航海について知ろう~船にはどんな人たちが乗り、どうやって目的地へ向かうのか?~【前編】『新訂 ビジュアルでわかる船と海運のはなし(増補改訂版)』

  • 2021.01.13 

『新訂 ビジュアルでわかる船と海運のはなし 増補改訂版』の内容について引き続き解説を進めます。【今回は第3部の前半を解説していきますね。】

第1部、第2部で船の歴史、種類や仕組みをざっと理解したところで、いよいよ第3部では航海に乗り出します。皆さんのお気に入りの物語や映画の中に、船を扱ったものはありますか?もしあるのなら、それを思い浮かべていただけるとぐっと理解が深まると思います。用いられていた呼び名や場面に映り込んでいた小物などに、「あのことか!」と思い当たるものがあるかもしれません。

船にはどんな役割の人々が乗っていて、どのような道具を用い、どのような決まりに基づいて船を動かし、何を導に目的地へ辿りつくのか。船上でのトラブルにはどう対処しているのか?考えるだけでドラマが生まれそうです。この章を読むときは、是非欄外の注を読んでみてください。各国の船乗り用語から、船の上の日常が見えてきますよ。

6:船の仕事と航海当直~誰がどんな仕事を受け持つか~

海の上では、船長が絶対的な権限を持ち、全責任を負っています。その船長のもと、様々な階級のメンバーが3つの部門に分かれて仕事を担当しています。船は目的地到着まで休むことはありませんので、時間割はシフト制です。

甲板部

甲板部には一等、二等、三等の航海士の他、補佐役として甲板長、甲板手、甲板員がおり、一等航海士の指揮の下で働きます。航海中の当直とは別に、一等航海士は荷役の監督や積荷の管理、二等航海士には航海計器や海図の管理、三等航海士は航海日誌などの管理を担当します。

機関部

機関部は機関長、一等、二等、三等機関士、補佐役の操機長、操機手、操機員がいます。機関部の仕事は機器の運転と整備で、一等機関士の担当は主機、二等発電機とボイラー、三等は電気系統及び空調と冷凍機です。

事務部

現在は専門の事務長や事務員が商船に乗ることはほぼありませんので、通信長と二等通信士、司厨長、司厨手、司厨員が事務部のメンバーとなっています。通信士は通信業務のほか、気象情報の入手や入出港の事務手続き等も担当します。

 

船は昼夜の別なく航海を続けるので、当直(ワッチ)制度が定められています。当直には甲板部による船橋当直、機関部による機関当直、事務部による通信当直があります。現在では船橋から機関部を遠隔操縦でき、衛星電話回線で自由に電話連絡ができるようになったので、機関当直・事務当直は24時間体制ではなくなってきています。

24時間体制の船橋当直は、4時間3直制が普通です。日出没を含む時間を経験豊富な一等航海士、朝から正午まで、夜8時から深夜0時までの時間を経験の浅い三等航海士が担当します。機関部の現在一般的なシフトは、陸上勤務と同じように朝から夕方まで働き、夜間は運転監視警報装置に任せる形ですが、異常が発生した場合は全員が機関室に駆け付けます。

以上は外航船の話で、航海日数の少ない内航船においては乗員の数も限られ、複数の資格を持つ船長が過酷なシフトが強いられることも少なくありません。

7:航海計器~船の『今どこ』をはかる~

航海計器は船の進路や方位を測るものと、船位を求めるもの、船の速力を測るものに大別できます。

磁気コンパス

磁気コンパスは棒磁石の中心に糸をつけて吊るすとN極が磁北を指して静止する性質を利用したもので、いわゆる羅針盤のことです。発祥は中国といわれますが、13世紀のイタリアにおいて航海機器としての磁気コンパスが確立しました。

ジャイロコンパス

高速で回転させた地球ゴマを重力以外の力が作用しない状態に置くと軸が真北を指すという性質を利用したものです。船の揺れに盈虚を受けないことから広く普及していますが、動かすのに電力を使用するため、停電等に備えて必ず磁気コンパスと併用することになっています。

六分儀

六分儀は天体や山頂などの高度角や、2物標間の挟角などを測定する機器で、昔から大洋航海には欠かせませんでした。使いこなすには訓練が必要なため、今でも航海士は電子機器使用不能の事態に備えて六分儀を使いこなせるようにしています。

レーダー

レーダーは、極超短波のパルスがものに当たって反射したものをスコープ上に輝点として表示するものです。現在ではコンピュータとの組み合わせで様々な応用が可能です。

ロラン

2010年代に使用中止が続き、現在はほぼ用いられていませんが、2か所の発信局からの距離を用いて船位を測定する方法の一つです。

GPS

人工衛星による測位システムで、天候に影響されず精度も高いため、今日の多くの船で使われています。

流圧式ログ、電磁ログ

船の速力を測る計器です。水圧を利用する流圧式、電磁誘導の法則を利用した電磁ログでは、精度の高さから、後者が多くの船で採用されています。

ドップラー・ソナー

船底の前後から超音波を発したときの周波数のずれから船の速力を求めます。左右に発した時のずれから左右の動きを測定できます。

音響測深機

船底から海底に向けて超音波を発し、反射して戻ってくるまでの時間で深さを知ることができます。

自動船舶識別装置

呼出符号、船名、目的地等の情報をVHF帯電波で自動的に送受信する装置ですが、軍艦・護衛艦・巡視船等の任務中や、危険海域においては停波することが認められています。

自動進路保持装置

人が操舵しなくても定められた進路の通りに航行するための装置です。障害物やすれ違い等には対処できないので、人間による監視は必要です。

自律航行船

高度なセンサーや情報処理機能を備え、衛星通信による陸上からの遠隔サポート機能を備えた船舶とその運行システムです。輸送量の増大や船員不足等に対応するため、開発に向けての動きが進んでいます。

8:航路標識と水路図誌~何を目標にするか~

船が沿岸や細い水道を航行する際に自然物を目標とするだけでは不便なので、昼夜ともに見やすい標識を設置することが世界中で行われてきました。こうした標識のことを航路標識と呼びます。各国で塔の上で篝火を焚いたり、沿岸の浅瀬などに目的地や通路などを記した澪標を立てたりしてきましたが、代表的なのは灯台です。19世紀に光源としてランプが導入され、光をレンズで拡大する方法が確立したことにより、性能が飛躍的に発展しました。20世紀に入り、大型灯台とは別に防波堤灯や灯浮標の数も増え、無線方位信号所や電波浮標も設けられるようになりました。

航路標識は光波標識、電波標識、その他の標識に大別されます。

光波標識には灯台や灯標等があり、光速距離、明弧、灯質が決まっています。灯質は灯色と光り方の組み合わせで様々なものがあります。

電波標識には無線方位信号所、AIS信号所、DGPS局があります。

その他の標識には、潮流の状態を知らせる潮流信号所、港内や特定海域の船舶交通情報を知らせる船舶通航信号所があります。

海図は海の地図で、緯度・経度・水深・海底の性質等の航行に必要な情報が詳しくい記されています。海図は縮尺によって総図・航洋図・航海図・海岸図・港泊図に分類されます。この上に航路の線を引き、測定した数値を記入しながら、変針点で進路を変えて目的地を目指します。海図の電子化も進んでおり、様々な航行支援装置が開発されています。海図の他に必要となる水路図誌には、水路誌、灯台表、航海暦等があります。

9:航海のルールと信号~海の上の法律~

海上航行に関係のある法律を総称して海事法規といいます。海事法規は古代フェニキア時代から存在したといわれています。

海上衝突予防法

現代の日本の海事法規の中でも、海上衝突予防法は特に重要です。海洋あるいは海洋と繋がる河川・湖沼において適用され、その適用水域を航行するあらゆる船舶が対象となります。特に重要な項目をいくつか紹介します。

・あらゆる視界の状態における船舶の航法

・互いに他の船舶の視界の内にある船舶の航法

・視界制限状態における船舶の航法

・灯火及び形象物

・音響信号及び発光信号

等、定められたあらゆる方法で船の衝突を避けるよう、すべての航海者が熟知しておく必要があります。

港則法・海上交通安全法

港則法は日本の約500の港において適用され、海上交通安全法は船舶交通の複雑な東京湾・伊勢湾・瀬戸内海において適用される海上交通法規です。

国際信号旗

船はIMO(国際海事機関)が採択した国際信号書で規定される国際信号旗によって、様々な通信を行うことができます。

国連海洋法条約

海洋法は海洋自由だけではなく、沿岸国の権益を認めるとともに、海洋管理の考え方を強く盛り込んだものに改定されてきました。現在ではほとんどの国が領海を領海基線から12マイル、排他的経済水域を領海基線から200マイルとすることに同意しています。

現在では、海難事故による汚染や海賊の対処、船舶の所有者と登録者の異なる場合など、従来の管轄権では対応できない問題が増えてきました。そのため、管轄権見直しの動きが高まっています。