観光と福祉


978-4-425-92931-3
著者名:島川 崇 著
ISBN:978-4-425-92931-3
発行年月日:2019/10/18
サイズ/頁数:A5判 276頁
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価格¥3,080円(税込)
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2020年東京オリンピック・パラリンピック開催を契機として、交通のバリアフリーや様々な場面でのユニバーサルデザインの導入など、日本国内のハード面での整備は進んでいる。観光に関わるモード(陸海空の交通機関、旅行業者宿泊業者、地方自治体)がどう福祉に取り組んでいるのか、また、介助士や補助犬などの福祉のサポートシステムがどう関わっているのか、具体例を挙げながらその現状を紹介する。そしてこれらの取り組みを一過性で終わらせないための今後の課題を提起。観光を推進するだけでなく、心のバリアフリーが定着する真の意味での福祉社会の在り方を考える一冊。



【はじめに】より

「日本には『お・も・て・な・し』の心がある」とのプレゼンテーションで、2020年の東京にオリンピック・パラリンピックが舞い込んできた。
2020年に向けてバリアフリー、ユニバーサルデザインのハード対応は急ピッチで進められている。
しかし、日本人の心は果たして高齢者や障がい者にやさしいのだろうか。例えば、電車に乗って、高齢者や障がい者が乗車してきても、席を譲らない人はかなり多い。私がかつて暮らしていた英国や韓国では、さっと席を譲る人が必ずいる。そして、譲らなかったときの周囲からの白い目がある。最近出張で頻繁に訪れるマレーシアでも、街は段差だらけであるけれど、その段差を越える人の優しさがある。マレーシアはもともと多様な民族が集まり、違いを受け入れるってことが自然にできるから、余計に障がい者にもやさしい。
それに比べて日本は無関心があふれている。困っている人がいても、視界に入っていないかの如くふるまう人ばかりである。日本人は優しく親切だなんて過大評価もはなはだしい。日本人が誇っている「おもてなし」だって、一つひとつをよく見てみると単なるマニュアルをなぞっているだけのものに過ぎないのではないか。
バリアフリー、ユニバーサルデザインのハードの整備も、2020年が終わったらどうなることやら。今は特需に沸いているだけで、2020年以降、予算が付かなくなったらぴったりと止まってしまうのではないか。
そうならないように、そして2020年以降も多くの人に福祉に関心を持ってもらいたいと願って、本書を執筆した。
福祉を知ることは、生き方を考えることだと常々感じる。この生き方で果たしてよかったのだろうか。自分はちゃんと人間らしく生きているのだろうか。
そもそも人間らしさとはいったい何なのだろうか。福祉から多くのことを学ぶことができる。特に第10章の板垣さんのコラムを是非一読してもらいたい。
私も生き方に迷ったとき、花巻を訪れ、板垣さんに会う。これこそ、旅の醍醐味だ。
2019年9月
島川 崇

【目次】

第1章 福祉と観光  1-1 福祉とは―福祉という言葉のもつ意味
 1-2 観光と福祉を結びつける用語
    コラム ロナルド・メイスがデザインという言葉に託した想いとは
 1-3 福祉の考え方の国際比較
 1-4 観光に関係する日本の福祉の法整備
 1-5 すべての人々を幸せにする観光のあり方 ー 受け入れ側の視点から
 1-6  観光地に住む地域住民からも求められる観光の福祉的対応

第2章 旅行会社の取り組み  2-1 旅行業法、旅行業約款との関連
 2-2 現状の取り組み状況
 2-3 バリアフリー旅行の取り扱い事例
 2-4 ホールオブライフ、生涯を通した観光の実現
    コラム チックトラベルセンターの取り組み

第3章 空港の福祉的対応  3-1 空の福祉とは
 3-2 空港の福祉的対応
 3-3 空港ユニバーサルデザインの先駆者―中部国際空港
 3-4 「 2020年」を見据えた空港ターミナルビルの福祉的対応―羽田・成田の新たなる挑戦

第4章 航空会社の福祉的対応  4-1  健康状態に起因する航空機への搭乗不可・搭乗制限ケース
 4-2 制度・サービス面での福祉的対応
 4-3 航空実務における福祉的対応について
 4-4 これからの福祉的対応に期待すること
    コラム プライオリティ・ゲスト・カードのアイディア

第5章 陸上交通の福祉的対応  5-1 鉄道の福祉的対応
 5-2 バスの福祉的対応

第6章 宿泊施設の取り組み  6-1 宿泊施設に関する法令―旅館業法
 6-2 宿泊施設における福祉的対応に関する法令
 6-3 宿泊施設の福祉的対応
 6-4 宿泊施設における福祉的対応の現状

第7章 福祉的対応を考えた観光まちづくり  7-1 観光と福祉
 7-2 観光とまちづくり
 7-3 移動弱者の旅行ニーズ
 7-4 観光まちづくりと福祉的対応
 7-5 観光まちづくりの福祉的対応に向けた制度作り
 7-6 高山における観光まちづくりと福祉的対応
 7-7 福祉的対応としての観光まちづくりと今後
    コラム 特定非営利活動法人湘南バリアフリーツアーセンターの取り組み

第8章 サービス介助士の実践  8-1 サービス業で活躍するサービス介助士
 8-2 サービス介助士広がりの背景
 8-3 超高齢社会の進行とサービス介助士
 8-4 合理的配慮の提供とサービス介助士
 8-5 サービス介助士資格所得講座とは
 8-6 サービス介助士が身につける介助技術
 8-7 心のバリアフリー
 8-8 サービス介助士の観光分野への展開

第9章 身体障がい者補助犬の対応 ー 身体障がい者補助犬を理解する  9-1 身体障害者補助犬法とは
 9-2 盲導犬とは
 9-3 介助犬とは
 9-4 聴導犬とは
 9-5 サポートの方法
 9-6 身体障害者補助犬法による認定
 9-7 身体障害者補助犬法成立のきっかけ
 9-8 補助犬同伴受け入れについて…

第10章 障がい者とアートの可能性 ー 観光へのまなざし  10-1 障がい者とアートの関わり方
 10-2 アール・ブリュットとは
 10-3 障がい者アートで共生社会の実現へ
 10-4 ソーシャル・インクルージョンとアート
 10-5 アートで目指す共生社会―観光へのまなざし
    コラム るんびにい美術館の事業と、その目指す社会について

第11章 ホスピタリティを学ぶ対象としての福祉  11-1 ホスピタリティ=おもてなし?
 11-2 安心保障関係
 11-3 相互信頼関係
 11-4  福祉の現場から着想を得た新たな関係性としての「一体関係」
 11-5 既存学問からのインプリケーション
 11-6 先を行く福祉施設のマインド

第12章 福祉的対応の今後の展開  12-1 旅行会社における今後の展開
 12-2 公共交通機関の今後の展開
 12-3 宿泊施設における今後の展開
 12-4 まちづくりにおける今後の展開
 12-5 補助犬を巡る新たなる問題点



この書籍の解説

2022年6月10日、添乗員付きツアー限定ではありますが、外国人観光客の受け入れが再開されました。厳しい感染対策等が外国人観光客を戸惑わせているようですが、世界的な外国人観光客受け入れ再開の流れは、新しい生活様式の定着とワクチン接種の進行に応じて進められていくでしょう。
新型コロナウイルスが猛威を振るう前、オリンピック・パラリンピック開催が決まったとき、日本を訪れる人々に向けて、日本は急ピッチでバリアフリー・ユニバーサルデザイン等のハード面での対応を進めました。オリ・パラがコロナ禍によって厳しい制限下で行われた後も、これらの施設はきちんと機能し、移動や行動に不自由を抱える人々の役に立っているでしょうか?
また、再開されつつある国内旅行の現場においても、身体的条件に関係なくすべての観光客が旅行を楽しめるような条件は整えられているでしょうか?
本格的な旅行再開を迎える前に、旅行業界・宿泊施設・交通インフラ業・小売業など、旅行客を迎える業界は、今一度体制を確認しておく必要があります。
今回ご紹介する『観光と福祉』は、「福祉」の基本概念に立ち返り、日本国内の各地域、交通インフラ等の取り組みの現状を紹介します。
障害の有無、言語や文化、ライフステージに関係なく、すべての人が旅行を楽しめるようになれば、裾野は広がります。皆が必要な情報を手に入れ、希望する場所へ出かけて支障なく移動し、景色や文化をはじめとした様々な観光資源を楽しめるような状態を目指して、できることは色々あるはずです。

この記事の著者

スタッフM:読書が好きなことはもちろん、読んだ本を要約することも趣味の一つ。趣味が講じて、コラムの担当に。

『観光と福祉』はこんな方におすすめ!

  • 旅行業界、交通インフラ業界、販売業で働く方
  • 旅行業界を目指す学生
  • サービス介助士を目指す方

『観光と福祉』から抜粋して3つご紹介

『観光と福祉』からいくつか抜粋してご紹介します。本書は旅行関連業界・交通インフラ業・小売業等で働く人や、業界を目指している人向けに書かれたテキストです。観光におけるハード・ソフト両面からの福祉的アプローチを解説し、すべての人に開かれた観光を目指します。「サービス介助士」のテキストとしてもおすすめです。

観光庁ユニバーサルツーリズム促進事業

観光庁は、すべての人を対象にしたユニバーサルツーリズムの定義に即した促進事業の展開を実施しています。2018年3月に発行された「高齢の方・障害のある方などをお迎えするための接遇マニュアル 旅行業編」の内容を紹介します。

高齢の方や障がいのある方にとってのバリアを取り除いていくには、ハード面の整備だけでなく、的確な支援・サービスを行うことが重要です。介助には正しい知識と技術が必要ですが、接遇は意識を変えることで、すぐ対応が可能です。

接遇の心構え・ポイントは、尊厳を尊重する、必要な支援を確認して対応する、できることは本人に任せる、施設や設備などの情報を発信する、の4点です。

《情報提供》 1.ツアー参加の可否を自身で判断する目安となる情報を提供する
2.ツアー情報を発信する媒体に「特別な配慮が必要な方は事前にお申し出ください」等の案内を明確に提示する

《申込み・相談》 1.問合せや窓口でのコミュニケーションの手段を複数確保する
2.店舗の入口や内部のアクセス性を確保する
3.相手のペースに合わせ、情報をゆっくりと分かりやすく簡潔に伝える
4.ツアー参加を自身で判断できるよう、行程や宿泊先、移動手段などの詳細な情報を提供する
5.プライバシーに配慮しつつ、必要な範囲で障害の程度や心身の状況などを確認する
6.本人の承諾を得て、⑤でえた情報を交通機関や施設と共有し、事前に対応可否を確認する
7.大切な情報は口頭とともに文書でも伝える
8.視覚障害の方の対応中に離席する場合は、その旨伝えてから行動する
9.支払いの際は、顧客の状況に応じた配慮を心がける

《ツアー催行時》 1.介助者がいる場合でも本人に声かけを行う
2.訪問場所のバリアフリー情報を事前に把握し、必要に応じて顧客に提供する
3.集合時間や集合場所など大切な情報は口頭とともに文書でも伝える
4.顧客の介助そのものは基本的に介助者に任せる

《災害時・非常時》 1.緊急時・非常時には、高齢者や障害者は情報伝達や避難の遅れが想定される
2.災害が発生した場合を想定し、避難誘導時の支援の必要性と方法や連絡手段を、関係機関や施設と確認する
3.安全・安心を確保するには、事前の想定と準備備、心構えが必要

観光庁は、このマニュアルを現場での対応や人材育成の場面において積極的に活用し、誰もが安心して旅行を楽しむことができる環境づくりの促進につなげることを期待しています。

不自由を抱える方が「旅行に行きたいな」と思っても、実現するには各段階で様々な障壁があります。関係する業界が一丸となって、ハードルを下げていく必要があります。技術を身に着ける前にも、心構えを変えることでできることがあるのです。

高山市の事例

岐阜県高山市は、1990年代半ばから観光客の減少に悩んでいました。そこで、「住みよいまちは行きよい町」として福祉観光都市づくりを目指し、福祉水準を高めることで観光振興を展開していきました。

実際に行われた整備を紹介します。高山市は高山駅を中心とした1キロ圏内を重点区域とし、道路の段差解消やトイレの整備など公共空間の改修を進めました。事前にモニターツアーを実施し、移動弱者にとっての障壁を洗い出したのです。

高山は江戸時代に城下町として整備されたため、道路が狭く、段差が多くなっています。そこで歩道は車道とほぼ同じ高さにし、歩道部分にカラー舗装を施しました。歩道の幅員は車いすがすれ違える程度にまで拡幅しましたが、歩道を広く確保できないところは、センターラインを無くして車がスピードを出しにくいような改良を行いました。

また、街中に数多くある側溝の蓋(グレーチング)を、車いすが嵌りこまないよう細い網目にしました。冬の雪の始末のためには、蓋を開閉可能にすることで対応しました。こうした道路の段差解消やグレーチングへの配慮は、ベビーカーやキャリーカート、ヒール靴を用いる観光客や地元住民にも役立っています。

高山市内の公衆トイレ、公的施設 宿泊施設には、車いすトイレを設置しました。トイレは車いす用でも利用可能な広さを確保していますが、オストメイト用設備、ベビーベッドや着替えができるスペースも併設しました。こうして多様なニーズに応えるトイレが整備されたのです。

これまで実施してきた施設整備について、「車いすおでかけマップ」や 「点字や音声による観光マップ」としてまとめ、文字や手話アニメーションによる案内が可能な観光情報端末の設置も行いました。これらは移動弱者が自らの自由に観光行動ができるような情報発信です。

施設整備と情報発信の双方を展開することで、移動弱者が自らサービスを選択し健常者と同じ空間を観光行動できることを、高山市は目指しています。
また高山では、これらの取り組みを市の総合計画や条例に取り入れました。制度化していくことで、観光まちづくりの福祉的対応を多くの人に共有できる状態にしていったのです。またPR資源としても積極的に活用し、国内外から高い評価を受けています。

古い町並みが観光資源として名高い街でも、不便さをそのまま残していれば、移動に不便のある人々の足は遠のいてしまいます。高山市は町並みの保存に関わる民間事業者も巻き込みながら、福祉と景観の両立、観光客の訪れやすさと地元住民の暮らしやすさの両立を実現させたのです。

サービス介助士

鉄道駅で、駅員が車いす使用客を車内まで案内している場面を見ることがあります。この案内をしている駅員の多くは、「サービス介助士」の資格を持っています。空港のコンシェルジュやCA、デパート等の販売員等、サービス業を中心に資格取得者が増えています。

サービス介助士に行われる実技講習をもとに、具体的に求められる技術を以下に解説します。
1.高齢者への接し方
実技教習では、耳栓や白内障ゴーグル、おもりやテーピングといった道具を装着し、実際に街へ出て買物や公共交通機関などを利用することで、高齢者への接し方を学びます。注意点は以下の通りです。
聴覚:低めの声で、はっきり簡潔に話す
視覚:表示物はコントラストを上げ、文字を太く大きくする。照明は明るく
その他感覚:触覚・味覚の変化により、怪我ややけど、食中毒の危険が高まる。飲食時等は特に注意し、声かけを行う

2.車いす使用者への接し方
車いす使用者の解除において重要なポイントは、様々な障害のタイプとそれぞれの事情があると理解することです。車いす使用の際の重要な点は以下の通りです。
(1)ブレーキをかける
(2)フットレストに足が乗っているか確認する
(3)車いすを押す際は、動作のたびに具体的に声かけをする

3.視覚障がい者への接し方
実技教習では、声のかけ方、歩行案内の基本姿勢、階段昇降や狭い通路の抜け方等の具体的な場面を想定して、座席への案内方法や金銭授受を行います。具体的介助方法で重要なのは以下の3点です。
(1)突然体に触れない。必ず声かけをしてから触れる
(2)身体を押したり引っ張ったりしない
(3)白杖をむやみに預かったり、引っ張ったりしない

4.聴覚障がい者への接し方
実技講習では、口話、筆談、手話などの基本や、補聴器や人工内耳などの支援機器について学びます。聴覚に障がいのある方とのコミュニケーションは手話が一般的と思われがちですが、聞こえ方も障がいも人それぞれで、その人の聞こえ方や経験によって、主となるコミュニケーション手段も違います。

《口話の注意点》
・はっきり口を動かし、自然に発声する
・早口や、ゆっくり過ぎる話し方をしない
・一音ずつ区切らず、文節で軽く区切る。
《筆談の注意点》
・必要な情報だけを簡潔に書く
・横書きで読みやすい大きさで書く
《補聴器について》
補聴器は、聞きたい音だけではなく周囲の音まで大きくしてしまう場合があり、補聴器を使ったからといって他の人と同じように聴こえるという訳ではありません。
聴覚に障がいのある方とコミュニケーションを試みる際、以下のポイントが重要です。
(1)対面する
(2)明るい場所でコミュニケーションをとる
(3)1対1を心がける

この項目では、具体的な介助方法についても解説しています。街中で障がいのある方が介助を必要としていそうなとき、正しい接し方を知っていれば、より確実な手助けができるかもしれません。

『観光と福祉』内容紹介まとめ

観光業界で働く人・目指す人を対象に、観光分野における福祉のあり方、旅行業者・交通インフラ・宿泊施設・観光地等の取り組みを紹介しました。また、サービス介助士、補助犬、障がいと芸術との関係についても述べ、観光における福祉的対応のあり方と今後の展開を考察します。

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