『夢を売る男』百田尚樹

  • 2015.01.21 

『海賊と呼ばれた男』から、百田尚樹作品を読むようになった。ついついのめり込んでしまう書き方は、読む人を楽しませてくれる。本屋でブラブラしていたら、ふと目に入ったタイトル。中身を見ずに購入。読んでみると、出版業界の話。

最初はよくある自費出版会社の話かと思ったけど、そんなこともなさそうだ。自費出版というと、「高額なお金を取られて本屋に並ばない」というようなイメージが多いのではないだろうか。事実、そうやって潰れていった会社もある。この本は、鼻くそをほじりながら、著者を口説く編集部長の牛河原。本を出すということに夢を与え、自費出版という名のもとにお金を巻き上げていく様が書かれている。が、最後まで読むと、牛河原の本心はそこではなさそうだ。

編集者を含め、モノづくりをしている人にとって、自分が考えたこと、とってきた案件は「素晴らしい」と誰もが思っているはずだ。僕も時々本づくりをしている。企画を考え、著者を見つけて、書き上げてもらうと、「これは素晴らしい、絶対に売れる!」と思う。しかし、それが「商売」として成り立つかは別物。どんなに素晴らしいと思っていても、売れなくては事業は成り立たない。逆に「これはね、、、」と思ったものが売れるということもある。だから商売は面白いのだろう。

企画を出すものにとって大切なことが最後に書かれている。

うちも出版社だ。編集者が本当にいい原稿だと心から信じるものなら、出す。そして出す限りは必ず売る!

これは、ある本をどうしても出したいという若手編集者と牛河原のやり取りの後、牛河原が言ったセリフ。こういう思いを持った編集者がどれくらいいるのだろうか? 今や年間8万タイトルにも及ぶ書籍が出ている中で、本当に心から「これはいい原稿だ」と思って出している人が、いるのだろうか?

モノ余りと言われている現代。モノで満たされることは少なくなっている。そのモノを手にした時、どういった感動があるのだろうか? どんな幸せがあるのだろうか? そんなことまで真剣に考えてモノづくりをしていきたい。本当に世の役に立つものを出していきたい。