著者名: | 稲津 將 著 |
ISBN: | 978-4-425-55461-4 |
発行年月日: | 2022/2/8 |
サイズ/頁数: | A5判 224頁 |
在庫状況: | 在庫有り |
価格 | ¥2,420円(税込) |
気象に興味を持った人が最初に読んで欲しい1冊。
気象学を学ぶ大学生や気象予報士を目指している人のために、平易な説明と多くの事例、日頃役立つ天気のコラムなどを盛り込んで、わかりやすく解説しています。
気象学者の「荒木健太郎さん」も推薦。
以下のコメントを帯に掲載しています。
「知れば知るほど楽しくなる。
気象学を志すすべての方にオススメしたい、
空の教科書の決定版!」
【はじめに】
「太古」ギリシアのイカロスは、蝋ろうで固めた鳥の羽を持ち、太陽に向かって飛び立ちました。太陽に近づいたイカロスは熱で蝋が溶け、はかなくも墜落してしまいます。これは歌にもなっていて、よく知られた逸話です。しかし、イカロス墜落の原因は、本当に太陽の熱で蝋が溶けたことなのでしょうか?
著者にはどうしてもそうは思えません。蝋で固めた鳥の羽ごときで空を飛べるのかということは、いま問わないことにしましょう。飛び立ったイカロスは、しばらくすると上空の寒さにさらされます。太陽に少し近づいたからといって暑くなるわけではなく、むしろ寒くなります。山の空気がひんやりと感じる、それです。ギリシアなら高度3 km ほどで氷点に達します。次に、上空に行けば行くほど空気がうすくなり、息苦しくなります。高山病で知られる頭痛や吐き気の症状が出ます。さらに、ギリシア上空10 kmでは20 m/s( 72 km/時)を超える風が平均的に吹いています(図0)。その強風の中で翼をはばたかせることなど、どだい無理な話です。しかも、雲が出てきたら避けなければなりません。雲は小さな水滴の集まり、雲の中ではばたけば、イカロスはずぶ濡れです。
強靭なイカロスはこれら困難に耐え、さらに上空へ向かうとしましょう。しかし、イカロスは高度20 km で限界を迎えます。体液が沸騰するのです。
山の上では熱いコーヒーが飲めないとか、美味しいご飯が炊けないとかいうのは、気圧が低くて水の沸点が下がっているからです。高度20kmともなると、気圧は地上の約1/20、沸点は体温程度です。上記、神話の一節に咬か みついた野暮には気象学の基礎が満載です。上空に行くと、気温や気圧は下がり、そして場所によっては風が強くなります。雲もあります。イカロスがあわれ犬死せず、空をはばたき自由を謳おうか歌するには、気象学の知識が必要でした。
本書は気象に興味を持った人に、教養としての気象学を提供することを目的にしています。想定読者として、気象学を学ぶ大学生や気象予報士を目指している人が挙げられます。したがって、高校生でも読めるように平易な説明を心掛け、ときに肩の力が抜けるような話題を盛り込みました。なお、本書だけでは気象予報士試験対策にいささかの不足があります。あくまでも本書はきっかけとして位置づけ、最新の気象予報技術は他書で補ってください。
本書の出版にあたり、成山堂書店の小川典子社長、気象ブックス編集委員長日下博幸教授(筑波大学)には大変お世話になりました。また、草稿に有益なコメントをお寄せいただいた、上田博名誉教授(名古屋大学)、向川均教授(京都大学)、堀之内武教授・佐藤陽祐特任准教授(北海道大学)、青木一真教授(富山大学)、筆保弘徳教授(横浜国立大学)、三浦裕亮准教授(東京大学)、馬場賢治准教授(酪農学園大学)、神山翼助教(お茶の水女子大学)、柳瀬亘博士・荒木健太郎博士(気象研究所)、澁谷亮輔博士(三井住友海上火災保険株式会社)、小松麻美氏(日本気象協会)、松岡直基氏(北海道気象技術センター)、北海道大学及び酪農学園大学の学生の皆様、並びに気象ブックス編集委員の皆様、ここに記して感謝を申し上げます。
2022年1月吉日
稲津 將
【目次】
第1章 光
1.1 光と電磁波
1.2 散乱
コラム1 阿弥陀如来
コラム2 直達日射と全天日射
1.3 反射と吸収
1.4 放射平衡
コラム3 金星と火星の運命
1.5 気象衛星
コラム4 十種雲形
第2章 水
2.1 水蒸気の飽和
コラム5 洗濯物を干す方法
2.2 雲
2.3 雨
2.4 雪
コラム6 雪結晶の撮影
コラム7 ホワイトアウト・ブラックアウト
2.5 降水と雲の観測
コラム8 雪を掘る観測
コラム9 宇宙からのレーダー・ライダー観測
第3章 熱
3.1 気圧と気温
コラム10 気象骨董市①水銀気圧計
3.2 乾燥空気の安定性
コラム11 気象骨董市②百葉箱
3.3 湿潤空気の安定性
3.4 断熱図
コラム12 ヒートアイランド・クールアイランド
3.5 パーセル法による対流の診断
第4章 風
4.1 陸と海
コラム13 六甲おろし
コラム14 世界大紀行①緑のサハラ
4.2 天気図の風
4.3 上空の風
コラム15 世界大紀行②ジェット気流に乗って
4.4 物質の輸送
4.5 風の観測
第5章 渦
5.1 水平風と鉛直風
コラム16 霧の摩周湖
5.2 ハドレー循環とロスビー波
コラム17 十二支の方角
コラム18 世界大紀行③最北の不凍港ハンメルフェスト
5.3 温帯低気圧と前コラム19 世界大紀行④吠える40度、狂う50度、叫ぶ60度
5.4 台風
コラム20 富士山レーダーと台風観測
5.5 寒冷渦とポーラーロー
コラム21 成層圏の渦
第6章 対流
6.1 大気境界層内の対流
6.2 積乱雲を伴う対流
コラム22 雷
コラム23 飛行機事故とダウンバースト
6.3 メソ対流系
6.4 日本の夏
コラム24 世界大紀行⑤ウンカ、海を渡る
第7章 予報
7.1 気象予測
コラム25 世界大紀行⑥数値不安定の地、巡礼
7.2 気象情報の伝達
7.3 季節予測
コラム26 季節内予測
7.4 気候変動
コラム27 世界大紀行⑦水没国家の危機線…
■著者略歴
稲津 將(いなつ まさる)
1977 年 北海道岩見沢市生まれ。
1998 年 京都大学理学部中退。
2002 年 北海道大学大学院地球環境科学研究科博士後期課程修了。
2005 年 東京大学気候システム研究センター特任助手。
2007 年 北海道大学大学院理学研究院准教授。
2017 年から現在まで 北海道大学大学院理学研究院教授。
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