航海について知ろう~船にはどんな人たちが乗り、どうやって目的地へ向かうのか?~【後編】『新訂 ビジュアルでわかる船と海運のはなし(増補改訂版)』

  • 2021.01.15 

『新訂 ビジュアルでわかる船と海運のはなし 増補改訂版』の内容について引き続き解説を進めます。【今回は第3部の後半を解説していきますね。】

10:船の位置の求め方~航海術の大前提~

航海術の意味する範囲は非常に広いのですが、その基本は「船の位置(船位)を求めること」「船の進路を決めること」「船を正しく操ること」にあります。航海計器のない時代から、人間は身体感覚に頼って船の位置を探り、それに従って航海を行ってきました。GPSをはじめとした技術によって現在では高精度の船位が得られるようになりましたが、現代の航海者も不測の事態に備えて様々な方法で船位を得られるようにする必要があります。代表的なものをいくつか紹介します。

沿岸航法:交差方位法、両測方位法、4点方位法、水深連測法

・交差方位法:沿岸の2点以上の物標のコンパス方位を測定し、海図上でそれぞれの物標から方位線を引く。交点が船の位置。
・両測方位法:一定の進路の前方にある物標の方位を測定し、同じ進路上で一定時間が経過したあと再び同じ物標の方位を測定する。方位線と進路、航程と潮流をもとに算出。
・4点方位法:同一進路上である物標の方位が船首から45度になったときから90度になったときの距離をもとに算出。
・水深連測法:連続して水深を測り、トレーシングペーパーに緯度線と推定進路を記入。測定結果を記入した紙を海図に重ね、海図の情報と一致する場所が大体の船位。

天文航法:位置の線航法

天文航法は天体観測によって船位を求める航法です。六分儀を用いて天体の高度を観測し、同時に時間を計測して、天体の位置を天文歴から読み取ります。これをもとに球面三角法の計算を行い、「位置の圏」を導き出します。実際には、推定位置に近い複数の位置の圏を天体の方位に直角に交わる直線とみなし、この線を位置の線と呼びます。天体が複数の場合も1つの場合も、この位置の線を算出して船位を求めます。天体を使った船位測定法には、他に太陽子午線高度緯度法や、北極星緯度法があります。

電波航法:ロラン航法

現在は既に多くの国で運用が終了している方法です。主従2つの発信局からパルス電波が到着するまでの時間の差を用いて船位を測る方法です。

11:操船術~船長と航海士のしごと~

操船は船長と航海士の仕事の基本ですが、船を操縦するためには自船の操縦性能を知らねばなりません。その基本は、旋回性能、保針性能、停止性能です。

操舵号令

船の操縦は自動車のように船長や航海士自らが操縦を行うのではなく、判断に基づいて発した号令を操舵手が受けて舵を取ります。その際に発せられる操舵号令については、IMO(国際海事機構)が標準号令を勧告しています。

「面舵一杯」や、船を「彼女」と呼ぶところなどは、耳にしたことのある方も多いと思います。

・右回頭:「スターボード(面舵)+舵角」
・左回頭:「ポート(取舵)+舵角」
・舵角を戻してゆっくり回頭:「イーズ・トゥ+舵角」舵を中央に戻す場合は「ミジップ」
・変針中に所定の進路に船首を向ける:変針中に「ミジップ」→所定の進路に近づいたら「ステディ」→所定のコースに向いた瞬間「ステディ・アズ・シー・ゴーズ」
・所定のコースや目標物に進路を向けたい:「ステア+コンパス示度または目標物名称」

機関号令

船は洋上では常用出力による航海速力で走りますが、出入港時や狭い水路などではエンジン・テレグラフを使って機関室に号令を出し、機関室はそれに従って主機の出力を操作します。機関号令には次のようなものがあります。

・フル・アヘッド:常用出力の70~80%
・ハーフ・アヘッド:同45~55%
・スロー・アヘッド:35~45%
・デッド・スロー・アヘッド:20~30%
・ストップ・エンジン:エンジン停止

港内操船

港内での操船は難易度が高いことから、外航船等の大きな船は専門の水先人に操船を任せることが多いのですが、総トン数3000トン未満の内航船などでは船長が操船することが多いです。大型船は狭い湾内では自力だけで回頭できないのでタグボートの力を借りますが、総トン数2000~5000トンの船では、サイドスラスターを船首尾に有していれば自力回頭が可能です。

錨泊

船を沖合に際には、平穏な海面であること、水面が広くて航路筋ではないこと等様々な条件があります。その方法としては、単錨泊、双錨泊、2錨泊、船首尾錨泊等がありますが、それぞれにメリットとデメリットがあるので、状況に応じて使い分けます。錨は錨泊だけではなく、船の回答や横移動の補助、後退時の揺れの軽減などにも用いられます。

12:海難とその対処~トラブル発生!~

航海の歴史は、海難との戦いの歴史でもあります。海難審判法では海難のことを①船舶に損傷が生じたとき、または船舶の運用に関連して船舶以外の施設に損傷を生じたとき ②船舶の構造、設備、または運用に関連して人に死傷を生じたとき ③船の安全または運航が阻害されたとき と定めています。海上保安庁では、①船舶の衝突、乗り揚げ、火災、爆発、浸水、転覆、行方不明 ②船舶の機関、推進器、舵の故障、その他船舶の故障 ③船舶の安全が阻害された事態 のこととしています。その他積荷の損失や、海賊による略奪、テロ、海上の石油掘削施設の事故、タンカーの沈没等による海洋汚染も広く海難に含まれます。代表的な海難対策をいくつか挙げます。

衝突時:まずエンジンを停止し、後退せずそのままの状態を保ち、記録・確認・排水・避難誘導を行う。沈没の危険があれば遭難信号を発し、総員退船の措置を取る。

座礁時:エンジンを停止し、確認・調査を行う。自力で離礁ができないと判断したら、船固めを行う。

火災時:すぐに防火部署配置をとり初期消火にあたる。開口部を閉鎖し、空気を遮断。消火不能と判断すれば総員退船。

船外転落者の救助:発見したら直ちに報告、浮力と目印を遭難者に投げる。報告を受けた操縦者は、転落した弦の方向に舵を一杯に取ってエンジン停止、船尾が転落者の位置を過ぎたら救命艇を下ろす。

海難によって船体や貨物が危険にさらされたとき、船長は安全のため、故意に船の施設や積荷を損害することが認められています。この判断によって利益を受けた関係者が、生じた損害を到着地の価格に応じて按分負担することを共同海損といいます。国土交通省の海難審判所では、海難審判法に基づき審判を行います。主目的は懲戒ではなく、海難の原因を明らかにし、再発を防止することです。

13:気象と海象~船は動く気象観測所~

航海に際して気象状況を知ることは、船の安全に欠かせないことです。しかし、船における気象観測の役割はそれだけではありません。地球表面の70%を占める海の上からの観測データは、気象解析に欠かせないものなのです。気象業法では、定められた条件にあてはまる船は3時間ごとに気象・海象を観測して気象庁に報告することを義務づけています。

気象・海象観測の項目には以下のようなものがあります。①気圧、②気温と湿度、③水温、④風向と風速、⑤雲、⑥天気、⑦視程、⑧波浪

以下に、気象・海象についていくつか解説します。

・海陸風:天気の安定した夏頃に海岸地方でよく吹く。海から陸に向かって吹く海風、陸から海に向かう陸風がある。
・季節風:夏季は海洋から大陸、冬季は大陸から海洋へ、その季節の間一定方向に吹く。
・雲:高度によって上層雲・中層雲・下層雲に分かれる。下層から上層にかけて発達していく雲を対流雲と呼ぶ。
・霧:時化と並んで航海者にとって厄介な気象現象。主なものには放射霧・移流霧・前線霧・蒸発霧等がある。
・潮汐:引力と遠心力が潮汐力となって海面を上下運動させる現象。
・海流:海洋の水が様々な影響によって地球規模で大移動する流れ、

大型の熱帯性低気圧は、発生する場所によって台風、ハリケーン、サイクローンと呼び分けられます。北半球では台風は左渦巻き状の風を吹かせるため、台風の左半円では風が比較的弱まります。このため、台風の左半円を可航半円、右半円を危険半円と呼び、どうしても台風を避けられない場合、船は左半円にいるように努めます。

海底地震や海底火山の爆発など、地殻変動が原因となって起こる波長の長い波のことを津波と呼びます。津波の波長は数百㎞に及ぶこともあり、10分~1時間の周期で数十回に渡って押し寄せます。洋上での津波はさほど高くありませんが、浅海や狭い湾内などでは急激に高くなります。

ここまでで、船と操船について学んできました。次は船が出入りし、荷物や人を積み下ろしする港について解説していきます。港の歴史から始め、そこではどんな法律に基づいてどんな仕事が行われ、船は何をしているのかについてお話していきます。