港について知ろう~積む・乗る・泊める、陸と海とを繋ぐ「門」~『新訂 ビジュアルでわかる船と海運のはなし(増補改訂版)』

  • 2021.01.21 

『新訂 ビジュアルでわかる船と海運のはなし 増補改訂版』の内容について引き続き解説を進めます。ここまでは船についてお話してきましたが、今回は港の話です。

14:港の歴史と現状~入江から港町、工業港へ~

人類が船を使って河海へ乗り出すようになると、安全に乗り降りしたり荷物の積み下ろしをしたり、荒天を避けて船を泊めておけたりする場所が必要になります。それが港の起源でしょう。各国語の「港」を表す言葉の語源を調べてみると、地形や気象条件によってその土地の港がどのような経緯でできてきたかということとの関連性が見て取れます。

最初期の港は砂浜に船を錨泊してそこから小舟を用いて人力で荷揚げ作業を行うような簡便なもの、あるいは自然の入り江を利用したものであったかもしれませんが、港に大型の船が入るようになると、港は水深の深い沖に向かって突き出した突堤を必要とするようになります。

例えば日本の神戸港は湊川の河口部に設けられた大輪田の泊とされていますが、平清盛が対宋貿易の拡大を目指し神戸福原に突堤を築いたことをきっかけとして、国際貿易港としての機能を備えていくことになったのです。日本各国の港が整備され、港町が形成されるようになったのは、江戸時代を迎えてからのことでした。

港は船の進化や貨物の荷姿の変化に応じて、その形態や機能を少しずつ変えてきました。近代に入ってから港の姿を大きく変えたのは、重化学工業の発展によって工業港が作られたこと、各種の専用船が作られるようになったこと、1960年代のコンテナ革命でした。各国の主要港はコンテナ輸送に対応するためにコンテナ埠頭の整備を進めました。

一方、陸地ではコンテナを運ぶ大型トレーラーや自家用車による超中距離輸送が盛んになり、それが港でのフェリー埠頭の拡充を促してきました。

コンテナ登場以前は、荷物の積み下ろしは「ギャング」と呼ばれる労働者の共同組が担っていました。コンテナ革命によって荷役の機械化と合理化が進むと、そうした従来型の荷役は姿を消します。コンテナ・ターミナルは旧来の港とは離れた場所に作られることが多く、一般の人も入れません。労働者が港町で休息することも減り、港町にかつてあった賑わいが失われる結果となりました。その反省から、現在はウォーターフロントパークとして、潤いのある港空間作りが重視されるようになっています。

一方、コンテナ革命によって、多くの港は船会社と荷主に対する利便性を高め、コンテナの取扱量を増やすべく競争することになりました。こうした動きの中、日本の港は残念ながら遅れをとっています。原因は、天災からの回復の遅れ、コンテナ船大型化への未対応、デジタル化や自動化の遅れ等です。そういったハード面だけでなく、書類主義や複雑な元請-下請関係、新規参入のしにくさ等も問題となっています。

今後は日本の港も自動化を進め、モノと情報の流れを一元化することによって利便性をより高める必要があります。現代の港は、単なる輸出入貨物の関門あるいは通過点ではなく。荷主のロジスティクス戦略を支援するターミナルオペレーターであることが求められているのです。

15:港の種類と港則法

港の種類

港を分類するには、地勢または用途によるものが一般的です。
・地勢的分類:沿岸港・海港・河口港・河川港・湖港・運河港
・用途別分類:商港・工業港・漁港・カーフェリー港・レクリエーション港・軍港・避難港

法律による港の分類はいくつもの異なる法令に基づいてなされているため大変複雑ですが、代表的なものをいくつか挙げます。
・港湾法:国際戦略港湾・国際拠点港湾・重要港湾・地方港湾
・港則法:特定港(喫水の深い船が入港できる、または外国船が丈二出入りする港)
・関税法:開港・不開港
・検疫法:検疫港
・港湾運送事業法:政令で指定された港
・漁港漁場整備法:第一種漁港・第二種漁港、第三種漁港、第四種漁港
・その他:出入国管理及び難民法、港湾労働法、公有水面埋立法等による分類

係留施設の種類

港内で船が荷役作業をするために停泊する場所を「バース」といいます。係留施設には、①岸壁、②桟橋、③離れ桟橋、④浮き桟橋、⑤ドルフィン、⑥係船ブイ、等があります。また、大型タンカーの荷役用に沖合に設けたバースのことを「シーバース」と呼びます。桟橋、ドルフィン、係船ブイ、パイプライン等の施設を備えています。

港則法

港則法は行内での船舶交通の安全及び港内の整頓を目指して定められた法律です。日本の港で港則法が適用される港は約500港です。港則法の定める港の範囲は、一般的に港と判断されがちな防波堤の内側より広いものです。

港則法で定められている事項のうち、重要なものを紹介します。
・雑種船はそれ以外の船舶の航行や停泊を妨げてはならない
・船舶の入出港に際し、特に特定港における港長への届け出を行い停泊係留の指示を受けること、各種制限事項
・港内の航行規定
・港則法上の危険物の指定、取り扱い船の停泊や荷役について港長の指示を受けること
・指定海域における廃棄物投棄の禁止
・港内での雑種船の夜間灯火、停泊中の船舶が火災を起こした場合の通知方法

16:港の仕事~港湾運送事業って?~

港の仕事には、貿易、金融、保険、工業、商業、海運等様々なものがありますが、本書では港湾運送事業に焦点を絞ってお話します。港湾運送事業は港湾運送事業法に基づく許可制となっており、その内容は①一般港湾運送事業、②港湾荷役事業、③はしけ運送事業、④いかだ運送事業、⑤検数事業、⑥鑑定事業、⑦検量事業です。

・一般港湾運送事業

無限定:一般港湾運送事業のうち、船社、荷主双方の委託を受けて仕事を行うもの

海貨業:荷主の歌句を受けて船積・陸揚げ貨物の船舶との受け渡し、沿岸荷役などを行うもの

新海貨業:海貨業の業務に加え、船社からの委託を受けてCFS業務を行うもの

港湾荷役事業:船内荷役事業と沿岸荷役事業。両方を請け負えるものを無限定という。

その他の港湾事業には、①倉庫業、②通関業、③梱包業等があります。

在来貨物船の荷役

在来貨物船の入出港に際し、ターミナル・オペレーターは様々な手続きや荷役業務を行います、大別すると以下のようになります。

・船社の委託を受け、バースターム貨物の船内荷役と、関連する各種の港湾運送業務
・荷主の委託を受け、FIO貨物の船内荷役と、関連する各種の港湾運送業務
・船社の船積・陸揚代理店業務

コンテナ船の荷役

コンテナの積み下ろしを行うフルコンテナ船のために、多くの港は専用のコンテナ・ターミナルを備えています。コンテナ・ターミナルは以下の3つのエリアに大別できます。

CY:FCL貨物(コンテナ単位の貨物)を取り扱う。オペレーターは本船の船舶代理店業務、CY内でのコンテナの配置、コンテナの積み込み・荷下ろし、輸入コンテナのCFSへの引き渡しと空コンテナ改修等と、それらに伴う諸官庁への事務手続きを行う

CFS:LCL貨物(コンテナ単位にならない小口貨物)を輸出コンテナに混載したり、混載コンテナからの貨物の取り出し・荷捌きを行う。

エプロン:ガントリー・クレーンを使ってコンテナ船への荷物の積み下ろしを行う

次回はいよいよ、ここまで学んできた船と港を用いて、ものが世界をどのように流通しているのかを学びます。海運と物流の基礎知識と歴史、これからの展望についての一通りの知識が得られますので、海運業界を志望する学生さんたちにとってのよい入口になるかと思います。