船と航海の歴史を知ろう~人のニーズに合わせて発展する船~『新訂 ビジュアルでわかる船と海運のはなし(増補改訂版)』

  • 2021.01.06 

日本は島国ですので、貿易の多くを船に頼っていることは想像に難くありません。その割合をご存じでしょうか?日本の年間輸出入約9億トンのうち、なんと99%以上を船が運んでいます。日本が「モノ」を通して世界と繋がるためには、船は欠かすことのできない大切な手段なのです。

これからご紹介する『ビジュアルでわかる船と海運のはなし』では、日本の生活と切り離すことのできない船と海運について、大きく5つに分けて解説しています。最初に船と航海の歴史を解説し、続いて用いられる船の種類やその構造、航海術と航海計器やルール、港の機能と、いわば海運の背景と道具についての理解を深めます。最後に海運と物流についての知識を時系列順にみていくことにより、この1冊で船舶・海運についての一通りの理解ができるというわけです。

今回は、第1部『船と航海の歴史を知ろう』についてお話しますね。

人が海を渡るのはどうしてでしょう?自分がいる場所は世界のどこなのか、この先に何があり、どんな人々や生きものが存在するのだろう、そういった未知への探求心が、人々を突き動かしてきたに違いありません。また、あるものに価値を持たせようと思ったらどうしますか?ここに「ある」ものを「ない」場所へ運ぶことも、その手段のひとつです。そういった人々の要求が、船と航海術、船を用いた交易を発展させてきました。

1:原始~古代の船と航海

先史時代の資料はそれほど多くはありませんが、今から4~5万年前のアボリジニの祖先がアジアからオーストラリアへ渡るためには、100km程度の海峡を渡らねばなりませんでした。つまり、人々は何らかの手段を用いて海を渡っていたわけです。その頃使われていたのは木の枝や動物の革袋を膨らませたもの、丸太を組み合わせた簡単な筏や丸木舟だったでしょう。

その後エジプトやメソポタミアで河川の航行が大きな役割を果たしたことはよく知られています。紀元前4000年代には、それらの地域で舟に帆を使い始めた形跡が残っています。紀元前3000年頃にはモンゴロイドが東南アジアへ進出を始め、紀元前1500年頃にはフィジーに到達しています。そのためには、南東貿易風に逆らって航行する大胆な改造が必要でした、

古代の地中海で優れた活躍をしたのは、映画『トロイ』などで有名なガレー船でした。ガレーは17世紀の終わり頃まで軍艦としてヨーロッパで使われています。また北方ではヴァイキングが恐れられましたが、彼らは遭遇する海洋動物や風の状態から周囲の環境を読み、航行に利用していたといいます。

日本では古代の海人や奈良時代の遣唐使たちが、船と航海技術を発展させ、交易と文化交流に大きな貢献をしました。遣唐使の頃には、アラブ商人たちは帆船ダウでインド洋世界に広大な交易ネットワークを築いていました。

2:中世~近世の船と航海

室町時代になり明との外交関係が成立すると、遣明船が渡るようになります。羅針盤をはじめとした技術や知識は、倭寇と呼ばれた海賊らによってもたらされたともいわれます。この頃には、日本も海路を用いた交易のメンバーとして世界の交易ルートの中に組み込まれていました、

この頃はいくつものローカルなネットワークが繋がり合うかたちだった交易ルートは、マルコポーロの『東方見聞録』などによって変わっていきます。ヨーロッパがイスラム圏を経ずにアジアの文化や富を手にすることを望んだのです。

大航海時代の始まりには、アジアやアラブ世界から得た技術や知識が大きく貢献し、ヨーロッパ内の海洋交易で得たヴァイキングの技術等も組み合わせ、船と航海技術はこの頃に大きく進歩しました。

大航海時代前半はヴァスコ・ダ・ガマ、コロンブス等のポルトガル人とスペイン人が主導しましたが、後半はイギリス・オランダが台頭しました。植民地開拓とともに新たな航路が拓かれ、カラック・ガレオン等の船も登場します。

日本もその影響を受け、朱印船制度などで大きく航海技術を発展させていくのですが、鎖国によって海外からの技術流入は途絶えました。しかし、北前船などで国内の海運技術は伝えられていました。

3:近代~現代の船と航海

ジェームズ・ワットによる蒸気機関の発明は、船の歴史も一変させます。最初は小型のタグボート用として主に使われた蒸気機関は、次に客船に用いられ、のちに軍艦に使われました。

1876年にディーゼル機関が登場すると、第一次世界大戦までの間に潜水艦や高速艇に搭載されるようになり、のちに軍艦や一般商船にも用いられるようになりました。このディーゼル機関の台頭が、船の大型化・高速化に大きく貢献します。こうした軍事目的での船の発展は、第二次世界大戦後も続いています。ホーヴァークラフト、原子力船、ソナー、レーダーヤGPS等のこうした軍事目的で開発された技術が、現在は商船や漁船の標準技術となっています。

近年、世界の造船国トップ3は中国・韓国・日本が占めています。日本の造船技術は高い水準にありますが、残念ながら特許については海外依存度の高い状況が続いています。

今後船に求められるのは、大型化、安全課、高速化に加え、環境への配慮であることは間違いありません。こちらの技術も確実に進歩しており、有害なSOxを輩出しないLNGを燃料とした船の開発・導入も進むでしょう。

こうした船と航海技術の発展を念頭に置いて、次回からはより細かい内容解説に踏み込んでいきたいと思います。