『文明の物流史観』【物流から歴史を視る!人類はどうやってモノを運び売ってきたか?】

【第11回:交易の歴史的変遷と文明―交易の視点から歴史を見直す】

⑧第十次輸送革命~コンテナの発明~

『文明の物流史観』解説も第11回目です。今回で、第Ⅴ章「交易の歴史的変遷と文明」の解説は終了です。植民地からの様々な利益によって他国に先んじて動力革命を起こしたイギリスは、世界貿易を握ります。しかし強硬な政策や「新世界」からの奴隷に深く依存した植民地経営は反発を呼び、独立戦争が起こります。独立したアメリカも南部プランテーション経営で奴隷に依存し、南北戦争が起こりました。

今回は1960年代から現在までの流れをみていきます。現在の物流現場では当たり前になっていますが、貨物列車にもトラックにも船にも積めるコンテナの発明は、世界の流通を大きく変えまし。それは、「人件費の安い場所に分散して工場を作り、集めて組み立てた製品を大消費地に輸出する」世界規模のネットワークの出現でした。

5.11 第十次輸送革命:コンテナの発明

  • コンテナの発明と輸送革命

第十次物流革命はコンテナ物流の発明です。これまでは遠く離れた大陸や島嶼部まで貨物を運ぶには莫大な輸送費用と手間がかかりました。しかし、20世紀半ばに発明されたコンテナ輸送は、これらの輸送費用と手間を根本的に変えてしまいました。まさに物流革命といえる発明だったのです。

19世紀後半にドイツで内燃機関が発表されると、それを用いた自動二輪車や自動車が開発されました。それ以降、動力は蒸気機関から内燃機関へ、燃料は石炭から石油へ変わりました。内燃機関は戦車や航空機、トラックなどにも搭載され、輸送に大きな変革をもたらします。船舶のエンジンにもこれが使用されるようになり、遠洋航海においても頻繁な補給が不要になります。このような技術革新を経て、輸送用コンテナの発明が海運に画期的な変化をもたらしたのです。

港湾荷役の方法は6000年近く人力に頼っていました。船が大きくなると荷役に時間がかかり、運送コストの中で荷役にコストが大きな割合を占めるようになりました。これを機械化したのがLOLOというクレーンとパレットによる荷役方式です。さらにそれを陸上輸送と一体化するために考え出されたのが、トラックで船に乗り込み荷物を載せたシャーシ部分だけを船に積むRORO船です。しかしLOLOシステムは時間がかかり、ROROシステムは時間こそ短縮できますが、船内スペースの無駄が増えました。そこで登場したのがコンテナ船でした。

コンテナは最初鉄道輸送に使われましたが、やがて鉄道コンテナをそのまま積める船が開発されました。コンテナ船は1968年太平洋航路にも就航し、神戸港はこれに合わせて日本で最初のコンテナ埠頭を設けました。続いて横浜の本牧埠頭もコンテナ用に改造されます。当時東洋では日本にしかコンテナターミナルがなかったので、アジアの貨物はこの二港を経由して北米航路へ運ばれました。やがて世界中でコンテナターミナルが設けられるようになりますが、非対応の港は廃れていきます。

コンテナ一貫輸送によって、内陸部の工場からでもドア・ツー・ドア輸送で輸送費を大幅に引き下げることができました。コンテナ輸送により、いつでもどこでも部品を調達し組み立てを行えるようになったことで、グローバルなサプライ・チェーンが実現したのです。

  • グローバル・サプライ・チェーンを可能にしたコンテナ輸送

第二次大戦後、世界は共産圏と自由主義諸国に分裂していましたが、世界的な自由貿易が経済発展と平和には欠かせないという認識が世界に広がりました。中国の開放政策やソビエト崩壊を経て世界貿易機関が発足すると、世界市場のグローバル化は加速します。市場が広がり需要が増えれば、供給側の競争は激化します。

経済先進国は労働力の安い発展途上国に工場を移し、生産工程を多数の国に分散した工場で分担させ、最終消費財の価格競争を行うようになります。どこに工場を置き、どこからどこへ材料・部品・製品を運ぶか、どのような輸送手段でどんな経路で輸送すするかといったロジスティクスが勝敗を左右することになったのです。そのような過程を経て、グローバル・サプライ・チェーンが広がっていきました。

コンテナによる定期的で安価な大量輸送により、輸送費の大幅削減が可能になったことで、この方法が利益を生むようになったのです。また、1995年発売のWindows95により、世界のパソコンがネットワークでつながりました。これにより、先進国で開発された最新デザインを即座に現地工場で受け取り試作品を製造し修正を行うといったやり取りが短時間で可能になりました。世界のグローバル化は、ヒト・モノ・情報が低コストで自由に動けることで実現されたのです。

コンテナは、北米、南米、東アジア、EUの四大極を中心に今や世界の隅々までモノを運んでいます。特に東アジア域内や東アジアから他地域へのコンテナ輸送量は際立っています。東アジア内の複数地域でパーツが作られ、それが東アジア内で集められて組み立てられ、製品として輸出されているのです。今や東アジアが一体の工業製品生産基地となり、世界の工場の役割を担っているのです。その背景には、日本や中国の経済発展を受けての東南アジアの工業化がありました。

鉱物資源以外の乾貨物のほぼすべてが、現在コンテナで運ばれています。高価で輸送コストに見合う品物や生鮮食品、花などは航空便で運ばれていますが、最近は生鮮食品のコンテナ輸送も増え、専用のコンテナも開発されています。

コンテナ輸送費を下げる方法は、原則的には2つあります。①コンテナ船の大型化、②船の稼働率を上げる、です。①では停泊できる港が限られること、行き帰りの荷物の値段が釣り合わないことが問題でしたが、振り子輸送とアジアへの帰り荷のドライ貨物をコンテナ化することで解決しています。②は船速を上げること、港内での係留時間を短くすることが課題です。港内荷役時間を減らすため、ガントリークレーンを自動化した自動コンテナターミナルが開発され、現在世界の主流となっています。

コンテナ一貫輸送の発明は、それまで2ヶ月程度かかっていた荷役時間を数時間にまで短縮できるほど画期的なものでした。しかしこの発明は港を機能的に画一化したため、船員と彼らを目当ての外食、宿泊産業が集っていた港の風景は一変してしまいます。

航空機の発明がヒトの移動を、コンテナ輸送の発明がモノの移動を、インターネットの発明が情報の移動を支える現代では、世界はフラット化していく運命にあるのです。

 

コンテナの発明は物流現場を変え、港湾労働も一変させました。高度に自動化されたコンテナ港湾は、世界の主流になりつつあります。「港町」といって想像するような、荷の積み下ろしに多くの人々が働き、荷役の間には宿屋や観光で体を休めるといった状況は、昔のものとなってしまったのです。

次回からいよいよ最終章です。これまでの流れを振り返りつつ交易とヒトの移動が文明に与えた影響を考察する前半と、グローバル化とAI化という21世紀の物流の特徴を解説しつつ今後の課題を考える後編に分けてお送りします。人とモノの移動は歴史を通じてどのように変化し、その変化は何を引き起こしたのでしょうか。また、今起こっている様々な変化は、物流をどのように変えつつあるのでしょうか。