これからの文明を考える叩き台として使える本!

  • 2020.12.09 

近頃様々な媒体で『持続可能な開発目標(SDGs)』という言葉を目にします。分野ごとに7つのゴールと17のターゲットが設けられていますが、2030年までの短い時間でどのように実現させていけばいいのでしょう。産業の現場で働くひとりの職業人としては、目の前に置かれた様々な実現目標をこなしていくだけで精一杯な毎日です。

「『実現可能な』持続可能な社会ってどういうもの?」という根本的な疑問に、この本が回答を示せるかもしれません。

【これまでの文明を、エネルギーの観点から振り返る】

最初の章では、これまで繫栄し衰退してきた文明を、エネルギーとエントロピーの視点から振り返ります。キーワードは『非平衡系』『散逸構造』。社会や文明、生命や生態系をひとつのシステムとして捉えたとき、外からエネルギーの供給が続く限り、全体的にはそのシステムは内部構造を発展させて成長していく、と考えます。

それでは文明が衰退するのは何故か?答えは『外部からのエネルギー供給が途絶えたから』。ちゃんと食事をとらないと、生物も弱ってしまいますよね。2章ではメソポタミア文明と江戸時代を例にとり、現代産業文明の未来に警鐘を鳴らします。

【再生可能で、生態系に組み込めるエネルギー源とは?】

気候変動が起こり、生態系は崩壊し、資源は尽きかけている。このような状態で利用できるエネルギーは何か?

著者はここで、バイオメタノールを提案します。再生可能エネルギーは太陽光発電や地熱など様々なものが考えられます。著者が考えるのは大規模エネルギープラントから各地に供給するものではなく、地域内でエネルギーの生産・消費・再生産のサイクルを回す『分散エネルギー・クラスター』。そのクラスターたちが自律的に動き、更に協力しあって大きなエネルギーシステムを回していくことを目指しています。これを『資源循環エンジン』と呼びます。管理運営にはAIを用います。各クラスターを結びつける中心として、バイオメタノールプラントが挙げられる理由が、廃棄物回収やその再利用、農業や漁業、山から海に繋がる生態系システムに結び付けるかたちで解説されます。ここでは、エネルギープラントは景観や生態系を害するものではなく、山や海や街から出た廃棄物を回収し、新たなエネルギーを生む生態系の一部なのです。

【ここからはどんな文明ができるのか?】

バイオメタノールプラントを中心としてできる文明はどんなものか?著者は新しい海洋文明国家を提唱し、その作り方を最後の章で語ります。2018年、2019年現在の状況と照らし合わせ、2020以降の社会で、この文明がSDGsをどう実現していけるかを、それぞれの目標と結び付けて語っています。

文明の岐路に直面した今、『実現可能な』『持続可能な』未来を考えることは、現代人の責務ともいえます。『再生可能エネルギーによる循環型社会の構築』は、そのシナリオのひとつを示してくれているのです。