路面電車ー運賃収受が成功のカギとなる!?ー 交通ブックス127


978-4-425-76261-3
著者名:柚原 誠 著
ISBN:978-4-425-76261-3
発行年月日:2017/12/18
サイズ/頁数:四六判 236頁
在庫状況:在庫有り
価格¥1,980円(税込)
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LRT と路面電車は異なる乗り物なのか? いや、本質的には何ら変わるものではない。日本でも現代の路面電車、次世代型路面電車として注目を浴びて久しいが、欧米に比べて、なぜ普及・浸透してこなかったのか?著者はそのカギを運賃収受の方法にあると指摘する。
ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアなどの海外事例と比較・検証し、大量輸送かつ定時運行が可能なLRT(路面電車)導入成功のための改善策を提案。LRT(路面電車)が?速くて便利な公共交通?になり得るか否か、その可能性に迫る一冊!

【まえがき】 パリ都市圏に1992年から8つの路面電車路線が開業した。そのひとつT 2号線には、全長33mの路面電車を2組連結した、全長66m、扉12か所、定員426人の、まさに列車44のような長い路面電車が走っている。

朝の通勤通学時間帯は4分間隔(15本/時)で運転しており、定員輸送力は1 時間・片方向約6,400人、満載輸送力は8,900人にもなる。
しかも、このように大きな路面電車が、スムーズにワンマン運転されている。果たして、運賃はどのように収受しているのだろうか。
このT2号線の長い路面電車は、京阪電気鉄道京津線(京都市営地下鉄東西線に乗り入れて浜大津〜京都市役所前〜太秦天神川間を直通運転)の列車(4両編成、全長66m、扉12か所、定員366人)とほとんど同じ大きさで、両者ともワンマン運転だ。
京津線は軌道法に拠る線区だが路線の大部分は新設軌道(道路上に敷設される併用軌道ではなく、電車専用に敷設した線路で見た目は鉄道線の線路と同じ。車両も鉄道線タイプ)であり、すべての駅は新設軌道区間にあって駅舎があり、運賃収受は駅の自動改札機で行っている。乗入れ先の地下鉄線内では、当然ながら駅の自動改札機で運賃を収受している。
一方、T2号線は、路面電車であるから停留所には自動改札機などの運賃収受用の設備は何も無い。わが国のように運転士が運賃を収受する訳でもない。乗客が自律的にIC カード乗車券を、車内に多数設置してあるカードリーダにタッチして運賃を支払う「セルフサービス方式」(下記、図により解説。わが国では「信用乗車方式」と呼ばれることがある。第2章の1.5を参照。)を採用している。
「セルフサービス方式」なので、12か所のすべての扉で同時に乗り降りできとても便利で、停車時間はごく短い。このように大きな路面電車がスムーズにワンマン運転されるのは、「セルフサービス方式」の威力だ。
京津線の併用軌道区間は、現在は浜大津〜上栄町間の800m 弱しかない。かつてはこの併用軌道区間に「札の辻」という停留所が存在したが1945年に休止になり、その後廃止された。
もし、この停留所が現在も存在していたら運賃収受はどのようにするのだろうか。運転士が運賃を収受する方式では、長さ66mの列車には全くお手上げだ。
駅があり、運賃収受を駅員や自動改札機によって地上(駅)で行う地下鉄、都市鉄道線、モノレールや新交通システムでのワンマン運転、いわゆる「都市型ワンマン」の場合は、車掌が乗務しなくても運賃収受に関しては何の影響も無い。
しかし、駅が無い路面電車やバスはもちろん、駅員がおらず自動改札機も無い駅ばかりの鉄道閑散線区の列車に車掌が乗務しない、つまり、ワンマン運転をする場合には、運賃収受をどのようにするかを解決しなければならない。
日本では、1954(昭和29)年に名古屋市電が「ワンマン運転」を始めるにあたって「運賃収受は運転士が行う」ことにした。この方式が今も続いている。
これは、乗客一人ずつ順に乗務員が運賃を収受するから停車時間が長くなって表定速度が低く、乗車扉と降車扉が指定されるので車内移動というバリアが伴うことから利便性が低い。
この方式では、66m もの長さの電車には対応ができないのは言うまでも無い。
「セルフサービス方式」は、車掌の運賃収受に関する仕事を乗客が肩代わりする、つまり、乗客の444セルフサービス方式によって運賃を収受する方式だ。
「セルフサービス方式」の採用こそが、路面電車を速くて利便性の高い中量輸送システムへ発展させたカギだった。パリのT2号線は「現代の路面電車」の代表例だ。
この革新的な運賃収受方式は、何と半世紀以上も前の1960年代の半ばにスイス:チューリヒで採用され、全長42m、定員330人の長〜い路面電車のワンマン運転が始まったのである。
そして、1970年代の初めには西ヨーロッパ各国に普及し、路面電車の運賃収受のグローバル・スタンダードとして、1980 年代以降にはアメリカ、カナダはもちろんアジアの香港、台湾にも普及した。
本書は、速くて便利な中量輸送システムである現代の路面電車(いわゆる「LRT」)の発展過程を振り返り、それを活用するための条件は運賃収受方式の革新、つまり、「セルフサービス方式」の採用が必要不可欠であることを明らかにするものである。
本書により、路面電車・LRTの普及のために運賃収受方式の革新という本質的な議論が、市民、路面電車事業者、そして行政担当者の中で深まれば、執筆した者としてこれに優る喜びはない。

2017年10月
柚原 誠

【目次】
第1章 Light Rail Transit(LRT)とは何か
 1.1 その定義 ―アメリカ、ヨーロッパでは―
 1.2 ストラスブール、サンディエゴ、香港、台湾の例
 1.3 日本の現況と課題

第2章 ヨーロッパの路面電車戦後史  2.1 運賃収受の改善・革新
  2.1.1 パッセンジャーフロー方式
  2.1.2 「下車駅までの乗車券を所持して乗車する」習慣
  2.1.3 ノーマンカー
  2.1.4 セルフサービス方式
  2.1.5 「セルフサービス」か「信用乗車」か
 2.2 車両、施設、運行の改善
  2.2.1 車両の大形化
  2.2.2 走行空間の確保とネットワークの維持
  2.2.3 鉄道線へ乗入れ ―都市近郊地区と都心の直結―
  2.2.4 車両の低床化
   ・部分低床車
   ・100% 低床車
   ・低床車のトレンド
  2.2.5 長大組成で輸送力増大
  2.2.6 ゴムタイヤトラム、連接バス
 2.3 路面電車で街づくり

第3章  日本の路面電車の実態 ―LRT になり切れなかった歴史―  3.1 レトロ
 3.1.1 「 レトロでんしゃ館」の展示電車の運賃収受方式は今も現役
  3.1.2  サンフランシスコの「レトロ」PCC カーは「セルフサービス方式」
 3.2 日本の路面電車戦後史
  3.2.1 PCC カーと「無音電車」
  3.2.2 車両の小型化
  3.2.3 ワンマン運転開始
  3.2.4 風靡した「路面電車邪魔者論」
  3.2.5  大形車両の導入と運賃収受方式の改善 ―札幌市電―
  3.2.6 軽快電車
  3.2.7 車両の低床化
   ・東急玉川線200形
   ・100% 低床車を輸入
   ・部分低床車は不合格
   ・国産低床車の黎明期
   ・国産100% 低床車の誕生と普及
   ・理想は部分低床車
 3.3 日本の路面電車の現況
  3.3.1 東京都電荒川線
  3.3.2 広島電鉄
  3.3.3 富山ライトレール
  3.3.4 福井鉄道
  3.3.5  4つの路面電車に見る「不都合」 ―乗降扉と運賃収受方式の不統一

第4章 理想の運賃収受方式を探る  4.1 利便性か完全な運賃収受か
  4.1.1 ヨーロッパの異端 車掌乗務の路面電車
   ・イギリス
   ・オランダ:アムステルダム
  4.1.2 進まない「セルフサービス方式」の採用
   ・50 年前の「セルフサービス方式」紹介記事
   ・不埒千万な情報「セルフサービス方式=タダ乗り可能方式」
   ・「セルフサービス方式」採用の機会は活かされなかった
  4.1.3 「東は東、西は西」でよいのか
 4.2 「セルフサービス方式」採用の課題
  4.2.1 公共交通の大切さ啓蒙
  4.2.2 中華民国(台湾)高雄市の事例
  4.2.3 不正乗車の抑止
   ・乗客の相互監視
   ・抜き打ち改札
  4.2.4 「セルフサービス方式」を活かす運賃制度
  4.2.5 「受益者は誰か?」運賃収入の補填
 4.3 「セルフサービス方式」は現代の路面電車の「核心」
カテゴリー:交通ブックス タグ:交通ブックス 路面電車 鉄道 
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