私たちの足元を流れる水が「見えて」くる! 【Section5:地下水の汚染】

  • 2021.03.13 

『地下水・湧水の疑問50』、前回は、古くから地下水・湧水を利用してきた人間が、文化の中で地下水をどのような位置に置いてきたのかを眺めてきました。学校の授業で習う古典にも名水ガイドのような場面があり、神話の中には水の神が登場し、今も各地で祀られています。地下水成分の違いが、その地の名物料理や飲料を作り上げてきました。古来人々の生活と密着してきた水が、汚染されてしまうことがあります。今回は、地下水の汚染についてのセクションを解説します。

【地下水汚染を引き起こす物質】

地下水汚染は、どのような物質によって引き起こされるのでしょう。日本では、地下水汚染に関する対策が必要な物質として、28項目が「地下水の水質汚濁に係る環境基準」の基準項目とされています。地下水汚染を引き起こす物質は以下のように分類できます(28項目の物質もこのいずれかに含まれます)。

  • 重金属類:カドミウム、鉛等。一般に陽イオンの形をとるため、負に荷電する土壌表面に吸着しやすく、地下水中の移動性は低い。そのため、深部までは汚染が広がりにくい
  • 揮発性有機化合物:テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン等。水に溶けにくいため、土壌中や地下水中に原液のまま溜まったり、地下深部まで移動したりしやすい。難分解性ではあるが、微生物によって分解される場合がある
  • 鉱油類:ガソリン等。
  • 農薬類:PCB等
  • 肥料類:硝酸性窒素等。農薬や肥料が個々の畑や水田で使用される量は僅かでも、使用面積が広いため、全体としての使用量は多くなる
  • 病原性微生物類:大腸菌、ボツリヌス菌等
  • 放射性物質:トリチウム、放射性ヨウ素等

【地下水汚染はなぜ起こる?】

地下水汚染は、有害物質または有害物質を含む水や溶液が帯水層に達するか、帯水層中の土壌などから地下水中に溶出することにより起こります。地下水汚染には、人為的な要因の他に、自然的な要因も考えられます。

  • 人為的な要因

工場由来:工場や事業所における施設の破損や不適切な取扱いによって漏洩した有害物質や、有害物質を含む液体が帯水層に到達、産業廃棄物処分場跡地から漏出、大気中から降下した煤煙から雨水に有害物質が浸透

農業・生活排水由来:過剰に供給された肥料が浸透。使用される面積が広いので、広域にわたって汚染が起こる。また、家畜排せつ物、し尿や生活排水の不適切な処理も原因となる

  • 自然的要因

岩石や土壌に微量元素として元々含まれる重金属類が、降雨により浸透してきた水に溶出したり、帯水層中の土壌から地下水中に溶出したりして起こる

【地下水が汚染されると何が起こる?】

地上へ湧き出ている湧水はともかく、地下水が汚染されても私たちの生活にはあまり影響はないのでは、と思うかもしれません。ところがそうではないのです。関係するQ&Aをご紹介します。

Q:地下水が汚染されるとなぜいけないのですか?

A:地下水は水循環を構成する一要素として、湧水、河川や海に流出します。そのため、地下水や湧水が汚染されると、人の健康や生活環境、生態系に悪影響を及ぼすのです。

  • 地下水中の科学物質による人の健康への影響:有機砒素、トリクロロエチレン等。工場排水などによるものだけでなく、自然由来の砒素による健康被害も起こっている
  • 地下水中の病原性微生物類による健康への影響:上水道が普及するまでの地下水汚染の主な原因。赤痢・腸チフス・コレラ等。上水道の普及により激減したが、その後も病原性大腸菌、ノロウイルス等の汚染が起こっている

【地下水汚染が起きたらどうする?】

地下水汚染が起きた場合、地下水中にそれ以上有害物質が供給されないようにすることと、汚染された地下水をきれいにすることの2つの対策が必要です。

地下水中への有害物質の供給を止めるには、原因が施設の破損であれば該当箇所を補修し、不適切な扱いが原因なら取扱いを改善し再発防止することが必要です。併せて、有害物質を取り扱う施設においては、定期的な点検が行われなくてはなりません。

また、既に有害物質が地下に浸透し土壌中に存在する場合は、帯水層にまで浸透するのを防がなくてはなりません。土壌汚染対策の方法には、掘削除去、原位置土壌浄化、封じ込め、不溶化等の方法があります。

既に汚染された地下水をきれいにするには、地下水用水処理と原位置地下水浄化があります。アメリカなどでは、汚染源付近の高濃度の汚染土壌や汚染地下水を積極的に浄化したのち。自然の作用によって汚染物質の濃度が低下していく自然減衰を利用した方法も広く行われています。

汚染された地下水の拡散を防ぐ方法としては、上流側から流れてくる地下水を回収して汚染を防ぐバリア井戸と、地下水中の汚染物質を吸着または除去する反応剤を入れた壁を地中に構築する透過性地下水浄化壁があります。

【肥料による汚染って?】

水質汚染というと、工場からの汚染水のことを考えがちです。しかし。農業で用いられる肥料が主な原因である硝酸性窒素による地下水汚染も大きな問題となっています。該当するQ&Aを取り上げてみます。

Q:硝酸性窒素による地下水汚染にはどのような特徴がありますか?

A:窒素は植物の生育に必要な栄養素の一つであり、農業では窒素を含む窒素を含む肥料がよく使用されます。一方で地下水が硝酸性窒素で汚染された場合は、乳児のメトヘモグロビン血症などを引き起こします。

肥料中の窒素は、土壌に散布されたのちに微生物の働きで硝酸イオンへと変化します。これは水に溶けやすいので、作物の根から吸収されますが、吸収されなかった分は浸透水とともに地下へ輸送されます。散布分が植物の吸収分より過剰な場合、地下水汚染が起こるのです。

汚染が起こる一方で、地下水中では微生物の作用により、硫化窒素が最終的に無害な窒素ガスとなって地下水中から除去される現象も起こっています。

今回は、地下水汚染と、それが人間の生活に及ぼす影響についてみてきました。次のセクションでは、気候変動・災害と地下水の関係についての疑問を取り上げます。ニュースなどで、地震による地盤沈下により地下水が溢れ出している映像を見たことのある方は多いでしょう。また。ここまでのセクションで地下水は地上の気温の影響を受けにくいと学んできましたが、地球温暖化からは何も影響を受けないのでしょうか?

次回は、水の豊富な災害大国の日本で、気象・地震と地下水はどのような関係にあるのかを解説していきます。