越境大気汚染の物理と化学(2訂版)


978-4-425-51363-5
著者名:藤田慎一・三浦和彦・大河内博・速水洋・松田和秀・櫻井達也 共著
ISBN:978-4-425-51363-5
発行年月日:2021/2/28
サイズ/頁数:A5判 312頁
在庫状況:在庫有り
価格¥3,300円(税込)
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越境大気汚染の基礎テキスト!!
環境大気汚染物質の正体は?
大気の構造と運動の仕組みは?
雲ができる仕組みと特徴は?
大気汚染物質が除去される仕組みは?
大気汚染物質の地球上の広がりは?
物理と化学のエキスパート6名が執筆。
正しい知識を学ぶ、待望のテキスト完成。

【まえがき】より 「越境大気汚染」とは,他国で排出された汚染物質が,国境を越えて輸送されることで発現する大気汚染のことをいう。日本では,中国から微小粒子状物質
(PM2.5)の到来が伝えられた2013年1月の騒動以来,毎年のようにマスメディアを賑わし,PM2.5とともに環境問題の一つとして定着した。近年は,日本・中国・韓国の3か国の間で大気汚染対策に係る政策対話が行われ,国際協力と各国内の発生源対策によって大きな進展が見られている。
越境大気汚染という概念は,昨日今日に生まれたものではない。1970年代から1980年代にかけて,ヨーロッパや北アメリカで大きな国際問題になった「酸性雨」がその原形であり,前史を含めると優に半世紀におよぶ経緯がある。その原因物質は二酸化硫黄(SO2)と窒素酸化物(NOx)の二つであり,「長距離越境大気汚染条約」の締結をめぐって,ヨーロッパを中心にながい国際論争が繰り広げられた。日本の酸性雨は1970年代のなか頃,関東地方で「湿性大気汚染」として出発し,当初は地域規模の問題と考えられていたが,1980年代のおわりになると,生産活動の進展が著しい東アジアの酸性雨に国内外の関心が集まるようになった。そして2000年代になると,SO2やNOxにとどまらず,オゾン,エアロゾル,黄砂,農薬,重金属,水銀,火山ガス,火災煙,微生物,放射性物質と,およそアジアに発生源をもつあらゆる物質が,広域的な輸送現象と複雑に関係していることが明らかになってきた。
越境大気汚染の問題を明らかにするためには,フィールド観測の展開と,広域輸送モデルの開発とが研究の両輪である。大気の物理と化学に関わる幅広い知識が必要であり,環境科学を修得するうえで,格好な題材であるといってよい。だがこれらの分野を網羅したコンパクトな和文のテキストはあまり見当たらず,著者たちが本書を企画した背景も,こうした事情をふまえてのことである。
本書の目次案を作成するうえで,筆者たちが特に意識したのは,物理と化学,観測と計算の双方の視点から章立てを図ることである。また,排出量,濃度,沈着量など,各分野で主として用いる表示単位が異なることを踏まえて,本書では,あえて表示単位の統一は行わず,両者の換算方法を明記することにより,読者が双方の使い分けが可能になるよう配慮した。また,本文に関連するトピックスについて「コラム」として,関係する各章の章末に挿入した。各分野についてさらに深く勉強したい読者は,巻末にまとめた文献を参照されたい。
物理と化学の基礎定数,SI 接頭語,大気の環境基準,大気の組成や物性,有機化合物の構造などは,「付録」として巻末にまとめた。成書が多数刊行されている環境の保全技術や試料の化学分析については,本書ではあえて対象から除外した。むしろこれらの分野の読者にとって,アジアの大気汚染について科学的な認識を共通のものにするために,本書がいささかなりとも役立つならば,これに過ぎたるものはない。
『越境大気汚染の物理と化学』の第1版は2014年4月に,改訂増補版は2017年2月に刊行された。改訂増補版の発行にあたっては,初版の発行以降の新しい研究成果を取り入れて内容の充実を図るとともに,各種の統計量はできるだけ新しいものに更新した。また自由対流圏と成層圏の汚染について新章を設けるとともに,新たに各章ごとの演習問題を設け,全体として約50ページの増補を行った。
このたび2度目の改訂を行い『越境大気汚染の物理と化学2訂版』を刊行させていただいた。2 訂版の改訂にあたっては,改訂増補版以降の研究成果を取り入れ,環境データの更新も行った。また,幅広い専門分野の読者を想定し,他分野からみてイメージしやすいように見出しを改訂するとともに,最新データが取得できるwebサイトのQRコードを掲載した。さらに,いくつかの巻頭写真,コラム,演習問題なども新しいものに差し替えあるいは更新を行った。
幸いにもこれまでいくつかの大学で本書がテキストとして利用され,環境教育に貢献できたことは有意義であった。本書は,物理と化学どちらに偏るでもなく構成されているので,各学科・専攻の特徴にあった項目を選択して講義を構築することが可能であると考えている。越境大気汚染の物理と化学に関する最近の研究の進展には目覚ましいものがあり,2 訂版で紹介する内容も最新のものばかりとはいえないかもしれない。本書の内容については,今後とも定期的に内容の見直しを続けていく予定であるが,お気づきの点があれば読者のみなさんのご批判やご教示を願ってやまない。
最後に,図表の掲載許可を快く与えて下さった多くの団体や著者,2訂版の発行に尽力をいただいた成山堂書店にも御礼を述べたい。

2021年1月
著者一同

【目次】 第1章 越境大気汚染とは
 1.1 東アジアの酸性雨
 1.2 酸性雨からアジアの大気汚染へ
 1.3 越境大気汚染の物理と化学―本書の構成―
  コラム1 大気汚染問題とその変遷

第2章 発生源と排出量  2.1 排出量の推移7
  2.1.1 人口の増加
  2.1.2 燃料の燃焼
  2.1.3 化石燃料の消費と二酸化炭素の排出量の増加
  2.1.4 大気汚染物質の排出量の変化
  2.1.5 将来の排出量の推移
 2.2 自然発生源
  2.2.1 硫黄化合物
  2.2.2 窒素酸化物
 2.3 排出インベントリ
  2.3.1 これまでの推移
  2.3.2 排出量の算定方法
  2.3.3 排出インベントリの事例
  コラム2 船舶からの排ガスに対する規制

第3章 大気(気体)の化学  3.1 気体濃度の表し方
  3.1.1 分圧
  3.1.2 混合比
  3.1.3 数密度
  3.1.4 質量濃度
 3.2 気相化学反応の基礎
  3.2.1 大気化学反応:均一反応と不均一反応
  3.2.2 気相反応速度
  3.2.3 気相の一次反応
  3.2.4 気相の二次反応
  3.2.5 気相の三次反応
 3.3 大気の化学組成
  3.3.1 主要成分
  3.3.2 微量気体と地球大気環境に与える影響
 3.4 日本の大気汚染状況
  3.4.1 常時監視項目
  3.4.2 有害大気汚染物質
 3.5 重要な気相均一反応
  3.5.1 対流圏オゾン
  3.5.2 ヒドロキシルラジカル
  3.5.3 硝酸ラジカル
  3.5.4 対流圏リザーバー分子

第4章 大気の物理?(気象)  4.1 大気の鉛直構造
 4.2 大気の熱力学
  4.2.1 理想気体の状態方程式
  4.2.2 静力学(水圧)平衡
  4.2.3 乾燥空気の断熱変化
  4.2.4 大気中の水蒸気量の表現法
  4.2.5 湿潤空気の断熱変化
  4.2.6 大気の安定度
 4.3 大気の放射
  4.3.1 太陽放射
  4.3.2 地球の放射平衡
  4.3.3 吸収・透過・反射
  4.3.4 地球大気による吸収
  4.3.5 温室効果
  4.3.6 地球大気の熱収支
 4.4 大気の力学
  4.4.1 地衡風
  4.4.2 円形等圧線と傾度風
  4.4.3 局地風
  4.4.4 季節風(モンスーン)
  4.4.5 大気の大循環
  コラム3 山岳大気

第5章 大気の物理?(移流・拡散)  5.1 地表付近の気象と大気拡散
  5.1.1 大気境界層
  5.1.2 大気の安定度と拡散
  5.1.3 風の鉛直分布
  5.1.4 風の乱れと拡散
 5.2 大気環境のモデル化
  5.2.1 乱流拡散
  5.2.2 煙の拡散のモデル化
  5.2.3 拡散幅σ の決定方法(パスキル・ギフォード線図)
  5.2.4 有効煙突高さ
  5.2.5 モデル化を行う上での留意点
  コラム4 上空大気の観測プラットホーム

第6章 粒子の物理  6.1 大気エアロゾル粒子
 6.2 粒径
  6.2.1 不整形粒子の大きさと形状
  6.2.2 粒子の大きさに関する統計値
 6.3 粒径分布
  6.3.1 さまざまな粒径分布表示法
  6.3.2 大気エアロゾルの粒径分布表示法
  6.3.3 対数正規分布
 6.4 分散による生成
  6.4.1 地表面から発生するエアロゾル粒子
  6.4.2 海面から発生するエアロゾル粒子(海塩粒子)
 6.5 気体の粒子化
 6.6 動力学的性質
  6.6.1 凝集
  6.6.2 粒子の運動に対する空気抵抗
 6.7 電気的性質
  6.7.1 大気イオン
  6.7.2 イオンの電気的易動度
  6.7.3 エアロゾル粒子への小イオンの衝突付着
  6.7.4 帯電率
 6.8 光学的性質
  6.8.1 散乱
  6.8.2 減衰
  6.8.3 混濁度,視程,光学的厚さ

第7章 粒子の化学  7.1 エアロゾル化学の基礎
  7.1.1 濃度単位
  7.1.2 エアロゾルの粒径分布
  7.1.3 一次粒子と二次粒子
  7.1.4 TSP,SPM,PMx
  7.1.5 吸湿特性
 7.2 エアロゾルの化学組成
  7.2.1 水溶性成分と不溶性成分
  7.2.2 微小粒子の主要化学組成
  7.2.3 化学物質の粒径分布
 7.3 無機エアロゾル
  7.3.1 硫酸および硫酸塩エアロゾル
  7.3.2 硝酸塩エアロゾル
  7.3.3 土壌および鉱物エアロゾル
  7.3.4 海塩粒子
 7.4 有機エアロゾル
  7.4.1 元素状炭素と有機炭素
  7.4.2 一次有機エアロゾル
  7.4.3 二次有機エアロゾル
  7.4.4 半揮発性有機化合物
 7.5 粒子状大気汚染物質:大気汚染問題とその変遷
  7.5.1 日本における浮遊粒子状物質汚染の現状と環境基準達成率
  7.5.2 日本における浮遊粒子状物質の発生源とその対策
  7.5.3 日本における微小粒子状物質汚染の現状
  7.5.4 中国における微小粒子状物質汚染
  コラム5 2013年1月のPM2.5騒動
  コラム6 新しいPM2.5?:大気中マイクロプラスチック

第8章 雲の物理  8.1 凝結
 8.2 雲凝結核
 8.3 凝結による成長
 8.4 山岳大気における凝結核,雲凝結核,雲粒の観測結果
 8.5 雲と霧
 8.6 雨
  8.6.1 ラングミュアーの付着成長
  8.6.2 併合成長方程式
  8.6.3 ベルシェロンの氷晶成長
 8.7 除去作用
  8.7.1 雲底下洗浄
  8.7.2 雲内洗浄
  8.7.3 フィールドにおける核洗浄の観測例

第9章 雲の化学  9.1 地球表層の水循環とガス・エアロゾルの洗浄
  9.1.1 雲の存在割合
  9.1.2 雲粒の液滴径
  9.1.3 雲内洗浄と雲底下洗浄
 9.2 雲水化学の基礎
  9.2.1 雲水量の単位
  9.2.2 雲粒の特性
  9.2.3 化学分析のための雲水の採取方法
 9.3 雲水の化学成分濃度および化学組成の支配要因
 9.4 雲粒への粒子の取り込み:雲凝結核と核洗浄
  9.4.1 ケルビン式と過飽和度
  9.4.2 吸湿性無機エアロゾル
  9.4.3 有機エアロゾル
 9.5 雲粒への気体の溶解
  9.5.1 ヘンリーの法則
  9.5.2 SOの溶解
  9.5.3 雲と気相間の分配
 9.6 雲内反応
  9.6.1 二酸化硫黄の液相酸化
  9.6.2 ヒドロキシメタンスルホン酸の生成
 9.7 雲水化学の実際
  9.7.1 雲水と雨水の化学組成
  9.7.2 空気塊の変化に伴う雲水化学組成の変化
  9.7.3 雲水化学組成の地域特性
 9.8 雲(霧)による化学物質の沈着
  9.8.1 オカルト沈着
  9.8.2 山間部森林生態系におけるオカルト沈着
  コラム7 富士山と越境大気汚染

第10章 乾性沈着  10.1 乾性沈着とは
 10.2 乾性沈着の基礎理論
  10.2.1 抵抗モデル
  10.2.2 空気力学的抵抗
  10.2.3 準層流抵抗
  10.2.4 表面抵抗
  10.2.5 エアロゾル
 10.3 乾性沈着の直接測定法
  10.3.1 渦相関法
  10.3.2 緩和渦集積法
  10.3.3 濃度勾配法
  10.3.4 林内雨・樹幹流法
  10.3.5 東アジアにおける沈着速度の観測事例
 10.4 乾性沈着の広域推計
  コラム8 EANET:東アジア酸性雨モニタリングネットワーク

第11章 湿性沈着  11.1 湿性沈着とは
 11.2 湿性沈着の測定方法
  11.2.1 降水のモニタリング
  11.2.2 分析データの整理と製表
  11.2.3 分析データの精度管理
  11.2.4 海塩成分と非海塩成分
 11.3 湿性沈着の広域推計
  11.3.1 日本列島の降水の化学組成
  11.3.2 東アジアの酸性雨
 11.4 湿性沈着の経年変化と季節変化
  11.4.1 降水成分の濃度の長期的な変化
  11.4.2 降水のNOnssSO濃度比を用いた解析
  11.4.3 湿性沈着の季節変化
  11.4.4 顕在化しつつある降水の質的変化
   11.4.5 日本と海外の降水酸性度の比較
  コラム9 環境の時代

第12章 広域輸送  12.1 広域輸送の実例
  12.1.1 地球を巡った放射性核種
  12.1.2 太平洋をわたる黄砂
  12.1.3 日本に飛来する中国大陸の汚染物質
 12.2 広域輸送の解析方法
  12.2.1 滞留時間
  12.2.2 流跡線解析
  12.2.3 広域輸送モデル(1)トラジェクトリー型
  12.2.4 広域輸送モデル(2)オイラー型
  12.3 発生源の寄与評価
  12.3.1 発生源寄与の評価方法
  12.3.2 国際的な取り組み
  コラム10 HYSPLIT による流跡線とその解釈の実践
   コラム11 新型コロナウィルス(COVID-19)と大気汚染

第13章 自由対流圏および成層圏の汚染  13.1 対流圏と成層圏における物質交換
  13.1.1 自由対流圏と成層圏
  13.1.2 バックグラウンド汚染と成層圏-対流圏交換
  13.1.3 ブリューワー・ドブソン循環
  13.1.4 温暖コンベアベルトと成層圏侵入
 13.2 自由対流圏および成層圏汚染を引き起こす大気汚染物質
 13.3 成層圏オゾン層の破壊
  13.3.1 チャップマン機構
  13.3.2 成層圏オゾンの触媒反応サイクル
  13.3.3 極域での成層オゾン消失
カテゴリー:気象・海洋 タグ:気象 環境問題 
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