著者名: | 兵藤哲朗・根本敏則 編著 |
ISBN: | 978-4-425-92991-7 |
発行年月日: | 2024/3/28 |
サイズ/頁数: | A5判 224頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥3,520円(税込) |
2024年4月から導入される時間外労働の上限規制、自動車運転者の労働時間等の改善のための労働時間規制によって輸送能力が不足し、「モノが運べなくなる」可能性が懸念される「物流2024年問題」。その解決に向けてさまざまな取組みが検討されるとともに、物流事業者を支える道路施策も議論されています。本書は、その施策の中でも有力な手段となるダブル連結トラックや関連する高速道路SA ・PAなどの道路施策について、調査研究を取りまとめ、物流危機に対する方策や技術適用の可能性、課題などを詳説。今後の物流、道路施策等にヒントを与える1冊となります。
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【はじめに】
2024年4月から導入される労働基準法による時間外労働時間の上限規制、および「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」の改定による労働時間規制が物流業界に大きな衝撃を与えている。1人のドライバーが働くことができる時間が短くなるため、ドライバー不足に拍車がかかるのである。実は、2017 年に「物流クライシス」という言葉が巷間流布され、宅配便業界などで業務再編が進んだが、今回も「物流の2024 年問題」として「ドライバー不足」「運べない危機」など、同じキーワードがマスコミなどで大きく取り上げられている。
政府も事態を重く受け止め、2023 年10 月の物流革新緊急パッケージのなかで、「トラック運転手の労働負担の軽減」としてトラック大型化のための「大型・けん引免許の取得に対する支援」および「物流DX の推進」として「自動運転トラックを対象とした実証実験の推進」などの施策を発表した。それら施策で重要な役割を果たし得るのは、トン単位で約90%、トンキロ単位で約50%を担うトラック輸送の効率化であることは間違いない。諸外国で長距離トラック輸送を担っているのは総重量40 トン超のセミトレーラーであるが、わが国では総重量20 トン超の単車(いわゆる大型トラック)であり、労働生産性の差は歴然としている。
本書は「トラック輸送のイノベーション」に着目し、関連する先端技術やその適用可能性などについて紹介することを目的とする。内容は3部構成で、「第1部 物流危機を救う長大トラックをめぐる動向」では、2016年からの社会実験を契機に普及しつつある全長23m超のダブル連結トラックに着目し、その効果について、事業者の立場から見た必要性や、道路インフラ整備の必要性などについて議論を展開する。なお、「長大トラック」の定義については後述する「本書に関わる重要事項と定義」を参照いただきたい。道路インフラのなかでもダブル連結トラック利用の大きな制約条件となっているのが高速道路のサービスエリア(SA)・パーキングエリア(PA)における平日深夜の大型車の混雑問題である。そこで「第2部 高速道路SA・PAの混雑緩和の実現方策」では、高速道路会社による対策を紹介するとともに、最新のETC/FF(Free Flow)データや、ドローン撮影画像データ、交通マイクロシミュレーションを駆使した混雑緩和に資する施策を紹介する。
「第3部 海外事例とわが国への導入」では、ドイツをはじめとする関連海外事例の紹介や、物流MaaS(Mobility as a Service)が果たし得る役割、そして視野に入りつつある高速道路における「レベル4」の自動運転を念頭に置いたインフラ整備についても考察している。とりわけ長大トラック車両の効率的な運用や自動運転運行を想定した場合、拠点整備のあり方が大きな課題になることがわかってきたため、その問題についても道路施策として提言を行っている。つまり、「トラック輸送のイノベーション」には、トラック単体技術のみならず、それを効率的に利用する企業のサプライチェーン構築や、公共事業としての道路インフラ整備などが含まれる。
編著者両名は、国土交通省・社会資本整備審議会・道路分科会・基本政策部会・物流小委員会および2021 年6 月に閣議決定された総合物流施策大綱(2021年度~ 2025 年度)の検討会のメンバーであり、それら会合で行政を含む多くの物流関係者が創意と工夫をこらして施策・対策を講じていることを知ることができた。「トラック輸送のイノベーション」も重要な施策・対策のひとつであるが、物流関係者の努力が実り、「物流クライシス」を乗り切ることを切に願っている。
本書の主な内容は、2020 ~ 2022 年度の国土交通省・新道路技術会議プロジェクト「ダブル連結トラックおよび貨物車隊列走行を考慮した道路インフラに関する技術研究開発(代表:兵藤 哲朗)」の成果に基づいている。しかし紙面の都合上、プロジェクトで得られた多くの重要な資料の紹介を割愛せざるを得なかった。幸い、同プロジェクトの関連報告書のPDF ファイルはネット上で公開されているので、適宜、そちらを参照いただければ幸いである。最後に、本書に含まれる研究の一部は公益社団法人日本交通政策研究会の研究プロジェクトの成果であり、同研究会双書の一冊として出版の許諾を頂戴している。ご支援いただいた同研究会には感謝を申し上げたい。
2024年3月
編著者 兵藤 哲朗・根本 敏則
【目次】
第1部 物流危機を救う長大トラックをめぐる動向
第1章 長大トラックの意義と道路インフラの問題点
1.1 長大トラックによる労働生産性の向上
1.2 ダブル連結トラックの導入経緯
1.3 長大トラック活用に関わる問題点 道路インフラを中心に
第2章 車両の大型化を支える通行制度
2.1 大型貨物車の保有・輸送状況
2.2 大型貨物車の通行制度
2.3 今後の大型貨物車の通行制度への期待
第3章 ダブル連結トラック利用区間の延伸とその効果
3.1 全国道路・街路交通情勢調査における大型貨物車の実態分析
3.2 ダブル連結トラックの走行需要が高い区間の抽出
3.3 走行可能区間を拡大した場合の整備効果に関する分析
第4章 事業者からみたダブル連結トラック活用の課題と対策
4.1 貨物車の大型化の概要
4.2 特積運送におけるダブル連結トラックの導入
4.3 自動車部品輸送におけるダブル連結トラックの導入
4.4 ダブル連結トラックの活用の課題と対策
4.5 ダブル連結トラックのさらなる活用に向けて
第5章 ダブル連結トラックの導入と運用
5.1 ダブル連結トラックの導入と運用における課題
5.2 ダブル連結トラックの経済性評価
5.3 ダブル連結トラックを用いた共同輸送の運行形態
5.4 ダブル連結トラックを用いた共同輸送のための物流拠点の立地
5.5 ダブル連結トラックの重要性
第2部 高速道路SA・PA の混雑緩和の実現方策
第6章 NEXCO によるSA・PA の利便性向上策
6.1 SA・PA における駐車場の混雑問題
6.2 SA・PA における駐車場設計の基本的な考え方
6.3 SA・PA に関わるこれまでの取組み
6.4 SA・PA の新たな取組み
第7章 ETC/FF データからみたSA・PAの現状と課題
7.1 高速道路SA・PAの問題点
7.2 ETC/FF データによる実態把握
7.3 SA・PA混雑緩和の方策について
7.4 SA・PA選択モデルによる混雑緩和施策の考察
7.5 SA・PAのさらなる活用と展開に向けて
第8章 SA・PAにおける大型車の混雑状況の把握
8.1 SA・PAにおける駐車状況の把握
8.2 ドローン撮影によるSA・PAにおける大型車の駐車状況の調査
8.3 駐車状況の把握と課題
第9章 マイクロシミュレーションによるSA・PAレイアウト評価
9.1 足柄SAの利用特性に関する分析
9.2 Vissimによるマイクロシミュレーションの条件設定
9.3 マイクロシミュレーションの分析結果と考察
9.4 マイクロシミュレーションの有効性について
第3部 海外事例とわが国への導入
第10章 海外における長大化と電動化
10.1 海外のトラック運送
10.2 トラックの長大化の現状
10.3 トラックの電動化
第11章 ドイツにおける縦列駐車場の展開
11.1 ドイツにおける高速道路の休憩施設と駐車マスの不足
11.2 ドイツにおける縦列駐車場の概要
11.3 日本への導入に向けて
第12章 わが国のコンパクト駐車場の導入可能性分析
12.1 出発時刻管理を考慮した駐車シミュレーションの開発
12.2 シミュレーション分析の結果
12.3 コンパクト駐車場の実際の設計と運用に関する考察
12.4 高速道路SA・PA での駐車容量拡大に向けた課題
第13章 自動運転トラックの開発と運用
13.1 トラックの自動化
13.2 高速道路における自動運転トラックに対応した物流拠点の整備
13.3 自動運転トラックの普及に向けて
第14章 長大トラックの活用に向けた物流MaaSの実現
14.1 物流MaaSの概念と課題
14.2 欧州におけるトラックデータの標準化
14.3 日本における物流MaaSの実現に向けた課題
14.4 これからの物流MaaSの実現への期待
この書籍の解説
郵便や宅配便、届くのが遅くなった気がしていませんか?また日々の仕事において、物品調達の日数短縮に苦労している方もおられるかもしれません。そうでない方も、ニュースなどで「物流2024年問題」についての話題を耳にしたことはないでしょうか。
この問題の原因といわれているのは、2024年4月から、自動車運転業務の人の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることです。非人間的な働き方があってはいけませんし、運転手が疲労してしまったら事故も起こりやすくなりますので、この働き方改革は当然のことです。しかし、「トラック運転手が足りなくなる」ことも事実なのです。解決策として、測度制限の緩和や免許の条件緩和などが検討されているとニュースが流れてきますが、輸送量を増やした上で安全性を確保できるかどうか、難しいところです。
ここで、「運転手」ではなく、運ぶ「車」そして車が使用する道路やPAなどの「インフラ」を変えていくという選択肢はどうでしょう?今回ご紹介する『トラック輸送イノベーションが解決する物流危機』では、ダブル連結トラックに注目してこの物流危機を乗り切る対策を検討します。海外の広い道路を走る長いトラックを見たことはあるでしょうか?あの長大トラックを輸送に用いることで、一度に運べる量を物理的に増やそうというのです。
本書では、長大トラックを巡る動向、車両の大型化に必要なインフラや制度、輸送状況と評価、事業者からみた課題、導入と運用について解説したのち、高速道路SA・PA関係の現状把握と評価を行います。最後に、海外事例と日本への導入について紹介します。
長大トラックは危機に瀕した日本の物流を変えられるでしょうか?
この記事の著者
スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。
『トラック輸送イノベーションが解決する物流危機』はこんな方におすすめ!
- 物流事業者の方
- 道路政策・駐車場政策に関わる方
- 物流危機について関心のある学生・研究者の方
『トラック輸送イノベーションが解決する物流危機』から抜粋して3つご紹介
『トラック輸送イノベーションが解決する物流危機』からいくつか抜粋してご紹介します。2024年4月から導入される時間外労働の上限規制等によって輸送能力が不足し、「モノが運べなくなる」可能性が懸念される「物流2024年問題」。解決に向けて検討されている取り組みにおいて、道路施策も議論されています。ダブル連結トラックや関連する高速道路SA・PAなどの道路施策について、調査研究をまとめ、物流危機解決へのヒントを示しました。
長大トラックによる労働生産性の向上
持続可能な物流の実現のためには、働生産性の向上が重要です。「ダブル連結トラック」は2台分の貨物を輸送できるため、長距離輸送分を担当できれば労働生産性を高めることが期待できます。しかし利用条件が厳しく、走行できる区間は現在5,000km程度です。長大トラックをより活用できるような環境整備が求められています。
(1)ドライバー不足に拍車をかける「2024年問題」
ドライバーの労働時間の長さと所得の低さは、以前から問題になっていました。そのため新規就業者は減り、加えて高齢ドライバーの退職によって、ドライバー数は年々減少しています。
ドライバー不足に拍車をかけると懸念されているのが、年間の時間外労働時間の上限960時間の規制が、2024年4月よりトラック業界にも導入されることです。拘束時間や休息時間の規制も厳しくなるので、現行の輸送体制を維持できないといわれています。ドライバーを確保しようとしても、労働時間の減った分収入が確保できなければ、他業界への流出の可能性もあります。問題の解決には、ドライバーの労働生産性の向上が必要です。
(2)2つの労働生産性指標 付加価値労働生産性と物的労働生産性
労働生産性については、物的労働生産性と付加価値労働生産性を区別する必要があります。物的労働生産性は輸送量を、付加価値労働生産性は物流サービスが生み出した付加価値を、それぞれ延べ労働時間で割った値です。
日本では長期間のデフレによる荷主のコスト削減、規制緩和以降のトラック事業者の急増による交渉力低下により、運賃・賃金は長期間低迷することになりました。しかし近年では、ドライバー不足等によりその状況は逆転しつつあります。
しかし荷主への一方的な要求は難しく、荷主の協力を得て物流の生産性向上を図っていく必要があります。物的労働生産性を向上させた上で、それによって確保された利益をドライバーの労働時間削減と所得の増加、運賃値上げの抑制に充てることを目指すべきではないでしょうか。
(3)長大トラックによる物的労働生産性の向上
物流の労働生産性を高める具体的施策は、荷主と物流事業者に期待する取組みに大別されますが、両者が連携して実施すべき取組みもあります。この具体的施策の中には、「車両の大型化」、すなわち長大トラックの活用が含まれています。
物流に負荷のかからない仕組みに構造転換するためには、荷主企業に役員クラスの物流統括責任者を選任してもらい、物流の構造改革を進めてもらう必要があります。
トラック運転手はこれまで、賃金が安く労働時間が長い仕事でした。しかしなり手が不足している今、従来のやり方ではとても必要な人員を確保できなくなったのです。人的コストを徹底的に下げてきた業界が、急な転換に対応するのは容易ではありません。労働生産性を上げることで、荷主も運送業者もできるだけ痛い目を見ない構造転換が目指されていますが、そこで「倍運べる」長大トラックの出番がくるわけです。
SA・PAに関わるこれまでの取組み
《SA・PA に関わるこれまでの取組み》
(1)レイアウトの見直し等による駐車マス拡充
① レイアウトの見直し
NEXCO 3社は、2022年度末までの5年間で、SA・PAの駐車マスを約3,000台分増やしました。敷地面積の拡大は困難なため、敷地内でのレイアウト見直しや空きスペース活用によって駐車マス数を確保したのです。
② 兼用マスの導入
「兼用マス」の導入も進められています。これまでは、大型車用駐車マス1つに小型車を2台駐車させる小型大型兼用マスを整備していました。最近では、小型車エリアに小型中型兼用マスを設け、大型車の駐車可能台数を増加させています。
③ 駐車マス拡充の効果
実際に駐車マス拡充前後の状況を比較してみると、駐車マス拡充は混雑問題の軽減には一定の効果があるものの、駐車需要の増加もあり、混雑の解消には至っていないのということがわかりました。駐車マスをめぐる問題は、物流インフラとして高速道路のSA・PA における大きな課題となっていると考えられます。
(2)車両大型化への対応
労働生産の向上や働き方の改善を推進するため、1台でこれまでの倍荷物が運べるダブル連結トラックの導入が進められています。NEXCOでは、駐車可能スペースの確保に取り組んでいます。
ダブル連結トラックは、SA・PA内で空き駐車スペースを探して動くことも困難です。そのため、予約システムを導入した実証実験が進められています。インターネットで予約を行うもので、ETC2.0の仕組みで予約車両を判別しています。
静岡県浜松市の浜松いなさICでは、料金所外側の事業用地を活用したダブル連結トラック専用の路外駐車場が2021年4月から運用されています。この駐車場は料金所外側にあるため、高速道路を降りずに利用した料金が適用されています。
車両の大型化は今後さらに進むものと考えられますが、敷地面積は限られているため、大型車両が確実に駐車できる駐車マスの確保は今後の重要な課題のひとつです。
(3)トラックドライバーの働き方改革への対応
トラックドライバーの労働環境の厳しさは、ドライバー不足の要因ともなってきました。NEXCO中日本と遠州トラック㈱は、共同で中継輸送拠点「コネクトエリア浜松」を整備して対応しています。コネクトエリア浜松では、ドライバーの交替のほか、トラクターヘッドの交換も可能です。労働環境の改善に加え、車両の稼働率向上や燃料費軽減など物流事業者にもメリットが大きいと考えられます。
(4)満空情報の提供
駐車場の空き状況をわかりやすくして駐車効率を上げるため、レーンごとの満空情報を提供する取組みが行われています。満空情報の提供は、各SA・PAの混雑状況の平準化にも有効です。本線上にその先の駐車場の混雑状況を示す情報板を設置し、スマートフォンやカーナビで確認できる対応も進められています。
(5)駐車マナーへの対応
NEXCO各社では、駐車場の混雑に関し、動画やインフォメーションボードなどを通じて、駐車マナーの喚起に関する取組みも行っています。
SA・PAの駐車場には高速バスも駐車しますが、多くの乗客が利用して駐車場内を歩くので、建物に近く安全な場所に駐車位置が設定されています。しかしそこにトラックが駐車してしまうという問題が発生しています。バスが入ってきたときだけ物理的に駐車可能になる仕組みも導入されつつあります。
ドライバーは休憩を取らなければなりません。そのためには駐車スペースが必要ですが、トラックを大きくすれば、そのトラックを受け入れ可能な駐車場が必要になります。土地の限られた日本では、駐車場所を確保するために様々な取り組みが行われています。IT技術の活用もカギを握っていそうですね。
海外におけるトラック長大化の現状
日本と欧州、米国のトラック業界を比較してみると、ドライバーの高齢化はいずれの国でも進行していることがわかりました。トラック業界の抱える課題は、国際的に共通しています。効率的かつ持続可能な物流システムへの問題解決や新たな付加価値の創出に向けたイノベーションが求められています。
《トラックの長大化の現状》
(1)欧州における長大化
増加し続ける貨物輸送需要とドライバー不足に対応するため、大容量車両(HCV)を利用した貨物輸送の省人化・効率化に向けた取組みが世界的に行われています。
欧州では特に北欧やドイツ、オランダなどを中心に、各種の実証実験が行われています。
HCV導入には、メリットとデメリットがあります。メリットについては、車両運用コストの低減、特に省人化による効果が最も大きいと見込まれています。デメリットとしては、逆モーダルシフトや道路インフラへの追加投資、交通事故の増加が挙げられます。
欧州の主要国と日本におけるHCV の制限値を比較すると、大型貨物車の全長は25.25m が主流ですが、総重量は60トンを中心に各国で制限値が異なります。北欧諸国を中心に、全長・総重量ともに規制緩和が進んでいます。
以下で各国の状況を解説しますが、日本におけるHCV導入は、総重量は緩和せず、全長を条件付きで緩和(制限的)しているドイツと似た状況です。
(2)欧州主要国における導入形態の比較
① スウェーデン:積極的導入
スウェーデンはフィンランドとともにHCVを積極的に導入してきました。EU加盟後もさらなる総重量の緩和に向けて道路網や橋梁の調査が行われ、耐荷重に応じた道路種別が3種類指定されました。2015年には一部区間で総重量64トン、2018年には総重量74トンの運用が開始されています。
② オランダ:本格的導入
オランダでは、全長25.25m・総重量60トンに、全長・総重量ともに規制緩和が行われ、HCV車種が7種類導入されています。HCV登録台数は、本格導入後の5年間で約2倍となり、大幅な増加傾向にあります。駐車施設の整備は課題として挙げられており、高速道路外の駐車場が積極的に利用されている事例も報告されています。
オランダとの通行が許可されている隣国ベルギーでも、同様に規制緩和が進んでいます。
③ ドイツ:制限的導入
ドイツでは、全長が25.25mに緩和されたものの、総重量の緩和は行われず、走行区間の制限が大きいことが特徴です。
2012~2016年にかけて行われた調査研究と実証実験の結果、既存の橋梁強化へのコストが高いことから、通行可能な道路は制限されることとなりました。
また、鉄道系フォワーダーを中心に、逆モーダルシフトへの懸念から大規模な反対運動が展開されました。その結果、鉄道や船舶を利用した複合輸送での利用の場合に限り、44トンへの総重量の緩和が認められることとなりました。これにより、2017年1月~12月にかけて16連邦州のうちベルリン州を除く15州で全長25.25m 車両の使用が許可されました。
④ イギリス:消極的導入
イギリスでは、セミトレーラーの全長を18.75mに緩和した実証実験が行われています。2008年に行われた比較分析の結果、「全長18.75m・総重量44 トン」の場合、車両キロ、貨物輸送コスト、CO2排出量が減少すると試算された一方、全長25.25mへの緩和は悪影響が大きいと判断されたためです。
LSTと呼ばれる全長18.75m のセミトレーラーの実証実験は2012年から10年間実施され、輸送の効率性と安全性が確認されたため、2023年5月に正式導入が決定しました。
欧州では、国土が広く平坦な国々は大胆に規制緩和を進め、狭く山地が多い国や、古い橋梁などの多い国はインフラの更新に苦労している印象です。また、ドイツのトラックドライバーへの調査では、駐車場所を探すことが最も大きなストレスだ、という結果が出ていました。「駐車できる」という保証は、常に気を張って荷物を運んでいるドライバーにとっては非常に重要なことです。
『トラック輸送イノベーションが解決する物流危機』内容紹介まとめ
「2024年物流危機」を乗り切るための様々な方策のひとつとして、道路施策が議論されています。その中で長大トラックによる輸送量増大と関連する高速道路SA・PAなどの施策について、調査研究をまとめました。1部では長大トラックについて、2部では高速道路SA・PAについて、3部では海外事例の紹介と日本への導入について紹介します。
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運輸部門の課題とは おすすめ3選
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『運輸部門の気候変動対策ーゼロエミッション化に向けて』
CO2排出量の約20%が、運輸部門由来のものです。そのうち85%強を排出する自動車の気候変動対策について、欧州のEV促進政策、日本のハイブリッド車・EVの普及と将来性、co2削減の現状など検証します。併せて公共交通や居住地環境、ライフスタイルの変化と自動車利用との関係などを分析します。
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安全管理には様々な側面がありますが、その背景には必ず人間が関係しています。従って、安全においては必ずヒューマンファクターについて考える必要があります。人間の特性や疲労とストレス、事故原因の分析、安全における現場力、安全管理について、具体例を用いて分かりやすく解説しています。
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