未来の食卓にもおいしい魚を!今の漁業にできること 【Section6:これからの魚の利用の方向】

  • 2021.02.25 

前回までで、「漁獲」とは何か、漁獲の対象となる天然魚の状況、天然魚を生産する海の仕組み、海の魚を増やすにはどうすればよいか、漁獲を補う養殖の現状と課題についてお話してきました。最終セクションでは、これからも人類が魚を食べ続けるためにはどうすればよいのか、についてお話していきます。

【世界の魚の消費量は増えてる?減ってる?】

1960年以降に限っても、世界の魚の消費量は年々着実に増え続けており、この傾向は変わりそうにありません。消費量は可食部分だけなので、実際は供給量のおよそ半分となりますが、世界一人当たりの魚の供給量は1961年に9kgだったものが、2013年は19.0kgと2倍以上に増え、その後も増え続けています。中でも、近年の中国の供給量の伸びは顕著です。一方、日本の魚の供給量は世界第1位だった1989年をピークに減り続けています。2013年の供給量は一人当たり49.3キロで第3位に転落しています。世界的な魚の利用増加の結果、生産量も増加しました。特に養殖生産が大きく伸びています。この世界的な魚の需要の伸びにどう応えていくかが今後の課題です。

【養殖だけで需要に応えられるのか?】

伸び続ける需要に対して、漁獲量は追いついていません。伸びた分の魚の消費を支えているのは養殖です。世界の養殖生産量は2014年に漁獲量を超えていますが、今後も養殖生産量を増やしていかなければ対応できません。

養殖生産量を増やすには、以下のような課題があります。

・給餌用の魚粉・魚油等を人工生産可能な大豆・トウモロコシなどの植物性タンパク質に変える
・内湾の汚染を避けるため、外洋に面した海域での養殖技術を確立する
・天然種苗の利用をやめ、完全養殖技術を確立すること
・養殖に対する社会の理解度を高める

以上を速やかに進めるには、行政の支援を強化する必要があります。特に天然物志向の強い日本では、養殖に対する社会の関心を強めていくことも重要です。

ここで注意しておきたいのは、市場への魚の供給を、漁獲をすべてやめて養殖だけに切り替えることが目的ではないということです。肉類の例を見ると、近年ではジビエの利用への関心が高まってきたものの、家禽・家畜中心の生産が肉類の多様性を狭めてしまう結果となっています。多様な魚を食卓に載せるためには、漁獲量を適切に保つことで天然の資源を維持し、養殖で不足分を補うという方向が理想的なのです。

【今後食用魚として有望な種類は?】

食用に適した性質を持っていても、まだ商業的に流通していない魚もいます。そういった魚に関するQ&Aをご紹介しましょう。

Q:今後、有望な未利用魚はいますか?

A:未利用魚には2つの可能性が考えられています。まったくの未利用か、利用程度の低いものです。

未利用魚として最も可能性が高いのは、これまで積極的な漁業活動の対象となってこなかった深海魚です。日本においては、比較的深海魚の利用が盛んな駿河湾などで未利用魚の探索が進んでいます。

他には、まとまって獲れない、一部地域でしか利用されていない等の未利用魚があります。それぞれ、漁獲量の集め方や流通方法の工夫、漁獲方法や高鮮度輸送技術の開発等で対応できる可能性があります。

【日本の魚の輸入・輸出】

漁獲や養殖以外に魚を得る方法として輸入があります。日本の魚の輸入量は2001年の382万トンをピークとし、その後は減っています。2017年のデータでは、248万トンと最大時の2/3です。同年の魚の輸入総額は1兆7751億円で、国民一人当たり1.5万円です。輸入金額が多いのはエビ類、サケ・マス類、マグロ・カジキ類、イカ類、カニ類、タラ類の順で、これだけで52%を占めます。輸入相手国は種類によって様々で、例えばエビ類はベトナム・インド・インドネシア、サケ・マス類は地理・ノルウェー・ロシアが主な輸入相手国です。

一方、日本からの魚の輸出はあまり増えておらず、2000年には輸入量の約6%まで低下しました。その後輸入量の減少によって回復し、2017年には輸入の24%程度になっています。輸出金額が多いのは、ホタテガイと真珠です。今後は世界市場に向けて、日本の高品質で安全な魚をアピールし、輸出量を増やしていくことが目指されています。

【SDGsと漁業の関わり】

2015年9月に「人が生きられる環境を守る」ことを目的としたSDGsが採択されました。17の対象項目のうち、直接的に漁業に関連するのは14の「海の豊かさを守ろう」ですが、英語原文は「水中の生命」の意味です。設定された目標のすべてが、漁業活動と深く関わっています。

各国は17項目の各目標を評価指標に従ってモニタリングし、自己評価を行い報告しています。日本の自己評価は海に面した126か国中69位で、周辺の海の状況は横ばい状態と判断されています。

項目14の評価を高めるには、漁業と流通に関する組織にエコラベル認証を受けてもらい、漁業資源量の厳密な推定を勧め、魚種ごとの漁獲制限を決めて徹底することが必要です。実現のためには、漁業関係者と消費者双方の意識改革が必要です。

【この先もおいしい魚を食べ続けるために】

世界的に魚の消費量は増え、動物性タンパク質としての魚の重要性は増加しています。漁獲は頭打ちのため、増えた需要は養殖で補っていく必要があります。しかし、天然魚の不足に対しては人の力で自然の資源回復量を増やす試みも進んでおり、今後の展開が期待されます。

世界の需要は、量的にはすでに漁獲から養殖に移っています。今後も養殖生産を高めていくためには、これまでも論じてきたように、いくつかの課題があります。しかし技術開発は日々進んでおり、遠からず解決されることでしょう。

最終的には、世界の魚の需要には、養殖を主、漁獲を従とした形で応えていくことになるでしょう。安定した大量生産という養殖のメリット、圧倒的な多様性という漁獲のメリットを活かし、両者を健全に両立することが重要です。

世界での需要の高まりとは逆に、日本では2000年以降個人の魚消費量が低下しています。それを反映してか、漁業や養殖業の道を選ぶ若者の数も減り、漁業の高齢画が進んでいます。しかしそうした現状の中でも。外食産業や自治体、学校給食等では、生産・流通をも巻き込んで魚需要を増やす新たな試みが見受けられます。そうした試みから、新たな流通システムが生まれる可能性もあります。

海に囲まれ、内陸部も水に恵まれた日本は、古くから魚を食べてきた「魚食の民」です。その自覚を取り戻すことが、将来も魚を安全に食べ続けるために必要です。日本には長年蓄積された魚の知識や調理方法等の技術があります。それらが失われないうちに、次に伝えていくことも必要なのではないでしょうか。

もしこの本を読んで何か心に引っかかる項目があったら、スーパーや市場で魚を買い、調理し、食卓に載せるとき、この魚がどのようにしてここまで届いたのかについて、思いを馳せてみるのはいかがでしょう。「調理に手間がかかるな」「養殖ものだ。不安だなあ……」等の気持ちがあったとしたら、少し変わるかもしれません。消費者一人一人の行動が、日本や世界の魚食文化の存続を支えているのです。