメタの中で現在中部・関東・東北にいるものは、中国産・北朝鮮産のアサリに混じってきた渤海由来のものです。このサキグロタメツメタの幼体がまだ小さなアサリも食べてしまうため、東名浜ではアサリが激減し、2004年には潮干狩りが中止となる事態が起こりました。この貝は迷惑な存在ではありますが、甘辛く煮たりするとおいしく食べられます。

また、二枚貝を食べる魚としてはナルトビエイも有名です。顔を砂に突っ込んで貝を掘り出し、丈夫な顎で貝殻を砕いて食べてしまいます。元々は有明海以南に多かったのですが、温暖化で水温が上がったため、瀬戸内海にも現れるようになりました。

また、小さなアサリの意外な天敵としては、クロダイもアサリの稚貝を食べることが知られてきました。潮干狩りのために放流された稚貝を、丈夫な歯でバリバリ砕いて食べてしまうのです。

【砂浜の生きものたち】

干潟には実に様々な生き物が生息しています。砂浜に目を凝らすと、色々なものが見えてきますよ。いくつかQ&Aをご紹介しましょう。

Q:横に泳ぐ変なエビの不思議

A:春の潮干狩りでは海藻の近くでヨコエビという、エビに似た変な生き物に出会います。ヨコエビはずっと横になったまま泳いでいます。この仲間はエビではなく、ワレカラに近い甲殻類の仲間です。知られているだけで5000種程もおり、特定は難しいです。

 

Q:泳ぐのが下手な丸い体のカニとは?

A:砂浜を歩いていると、マメコブシガニという小さな丸いカニを見かけるかもしれません。このカニの特徴は、横ではなく前に歩くことです。動きは鈍いですが、砂に潜るのがとても速いので、上手に身を守れているのです。

 

Q:どぎつい黄色のラーメンの正体は?

A:岩が混じる砂浜などで潮干狩りをしていると、どぎつい黄色のラーメン状の塊を見かけることがあります。これはアメフラシの卵です。アメフラシは巻貝の仲間ですが、貝殻は退化して体にわずかについているだけです。

 

Q:「ワレカラ食わぬ上人なし」ってどういうこと?

A:ワレカラは全長3cmほどの小さな甲殻類の仲間です。体が非常に細いので、海藻にくっついてしまうととても見分けがつきません。そのため、殺生を禁じられた上人でさえ知らずに口にしてしまっている、という意味のことわざになりました。

【潮干狩りと人間:潮干狩りって、楽しい?】

春とはいえ厳しい日差しの下、腰を曲げて貝を掘る。よく考えたら、楽しいんでしょうか?しかし、日本人は古くから潮干狩りを楽しんできたのです。

江戸時代には、庶民だけではなく良家の子女たちもお供を連れて潮干狩りを楽しみました。そんなお嬢様たちの姿を見るために、楽しみに繰り出した男性たちも多かったことでしょう。そんな美女たちの姿が浮世絵に残っています。

横浜市金沢区にある海の公演は、潮干狩り場として有名です。車や電車で訪れるのは大変でしたが、1989年にシーサイドラインができたことで状況は一変しました。改札を抜ければすぐ砂浜という利便性のおかげで、車を運転できない人でも潮干狩りに出かけやすくなったのです。

子どもの頃に、海で自然と触れ合う経験をすれば、きっとよい思い出が残るに違いありません。あなたにもし子どもがいれば、是非小さいうちに潮干狩りに連れて行ってはいかがでしょうか。

全4回にわたってお送りしてきた、『潮干狩りの疑問77』内容解説は、今回で終了です。首都圏では桜も葉桜になり、大型連休も目前です。今年出かけられる方も来年以降に考えておられる方も、干潟で安全に楽しい時間を過ごし、家でおいしい貝料理を食べられるように祈っています。皆様によい海辺の思い出ができますように!