著者名: | 東京都交通局 監修・大江戸線建設物語編纂委員会 編 |
ISBN: | 978-4-425-96231-0 |
発行年月日: | 2015/6/23 |
サイズ/頁数: | A5判 360頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥2,970円(税込) |
地下鉄建設事業のすべてがわかる!
計画から約30年の歳月を経て開業した、地下鉄「大江戸線」は、新宿駅から光が丘駅までの「放射部」14kmと、都庁前駅を起点に周回する「環状部」29kmからなる「6の字形」をした地下鉄です。他の路線との接続運転がない完全に独立した地下鉄で、日本で最も長い、総延長43kmの路線です。
世界に誇る都市・東京の地下をはしる大江戸線は、小断面トンネルやリニアモータ車両の採用などをはじめ、当時の最新・最高の技術・知識を導入、数々の苦難を乗り越え、開業しました。
本書は、大江戸線の計画から事業の完成までを、実際の建設に携わったメンバーで組織した「大江戸線建設物語編纂委員会」がまとめたものです。
事業のしくみ、許認可手続き、設計、建設工事、電気、車両、運行システムなど地下鉄事業のすべてを、経緯や技術を踏まえながら、建設当時の実際の図面や写真、資料などを豊富に使用してわかりやすく解説しました。
地下鉄建設事業のすべてがわかる1冊です。
【発刊にあたって】より
大江戸線は、その路線名(地下鉄12号線)にふさわしく、平成12年12月12日に全線開業しました。1972年(昭和47年)に都市交通審議会から「東京圏高速鉄道整備計画」(答申15号)において示された13路線のうちの1 路線で、計画が確定してから約30年の歳月を経ての開業となりました。
大江戸線は、新宿駅から練馬区の光が丘駅までの「放射部」14k mと都庁前駅を起点として周回する「環状部」29k mからなる「6の字形」をした地下鉄です。他の路線との接続運転がなく、全行程が地下にある完全に独立した地下鉄で、1 路線としては日本で最も長い地下鉄路線です。総延長約43km は、マラソンコースとほぼ同じで、JR 東海道線の東京駅から大船駅までの距離に相当します。
大江戸線の開業までの道のりは、決して平坦ではありませんでした。建設の免許を取得した1974年(昭和49年)当時の日本は、第一次オイルショックに見舞われ、社会経済状況の激変によって、東京都の財政も極めて厳しい状況となりました。東京への人口と産業の集中の鈍化傾向も相まって、大江戸線の建設を一時見合わせることとなったのです。
その一方で、大江戸線は東京の都市構造を一点集中から多心型に改造し、都市機能をさらに有効に働かせるための基幹的な役割を担う公共交通機関として、都民をはじめ各方面からその完成が待たれてきました。
こうした状況のなか、東京都は1982年(昭和57年)に「東京都長期計画」で大江戸線の整備を重要施策と位置づけ、1986年(昭和61年)に練馬〜光が丘間の工事に着手、大江戸線の建設が始まったのです。
大江戸線建設にあたっては、その膨大な建設費の縮減と工期の短縮が求められました。そのために、小断面トンネルやリニアモータ車両採用などの新技術・新製品の開発・導入、発注方法の工夫などさまざまな対策を講じました。
また、放射部の建設は東京都交通局が担当、環状部は、資金調達や、より効率的・弾力的な執行が期待できる第三セクター方式を採用、東京都地下鉄建設株式会社を設立して建設にあたるなど、これまでの執行体制や建設手法と異なる数多くの特色ある方法を採用しています。
地下鉄の建設は、土木・軌道・建築、設備・電気・車両などの技術はもとより、資金調達や用地取得など多種多様な業務の集大成です。とくに大江戸線の建設は、同時期に完成した、本州四国連絡橋(1999年)、東京湾アクアライン(2000年)など、20世紀の掉尾を飾るビッグプロジェクトにも匹敵する大事業であり、多くの関係者の英知と経験、技術、努力の成果でもあります。
本書は、開業15周年を迎えた大江戸線の計画から事業の完成までについて、事業のしくみ、許認可手続き、設計、建設工事、車両、運行システム等、地下鉄事業のいっさいを、その経緯や技術を踏まえながら、建設当時に使用した実際の図面や写真、関連の論文などを使用してとりまとめたものです。また、参考になると思われるものについては、開業後の動きもとりいれています。
発刊にあたっては、放射部、環状部の工事に携わった東京都、国、(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構をはじめ、設計・工事を担当した協力会社の方々から多くの資料・情報提供をいただき、実際に大江戸線建設に携わった関係者が編纂、執筆をしております。
手に取ってご覧いただければ、地下鉄建設事業の概要とともに、大江戸線の路線概要や独自の技術についてもご理解いただけると思います。本書が技術伝承の教材となり、今後の地下鉄建設事業等の参考となれば幸いです。
平成27年5 月
「大江戸線建設物語」編纂委員会
野崎 春己
【はじめに】より
東京都交通局は、明治44年8 月1 日に東京市が交通局の前身である電気局を創設し、路面電車事業と電気供給事業を開始して以来104年の歴史を歩んできました。大正12年の関東大震災の際には市電が甚大な被害を受けましたが、その代替手段としてフォード社製自動車を緊急に輸入し、大正13年1 月から今日の都バスの起源となるバス事業を開始しました。その後、東京大空襲などの戦災も乗り越え、東京の都市機能の強化に資するとともに高まる都民の交通ニーズに応えるため、路面電車とバスに加え、地下鉄4 線を順次建設・開業し、さらに新交通システムである日暮里・舎人ライナーの運行を開始するなど、都営交通ネットワークの充実を図ってきました。現在では、都営交通は一日平均で約315万人(平成25年度)のお客様にご利用いただいており、東京の都市活動や都民生活に欠かせない公共交通機関として重要な役割を担っています。
中でも都営地下鉄は、浅草線(昭和35年開業)、三田線(昭和43年開業)、新宿線(昭和53年開業)、大江戸線(平成12年全線開業)の4 路線を合わせ、営業キロで109km、106駅を有し、一日平均で約250万人のお客様にご利用いただいており、現在、都営交通の輸送の主力を担うに至っています。
このうち大江戸線は、昭和49年に免許を取得しましたが、当時は、オイルショックによる社会経済状況の激変等の影響を受け、東京都の財政も厳しい状況にあり、小断面トンネルと小型車両、急勾配・急曲線でも運行可能なリニアモータ、自動運転によるワンマン運転など、新技術の導入や様々な工夫を凝らすことで、建設費を可能な限り縮減する努力を重ねたと聞いております。
放射部と環状部からなり、他路線との乗換に便利な大江戸線は、今や都営地下鉄4 線の中で最もお客様が多い路線に成長しました。さらに、臨海部など大江戸線の沿線では新たなまちづくりが進んでおり、年々、お客様の数が増えております。こうした状況も踏まえ、ホームの安全性を向上させるため、平成22年から三田線と同様の腰高式のホームドアの整備に着手し、平成25年4 月に全38駅での設置を完了させました。さらに、2020年東京オリンピック・パラリンピック大会では、国立競技場駅がオリンピックスタジアムの最寄駅となるなど、大江戸線は大会期間中の輸送の主力を担う交通機関として、重要性を増していくものと考えています。
今回、多くの関係者のご尽力により「大江戸線建設物語」が発刊されることになりましたが、本書が地下鉄をはじめ鉄道事業に携わる人々や鉄道に関わる仕事を志す若者たちに技術を紹介するだけに留まらず、東京都交通局の職員が大江戸線建設工事の際の新技術の導入経緯や諸先輩方の努力を改めて認識し、都営地下鉄の安全性とサービス水準をさらに高めていく上で、大いに活用されることを期待してやみません。
平成27年6 月
東京都交通局長
新田 洋平
第1編 東京の公共交通と大江戸線の概要
第1章 東京の公共交通
1 東京の公共交通
2 東京の地下鉄
3 都営地下鉄の概要
第2章 大江戸線開業までの歩み
1 大江戸線の誕生と社会情勢
2 放射部の建設
3 環状部の建設
1 東京都地下鉄建設・経営調査会の発足
2 地下鉄12号線建設推進本部の設置
3 環状部の建設
4 開業後の付帯工事
コラム 開業が1日遅れると1億円の損失
4 大江戸線の延伸計画
第3章 建設計画
1 基本計画
1 ルート・駅位置計画
2 配線と運転方法
3 車庫・工事計画
4 輸送需要
コラム 需要予測
5 建設費と補助制度
(1)建設費
(2)補助制度
6 整備効果
7 行政手続き
コラム 免許
2 大江戸線の特徴と建設費縮減の方策
(1)小断面トンネルの採用
(2)小型車両の導入と駅施設の標準化・小型化
(3)二次覆工の省略
(4)用地費の縮減
(5)工事発注方法の工夫
コラム 区分地上権
第2編 建設
第4章 駅・駅諸施設等
1 駅計画の基本方針
1 基本的な考え方
2 方針
2 駅の規模・駅施設等
1 駅の規模・形式
2 規模の設定
3 構造
4 駅デザイン
5 ゆとりの空間
4 バリアフリー対策
7 サイン計画
3 駅建築工事
1 施工
2 仕上
3 昇降機の一括発注と外国製品の導入
コラム 外国企業の参入あれこれ
4 出入口の有効活用
5 地下駐輪場と防災倉庫の設置
6 庁舎
7 駅設計に関する受賞
4 換気・排水等諸施設対策
1 大江戸線の駅設備等の課題
2 列車風対策と「SEAS」
コラム 列車風について?
3 冷房負荷と「New-SEAS」
4 冷房・換気・排煙設備
5 排水設備
6 監視制御設備
7 他線との連絡駅の防災体制
コラム 列車風について?
第5章 トンネル
1 路線概要
1 放射部の路線概要
2 環状部の路線概要
2 トンネル建設の概要
1 トンネルの施工法
2 全体工事数量
3 掘削土・埋戻土について
4 土木工事の工事発注と施工体制
5 工事工程
3 放射部の建設(新宿〜光が丘間約14km)
1 光が丘駅(春日町第二工区・光が丘第一/第二工区)
2 高松車庫(高松車庫第一・高松車庫第二工区)
3 中野坂上駅(中野坂上工区)
4 都庁前駅(西新宿第一工区)
5 新宿駅(新宿第一工区)
4 環状部の建設(新宿〜都庁前間 約28.8km)
6 飯田橋駅(飯田橋駅工区・飯田橋工区)
7 上野御徒町・新御徒町駅(上広・元浅草工区)
8 清澄白河駅(清澄工区)
9 木場車庫(木場車庫工区)
10 門前仲町駅(門仲・月島工区)
11 汐留駅(汐留・浜松町工区、汐留駅工区)
12 六本木駅・青山一丁目駅(六本木・青山工区)
13 汐留連絡線の建設
14 勝どき駅ホーム増設工事
第6章 軌道工事
1 軌道一般
1 軌道関係の施設
2 平面線形・縦断線形
コラム カントとスラック
3 軌道構造
コラム レール長さによる分類
コラム PCマクラギ
4 分岐器(種類、敷設数)
コラム 分岐器の番数
5 レール塗油器
6 車庫(高松・木場)の施設
7 汐留連絡線
8 車止め
2 軌道工事
1 軌道建設工事の経緯
2 放射部の軌道建設(分割工区施工)
3 環状部の軌道建設(大工区制、JV 方式)
コラム 起動建設におけるコスト縮減
4 汐留連絡線の軌道建設
5 軌道建設工事施工フロー
コラム 軌道整正とは次の軌道変位を所定の位置に整正すること
3 線路の保守
1 線路に関する法令等
コラム 破差の解消
2 土木施設の維持管理
3 保守作業
4 将来への対応
第3編 電気設備・車両
第7章 電気設備
1 変電設備
1 受電変電所
2 変電所(電車電力用)
3 電気室
4 電力管理システム
2 送配電線路
1 送電線路
2 高圧配電線路
3 低圧配電線路
3 電車線路
1 吊架方式
2 電車線の高さ・勾配
3 き電線
4 信号保安設備
1 軌道回路
2 車内信号・ATC装置
3 連動装置
4 運行制御装置
コラム 列車間の安全確保(閉そく等)
5 通信設備
1 光通信設備
2 電話設備
3 列車無線装置
4 時計設備
5 放送設備
6 ITV設備
7 直流電源設備
8 通信線路
コラム 列車間の間隔を確保する装置による運転
交通局における運転方式
都営地下鉄の電車線構造
第8章 車両
1 車両要件の概要
1 車両規格決定の経緯
2 車両デザインの決定
3 車両設計に関する基準
コラム ワイパー
4 地上と車両との基本システム
コラム 列車無線装置(改造リニア車)
5 試作車両
コラム 試作車両の展示
2 本線を使用した試運転(車両の基本性能確認)
3 開業に向けた車両の設計・製作
1 営業車両の基本設計思想
2 車両の製作と導入実績
3 1 次車の概要(練馬〜光が丘間の開業用車両)
コラム 台車
4 3 次車(8連貫通車)
コラム 1・2次車の改造工事
4 車両の搬入について
1 1次車
2 2次車
3 3次車
4 4次車
5 電気機関車
1 性能条件
コラム 12−600形車両/12−600形2次車の搬入
2 製作上の課題・特殊性
コラム レールの摩耗と対策
第9章 車庫
1 車庫建設計画
2 車両検修場
1 光が丘車両検修所(高松車庫)
2 木場車両検修場(木場車庫)
3 馬込車両検修場(馬込車庫)
4 車両の各種検査
第4編 運転・安全対策
第10章 運転
1 営業線の概要
2 運転計画
コラム ダイヤ作成担当者のこぼれ話
3 運転その他
1 運輸指令
2 右側に設置の運転台
3 ホームドアの設置
4 輸送力増強と混雑率
第11章 安全対策
1 駅の安全対策
コラム ホームドアの設置
2 運行や車両・設備の安全対策
3 災害に対する備え
カテゴリー: