私たちの足元を流れる水が「見えて」くる! 【Section1:地下水・湧水のきほん】

  • 2021.03.01 

「地下水」と聞いたとき、皆さんは何をイメージしますか?名高い湧水地で、透き通った冷たい水が滾々と湧き出る風景でしょうか。それとも井戸?あるいは地盤沈下を連想する方もいらっしゃるかもしれません。上下水道の整備された市街地で普通に暮らしていれば、私たちの足元を流れる地下水に直接触れる機会は限られます。地下水が地球表層における水循環でどのような役割を果たしているのかについて、あまり意識する機会はないという方も多いでしょう。

これから解説する『地下水・湧水の疑問50』では、普段目にすることのない地下における水の流れを、基礎知識から始めてその利用や保全、文化や信仰との関わり、気候変動や災害との関係、法制度まで、幅広く論じていきます。興味のあるトピックから読み広げていただけたら、普段は見えないけれど、私たちを取り巻く環境や私たちの暮らしに大きく関わっている水の流れが見えてくるかもしれません。

【地下水の基礎知識:どこから来てどこを流れ、どこへ行く?】

地下水は「地下を流れる水」ですが、実際にはもう少し細かく分類されています。

・地下水:砂・礫などの粒子の間を完全に満たしているもの
・土壌水:粒子間に水と空気が含まれているもの

①と②は地下で層になっていて、土壌水の層は地下水の層の上にあります。両者が接する面を地下水面と呼びます。この地下水面が地表面と交差すると、地下水が地表に湧き出す形となり、湧水と呼ばれます。

地下水が利用可能かどうかは、含まれる地層の質で決まります。地層の粒子が大きく地下水が利用できる層を帯水層、粘土層などを難透水層と呼びます。

地下水は地表に降り注いだ雨や雪が地中に浸透することでできます。このプロセスを地下水涵養(かんよう)と呼びます。この雨や雪の元は雲であり、その雲の元は海と考えることができます。地下水はゆっくりと低い方へ流れており、やがては海にたどり着きます。このように水は海を起点として地球表層を大規模に循環しており、これを水循環といいます。

水循環は太陽エネルギーによって海水が蒸発することで起こりますが、その過程で塩分が取り除かれます。こうしてできた淡水は我々の生活に欠かせないものです。地下水は、我々は利用できる淡水の中で最大の割合を占めています。

地下水は、高い場所から低い場所に流れています。高所に囲まれた場所に降った雨が吸収され、地下水となって低い場所に流れていきます。その途中で一部は上に向かって流れて河川に流出しますが、一部はより深い場所へ浸透し、やがて海に流出していきます。地下水が下向きに流れている領域を涵養域、上向きに流れている領域を流出域といいます。このような大小の流れを合わせて、地下水流動系といいます。

【地下水の量と流れの速さ】

地球上の水のほとんどは塩水で、淡水は地球上の水の2.5%しかありません。更にその中の約70%は氷山などの氷で、河川や湖水などの割合は極めて小さいものです。つまり、人間が利用できる淡水の約99%が地下水なのです。地下水は世界でもっとも利用されている天然資源です。日本人は大量に地下水を利用していますが、日本全国で貯蔵されている地下水量(地下水賦存量)は約13兆㎥という莫大なものです。しかし、利用可能な水の量は流域において涵養される地下水量によって決まりますので、持続的な地下水利用には対策が必要です。

地下水の速さは1m/日~1m/年と非常にゆっくりと流れています。流速に幅があるのは、流れる地層の質によって流れ易さが異なるためです。この地下水の流れ易さを透水係数と呼びます。地下水の流速は地下水面の傾き(動水勾配)と透水係数、地層の体積に対する隙間の体積(間隙率)から求められます。また、地下水に溶けている放射性物質からも求めることができ、この方法は地下水年代測定法といいます。

地下水の古さも場所によって違います。涵養域では常に新しい水が帯水層に入ってきて、古い水が押し出されます。そのため、地下水流動の上流では水は常に新しく、下流では古くなります。

【湧水ってどんなもの?】

地下水が自然に地表あるいは湖底などに流出したものが湧水です、湧水についてのQ&Aを抜粋してご紹介します。

Q:湧水とはどのようなものですか?

A:湧水は産地や平野、沿岸域や海底まで、様々なところにみられます。地形上の凹地や地形勾配の変換点、岩の割れ目、地表に露出した地層群の境界といった多様な場所に、点在したり直線状に並んだりと様々な形で現れます。地下の地質構造の多様性が、多種多様な湧水を生じさせるのです。

【海と地下水:塩水と淡水の関係】

海水と地下水は水質組成が大きく異なっています。海水中には塩分が多く含まれていますから、海水は地下水より比重が大きくなります。このため沿岸域では、海水が真水の下に潜り込むように存在しています。両者の接する面では、海水中の塩分が淡水中に少しずつ移動しています。境界付近には、塩水と淡水が混ざり合った組成の汽水が存在します。

沿岸域で人間活動が活発化した結果、海水と淡水地下水の関係が大きく変化することがあります。地下水の過剰利用で地下水と海水が混ざった水質組成となった場合、地下水の塩水化と呼ばれます。

海底下の地層中にも地下水は流れていますが、陸地の地下水とは異なり、海水とほぼ同じ組成を示します。海底で地層が堆積される際に取り込まれたものと考えられています。しかし、更に深い層に海水より塩分濃度の薄い地下水が存在することが判ってきました。これには地球の氷期と間氷期のサイクルと、それに伴う海水準変動が関係していると考えられています。

【地下水を調べる】

地下水の水位や利用可能量はどうやって調べるのでしょう。また、地下水の水位はなぜ変化するのでしょうか?

地下水の水位は井戸に現れる水面の標高であり、絶えず変化しています。水位を得るには、地表から井戸の中の水面の位置を確認・測定します。測定方法としては、携行型水位計(ロープ型水位計)、自記録水位計等が挙げられます。

持続的に利用できる地下水の量を知るためには、流域内の地下水の出入りを把握して地下水資源を考えることが重要です。長期間にわたる流域の水の出入りを整理したものを、水収支と呼びます。流域に涵養される自ら出ていく水を差し引くことで計算されます。水収支を検討する際は、1年間の単位で見積もることが一般的です。

湧水の量は、地下水の水位と関係しています。地下水位が高いときには湧出量は多くなり、低いときは少なくなります。地下水位は地下の特定の深度空間内にある地下水の量を反映しています。その空間の地下水量が増えれば水位は上昇し、減れば低下します。増える要因としては降雨や雪解け水等、減る要因は流出や人間活動によるもの等が挙げられます。

【温泉は地下水?】

地下から湧き出しているのだから、温泉も地下水の一種では?と考える方は多いと思います。ぴったりのQ&Aがありますので、抜粋します。

Q:温泉も地下水ですか?

A:地下水を単に地下に存在する水というだけでなく、人間の活動の及ぶ範囲を循環している水とするならば、温泉の大部分、または一部が地下水である、といえそうです。温泉は、温度と成分の2つのポイントによって定義されているからです。地下にある水のうち、人間が定めた温度や成分どちらかの基準を満たしたものが温泉と呼ばれているのです。成分が基準に満たなくても温かければ(日本では25℃以上)、温度が低くても定められた成分がひとつでも基準以上なら温泉なのです。

【地下水の中に生き物は存在するのか?】

地下水内に生物はいるのでしょうか?地中には微生物がいるのだから、地下水の中にも存在しているのでは?こちらもQ&Aをご紹介します。

Q:地下水の中にも生物はいるのですか?

A:生物には核を持つ真核生物と核を持たない原核生物がいますが、地下水の中には双方が存在します。真核生物は今までエビ、ミミズ、プラナリア等が確認されています。しかし、地上とは違って観察・調査方法が限定されるため、種類や生息数、生態はよくわかっていません。一方、原核生物については精力的に研究が進められています。人間生活に以下の点で役立っているのが大きな理由です。

・地下水を浄化する微生物:人間活動の結果発生した汚染物質を分解する
・天然ガス・メタンを生成する微生物:地中の有機物が酸素のない環境で微生物によって分解され、メタンが生成される
・温室効果ガスの放出を防ぐ微生物:②で発生したメタンを消費し、地上への放出を防ぐ

このように地下水のある地下環境では、多くの微生物が互いに影響し合い、様々な役割を担っています。

今回は、地下水の基礎知識についてお話しました。次のセクションでは、地下水の利用として代表的な井戸について解説していきます。どうやって掘る?深く掘ればいいの?異臭がしたり枯れたりするのはなぜ? 等の疑問に、専門家たちがお答えします。あなたの家に井戸があったら、水を汲むついでに家の下を流れる水に思いを馳せてみるのもいいかもしれません。