富士山測候所のはなし 日本一高いところにある研究施設


978-4-425-51481-6
著者名:佐々木一哉・片山葉子・松田千夏・土器屋由紀子 共編著
ISBN:978-4-425-51481-6
発行年月日:2022/7/28
サイズ/頁数:四六判 252頁
在庫状況:在庫有り
価格¥2,750円(税込)
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日本一高いところにある「富士山測候所」で行われている研究とは?
近年、火山噴火予知や通信技術など各方面から注目される研究事項が加わり、多彩となってきていることを知っていますか?
第一部は、改めて富士山そのものを知ることができる事柄を記載。火山としての特徴のほか、文化と芸術の対象として日本人が富士山をどのように捉えてきたのか?などにも触れています。
第二部では、一般にも関心が高い研究内容について厳選して紹介。中学生や高校生、ご家庭でも楽しみながら読み進められるよう編集されています。
このほか、17項目に及ぶコラムはどれも知的好奇心をくすぐる興味深い内容。読後、「富士山」の見方が変わります!


【はじめに】

この本の出版計画が始まったのは、2020年の秋です。『よみがえる富士山測候所2005-2011』(土器屋由紀子・佐々木一哉編著)を上梓してから10年近くが過ぎ、富士山測候所を活用した研究が15年を迎える頃でした。この間の本NPOの活動の書籍化をぼんやりと考えていたところ、成山堂書店から続編出版のご提案をいただいたのを契機に、改めて山頂の研究を見直してみる良い機会と捉えて本書の執筆を開始しました。
この10年間で、本NPOも「NPO法人」から「認定NPO 法人」となることができました。「認定NPO法人」は「全NPO法人」のわずか2%以下(2016年の認定時)であり、認定NPO法人化は会員やご寄付をくださった皆様のご支援のもと、適切な運営体制や活動内容などが評価されたおかげです。この間、富士山測候所を利用した研究も、大学や官民の研究機関の研究者により大きな成果をあげました。2017年には、大気化学と物理学に関する山岳を利用した国際集会(ACPM2017)を本NPOの実質的主催にて開催したことで、本NPOの知名度と研究への貢献が国際的に認識されました。2019 年には、富士山環境研究センター(Laboratory for Environmental Research at Mount Fuji: LERMF)を設立して本NPO自体も積極的な自主研究を開始しました。
富士山測候所に対する一般の方の認識は、『よみがえる􀊜』を出版した頃の「富士山測候所はレーダー観測が終わったことで役割を終え、無人化され廃墟となっている」というものから、「富士山頂では測候所を活用して多くの有益な研究活動が行われている」というものに大きく変わってきていると感じています。気象庁との間にも強い信頼関係を築くことができました。
気象庁との間で交わした「研究教育目的以外は利用しない(たとえ公共放送のためでも)」という契約を遵守して活動を続けたことで、当初は1 期3 年の更新であった借用契約が2013年の第3期契約からは1期を5年で契約できるようになり、長期間の活動計画を立てやすくなりました。現在は、近年のコロナ禍の影響による困難な時期も乗り越えて第4期5年契約の4年目を迎え、第5期の契約を視野に入れた活動を進めることができています。
研究分野も、2012年頃までは大気化学や物理学に比較的限定されていましたが、火山噴火予知や通信技術などといった一般の方にも注目されるものが加わり、多彩となってきました。また高所医学研究では、登山者をはじめとする高所で活動する人たちへの重要な知見を与え続けています。本NPO の理事としての自賛をお許しいただけるなら、これらは「新しいタイプの研究組織」の形を体現した本NPO ならではの活動の成果であるといえるでしょう。
さて、本書は、『よみがえる・・・』と同様の二部構成としました。第一部では、改めて富士山そのものを知ってもらえるような事柄を記載しました。富士山がどのようにしてでき、火山としてはどのような特徴があるのかなどといった富士山を山として捉えた内容や、文化と芸術の対象として日本人が富士山をどのように捉えてきたのか? などを記載しました。第二部では、本NPOが実施あるいは支援した研究の中から、読者の皆様に興味をもってもらえそうなものを厳選して紹介しました。
広く多くの皆様に読んでいただくことを目指し、できる限り平易な表現で記述したつもりです。著者はほとんど研究者であるため厳密な表現で原稿を書いてくださいましたが、中学生や高校生、ご家庭の皆様にも容易に読み進んでいただけるように、編集の段階で難しい内容をかみ砕いた表現に修正させてもらいました。そのため、大幅に内容を割愛・修正させていただいた個所もあります。厳密さが多少犠牲になっているかもしれません。しかし、これらの分野の知識として覚えていただくには問題がない記述とするように努めました。どこかで活用していただければ著者・編集者としてうれしく思います。また、間違った記載などにお気づきの際はご指摘いただければ幸いです。
第二部は、広い分野における先端的研究に関する原稿を多く集めるため、多数の専門家に分担執筆いただきました。そのため、本書の構想から出版まで2年近い時間がかかってしまいました。しかし、自信をもって推奨できる内容になったと自負しております。
本書作成においては、著者としてはお名前を記載しておりませんが、本NPOの元の事務局員である中山良夫氏、および、現在の事務局員である林真彦氏には図表の作成でお世話になりました。記して感謝申し上げます。
前書である『よみがえる・・・』は、富士山測候所の歴史的背景や我が国の気象予報への貢献およびNPO法人富士山測候所を活用する会の研究活動をまとめた書籍であり、富士山測候所および本測候所が現代において果たしている役割を紹介できたという意味では重要な役割を果たしたと自認しているものの、当時の販売数自体は多くはなく“ 儲かる本” とは言えませんでした。それにもかかわらず続編をご提案くださった株式会社成山堂書店小川典子社長および本書を企画提案くださった小野哲史氏には感謝申し上げます。
なお、本書が最終的には本NPOの事業として出版されることになったことを記しておきます。

2022年6月
編集者代表 佐々木一哉

【目次】

第1部 富士山だからできる研究
第1章 富士山とは
 1.富士山ができた歴史、噴火の歴史
  コラム1:寄生火山
  コラム2:青木ヶ原樹海
  コラム3:富士五湖
  コラム4:富士山の湧き水
 2.日本人と富士山(霊峰富士山、美しい山、世界遺産、最も人気がある山)
  コラム5:富士山本宮浅間大社
  コラム6:富士講
 3.富士山の山の形の特徴
  コラム7:「対流圏」、「成層圏」、「中間圏」および「熱圏」
  コラム8:オーロラ

第2章 富士山測候所で研究すると何ができるか?  1.高所医学・生理学から見た高所科学研究所の必要性
 2.グローバルネットワークの構築に向けて
  コラム9:山頂測候所:気象庁からの借用物件

第3章 現在の管理体制  1.本NPOによる管理
 2.富士山環境研究センター
  コラム10:グローバルな大気の流れ
  コラム11: 設立以来の最大存続の危機にコロナに負けるな‼クラウドファンディング‼
 3.世界一の高所科学研究拠点への夢

第2部 富士山で調べていること
第1章 大気環境を監視する
 1.富士山頂の気象
 2.粒子を監視する
 3.ガスを監視する
  コラム12:空飛ぶマイクロプラスチックを富士山頂で捕まえる

第2章 微生物の観測  1.富士山におけるエアロバイオロジー
 2.氷晶核としてはたらく微生物
  コラム13:エアロバイオロジーとは
  コラム14:成層圏微生物とパンスペルミア説

第3章 高所と人間  1. 高所登山と血圧
 2. 高所順応・高所トレーニング
 3. 高所医学研究

第4章 雷の魅力  1.雷雲上空で起こる雷放電
 2.富士山からの雷観測
 3.雷の最新の観測と研究
  コラム15:フランクリンの凧

第5章 気候影響
 1.温室効果ガスによる地球温暖化
 2.微粒子が気候を変える
  コラム16:過飽和度

第6章 放射能の監視  1.富士山の放射能汚染
  コラム17:放射性核種

第7章 富士山の噴火と噴火予知  1.火山噴火とはどんな自然災害なのか
 2.富士山は生きている
 3.火山噴火予知とは
 4.噴火予知の方法
 5.富士山の噴火予知研究の問題点



この書籍の解説

富士山に登ったことはありますか?私(担当M)は子どもの頃林間学校で、バスで行ける五合目まで行きました。雲が足下にあるのが珍しくてはしゃいだのを覚えています。夏でも非常に寒かった一方、太陽光は痛いくらいに強く感じました。
地面に足が着いていながら雲を見下ろせる、空気が澄んでいるという空に近い環境は、稀有なものです。例えば雲を文字通り「掴める」となったら、雲の水滴に含まれる成分をたやすく調べられるのではないでしょうか?実際に、富士山の環境を用いて、様々な研究が行われています。富士山頂にある「富士山測候所」がその拠点です。
富士山測候所は、1932年に中央気象台臨時富士山頂観測所として設置され、気象観測を開始しました。レーダーも設置され観測を続けていたものの、1999年にレーダーは役割を終えます。富士山測候所も2004年に無人化され、有人観測は一旦終了しました。
しかし、NPOが一部を間借りするかたちで、2007年に富士山測候所は復活を遂げます。夏季の2ヶ月間は研究者が滞在しての有人観測が行われるようになりました。研究内容も気象だけでなく、高所医学や通信、生物、火山噴火予測といった様々な分野に広がってきています。
今回ご紹介する『富士山測候所のはなし』は、NPOが運営を始めて以降の内容が中心です。富士山の環境と歴史、蘇った富士山測候所の運営体制、富士山だからこそできる研究とはどんなものか、実際の研究内容の紹介で構成されています。この本の前作にあたる『よみがえる富士山測候所』をお読みになった方もそうでない方も、測候所の現在を是非覗いてみてください。この本が出たのは夏ですので、今日も山頂では盛んに調査研究が行われています。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『富士山測候所のはなし 日本一高いところにある研究施設』はこんな方におすすめ!

  • 『よみがえる富士山測候所』を読んだ方
  • 気象、大気環境に興味のある方
  • 高所での調査研究に興味のある方

『富士山測候所のはなし 日本一高いところにある研究施設』から抜粋して3つご紹介

『富士山測候所のはなし』からいくつか抜粋してご紹介します。富士山がどんな山なのか、その山頂で研究を行う意義を解説し、続けて実際に行われている研究の内容と成果を抜粋して取り上げます。気象や大気だけではなく、様々な分野の研究が行われています。

富士山測候所で研究を行うために

富士山頂では、天候が悪化すると、激しい風や降雨に遭遇します。高所環境に伴う低酸素や低温なども、身体に大きなストレスを与えます。過酷な状況下で活動を行う研究者が安全に活動を行えるよう支援することが、管理運営にあたるNPOの使命です。

《電源の確保》 最先端機器を用いた精密測定に電力は必須です。富士山レーダーを動かすために麓から山頂まで設置された総延長10.9kmの送電線がまだ使える状態なので、夏期観測の行われる2か月間だけは測候所でも商用電源を使うことができます。
夏期観測のために測候所を開所するとき最初に行うのは、この送電線が使用できるか確認する通電作業です。厳しい環境にある富士山では、送電線が損傷を受け山頂に電気を送ることができなくなることがあります。通電されない場合は、損傷箇所を探し、傷んだ送電線を交換します。その間はすべての作業がストップし、修理費用も莫大な額になるため、通電作業は緊張の一瞬です。

《山頂での安全な作業のために》 研究者が滞在できるのは、夏期の2か月間に限られます。研究者がこの期間を有効に使い、安全に観測や研究を行えるよう支援するための仕組みを作らなければなりません。
富士山の過酷な環境下では、高山病、観測機器への雷による被害、測候所の建物劣化などの影響があります。高所に慣れた登山家から構成される山頂班、旧富士山測候所時代の気象庁所員、高所医学を専門とする医師団、東京都内と御殿場市内に設けた事務所等と連携を取り、これらの問題に対処しています。

《測候所の維持管理》 山頂測候所の大部分は、アルミ合金と鉄骨製の頑丈で気密性の高い建物です。2004年の測候所の無人化以降、夏以外は手入れをされることがありません。雨漏り対策などの塗装等の補修は、多くの場合開所中に山頂班が行います。

《物資の輸送》 夏期観測では、精密観測機材を安全に測候所まで運び入れる必要があります。大型の重い機器を自力で運び込むことは不可能です。また、食料や水などを運ぶ必要もあります。そこで活躍するのが、ブルドーザーを用いた運搬です。トラクターの前面部にバケットと呼ばれるアタッチメントを取り付け、運搬したい物を載せます。振動と雨への対策を施し、太郎坊ベースから山頂まで約3時間かけて運搬します。ブルドーザーを操縦するのは、気象庁の時代からこの作業に携わっているプロの協力業者です。

《測候所利用プロジェクトの公募》 測候所で行われる研究課題は毎年公募により募り、審査を経て決められます。プロジェクトは大気環境、高所医学などの最先端の学術科学研究を行う研究計画と、学術研究以外の内容も含む活用計画の二つがあり、初回のトライアル利用も設けられています。また、学生による申請も受け付けています。夏期観測に参加した研究者は、翌年開催される成果報告会で成果報告を行います。

《山頂、太郎坊、御殿場ライン》 山頂での夏期観測だけではなく、太郎坊ベース、御殿場ベースも加わり、今では3地点においての観測ができるようになりました。
太郎坊はブルドーザーのベースですが、その一角で大学による観測が実施されています。2019年からは御殿場市内に事務所を設け、観測サイトとしても活用しています。太郎坊ベースと御殿場ベースは、通年観測サイトとしての本格的な運用が可能です。今後は、山頂測候所、太郎坊ベース、御殿場ベースの3拠点を利用し、富士山すべてを足場としたダイナミックな研究が期待されます。

研究者や設備が過酷な環境に負けないよう、運営団体は維持管理に努めています。気象庁時代のインフラ(気象庁との契約で借りている設備については、厳しい規定があります)や人脈も駆使して現在の研究環境は支えられています。しかし山頂にあっても新型コロナウイルス蔓延の影響は大きく、2021年度は新規プロジェクトの募集を見送り、人数制限や健康チェックの徹底などで対応しました。

雲を監視する

富士山頂から眼下を見渡すと雲海が広がっています。雲海とは、層雲、層積雲、積雲など高度2km付近に浮かぶ下層雲のことです。雲は発生する高度によって上層雲、中層雲、下層雲に分類されます。下層雲は水雲ですが、上層雲は氷晶雲です。

二酸化炭素などの温室効果ガスは地球を温める働きがありますが、エアロゾルや雲は太陽光を反射して地球を冷やす働きがあります。ただし、雲には温室効果もあり、地球温暖化の将来予測において雲の影響にはかなり不確実性があります。

雲は純水ではなく、様々な化学物質が溶け込んだ溶液滴または氷晶です。雲粒はエアロゾルを核として生成するので、エアロゾルに含まれる様々な化学物質が雲粒に溶け出します。SO2や NOX から生成したHNOなどのガスも溶け込みます。つまり雲には大気中のエアロゾルやガスを溶かして濃縮する働きがあるのです。雲が発生していると地上は太陽光が遮られるので曇っていますが、雲の上部は常に太陽光があたっているので光化学反応が起きます。雲は様々な化学反応が起こる場所なのです。

PM2.5 などの粒子が増えると、お互いに水蒸気を奪い合うので小さい雲粒が多数できて雨が降りにくくなります。また、水に溶け込みやすい部分と溶け込みにくい部分をもつ有機化合物質は雲粒の表面に集まりやすく、有機層の薄膜を作るので雲粒の成長を止めてしまいます。小さい雲粒は太陽光を反射しやすく、地球を冷やす働きが大きくなります。小さい雲粒が多数生成すると雨を降りにくくしますが、大量の水が雲粒として大気中に存在することになるので、雨が降り出すと一挙に激しく降ります。大気汚染物質は雲を介して地球の水循環や放射収支を変化させて、気候変動を引き起こすのです。

雲を捕まえるには、航空機や気球を使うか、山に登るしかありませんが、航空機や気球では継続的な観測ができません。このため、山での雲水化学観測が多く行われています。世界162地域で雲水化学観測が行われていますが、高度3,000mを超える山岳での雲水化学観測は、国内外を含めて6地点しかありません。これらの観測地点は森林限界以上であり、空気がきれいな自由対流圏高度にあります。富士山頂は雲水化学観測が行われている山岳域の中で世界最高峰です。

富士山頂で雲水化学観測を行う理由は、自由対流圏大気におけるきれいな雲水の化学性状を把握し、汚染がどのような要因によって起こるのかを知るためです。雲水化学組成は雲粒の成長に影響を与えますので、気候変動の予測精度向上にも貢献できるのです。

雲粒は大気中に存在するガスや粒子を取り込んで濃縮しますが、富士山頂のように森林限界以上で風が強い場所では、電源を使用することなく雲粒を集めることができます。

欧州では都市大気汚染の改善により霧や靄の発生頻度が減少し、温暖化に寄与しているとの報告もあります。自由対流圏でも大気質が改善傾向にありますが、人類活動由来の温室効果ガスは増加し続けています。 今後大気汚染の改善により、地球温暖化が加速する可能性があります。 今後も富士山頂での継続的な観測が重要です。

雲を見下ろすことのできる富士山頂では、雲をそのまま採取して観察することができます。微粒子を核として雲粒の動きと化学物質の関係が、雲の地球温暖化への影響を左右します。場合によっては、大気汚染の改善により地球を冷やす効果が薄れて地球温暖化が進んでしまう、というのは何とも皮肉な結果ですね。

高所登山と血圧

高所の登山では、低酸素と寒冷が交感神経の活動を高めたり、肺動脈を収縮させたりして、血圧や脈拍が上昇することが知られています。登山は健康維持目的に行われることもありますが、登山中の死亡事故も多発しています。疾病による死因としては心臓突然死が挙げられます。突然死をきたす病気の発症に高所や登山行動が影響した可能性がありますが、高所で心臓血管にどのような影響が生じるかということや、実際血圧値については十分に明らかになっていません。

富士山測候所において、高所での登山行動中や短期間の高所滞在中に血圧がどう変化するのか、自律神経に影響はあるのかを調べました。登山行動中の血圧値を測定するために、24時間血圧計を使用しました。血圧は活動すれば上昇し、安静にすれば低下します。加えて日内変動があり、正常な場合昼間は高くなり、夜は低下します。併せて、血圧が測定された環境のデータで登山中および就寝中の酸素飽和度を測定し、姿勢別の血圧・心拍変動から自律神経活性を測定する機器を用いて、高所での心臓・血管の反応を測定しました。日常生活での血圧変化との比較も行いました。

その結果、富士山登山中は、血圧、脈拍数ともにすべての時間において日常生活時と比べて高くなっていました。血圧値に関係する環境因子を調べてみると、富士登山中は24時間血圧と起きているときの血圧が気温、気圧、活動量と関連し、寝ているときの血圧は気圧、活動量と関連していました。また富士登山中の方が、日常生活中に比べて活動量が上がるにつれて血圧値が上昇しやすくなっていました。

血圧変動については、急性高山病を起こした被験者のひとりに、寝ているときの血圧が昼間よりも上昇する血圧変動異常が観察されました。健康な人は寝ているときの血圧が上がることは通常ありません。高所滞在や高山病を起こした影響が、寝ているときの血圧を上昇させたと考えられます。

登山は日常生活よりも活動量が多くなりますが、血圧の上昇には気温・気圧が影響している可能性が高いことが考えられます。この血圧の上昇しやすさが、登山中の心臓病による突然死に結び付く可能性があります。血圧変動が少なくなるように血圧の薬を調整することが、登山中の突然死を防ぐのに役立つかもしれません。気温、気圧、活動量に着目した山での過ごし方を示すことにより、山での事故を防ぐことに繋げられる可能性があります。

運動すれば血圧が上がるのは当たり前のことだと思っていましたが、高所においては運動量そのもの以外にも、血圧を上げる理由があったのです。気圧が低い高所で休んでも血圧が下がらないとなれば、より危険性は増します。いわゆる高山病以外にも、高所医学における様々な調査や研究が、山の事故を減らすことに貢献してくれます。

『富士山測候所のはなし 日本一高いところにある研究施設』内容紹介まとめ

日本一高いところにある研究所「富士山測候所」。そこで行われている研究とは?富士山そのものの環境や、現在の運営体制や特色を紹介します。中盤以降は、実際に行われている研究のうちいくつかをピックアップしました。様々な分野における「ここだからできる研究」が満載です。富士山測候所の現在がわかります。

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気象を調べる・地球を調べる!3選

『越境大気汚染の物理と化学(2訂版)』
国境を越えてやってくる環境汚染物質。その正体や、微粒子を運んでくる大気や雲の構造、運動の仕組みを解説します。汚染物質除去の仕組み、汚染物質の広がり方についても述べています。物理と化学の専門家集団による、包括的なテキストです。

『雷』
雷にもいろいろあります。夏の雷、冬の雷、いくつも連なった積乱雲から落ちる巨大雷、火山の上に発生する雷など、雷の発生メカニズムと、雷が発生する積乱雲の構造、身の守り方、観測方法等を積乱雲研究の第一人者がやさしく解説します。

『火山−噴火のしくみ・災害・身の守り方−』
火山国日本では、火山の恩恵とともに脅威も身近なものです。防災コンサルタントが、火山の仕組みと噴火による被害の様子、現在日本で行われている火山の監視について解説しました。火山と共存しつつ身を守るための参考書です。


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カテゴリー:気象・海洋 
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