人が活躍するツーリズム産業の価値共創


978-4-425-92981-8
著者名:島川 崇・神田 達哉・青木 昌城・矢嶋 敏朗 共著
ISBN:978-4-425-92981-8
発行年月日:2021/12/18
サイズ/頁数:A5判 208頁
在庫状況:予約
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¥2,750円(税込)

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ツーリズムに関わるすべての人が、それを喜びとし、価値をともに創発していける環境を作らなければ、この業界は確実に衰退する。大切なのは、価値を「共創」することである。観光客も、経営者も、一人ひとりの従業員も、観光地で観光客と接する業に従事している人も、観光地の地元住民まで、ツーリズムに関わる皆が喜びを感じ、その果実の正当な分配を受けることができる環境の構築である。
この問題意識を共有した4 名の執筆陣が、ツーリズム産業の価値共創のため議論を展開、スーパーガイド、カリスマ添乗員と呼ばれる卓越したプロたちや「価値共創」が実現できている他産業のリアル店舗の事例なども紹介する。ツーリズム産業に従事する人はもちろん、これからこの業界に身を置きたいと願う志の高い学人が活躍する 生たちへのエールとなる書である。

【はじめに】 本書の構想は、コロナ禍の前から議論しはじめていた。今でこそ、コロナ禍によってツーリズム業界は壊滅的な打撃を被ったとされ、廃業や業務縮小に伴うリストラや配置転換、転籍等が行われているが、コロナ禍の前、それこそインバウンド全盛の観光ブームが席巻していたときから、すでにこの業界では人の価値を蔑ろにしつつあり、それに対する警鐘を鳴らすべきだとの議論を行っていた。そのようななか、突如として襲ってきたコロナによって、人の大切さを説くよりも、いかに会社が存続するかという切羽詰まった状況となってしまった。
コロナ禍で業界全体が苦しんでいる今、事業の再構築をする機会として捉えて積極的に議論を始めた事業体もある一方で、結局そこで行われている議論は、いかにコストを抑え、効率的な経営ができるか、そればかりが俎上に載せられている。
伝統的旅行会社からインターネット専用の旅行会社OTA(オンライン・トラベル・エージェンシー)の幹部に移ったある人物に話を伺ったことがある。そのときに言われていたのが、OTA の管理職ではない一般労働者の日常業務は極めてルーティン的業務が多く、それだけを見ていたら旅行業であることがわからない。よって、一般労働者は旅行業への愛着も生まれることもないので、待遇だけで人はどんどん入れ替わる。しかし、ルーティンなので、引き継ぎさえきちんとすれば、誰が担当しても変わらない。
筆者はここ十数年観光を専門とする大学に身を置いていたので、観光を専門に学んだ卒業生を業界に送り込んできたが、台頭するOTA に卒業生を送り込もうと思っても、企業側がまったく興味を示さない理由がそこでわかった。下手に観光のことがわかっているよりも、一般労働者は「情報処理」に徹して欲しいのである。
OTAがますます台頭してくるなかで、一般労働者は、思いや感情や志なんてものはまったく必要ない世の中になってきた。
さらに顕著になってきたのは、OTA は規模の大小に関わらず、経営者は伝統的旅行会社よりも莫大な収入を得るようになった。一般労働者は低収入であっても、日常業務がルーティンとして構築できているから、それが不満で辞めようが、次つぎに代わりが入ってくる。それでなんの問題もない。その原資はそれこそ旅館、ホテルといった宿泊業からの手数料だが、これも年々高くなってきている。東京2020 オリパラでも問題となった「中抜き」の構図、すなわち、人材派遣等が受注段階ではその人件費がある程度高値で計算されていたものが、中間で抜き取られ、最前線の労働者が受け取る段階では最低賃金に張り付いているような状況が当然のように常態化している。世の中のスタートアップで流行っているのは、「プラットフォーム作り」といったキーワードに象徴されるような、誰かを馬車馬のように働かせて、自分は労苦をせずに中抜きするビジネスばかりである。
結局、ツーリズム業界に関わる人びとが、観光への愛着も生まれず、搾取され続ける構図が見事に構築されてしまった。
ツーリズム業界に関わるすべての人が、それを喜びとし、価値をともに創発していけるような環境を作っていかなければ、この業界は確実に衰退する。その危機感から、本書の構想が始まった。
大切なのは、価値を「共創」することである。すなわち、観光客も、経営者も、一人ひとりの従業員も、観光地で観光客と接する業に従事している人も、観光地の地元住民まで、ツーリズムに関わるみんなが喜びを感じ、その果実の正当な分配を受けることができる環境の構築である。そこで、この問題意識を共有した4名の執筆陣で以下の章立てで議論を展開した。
第1章は、ホテル業の人材部門における経験が豊富な青木昌城により、「人」をテーマに価値共創できる企業の組織マネジメントについて論じた。
第2章は、旅行業の労働問題が専門の神田達哉により、ツーリズム産業の具体的なサービスのあり方についての議論を展開した。
第3章は、再び青木昌城により、高価格帯ホテルを事例に、宿泊業を中心としたサービス・イノベーションに関して問題点を明らかにした。
第4章は、観光学の持続可能性について長年研究している島川崇により、スーパーガイド、カリスマ添乗員と呼ばれる卓越したプロ中のプロが、観光人材としてずば抜ける要因を明らかにした。
第5章は、再び神田達哉により、伝統的旅行会社のリアル店舗のサービスコンセプトをここで改めて再確認し、顧客満足と従業員満足の両方の重要性を説いた。
第6章は、青木、神田、島川が、それぞれの知見をもとに、類似環境下にある他産業において、まさに「価値共創」が実現できているリアル店舗の事例を集め、その成功の要因がどこにあるかを明らかにした。
第7章は、長年旅行業と旅行業界団体で活動し、現在は大学教員として業界と連動しアイデアあふれる指導に定評のある矢嶋敏朗により、旅行業界の価値共創の方向性について、全体の総括としての位置付けでまとめあげた。
本書は、ツーリズム産業に現在従事する人びとはもちろん、これからこの業界に身を置きたいと願う志の高い学生たちへのエールでもある。これからこの業界にやってくる人びとのことも考えて、ツーリズムに関わることができて心からよかったと思える環境をみんなで力を合わせて作っていきたい、そう強く願って執筆した。

2021年11月
執筆者を代表して
島川 崇

【目次】
第1章 協働の組織が価値を共創する
 1.1 人間と組織
 1.2 西洋との出会いと『厚黒学』
 1.3 業界人という専門家
 1.4 組織のマネジメント
 1.5 だれと価値を共創するのか

第2章 サービスと価値共創  2.1 ツーリズムにおけるサービス

第3章 宿泊業におけるサービス価値  3.1 高価格帯ホテルに求められるサービスとは何か
 3.2 ホテルのサービス・イノベーション、その前と後に
 3.3 転写と逆転写高価格

第4章 ケースで読み解くツーリズム関連産業の人の価値  4.1 ツーリズム産業と人
 4.2 観光ガイド
 4.3 バスガイド
 4.4 添乗員
 4.5 「ずば抜ける」要因

第5章 伝統的旅行会社のリアル店舗のサービス・コンセプト  5.1 伝統的旅行会社のリアル店舗 を取り巻く環境
 5.2 サービス価値への着目
 5.3 旅行相談に関わるサービス品質の検討
 5.4 むすびに

第6章 類似環境下にある他産業から学ぶ店舗の価値  6.1 家電量販店「街のでんきやさん」
 6.2 リアル店舗のトンガリ努力
 6.3 アパレル業 EC 時代のオムニチャネル店員の存在感
 
第7章 旅行業界の存在価値  7.1 激変する旅行業界
 7.2 日本の旅行会社の特徴
 7.3 旅行会社における価値共創
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