電気機関車とディーゼル機関車(改訂版) 交通ブックス124


978-4-425-76232-3
著者名:石田周二・笠井健次郎 共著
ISBN:978-4-425-76232-3
発行年月日:2017/9/8
サイズ/頁数:四六判 292頁
在庫状況:在庫有り
価格¥1,980円(税込)
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日本は一時は世界経済の機関車と呼ばれていたこともありますが「機関車」は、日本の工業技術の発展を語るうえで欠かせない存在です。本書では内外の電気機関車とディーゼル機関車について、その構造と技術の発展の経過、各国の状況とメーカーの変遷などを長らく車両の開発・設計に携わってきた2人の著者が詳細に解説しました。
改訂版では、旧版から2年間の世界情勢の変化、たとえば中国での各社勢力の変化と生産の急減、インドの技術導入の開始、ヨーロッパ3強ではボンバルディアの経営問題、主なメーカーの現地生産と投資の進展、とくに目覚ましいディーゼル機関車でのGEの進出などが追加され、技術的には粘着の解析に関することやスイスの状況と操舵台車のことが追加されています。

【改訂版発行にあたって】 2年前に初版を出版して、各位から種々のご意見とご指摘をいただいた。データや記述事項も修正の必要があると思われたこともその後いくつか出てきたし、ご指摘いただいた事項もあり感謝する次第である。このたび再版されることとなったが、読み返してみると2 年間の間に技術的にはそれほど大きな変化はなかったが、各国の機関車の状況にはかなり変動があった。とくにヨーロッパの三強では、大発展していたボンバルディアが航空機事業の赤字の影響で売却や合併の話が出てきたし、中国は機関車を2006年以降に各国から新しい方式を技術導入し9,000両を製造したが、2016年以降には需要が減ったか生産が急減した。南アフリカには中国が進出し、インドにはフランスが電気機関車を800両、GE からディーゼル機関車1,000両を輸入・現地生産する計画など、ここも方向が決まってきた。
これらのため出版社と打合せ、できる範囲で追加修正し改訂版として再版することとなった。ページ数は大幅に増やさない程度で、できるだけ修正追加したつもりである。不十分なところもあるがご了承をお願いしたい。なお、写真については、初版に提供いただいたカバー写真を含め何枚かを新しいものに替えさせていただいた。

2017年7月
石田周二 笠井健次郎

【まえがき】より  機関車という言葉は蒸気機関車にイメージされるとおり力強く景気がいい。日本も一次は世界経済の機関車と言われた。とにかく力のあるものの代表で、蒸気機関車、ディーゼル機関車、電気機関車と発展してきたダイナミックで魅力のある機械である。最近の日本では新幹線をはじめとする電車が人気があるが、世界的には機関車は交通と輸送に重要な位置にある。この本の話題には国内だけでなく機関車として重要なテーマと現在の最新の状況を取り上げた。残念ながら日本はGDPの大きさに対して機関車の数が少なく新幹線に代表されるような電車の国である。フランスはTGVが機関車牽引で、ドイツも最初のICEは機関車であった。諸外国で資源輸送などが多いところでは、貨物輸送の鉄道が主であるところが多く大形の機関車が活躍する。日本は交流電化の発展の際に機関車が多く製造されたが、その後の貨物はトラック輸送と海運が、旅客輸送は電車が発達したため機関車が少なくなってしまった。このために国内の話題が少なくなったきらいはあるが、機関車は機械・電気・ソフト・ITの総合システムという魅力は依然として大きく技術的にも面白い。
 鉄道交通はシステム技術であって、旅客輸送では軌道、車両、信号に運行管理、乗客サービス、通信、異常処理などがバランスよく構成されていないとうまく機能を発揮できない。この点で日本は世界トップクラスである。貨物輸送ではこのほかに長大列車運転、荷扱いシステムと積み下ろしの合理化が必要でエネルギー消費は自動車輸送の6分の1とされているが、日本はこの点では遅れているので今後の開発が期待される。
 機関車は蒸気機関車から、電気機関車、ディーゼル電気機関車、交流電化、液体式ディーゼル機関車、新幹線に代表される高速鉄道、インバータの応用、IT技術の導入、ハイブリッド式、デュアルモードと発展してきた。今後はロボット技術、人工知能、通信の応用、機械の電子制御などがそのステップの大きなものであろう。これらについて各国の状況について書くつもりである。
 まず第1章では機関車についての基礎的な内容をまとめた。その種類や動力、各国の車両車両について紹介し導入部とした。
 第2章に電気機関車について直流と交流と交直流を合わせてまとめた。
 ディーゼル機関車は電機式と液体式では技術分野が大きく異なるので、分割して第3章と第4章とした。またインバータの出現は電気機関車とディーゼル機関車の設計共通化などに影響を与え、それらの距離を縮めることになったので、これを第5章にまとめた。第6章以降は最新の状況を踏まえた技術の発展をまとめた。
 最近は環境への配慮が車両の構造にも大きな影響を与えるようになった。ディーゼル車両の燃費改善と排気エミッションを減らすのは大きな問題である。エンジンそのものは改良に努めているが、車両もマルチエンジン、ハイブリッドシステムなど通常はエンジンで走って排気を出せないところは電気で走るデュアルパワーなど新しい方式が出現してきた。また、自動車のように燃料電池を使った機関車もいずれ出現することと思われる。このような新しいシステムは第6章にまとめた。
 なお、この本で取り上げる機関車は500kW程度以上のものとし、またTGVのような固定編成列車の機関車については詳しくは書いていない。
 世の中では列車の校正を動力集中式と動力分散式と分類している。わが国は新幹線をはじめとする動力分散式が方針と言われるが、この両者をはっきりと区別するものではない。各々長所を生かして動力装置の配置を混在させ、どうすればもっとも用途に合った列車を構成するか、つまり必要十分な加減速ができて、動力機器の数を減らし、軸重と騒音振動を減らして軌道の負担を軽減して鉄道全体のコストを下げ、安全と快適さと異常時に対処できることが求められる。今後は機関車とも電車ともつかないものがいろいろ出現すると思われる。
 筆者の一人は国内外のディーゼル機関車、電気機関車、コンピュータ応用の運行管理システムなどの設計に長く従事した。計算好きの癖が出て本書もやや理屈が多いと思われるがご諒承をお願いする。もう一人は車両の研究・設計に従事した理論はであるが、小さいときからの鉄道ファンで国内外機関車の歴史派である。二人の合作で鉄道ファン向けと車両の理論派向けとの中間的なものになるが、そういうものもあっても良いと思うのでご理解してお読みいただければ幸せである。

2015年5月
石田周二・笠井健次郎

【目次】
第1章 機関車の基礎知識
 1.1 機関車にはどんなものがあるのか
 1.2 軸配置と BoBo、CoCo のような表示方式
 1.3 列車編成 長大貨物列車から通勤電車まで
 1.4 機関車(動力集中方式)と電車(動力分散方式)の比較
 1.5 動力分散・動力集中での各国の進め方の違い
 1.6 電気機関車とディーゼル機関車を比べると
 1.7 各国鉄道の輸送需要と機関車の両数

第2章 電気機関車  2.1 電気方式の変化 直流から交流まで
            抵抗制御からインバータまで
 2.2 戦前戦後の日本の抵抗制御直流電気機関車
 2.3 国鉄の新形高性能直流機関車の開発
 2.4 直流6軸のF形電気機関車の量産
 2.5 交流電気機関車 直接式からサイリスタ制御まで
 2.6 交流電化の最初は交流整流子電動機式
 2.7 水銀整流器を使った交流機関車の登場
 2.8 水銀整流器からシリコン整流器へ
 2.9 交直流機関車 モノモータから各軸駆動へ
 2.10 サイリスタ位相制御の導入で交流機関車は大発展
 2.11 その後の直流機関車の状況
 2.12 機関車で牽引される山岳・峡谷の観光列車
 2.13 諸外国の状況

第3章 電気式ディーゼル機関車  3.1 ディーゼル機関車の電気式と液体式の比較
 3.2 電気式の技術テーマ
 3.3 鉄道車両用エンジンと特徴
 3.4 日本におけるディーゼル電気機関車の開発競争
 3.5 日本からの輸出
 3.6 アメリカのディーゼル電気機関車
 3.7 イギリスのディーゼル電気機関車
 3.8 ドイツのディーゼル電気機関車
 3.9 フランスのディーゼル電気機関車
 3.10 ロシアのディーゼル電気機関車
 3.11 中国のディーゼル電気機関車
 3.12 インドのディーゼル電気機関車

第4章 液体式ディーゼル機関車  4.1 ドイツで発展した液体式ディーゼル機関車
 4.2 気動車用エンジンの産業用ディーゼル機関車
 4.3 日本最初の本格的液体式ディーゼル機関車DD13
 4.4 電気式DF50から液体式機関車DD51へ
 4.5 DD51の1/2のDD20
 4.6 ドイツより技術導入のDD54
 4.7 新機軸の5軸機関車DE10とDE50
 4.8 いまのドイツでの液体式ディーゼル機関車の状況
 4.9 イギリスでは液体式ディーゼル機関車は短命
 4.10 中国の液体式「東方紅」は1991年まで

第5章 インバータ式の電気機関車とディーゼル機関車  5.1 インバータ機関車の発展
    電気機関車とディーゼル機関車の急接近
 5.2 日本のインバータ機関車の開発
 5.3 ドイツのインバータ機関車
 5.4 フランス、アルストムのインバータ機関車(Prima)
 5.5 イギリスのインバータ機関車
 5.6 アメリカ ディーゼル電気機関車の開発項目
 5.7 中国のインバータ機関車
 5.8 ロシア・ウクライナ・カザフスタン
 5.9 インドのインバータ機関車の国産化
 5.10 各社混戦の南アフリカのインバータ電気機関車
 5.11 韓国

第6章 新しい方式の機関車  6.1 マルチエンジン機関車による排気ガスと燃費の改善
 6.2 ハイブリッド機関車のメリットと発展
 6.3 デュアルパワー機関車 とくにアメリカ
 6.4 つぎの時代に向けた新方式の機関車

第7章 粘着特性の解明と制御  7.1 粘着とは摩擦とどう違う
 7.2 勾配での列車の引き出し 機関車の一番の役目
 7.3 粘着に影響する様々な因子

第8章 電機技術  8.1 電動機
 8.2 タップ切換器 交流機関車初期の重要課題
 8.3 主回路方式と制御 半導体と制御の緊密な協力開発
 8.4 パワーデバイス 日本は強い分野
 8.5 制御用素子 アナログからマイコンへ
 8.6 IT技術 デジタルからネットワークへ
 8.7 パワーデバイスの冷却技術

第9章 車体と台車の技術  9.1 車体の側受支持による軽量化
 9.2 引張力伝達と軸重移動 かつての台車特徴点
 9.3 機関車の走行時の振動による問題
 9.4 駆動装置の構造
 9.5 曲線通過と横圧 とくに3軸台車の問題点
 9.6 台車枠の強度 軽量薄板溶接と鋳鋼品
 9.7 車体の強度 衝突時の運転士保護と破壊解析
 9.8 防塵・フィルタ・防雪

第10章 機関車のマーケット・業界・生産状況  10.1 世界のマーケット
 10.2 日本国内のいままでの状況 トラック輸送に負けた
 10.3 輸出形態の変化 完成品輸出から現地生産へ
 10.4 各国の現状
 10.5 リース会社と保守会社の発達 新しい動向
 10.6 機関車メーカーの変遷 欧米の企業統合と寡占 日本の方向は

第11章 これからの課題
【著者紹介】 石田周二(いしだ しゅうじ)
1933年生まれ
京都大学大学院(機械)1年終了、(株)日立製作所入社 笠戸工場、水戸
工場にて国内外のディーゼル機関車、電気機関車の取りまとめと機械部分
の設計開発、運行管理システムなどシステム製品の設計開発に従事、水戸
工場主管技師長兼笠戸工場主管技師長、全社材強振動部会長、(株)ひたち
なかテクノセンター常務取締役(出向)を経て退職。台車軌道系の摩擦振
動とレール波状摩耗の研究で工学博士(九州大学)、技術士(機械部門)。

笠井健次郎(かさい けんじろう)
1935年生まれ
東京大学工学部機械工学科卒業 (株)日立製作所入社 笠戸工場にて鉄道
車両、モノレール、オフロード車両等の研究開発に従事、車両のアクティ
ブ振動制御で斯界に先駆け、制御付振子電車の実用化に寄与。
広島大学非常勤講師(交通機械担当)。
一時期、社内ベンチャー組織で業務用映像機器の開発、製造担当。
退職後、技術士(総合技術監理部門、機械部門)事務所開設。
赤門鉄路クラブ会員。


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