天文航法のABC ―天測の基本から観測・計算・測位の実際まで ―


978-4-425-42401-6
著者名:廣野康平 著
ISBN:978-4-425-42401-6
発行年月日:2020/4/18
サイズ/頁数:A5判 224頁
在庫状況:在庫有り
価格(本体価格)

3000円(税別)


2019年6月1日発送分より発送費が値上がりとなります。
地域、サイズ、重量により発送費が異なりますので、注文後、発送費のご連絡をいたします。
数量

六分儀を用いて太陽や星を観測して船位の決定し、大洋を航海する「天文航法」について、乗船実習や海技試験で必要となる知識を網羅的にまとめ、天測の初心者や学生が押さえておくべきポイントと基本事項などをわかりやすく解説する。

【はじめに】
位置を求めること、すなわち「測位」は、移動を伴う様々な活動に不可欠である。
1990年代に実運用が開始されたGPS(Global Positioning System)は、測位にとって正に画期的な存在といえる。GPSが出現してからは、測位は常に自動で行われるものとの認識が一般的になった。さらに、2018年には準天頂衛星「みちびき」の運用が開始され、日本を含むアジアとオセアニアに限定されるものの、数cm単位の測位が簡単にできるようになった。
GPSが運用される前の大洋航海中の船舶における測位は、天体観測による船位の決定、いわゆる「天測(Celestial Navigation)」によるしかなかった。しかも、天測は天体の高度を測定するため、天体だけではなく水平線も同時に目視により認められなければならない、という条件が伴う。そのため、天測は常に、もしくは、任意の時機に位置を求めることはできない。さらに、六分儀の操作が必須であり、人間の技術と労力が求められる測位方法である。そして得られる測位の精度は理論上0.1海里(1ケーブル・約185m)である。現在のGNSS(Global Navigation Satellite System)の測位精度の数m から数cmと比較すると足元にも及ばない。
しかしながら、精度が1ケーブルとは、船橋から見渡せる範囲内のどこかに真の位置があるという意味であり、大洋を航行している際の、実運用上の誤差は“ 無い” に等しい、といえる。天測は、六分儀とグリニッジの時刻を知る術(時辰儀・クロノメータ)、および、そのときの天体の位置を記す暦と大気等に由来する高度の補正値さえあれば、自船長のオーダで位置を求めることができる方法である。著者は、天測は十分に精度のある、かつ、他者に依存しない自立した測位システムであることを改めて認識するべきだと考えている。
過去、IMOのSTW(現在はHTW)小委員会で、GPSの進展に伴い、船員の資格要件から「天文航法」を削除してはどうか、との発議があった。しかしながら、米国からは衛星の経年劣化を根拠にサービスの継続性に保証ができない旨の発言があり、この提案が撤回された経緯がある。
そして現在、GNSSとして、米国のGPSを筆頭に、ロシアのGLONASS、欧州連合のGALILEO、中国の北斗(BeiDou)、日本のみちびきが運用されているが、いずれもが各主権国(連合)によるサービスである。つまり、GPS はそもそも米国の軍事的な利用を目的として開発されたことを鑑みるとき、複数のGNSSが存在しているという事実は、主権国(連合)のそれぞれが他のサービスに依存せざるを得ない状況になることを忌避、すなわち、測位の独立性を確保する、という意図が根底にあると捉えるべきであろう。
2017年には黒海付近においてGPSに対する妨害の事実が報告されていることから、各主権国(連合)がそれぞれの国益を優先するために、他サービスへ明示的な干渉をして、その結果として、船舶が致命的な影響を被る危険性が潜在しているといわざるを得ない。
現在、その利便性からGNSSの利用が常態となっている。これは、測位という船舶にとって重要な機能を他者に依存している状況下にあるといえる。万が一にそれらが利用できなくなったとしても、大洋航海を継続させるため、自立した測位システムとしての天測の技術は、船上では維持されていなければならない。
天測は電子計算機が出現する遥か以前に確立されたグローバルな「測位システム」である。天体と地球の運動を、自分の位置を特定するという目的に向けて系統的に利用しようとする、人類の知恵の結晶の一つである。本書は、航海士を目指す諸姉・諸兄に天測を理解していただき、この技能の維持・継承に寄与することを目的としている。
第1章では、天測についての基本概念を整理する。これを踏まえて第2章では、暦の利用方法を紹介する。第3章で計算高度の根拠を整理して、第4章で真高度を得るための一連の方法を解説する。第5章では、4章までを踏まえて「測位の実際」として天測により船位を確定するために必要な種々のトピックを確認し、この章で天測に関する理解の統合を図る。第6章は、測位とは別の側面として天体を用いたコンパスエラーの検知方法を紹介する。第7章では、具体的な計算例を提示しながら読者の理解が深まることへの寄与を試みる。最後に、巻末ではいくつかの理論式についての導出を解説する。

2020年3月
廣野康平

【目次】
第1章 天測の基本

 1.1 位置の決定
  1.1.1 Navigation の原則と位置の線
  1.1.2 天文航法における位置の線
 1.2 位置の表現
  1.2.1 地球上での位置の表現
  1.2.2 天球上での位置の表現
  1.2.3 時角(経度と赤経の相対関係)
  1.2.4 地方時角・位置の三角形・計算高度
 1.3 グリニッジ時角の求め方
  1.3.1 グリニッジ恒星時(グリニッジの赤経)
  1.3.2 グリニッジ恒星時の特定
  1.3.3 グリニッジ時角の特定
 1.4 太陽の赤経と時間の体系
  1.4.1 二つの太陽と二つの時間の体系
  1.4.2 平均太陽の運行
  1.4.3 グリニッジ平時(Greenwich Mean Time)
  1.4.4 均時差
 1.5 位置の三角形に関するその他の要素と三面図による表現
  1.5.1 六時の圏、東西圏、東点・西点・南点・北点
  1.5.2 三面図

第2章 天測暦・Nautical Almanacの使い方
 2.1 日本の天測暦
  2.1.1 天測暦(暦の部)のR とE
  2.1.2 天測暦(暦の部)のページ構成
  2.1.3 天測暦での赤緯の求め方
  2.1.4 天測暦に基づくグリニッジ時角の計算
  2.1.5 天測暦での均時差の求め方
  2.1.6 恒星略図の使い方
 2.2 英国と米国のNautical Almanac
  2.2.1 Daily Pages のページ構成
  2.2.2 Increments and Corrections のページ構成
  2.2.3 赤緯の補正(d による修正)
  2.2.4 グリニッジ時角の補正(Increments による増加量の考慮とvによる修正)
  2.2.5 Nautical Almanac における赤緯とグリニッジ時角の計算過程
  2.2.6 Nautical Almanac での均時差の確認
  2.2.7 Star Charts の使い方

第3章 計算高度と方位角の求め方
 3.1 球面三角形における余弦定理と正弦定理
  3.1.1 余弦定理
  3.1.2 正弦定理
 3.2 位置の三角形の内角(地方時角と方位角)
 3.3 計算高度を求める原式
 3.4 方位角を求める原式と象限の判定
  3.4.1 余弦定理を用いて方位角を求める場合
  3.4.2 正弦定理を用いて方位角を求める場合
  3.4.3 正弦定理を用いて方位角を求めた場合の象限判定

第4章 六分儀による高度の観測と真高度の求め方
 4.1 六分儀の利用
  4.1.1 構造
  4.1.2 誤差と調整
  4.1.3 使用方法
 4.2 高度改正
  4.2.1 眼高差
  4.2.2 天文気差
  4.2.3 視半径
  4.2.4 視差
 4.3 天測計算表による高度改正の実際

第5章 測位の実際
 5.1 天測の全体の流れ
 5.2 船内時間の管理
  5.2.1 経帯時(標準時)と時差
  5.2.2 時刻改正
 5.3 索星
  5.3.1 索星とは
  5.3.2 事前に観測する天体の選定
  5.3.3 視認した天体の特定
 5.4 観測時期の選定
  5.4.1 薄明
  5.4.2 薄明時間の変化
  5.4.3 航海薄明時刻の推定
 5.5 位置の決定
  5.5.1 観測位置の緯度と経度
  5.5.2 位置決定用図の利用
  5.5.3 同心円方格図法・天測方位高度差儀の利用
 5.6 隔時観測と同時観測
  5.6.1 隔時観測
  5.6.2 同時観測
 5.7 正午位置
  5.7.1 正午位置に関係する算法
  5.7.2 子午線通過と子午線高度
  5.7.3 子午線高度緯度法
  5.7.4 正午位置の決定
  5.7.5 (視)極大高度から子午線高度への改正
  5.7.6 傍子午線高度緯度法
  5.7.7 経度の算定(等高度経度法)
  5.7.8 正午計算の流れ
 5.8 北極星高度緯度法
  5.8.1 北極星高度緯度法の根拠
  5.8.2 天測暦における北極星緯度表
  5.8.3  Nautical Almanac におけるPolaris(Polar Star)Tables
  5.8.4 北極星高度緯度法の計算例(天測暦とNautical Almanac の比較)
 5.9 位置決定に影響する誤差
  5.9.1 複数の位置の線の関係による誤差
  5.9.2 個々の位置の線自体に含まれる誤差

第6章 コンパスエラーの測定
 6.1 出没方位角法
  6.1.1 出没方位角法の原理
  6.1.2 天体と方位角測定の判断
  6.1.3 日出没時の把握と方位角の計算
 6.2 北極星方位角法
  6.2.1 北極星方位角法の原理
  6.2.2 暦の検索
 6.3 時辰方位角法
  6.3.1 時辰方位角法の原理
  6.3.2 時辰方位角法の計算例

第7章 具体的な計算例
 7.1 正午位置の計算
  7.1.1 子午線高度緯度法
  7.1.2 正午位置
 7.2  Star Sight

本を出版したい方へ

成山堂書店のBLOG