大江戸線建設物語 地下鉄のつくり方ー計画から開業までー


978-4-425-96231-0
著者名:東京都交通局 監修・大江戸線建設物語編纂委員会 編
ISBN:978-4-425-96231-0
発行年月日:2015/6/23
サイズ/頁数:A5判 360頁
在庫状況:在庫有り
価格¥2,970円(税込)
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地下鉄建設事業のすべてがわかる! 計画から約30年の歳月を経て開業した、地下鉄「大江戸線」は、新宿駅から光が丘駅までの「放射部」14kmと、都庁前駅を起点に周回する「環状部」29kmからなる「6の字形」をした地下鉄です。他の路線との接続運転がない完全に独立した地下鉄で、日本で最も長い、総延長43kmの路線です。
世界に誇る都市・東京の地下をはしる大江戸線は、小断面トンネルやリニアモータ車両の採用などをはじめ、当時の最新・最高の技術・知識を導入、数々の苦難を乗り越え、開業しました。
本書は、大江戸線の計画から事業の完成までを、実際の建設に携わったメンバーで組織した「大江戸線建設物語編纂委員会」がまとめたものです。
事業のしくみ、許認可手続き、設計、建設工事、電気、車両、運行システムなど地下鉄事業のすべてを、経緯や技術を踏まえながら、建設当時の実際の図面や写真、資料などを豊富に使用してわかりやすく解説しました。
地下鉄建設事業のすべてがわかる1冊です。


【発刊にあたって】より

大江戸線は、その路線名(地下鉄12号線)にふさわしく、平成12年12月12日に全線開業しました。1972年(昭和47年)に都市交通審議会から「東京圏高速鉄道整備計画」(答申15号)において示された13路線のうちの1 路線で、計画が確定してから約30年の歳月を経ての開業となりました。
大江戸線は、新宿駅から練馬区の光が丘駅までの「放射部」14k mと都庁前駅を起点として周回する「環状部」29k mからなる「6の字形」をした地下鉄です。他の路線との接続運転がなく、全行程が地下にある完全に独立した地下鉄で、1 路線としては日本で最も長い地下鉄路線です。総延長約43km は、マラソンコースとほぼ同じで、JR 東海道線の東京駅から大船駅までの距離に相当します。
大江戸線の開業までの道のりは、決して平坦ではありませんでした。建設の免許を取得した1974年(昭和49年)当時の日本は、第一次オイルショックに見舞われ、社会経済状況の激変によって、東京都の財政も極めて厳しい状況となりました。東京への人口と産業の集中の鈍化傾向も相まって、大江戸線の建設を一時見合わせることとなったのです。
その一方で、大江戸線は東京の都市構造を一点集中から多心型に改造し、都市機能をさらに有効に働かせるための基幹的な役割を担う公共交通機関として、都民をはじめ各方面からその完成が待たれてきました。
こうした状況のなか、東京都は1982年(昭和57年)に「東京都長期計画」で大江戸線の整備を重要施策と位置づけ、1986年(昭和61年)に練馬〜光が丘間の工事に着手、大江戸線の建設が始まったのです。
大江戸線建設にあたっては、その膨大な建設費の縮減と工期の短縮が求められました。そのために、小断面トンネルやリニアモータ車両採用などの新技術・新製品の開発・導入、発注方法の工夫などさまざまな対策を講じました。
また、放射部の建設は東京都交通局が担当、環状部は、資金調達や、より効率的・弾力的な執行が期待できる第三セクター方式を採用、東京都地下鉄建設株式会社を設立して建設にあたるなど、これまでの執行体制や建設手法と異なる数多くの特色ある方法を採用しています。
地下鉄の建設は、土木・軌道・建築、設備・電気・車両などの技術はもとより、資金調達や用地取得など多種多様な業務の集大成です。とくに大江戸線の建設は、同時期に完成した、本州四国連絡橋(1999年)、東京湾アクアライン(2000年)など、20世紀の掉尾を飾るビッグプロジェクトにも匹敵する大事業であり、多くの関係者の英知と経験、技術、努力の成果でもあります。
本書は、開業15周年を迎えた大江戸線の計画から事業の完成までについて、事業のしくみ、許認可手続き、設計、建設工事、車両、運行システム等、地下鉄事業のいっさいを、その経緯や技術を踏まえながら、建設当時に使用した実際の図面や写真、関連の論文などを使用してとりまとめたものです。また、参考になると思われるものについては、開業後の動きもとりいれています。
発刊にあたっては、放射部、環状部の工事に携わった東京都、国、(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構をはじめ、設計・工事を担当した協力会社の方々から多くの資料・情報提供をいただき、実際に大江戸線建設に携わった関係者が編纂、執筆をしております。
手に取ってご覧いただければ、地下鉄建設事業の概要とともに、大江戸線の路線概要や独自の技術についてもご理解いただけると思います。本書が技術伝承の教材となり、今後の地下鉄建設事業等の参考となれば幸いです。

平成27年5 月
「大江戸線建設物語」編纂委員会
野崎 春己

【はじめに】より

東京都交通局は、明治44年8 月1 日に東京市が交通局の前身である電気局を創設し、路面電車事業と電気供給事業を開始して以来104年の歴史を歩んできました。大正12年の関東大震災の際には市電が甚大な被害を受けましたが、その代替手段としてフォード社製自動車を緊急に輸入し、大正13年1 月から今日の都バスの起源となるバス事業を開始しました。その後、東京大空襲などの戦災も乗り越え、東京の都市機能の強化に資するとともに高まる都民の交通ニーズに応えるため、路面電車とバスに加え、地下鉄4 線を順次建設・開業し、さらに新交通システムである日暮里・舎人ライナーの運行を開始するなど、都営交通ネットワークの充実を図ってきました。現在では、都営交通は一日平均で約315万人(平成25年度)のお客様にご利用いただいており、東京の都市活動や都民生活に欠かせない公共交通機関として重要な役割を担っています。
中でも都営地下鉄は、浅草線(昭和35年開業)、三田線(昭和43年開業)、新宿線(昭和53年開業)、大江戸線(平成12年全線開業)の4 路線を合わせ、営業キロで109km、106駅を有し、一日平均で約250万人のお客様にご利用いただいており、現在、都営交通の輸送の主力を担うに至っています。
このうち大江戸線は、昭和49年に免許を取得しましたが、当時は、オイルショックによる社会経済状況の激変等の影響を受け、東京都の財政も厳しい状況にあり、小断面トンネルと小型車両、急勾配・急曲線でも運行可能なリニアモータ、自動運転によるワンマン運転など、新技術の導入や様々な工夫を凝らすことで、建設費を可能な限り縮減する努力を重ねたと聞いております。
放射部と環状部からなり、他路線との乗換に便利な大江戸線は、今や都営地下鉄4 線の中で最もお客様が多い路線に成長しました。さらに、臨海部など大江戸線の沿線では新たなまちづくりが進んでおり、年々、お客様の数が増えております。こうした状況も踏まえ、ホームの安全性を向上させるため、平成22年から三田線と同様の腰高式のホームドアの整備に着手し、平成25年4 月に全38駅での設置を完了させました。さらに、2020年東京オリンピック・パラリンピック大会では、国立競技場駅がオリンピックスタジアムの最寄駅となるなど、大江戸線は大会期間中の輸送の主力を担う交通機関として、重要性を増していくものと考えています。
今回、多くの関係者のご尽力により「大江戸線建設物語」が発刊されることになりましたが、本書が地下鉄をはじめ鉄道事業に携わる人々や鉄道に関わる仕事を志す若者たちに技術を紹介するだけに留まらず、東京都交通局の職員が大江戸線建設工事の際の新技術の導入経緯や諸先輩方の努力を改めて認識し、都営地下鉄の安全性とサービス水準をさらに高めていく上で、大いに活用されることを期待してやみません。

平成27年6月
東京都交通局長
新田 洋平

【目次】

第1編 東京の公共交通と大江戸線の概要
第1章 東京の公共交通
 1  東京の公共交通  2  東京の地下鉄  3  都営地下鉄の概要
第2章 大江戸線開業までの歩み  1  大江戸線の誕生と社会情勢  2  放射部の建設
 3  環状部の建設
  1 東京都地下鉄建設・経営調査会の発足
  2 地下鉄12号線建設推進本部の設置
  3 環状部の建設
  4 開業後の付帯工事
   コラム 開業が1日遅れると1億円の損失
 4 大江戸線の延伸計画
第3章 建設計画  1 基本計画   1 ルート・駅位置計画
  2 配線と運転方法
  3 車庫・工事計画
  4 輸送需要
   コラム 需要予測
  5 建設費と補助制度
  (1)建設費
  (2)補助制度
  6 整備効果
  7 行政手続き
   コラム 免許
 2 大江戸線の特徴と建設費縮減の方策   (1)小断面トンネルの採用
  (2)小型車両の導入と駅施設の標準化・小型化
  (3)二次覆工の省略
  (4)用地費の縮減
  (5)工事発注方法の工夫
   コラム 区分地上権

第2編 建設
第4章 駅・駅諸施設等
 1 駅計画の基本方針
  1 基本的な考え方
  2 方針
 2 駅の規模・駅施設等   1 駅の規模・形式
  2 規模の設定
  3 構造
  4 駅デザイン
  5 ゆとりの空間
  4 バリアフリー対策
  7 サイン計画
 3 駅建築工事
  1 施工
  2 仕上
  3 昇降機の一括発注と外国製品の導入
   コラム 外国企業の参入あれこれ
  4 出入口の有効活用
  5 地下駐輪場と防災倉庫の設置
  6 庁舎
  7 駅設計に関する受賞 
 4 換気・排水等諸施設対策   1 大江戸線の駅設備等の課題
  2 列車風対策と「SEAS」
   コラム 列車風について?
  3 冷房負荷と「New-SEAS」
  4 冷房・換気・排煙設備
  5 排水設備
  6 監視制御設備
  7 他線との連絡駅の防災体制
   コラム 列車風について?

第5章 トンネル  1 路線概要
  1 放射部の路線概要
  2 環状部の路線概要
 2 トンネル建設の概要   1 トンネルの施工法
  2 全体工事数量
  3 掘削土・埋戻土について
  4 土木工事の工事発注と施工体制
  5 工事工程
 3 放射部の建設(新宿〜光が丘間約14km)   1 光が丘駅(春日町第二工区・光が丘第一/第二工区)
  2 高松車庫(高松車庫第一・高松車庫第二工区)
  3 中野坂上駅(中野坂上工区)
  4 都庁前駅(西新宿第一工区)
  5 新宿駅(新宿第一工区)
 4 環状部の建設(新宿〜都庁前間 約28.8km)   6 飯田橋駅(飯田橋駅工区・飯田橋工区)
  7 上野御徒町・新御徒町駅(上広・元浅草工区)
  8 清澄白河駅(清澄工区)
  9 木場車庫(木場車庫工区)
  10 門前仲町駅(門仲・月島工区)
  11 汐留駅(汐留・浜松町工区、汐留駅工区)
  12 六本木駅・青山一丁目駅(六本木・青山工区)
  13 汐留連絡線の建設
  14 勝どき駅ホーム増設工事

第6章 軌道工事  1 軌道一般   1 軌道関係の施設
  2 平面線形・縦断線形
   コラム カントとスラック
  3 軌道構造
   コラム レール長さによる分類
   コラム PCマクラギ
  4 分岐器(種類、敷設数)
   コラム 分岐器の番数
  5 レール塗油器
  6 車庫(高松・木場)の施設
  7 汐留連絡線
  8 車止め
 2 軌道工事   1 軌道建設工事の経緯
  2 放射部の軌道建設(分割工区施工)
  3 環状部の軌道建設(大工区制、JV 方式)
   コラム 起動建設におけるコスト縮減
  4 汐留連絡線の軌道建設
  5 軌道建設工事施工フロー
   コラム 軌道整正とは次の軌道変位を所定の位置に整正すること
 3 線路の保守
  1 線路に関する法令等
   コラム 破差の解消
  2 土木施設の維持管理
  3 保守作業
  4 将来への対応

第3編 電気設備・車両
第7章 電気設備
 1 変電設備
  1 受電変電所
  2 変電所(電車電力用)
  3 電気室
  4 電力管理システム
 2 送配電線路
  1 送電線路
  2 高圧配電線路
  3 低圧配電線路
 3 電車線路
  1 吊架方式
  2 電車線の高さ・勾配
  3 き電線
 4 信号保安設備
  1 軌道回路
  2 車内信号・ATC装置
  3 連動装置
  4 運行制御装置
   コラム 列車間の安全確保(閉そく等)
 5 通信設備
  1 光通信設備
  2 電話設備
  3 列車無線装置
  4 時計設備
  5 放送設備
  6 ITV設備
  7 直流電源設備
  8 通信線路
   コラム 列車間の間隔を確保する装置による運転
       交通局における運転方式
       都営地下鉄の電車線構造

第8章 車両  1 車両要件の概要
  1 車両規格決定の経緯
  2 車両デザインの決定
  3 車両設計に関する基準
   コラム ワイパー
  4  地上と車両との基本システム
   コラム 列車無線装置(改造リニア車)
  5 試作車両
   コラム 試作車両の展示
 2 本線を使用した試運転(車両の基本性能確認)  3 開業に向けた車両の設計・製作
  1 営業車両の基本設計思想
  2 車両の製作と導入実績
  3 1 次車の概要(練馬〜光が丘間の開業用車両)
   コラム 台車
  4 3 次車(8連貫通車)
   コラム 1・2次車の改造工事
 4 車両の搬入について
  1 1次車
  2 2次車
  3 3次車
  4 4次車
 5 電気機関車
  1 性能条件
   コラム 12−600形車両/12−600形2次車の搬入
  2 製作上の課題・特殊性
   コラム レールの摩耗と対策

第9章 車庫  1 車庫建設計画  2 車両検修場   1 光が丘車両検修所(高松車庫)
  2 木場車両検修場(木場車庫)
  3 馬込車両検修場(馬込車庫)
  4 車両の各種検査

第4編 運転・安全対策
第10章 運転
 1 営業線の概要
 2 運転計画    コラム ダイヤ作成担当者のこぼれ話
 3 運転その他
  1 運輸指令
  2 右側に設置の運転台
  3 ホームドアの設置 
 4 輸送力増強と混雑率
第11章 安全対策  1 駅の安全対策
   コラム ホームドアの設置
 2 運行や車両・設備の安全対策  3 災害に対する備え


この書籍の解説

2022年は鉄道開業150周年にあたります。それから日本中に鉄道網は広がってきました。地上の線路を走るものだけでなく、路面電車や地下鉄、モノレールや新交通システム等も次々と開業しました。かつては未来の乗り物だったリニアの開業も、今や実現に近づいています。
さて、鉄道に興味を持った子どもさんに、「地下鉄はどこから入れるの?」と尋ねられた親御さんはいないでしょうか。私(担当M)は大人になってから鉄道ファンになったので、地上にある車両基地の中や付近に地下へ続く入口があり、そこから入れているのだと知っています。
今回ご紹介する『大江戸線建設物語』の表紙には、まさにその場面写真が載っています。大江戸線の車両基地は木場公園の地下にありますが、少し離れた建物の中に搬入口があります。そこから車両を運び入れるのです。
都営大江戸線が開業したのは、2000年12月です。日本一長く(横浜市営地下鉄ブルーラインの延伸で追い抜かれる予定です)、日本一深い地下鉄駅六本木駅を擁する、6の字形の路線です。「ゆめもぐら」と名付けられかけたことなどが記憶に残っている方もいるでしょう。大江戸線の車両はリニアモータ方式で動いていて、未来の技術を先取りしていたことも少し話題になりました。
開業が今から約20年前という比較的新しい地下鉄なので、計画段階からの詳細な記録が鮮明なカラー画像や図面で残っています。これらの資料をもとに、計画当時から計画に関わったメンバーがこの本をまとめあげました。路線計画から実際の建設工事、電気設備や車両、車庫や運転に至るまで、「地下鉄のできるまで」を詳細に確認できます。
深くて長い6の字地下鉄が走り出すまでの、短いタイムスリップにお付き合いください。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『大江戸線建設物語 地下鉄のつくり方ー計画から開業までー』はこんな方におすすめ!

  • 鉄道ファン
  • 鉄道会社で路線計画等に関わる方
  • 地下鉄事業に関わる方

『大江戸線建設物語 地下鉄のつくり方ー計画から開業までー』から抜粋して3つご紹介

『大江戸線建設物語』から抜粋していくつかご紹介します。当時の最先端技術を用い、計画から30年かけて開業に至った都営大江戸線。計画から事業の完成までに関わった人々により、計画・設計・建設工事・設備・車両・運行システムまでを詳細にまとめました。

換気・排水等諸施設対策

《大江戸線の駅設備等の課題》 大江戸線は深い位置にトンネルや駅を建設することになりました。そのため、以下のような課題が生じました。
① 小断面積トンネルによる列車風
小断面積のトンネルを列車が走行することで、ホームや階段に強い風「列車風」が生じます。
② リニアモータ方式車両による駅・トンネル内の発熱
リニアモータは、発熱量が多いという特徴があります。駅・トンネル内から熱を排出することがより重要です。
③ 駅が深いことなどによる動力設備容量の増大
駅とトンネルが深いため、送水や送風動力も大きくなり動力設備容量が大きくならざるを得なくなりました。
④ 火災対策と他鉄道との防災上の安全性配慮
駅・トンネル内には 「火災対策設備」 の設置が義務づけられています。また乗換駅では火災等緊急時にその影響が他路線へ及ばないようにする必要があります。乗換駅ではこの両面に配慮した防災設備を構築することを求められました。

《列車風対策と「SEAS」》 トンネルの中を列車が走行すると列車風が生じます。階段等の断面積の狭いところでは危険な強風が起こる可能性があります。大江戸線では、対策として「SEAS」を開発し、駅構内の施設配置の見直し検討を行いました。これをもとに、パソコンで簡易的に計算できるソフトを開発しました。
《冷房負荷と 「New-SEAS」》
「SEAS」を発展させて、電車の走行や人の乗降などの種々の発熱源や換気による熱の特質、地中との熱伝導等の条件を入力することにより最適の空調設備をシミュレーションするための「New-SEAS」を開発しました。これを用いて必要換気・冷房設備を設定することにより、コストの低減と省エネルギーを実現できました。

《冷房・換気・排煙設備》 ① 換気排煙設備の法令と設備基準
大江戸線の換気排煙設備は、「地下駅の取扱いについて(案)」等に基づき、駅ごとに詳細協議を行い決定しました。 排煙設備については、「火災対策の基準」 並びに消防法にも適合するよう、設備基準を設定しました。
② 冷房設備
環状部では、New-SEASにより冷房負荷を決定し、冷房方式として、ホーム・コンコース換気と排煙設備を兼用できる単一ダクト方式を採用しました。
③ 換気設備
ホーム・コンコースについては、新宿線の実績をふまえ、換気量を確保しました。
④ 排煙設備
ホーム・コンコースは「火災対策の基準」に基づく排煙基準に沿った設備としました。さらに「地下駅の取扱い」・消防法・東京都火災予防審査基準を全て満足するものとしました。

《排水設備》 ① 排水設備の概要
大江戸線では、排水をトンネル部湧水・駅部雑排水・駅部生活排水に分離集水し、別々に排水することを原則としました。
トンネル部湧水:シールド勾配による自然流下、中間ポンプ所でのポンプ圧送による排水
駅部雑排水:軌道階の駅端部に雑排水槽→ポンプアップによる公共下水道へ排水
駅部生活排水:生活排水槽→手洗所用汚水槽→公共下水道へ排水

② 排水槽
(1)トンネル部湧水排水槽容量
駅端部の湧水排水量は、防災対応量と保守時の停電対応量のどちらか大きい容量としました。中間ポンプ所は同一排水系統内の防災対応および停電対応の容量を加算しました。
(2)駅部雑排水槽容量
駅部雑排水槽の計画は、異常対応時と保守時の停電対応時のいずれか大きい容量で計画しました。
(3)駅部生活排水槽
生活排水槽は、洗面器、シャワー室、湯沸しユニット等の位置から集水量を想定して槽を設けました。

③ 排水ポンプ
(1)ポンプ計画
各種ポンプの計画は、設備の最小化を図るため、 原則、1台で排水できる能力のポンプと、予備機の構成としました。
(2)トンネル中間ポンプ所の計画
環状部の中間ポンプ所の一部には、電車運行時間帯以降であっても容易に入場できない構造であることから、ポンプ故障時の対応として、予備機を増やすこととしています。

④ 湧水の河川放流
地下鉄構築やシールド内に漏水する湧水を経年調査した結果、湧水の水質が河川放流の基準を充たしているとわかったため、配管ルートを確保できた箇所で河川放流を実施しています。

地下にある鉄道駅のホームやコンコースでは、天井に貼られたビニールシートにチューブを繋いで水漏れの応急処置を行っている場面をよく目にします。大江戸線は深い位置にあるだけに、水対策の苦労も大きなものだったようです。

汐留連絡線のルート

大江戸線車両の日常的な検査は木場車庫と高松車庫で行っていますが、地下車庫であるため、油脂類を用いて車両の修繕を行うことができません。このため、浅草線の馬込車両工場を活用し、大江戸線汐留駅から分岐して浅草線に接続する汐留連絡線を建設することとなりました。

汐留駅では引上線を延長しました。リニアモータ駆動で浅草船内では自走できない大江戸線車両をこの汐留駅引上線で機関車と連結し、馬込工場に回送します。機関車のパンタグラフがトロリー線に追従できるよう、連絡線と浅草線との並行区間にパンタ調整区間を設置しました。

ルートは汐留駅から汐留区画整理地の環状2号線道路予定地内と国道15号線を経て浅草線新橋大門間の既設トンネルに接続する、延長約440mの単線トンネルです。JR各線や浅草線との交差および近接施工となるため、① 汐留工区、② JR委託工区、③東新橋工区の3分割にて施工しました。

① 汐留工区
汐留連絡線は環状2号線の地下を占用することから、東京都建設局と協定を締結し同時期に工事を施工することとしました。

② JR 委託部
この区間は、環状2号道路の建設とこれに伴う東海道線・京浜東北線・山手線のレンガアーチ高架部の改築工事と競合しました。また新幹線と横須賀線のシールドに交差近接するため、JR東日本とJR東海に施工を委託しました。

③ 東新橋工区
東新橋工区は住友生命ビル跡地から国道15号下を進んで浅草線と連絡する部分までの延長約230mの工区です。
(1)浅草線との接続構造
汐留連絡線と浅草線との連絡接続部は、浅草線側壁を開口し新設部と一体化する渡り線構造となるため、渡り線開口部の構造について、解析モデル、開口部の補強桁の形状、耐震等の検討を行い、連結部全体の構造バランスを重視した最終案を決定しました。
(2)施工概要
新設部の土留壁は埋設管横断による不連続部を除く全域を鋼矢板で施工しました。掘削床下は高圧噴射による地盤改良を行いました。浅草線の接続部では、トンネルの中柱の増設や下床版の増厚による補強を事前に行っています。
新設トンネルと浅草線の構築が一体になった後に浅草線の側壁を約20mにわたってワイヤソーによる壁の切断と撤去を行い、渡り線部の仕上げを行いました。

《馬込車両基地の再編整備》
大江戸線車両の重要部検査および全般検査を行うため、浅草線の馬込車両検車場と同車両工場を再編整備して、車両検車場の敷地内に浅草線車両の検修と大江戸線車両の検修を行う馬込車両検修場を建設しました。敷地南側に馬込保線管理所、馬込車両検修場、浅草線電気管理所が入る総合庁舎、その直近北側に車両検修場を建設し、馬込車両工場の機能を移転するとともに、大江戸線車両の重要部検査および全般検査を行う機能を併設しました。平成14年度から検修業務を開始しています。

馬込の車両基地には、浅草線に乗り入れている京成、京急、北総の車両も入ってきます。基地公開イベントがあると珍しい車両が顔を揃えるので、なかなか見応えがありますよ。一際小柄な大江戸線と、リニアゆえに単独では浅草線を走れない大江戸線車両を引っ張ってくる機関車も空の下で一緒に姿を見せてくれます。

開業に向けた車両の設計・製作

《営業用車両の基本設計思想》 大江戸線車両は、小型軽量化を図るとともにリニア駆動方式を採用し、ATOを装備したワンマン運転を行うなど、次世代にふさわしい地下鉄車両としました。最新技術を採用し、高性能、省エネルギー、メンテナンスフリー、乗客サービスなどについて検討・評価を行いました。
① 車両は地下における都市施設
車体は丸みのある造形としました。天井は可能な限り高く、凹凸を少なくしました。

② ワンマン運転に対応した車両
ATO、ホーム乗降監視用モニタなどのハード面と、運転士と運輸指令が連携するソフト面を整え、2人乗務と同程度の安全性確保と乗客サービスの向上を同時に実現することを目指しました。
運転台はATOによるワンマン運転を考慮したレイアウトとし、運転士は車上のモニタにより乗降監視を行います。また列車情報装置(ATI)を搭載し、各機器の動作状態やドア開閉の状況、故障の内容を運転台モニタ画面に集約表示します。

③ 鉄車輪式リニアモータ駆動方式を生かした車両
扁平リニアモータにより客室空間を最大限利用し、セルフステアリング台車により低騒音化を図りました。非常ブレーキの回生一部負担、常用ブレーキでは全回生ブレーキ負担および停止直前では逆相ブレーキを採用しました。力行時は、高速域、上り勾配、編成内のユニット故障についても自動的に加速度を補正する方式としています。

④ 保守が容易な車両
車両は大幅なメンテナンスフリー化を図りました。各機器は自己診断機能を持たせるとともに、ATI伝送系の情報集約機能を活用し、月検査レベルを車上主体で行う車両システムとしています。また、車両走行中にATC信号レベルなどを測定し、検修業務を支援するシステムとしました。

⑤ 省エネルギー車両
車体のアルミ化、光ファイバー伝送による電線のぎ装線の削減および各装置の小型化、車体の軽量化を図るとともに走行抵抗の少ない先頭部形状にしました。銅RPに対応したVVVFによる高効率制御としました。
⑥環境に配慮した車両
空調には環境負荷が小さい冷媒を採用し、ノンハロゲン電線、セルフステアリング台車による低騒音化など、環境に最大限配慮しました。

《車両の製作と導入実績》 車両は、平成2年に開業した練馬駅~光が丘駅間で使用を開始した12-000形1・2次車、新宿延伸開業と引き続く環状部(全線)開業用に増備した3・4次車に加え、輸送力増強のため、平成24年には12-600形が増備されました。
車両形式は、大江戸線が地下鉄12号線として建設された経緯から、12-000形としました。このほか、浅草線の馬込基地まで牽引回送するための電気機関車が在籍しています。

大江戸線の車両は他の地下鉄と比べて小さいのですが、あまり圧迫感はありません。天井が高く丸みのある車体デザインのお陰ですね。また、子ども連れ用スペースにはキャラクターを使った楽しい装飾が採用されています。「きかんしゃトーマス」をよく見かけますが、かこさとしの「だるまちゃん」も今年の春に仲間入りしたようです。

『大江戸線建設物語 地下鉄のつくり方ー計画から開業までー』内容紹介まとめ

2000年12月、都営大江戸線は計画から約30年を経て開業しました。日本一長く、日本一深い駅を有する6の字形の大江戸線は、他の路線との接続がない、小断面トンネルやリニアモータ車両を採用している等、様々な特徴があります。計画から運行までに関わった人々が、豊富な資料を用いて「大江戸線のできるまで」をわかりやすく解説しました。

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『電気機関車とディーゼル機関車(改訂版) 交通ブックス124』
日本の貨物輸送を支えてきた機関車。その構造と歴史、活躍してきた主な型式、各国の状況やメーカーの変遷、電気や車体、台車の技術などを、種類別に詳細解説しました。機関車市場にも触れています。

『東海道新幹線運転室の安全管理 200のトラブル事例との対峙』
新幹線の始まり、東海道新幹線。走り始めてから運転士たちが向き合ってきた様々なトラブル。あわや大事故!というものから、見方によっては微笑ましいものまで、運転士たちが書き記した日誌から抜粋します。新幹線の安全を支えてきた人々の、日々の努力が見えてくるでしょう。


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カテゴリー:鉄道 タグ:建設 鉄道 
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